#3 Sカーブ #冬のバイト~電撃
ノイジー・エナジー #3 Sカーブ
#冬のバイト
「晴海!ピザ上がったよ!とっとと配達して来て!」
吉野先輩は酷い。後輩が寒さに震えているというのに配達に出かけろと言う。
「お~い、なにが酷いって?声に出てるよ!」
あれ?聞こえちゃった?
「すみません。愚痴りました。晴海配達行ってきます。」
「アンタも学習しないねぇ。冬場は寒いに決まってるのに、なんで配達のシフトをあんなに入れるかな?」
うう…。冬は晴れるから雨に濡れないと思って配達を多くしたけど、こんなにも寒いなんて!
そう、晴れているからと言っても冬場は気温が低い。当たり前だけど、バイクの配達は冷たい風にさらされるから、体感気温は凄く低いのだ。特に手は手袋してても指先がじんじんと痺れて、痛くなるほどの冷たさだ。
アタシはこの冬を乗り切れるのだろうか?配達で手がかじかむ、水仕事が辛い、乾燥で唇ガサガサになる。
「なんで冬場は宅配が増えるんだろう。」
それはね、と優しい吉野先輩が教えてくれる。
「この寒空に買い物に出たくない奥様達がピザを頼むんだよ。家族には、今日は特別ね、とか言ってね。」
あれ?なんか聞いた事ある気がする。
「毎度ありがとうございました。」
ピザの配達完了!時間的に本日最後の配達だ。お店に戻って着替えたら帰ろう。吐く息が白い。今日は冷え込んできたな。お家に帰ったら暖かいかき玉スープが飲みたいな。
バイクにまたがると暗くなった空からちょっと白いものがチラついた気がした。雪かな?暗い空に目を凝らすとほんの少しだけだが、雪がチラチラと舞っている。十二月だしね。クリスマスも降るのかな。
吉野先輩はクリスマスに向けて御厨先輩にプレゼントを作ってあげる計画らしい。そういえば、御厨先輩の試験はどうなったのだろう。早いところはそろそろ決まる頃だ。
「戻りますかぁ。雪に埋もれる前に。あ、でもこの雪は積もらなそうかな。」
ポケットに入れていた配達用バイクのキーを取り出した。
カシャン。と、音を立ててキーに付いていたキーホルダーが外れた。拾い上げたが、チェーンが擦り切れて千切れてしまっている。あらら、キーホルダー壊れちゃったよ。
なんだか、胸騒ぎがする。
「なんてね!」
アタシは少し雪の混じった冷たい風にブルブル震えながら、お店へとバイクを走らせた。
#電撃
「すっかり暗くなっちまった。サクラ行くぞ。」
白いモノが冷たい風に混じっている。
「…雪か。…くぅぅぅ!寒い!サクラ急ごう!」
暗い公園に停めたスクーターに乗ろうと近づく翔吾の後ろに、うごめく闇があった。
「グルルルル…。」
サクラが何かを認めたのか、唸り声を上げる。翔吾はスクーターの近くにしゃがみ込んでいる人影を見た。
「おい、なにを…。」
バチッ!
火花のような青い光が一瞬輝いた。
「!!…ぐっ!…!」
翔吾の口から声にならない呻きが小さく漏れる。身体はがくがくと震え、やがて大人しくなった。
「グルル…キャンッ!…!」
再び小さな火花とバチッという音がした。唸り声を上げていた犬も大人しくなった。
辺りには微かに焦げ臭い匂いが漂っていた。
「早く積め!」
小さな叱責の声の後、ガタゴトと荷台にスクーターを積み込んだトラックは闇に溶けていった。