表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Noisy Energy ノイジー・エナジー  作者: 小鳥乃きいろ
12/38

#3 Sカーブ #女子ツー散歩

ノイジー・エナジー  #3 Sカーブ


#女子ツー散歩


 二学期が始まると、御厨先輩は受験勉強のため、正式に引退した。吉野先輩とアタシは魂の抜けた感じで、二輪女子会の会合に参加していた。

「吉野先輩!今日の議題は次回のツーリングですよね?」

 久しぶりに会合に参加した幽霊部員で、免許取り立ての鈴木さんが、かなりイライラしている。

「あ~、そ~だねぇ~。ど~しよ~かねぇ~…。」

 部長だった御厨先輩の後任は唯一の二年生である吉野先輩なのだが、ふやけて、溶けて、流れてる感じで、締まりが無い。

「吉野先輩も、ちえりも、御厨先輩がいなくて寂しいのは分かるけど…、せっかく鈴木さんが免許を取ったことですし、どこか行きましょう。」

 仕方なく、夏子が先輩をなだめようとしている。あ、アタシもか。

「え~、まだ残暑も厳しいのに、海とか山とか行きたくない~。」

 全く困った先輩だ。こんなのが部長で大丈夫なのだろうか?二輪女子会の行く末が危ぶまれる。

「あ、でも私もいきなりそんな遠くまでは不安だから、近場でいいんですけど…。」

 鈴木さんがちょっと引き気味だ。夏子が気を使って後押しする。

「例えば?」

 鈴木さんは少し考えていたが、やがて口を開いた。

「例えば、ん~、そうだなぁ。横浜まで行って、中華街で飲茶するとか?」

 ピクリ。ん?吉野先輩が少し動いた。

「…とか?」

 吉野先輩は顔を上げて、鈴木さんに先を促す。

「え~と、赤レンガ倉庫で港を見ながら散策するとか?」

 ガタン、吉野先輩が椅子を寄せて来る。鈴木さんは楽しそうに考えながら、つぶやく。

「元町に出てオシャレなカフェでお茶するとか?」

 ガタタン!吉野先輩は椅子から立ち上がると、鈴木さんを指さして言った。

「採用!即採用!」

 そして、歩き回りながらブツブツと呟き始めたんだ。

「そうだよ、女子会なんだから、猿みたいにバイクにしがみついて、山道を登るなんて野蛮なことばかりじゃないんだよ。女子は女子らしいバイクの乗り方があるんだよ。」

 そして、アタシ達に向かって言った。

「一年生!横浜ツーリングプランを企画しなさい!各自明日の夕方までにメールで私に提出すること。今週末は横浜に行くよ!」

 お~い、アンタも少しは考えなさい!


 ちなみに今回は街中に繰り出すということで、吉野先輩はいつものベスパ、鈴木さんはお父さんのスーパーカブ、夏子はお母さんのチョイノリ、アタシはいつものNSRだ。横浜に遊びに行くのにレプリカはないでしょ。カブやチョイノリもどうかと思うよね。カブは昔配達用でウチにもあった。懐かしいな。最近はカブも流行っているみたい。あ、NSRだと止めるところに困るかも。吉野先輩は150ccのクセに小型のところに停めちゃうらしい。悪いオンナでしょ?


 結果、今日は赤レンガ倉庫の駐輪場に止めて、周辺を散策する予定。

 神奈川北部の高校生なので、待ち合わせは246沿いのファーストフードだ。港北ニュータウンを抜け、新横浜スタジアムを眺め、東神奈川駅をくぐると、みなとみらいまではもうスグ。横浜中央卸売市場を抜け、臨港パーク、パシフィコ横浜の前を抜けるとみなとみらい地区で、左手に赤レンガ倉庫が見えてきた。


 駐輪場はちょっと分かりにくいけど無料。普通二輪も止まってる。アタシのNSRも停められてよかったな。

 早速、赤レンガ倉庫で散策だ。今日は晴れていて海もキレイ!

「ねぇねぇ!雑貨屋さんがあるよ。」

 吉野先輩と鈴木さんが雑貨屋さんに吸い込まれていった。女子会では自然に親しむより、可愛い雑貨屋さんの方が気になるかもね。

 

 沢山ある雑貨屋さんをぶらぶらする。うさぎさんのグッズ可愛い、いちご柄も可愛い、みんなでキャーキャー言ってはしゃぐ。食品サンプルも面白い。可愛いグラスもある。ミカリンと、鈴木さんが化粧品で盛り上がってる。

 アタシはクルマとバイクのアパレルショップに入った。バイクのジャケットもある。凄くかっこいいけど、今のアタシには残念ながら予算オーバーです。


 ちょっと小腹が空いたねぇ。アップルパイも美味しそう。アイスを片手にテラス席や広場で海と港の景色を楽しむ。赤レンガ倉庫もだけど、港の辺りは倉庫がいっぱいあるもんだね。

 大さん橋にはちょうど大きな客船がきている。

「あんな船で世界中を旅して見たいな。」

 楽しそうじゃない?

