#3 Sカーブ #作戦会議
ノイジー・エナジー #3 Sカーブ
#作戦会議
「で?どうやってやっつけようっての?お二人さん。」
翌日の放課後、学校で二輪女子会の会合の議題に『サクラの敵討ち』を議題に上げたが、吉野先輩の『なんでどうして防御結界』が突破出来ない。
なんで犬の虐待の敵討ちを女子会がやらなきゃいけないの?どうして私に関係あるの?危険でしょ?警察に任せておけばイイのよ!と、いった具合で取り付く島もない。
「早くしないと、俺のスクーターが処分されちまう!なんとかならんのか?」
「アンタのスクーターは可哀想だけど、アタシはサクラを痛い目にあわせた犯人に仕返ししないと収まらない!」
もう!内輪もめしている場合じゃないのに…。
アタマを冷やそうと言うことで、翔吾の家に行くことになった。サクラの様子も気になるしね。帰り道に夏子が吉野先輩に何やら話をしている。なんだろう。イヤな予感がする。
「皆さん、落ち着かれましたか?」
夏子が仕切り出した。吉野先輩も夏子が是非と言うので付いてきた。さっきまではブツブツ文句を言っていたのに。
「それでは現在の我々の状況を整理して見ましょう。」
できる女、夏子の登場だ。
状況はこうだ。翔吾とサクラが恐らくスタンガンで傷つけられた。特にサクラは人間不信になるほど精神的ダメージを受けた。
「おい、俺も結構なダメージだったぞ?」
個人的感想は置いておこう。しかし、翔吾はスクーターが盗まれて経済的ダメージも受けた。
翔吾がウンウンとうなづく。
「現状は以上です。なにか忘れていることはありますか?」
「ねぇ、サクラに対する虐待に心を痛めた飼い主のダメージはないの?」
「じゃあ、それも付け加えましょう。では、次はどうしますか?」
そりゃ決まっているじゃない。
「仕返しよ!奴らを見つけ出して懲らしめてやる!」
「俺のバイクも返してもらわないとな。」
「でも、どこをどうやって探すの?見つけたとしても、奴らはスタンガンを持ってる。返り討ちにあう可能性が高いよ。」
夏子が言うと説得力がある。でも…。
「じゃあ、どうしたら…。」
「あら、二輪女子会には優秀な電脳レディと女化学者がいるのよ。それに野蛮な戦闘員も二人。」
吉野先輩は優秀な電脳レディと言われて、口元をほころばせた。ガールじゃなくてレディというのもポイントかもしれない。
野蛮な戦闘員が誰のことなのか、しばらく本気で分からなかった。夏子!酷い!
夏子の描く絵図はこうだ。バイクにミクリン追跡装置を取り付け、盗まれた後をアプリで追跡する。アジトの場所がわかったら、警察に通報する。逃がさないように、戦闘員が現場に急行し、アジトを確認するとともに脱出を阻止する。警察が来るまで持ちこたえ、引き渡す。敵はスタンガンを持っているので、夏子特製爆裂弾を使って対抗する。
「ちょっと待ったぁ!」
いち早くアタシは異議を唱えた。この突っ込みどころ満載の計画細部がいちいち気に入らない。
まずは『夏子特製爆裂弾』とはなんだ?
「ああ、それはね。コレです。」
夏子はメガネをかけ、カバンから金属製のケースを出すと、中からゴルフボールのようなものを取り出した。夏子がメガネを掛けた瞬間、アタシは無意識に数歩あとじさっていた。
「じゃあ、早速その威力を見てみましょう。翔吾くんお庭を貸して貰えるかな?」
翔吾は夏子のメガネの意味を知らない。ふたつ返事でオーケーした。
「さぁ、翔吾くん。あの石灯籠に当てて見てください。」
「ふぅん。なにが起きるんだ?」
夏子は真面目な顔で爆発しますと言った。
「大きな音がするだけですけどね。大きなかんしゃく玉みたいなモノです。」
アタシは少し不安になって夏子にコソコソと聞いてみた。
「ねぇ、実験はしたの?」
「今からよ。」
…やはり、メガネの理由はそれか。
「まぁ、人が死ぬ程の爆発力はないはずだから…。」
何も知らない翔吾は振りかぶると、石灯籠に向けて爆裂弾を投げた。
バァーン!
爆裂弾は凄い音がした。かと思うと…。
ドスン!
重い音がして、石灯籠の上半分が地面に落ちた。きっと積んであっただけなのだろう。爆裂弾が当たった跡は割れはしなかったようだが、焦げた跡が付いている。
「…ちょっと量が多かったみたいね。半分…いや四分の一でも…。」
夏子はブツブツ言いながら、危険が去ったのを知らせるかのように、メガネを外した。
爆裂弾の音に騒然となった周辺住民の対応を渡辺さんに任せると、夏子は何もなかったような顔をして、作戦の続きを話した。
「スタンガンと対峙する可能性がある戦闘員はレーシングスーツを着てヘルメットを被って貰います。革製で厚みがあるし、プロテクターも付いているから、慰め程度には役に立つでしょう。」
え?アタシ持ってないのに。しかも、慰め程度って。
「ちえりは、翔吾くんのを借りて下さい。」
「えぇぇ!やだよぉ。」
アタシがグズると、翔吾が微妙にイヤな顔をする。
「ちゃんと除菌してるし、手入れもしてるからカビだって生えてないぞ?」
む~…。っていうか戦闘員ってなに?
「ちえり?仕返ししたいんじゃなかったっけ?」
まぁ、そりゃそうだけどね。
「相手が殴り掛かってきたら、正当防衛が成立するわ。」
スタンガンで殴られるのは願い下げなんですけど。
アタシの不満顔にも関わらず、話は進んでゆく。
「この作戦の成否が掛かる重要なシステムである『ミクリン追跡システム』について、吉野先輩に話していただきます。先輩、お願いします。」
ミカリンにも話は付いているんだ?夏子ったら手回しがいい。
「ご紹介に預かりました吉野です。経歴は…」
「吉野先輩!プレゼンじゃないんで…」
夏子が先を促す。
「おほん。じゃあ説明しますか。今どき追跡システムなんて珍しくなくて、端末が持っている位置情報をキャッチして、地図上にプロットしてあげるだけなの。よくある迷子のスマホ捜索システムそのもの。位置情報はGPSとか無線局とかWifiとか色々…おい、晴海、寝るな!」
ヤバい、本当に寝てた。
「まったくもう!実物見せた方が早いわね。これよ!」
吉野先輩はスマホを取り出すと、アタシ達に見せた。普通の地図アプリの上に、赤い『+』マークが移動している。
「このマークのところにミクリンがいるのよ。」
この女、ストーカーだ!
「吉野先輩、もしかして?」
アタシが恐る恐る確認すると、先輩はニタリと笑った。
「そう、晴海の予想通り。キーホルダーのマスコットが追跡装置だよ。」
追跡装置を小型化すると、電池とか、アンテナの関係で制限があるし、オリジナルを作成するのは時間もないので、吉野先輩が持っている古いスマホを使うことにした。必要な装置は全て付いているし、スマホくらいなら、バイクのシートの下や、カウルの内側に隠すのも容易だ。
で、アタシがその追跡装置スマホを渡された。
「なんで?どうしてそうなるの?意味分かんない!」
囮はアタシのNSRが最適と、満場一致で採択されたのだ。
「まず、盗難防止装置が付いていない。次に、高く売れる。さらに、軽量だからトラックにも素早く載せられる。」
そりゃ、そうかもしれないけどさぁ。
「アタシの父さんの形見なんだよ?盗まれて無くなっちゃったら、アタシ生きていけない!」
アタシは泣いて拒絶したんだけど。
「本当に盗まれるワケじゃないし、売り物にするんだから、手荒な真似はしないと思うぜ。」
翔吾のスクーターなんか、とっとと処分されればいいんだ。
「私のシステムを信用しなさい。黙っていても犯人のところに連れていってくれるよ。」
吉野先輩なんて信じられない!
「…サクラも可哀想だよね。早く犯人を見つけたいね。ちえり?」
うぅ、夏子が痛いところを突いてきた。
「…やります。」
父さん、バイクをお守り下さい。