「でも船は時間がかかるから、ちえりじゃ三日で飽きちゃうな。」

 夏子が突っ込む。

 海からの風は涼しくて徐々に秋が近づいている。


「せっかくだからねぇ、やっぱり中華街と元町に行きたいなぁ!」

 と、ミカリン。街中をバイクで少し流してから中華街に行こう。山下公園の前を通り、港の見える丘公園は入り口だけでバイクで通過。

 山の手にはお嬢様学校がいくつかあるらしい。アタシ達みたいな工業女子とはあまり縁の無い人種と推測される。あまり出くわしたくはない。


 中華街近くの駐輪場にバイクを止めて、四千年の味の街へと繰り出した。中華街での食べ歩き。肉まんや焼売、ちまき。怪しげな中国のグッズやおもちゃもある。アタシは一番たくさん回って、色々味見をした。帰ったら母さんと姉さんに教えてあげるためだ。研究のためなのだ。決してお腹が空いたからではありません。


 そのまま流れて元町へ。元町はちょっとアタシ達には背伸びかも?可愛いアクセとか、オシャレなショップが並んでいる。家族連れやカップルや奥様達がのんびり歩いている。

 犬を連れてるペアもいる。いいな、アタシもあんな感じで御厨先輩とお出かけしたい。アタシのアタマの中に犬のリードを握る男の子の姿が…。ん?サクラ?ということは?『どうした?ちえり?』翔吾?!アタシは妄想を払って、現実に戻った。

「どうしたの?ちえり?」

 夏子がアタシに話しかけていた。な、なんでもないです。イヤなものを見てしまった。


 街自体は落ち着いた雰囲気のある感じでバイクの服装はちょっと場違いな感じだった。

「まぁ!あの方々、何処の学生さんかしらね?」

 むむむ、どうやらお嬢様学校のお姉様方が、場違いなアタシ達が気に入らないらしい。ふふん!日本の未来を担うのはアタシ達のウデと技術なのさ!とか、言いたかったけど、ケンカになって停学になるのは馬鹿みたいなので、無視して通り過ぎた。吉野先輩は、キー!悔しい!とか言ってたけど、大人になろうよ。


#接触


 アタシ達がバイクを止めてある駐輪場に戻ったら、誰かがアタシのNSRを見ている。NSRはみんなのスクーターとは少し離れた場所に止めてある。アタシはなんか嫌な予感がして、早めにヘルメットを被り、ミラーシールドを下ろして近付いた。ちょっとヤンキーが入った感じのお兄ちゃんで、ツナギの作業着を着ている。アタシが近付いたのに気づくと、ちょっと離れて声を掛けてきた。

「いいバイクですね。バイクの玉子様ですけど、今なら高く買取りますよ。」

 アタシは無視してキーを差し込むとNSRを押して駐輪場から出た。


 駐輪場の外に『バイクの玉子様』のトラックが止まっていた。運転席にはキャップを被った、やはりヤンキーのもう一人のお兄さんが座りじっと見ている。その視線は凄いイヤな感じで、アタシは背筋が冷えていくのを感じた。その男はざらついた声でこう言った。

「お姉さん、高く売れる時に売っておいた方がいいぜ。」

 父さんの形見を売るつもりなんかサラサラ無い。無視してみんなが出てくるのを待っていると、男はトラックを降りて来た。先に遭遇した男も駐輪場を出てきた。

「おい、舐めてんじゃねぇぞ?」

 どうしよう。この人達、かなりヤバい。男はゆっくりとキャップを取った。下から現れたのは鮮やかな金色の髪だった。

「晴海?どうしたの?」

 吉野先輩達が駐輪場から出てきた。遅いよ。チョー怖かったんだから!

「…チッ。行くぞ!」

 男達は急いでトラックに乗ると、さっさと発進して去って行った。アタシはヒザがガクガクと震えているのに、ようやく気が付いた。


 最後は微妙に後味悪かったけど、口直しにバイクで横浜スタジアムを眺めて帰ろうということで石川町から関内方面へ。スタジアムがあるのはわかったけど、街中にあるからあんまりじっくり見れなかった。

 でもスクーターで街中を走るのも、なかなか楽しいな。アタシはNSRだったけど。あと、女の子だけで行くのは気楽でいいよね。また行きたいね。

 今度は郊外のアウトレットやショッピングモールに行こう。バイクじゃ荷物が載らないけどね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