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不死なんですけど死にたいです  作者: cccfood
レボリューション・オア・リリース
8/26

求め奪い合うが故に、壊れていきます

作り置き消費し切ったのでこれより不定期となるかも知れません

ティルメ歴28年.九の月.


記録的な冷夏によって城塞国家『ロゼリア』の周辺農村は軒並み不作となり国にも不安が広まりました。


ある日、宰相は『心配しなくても来年まで待てばすぐに国は元に戻るでしょう』、とお父様に言いました。


お父様は宰相の言葉を信じ炊き出しなどを最低限に留め次の年まで節制すると仰りました。


国王であったお父様も、その妻である厳しくも優しかったお母様も、次期国王であった兄様も、そして王女であるわたくしも。


信頼し切っていたのです。

国の為に、王家の為に尽くしていた宰相ならこの程度の事態、解決出来ないはずが無い。


ましてや、王家を裏切るなんてありえるはずがないと。



3日後、宰相は重要な話が有ると玉座に人を集めるように言ってきました。

しばらくすると宰相は兵隊長と共に王座に現れました。


お父様は何故、軍部の人間が騎士隊長では無く兵隊長なのだと宰相に問いかけると、宰相は『陛下方に死んで貰うためですよ』と答えました。


わたくし達が宰相が言った理解し難い事に驚いて何も出来ない間に兵隊長・・・いえ、反逆者タラバがその場に居た人間に襲い掛かりました。


剣を持たせれば国内最強と名高い剣の技量と神秘まで保有していると噂すらあったタラバに内政を専業とするわたくし達が敵うはずがありません。


次々と恐ろしい速さで人がタラバの剣閃に崩されて血を吐きながらばらばらになる様を誰にも止めらませんでした。


数刻で残った者は王家の人間のみになってしまいました。


ですがまだ、騎士隊長エルミアがこの場に来れば助かる、とわたくしは御伽噺のような事を無邪気に考えておりました。


宰相は『残念ながら騎士隊長殿は来ませんよ、お疲れのようでしたので薬を処方らせて頂きました。ええ、今頃とても長い眠りに着いていますよ』と言いました。


宰相のその言葉がわたくし達をどれほど絶望させたことか。


・・・いえ、外からは暴徒の声が聞こえ、反乱した兵士が城内を蹂躙しているこの状況があの時のわたくしには理解出来てても受け入れられなかったのでしょう。


ここで諦めていれば、運命を受け入れていれば、わたくしは豪華絢爛にして悲劇の王女でいられたのかもしれません。


しかし、宰相の言葉が王座の間に木霊し消えきらない内に光を王座に取り入れる為の窓から、まるで人々を危機から救う為に現れる救世主(ヒーロー)のように騎士隊長エルミアが落ちて来ました。

来て、しまいました。


高さは約1500コム(15m)。普通の人間なら、ひとたまりもありませんが騎士隊長エルミアは羽のように見事な着地を決めると、わたくし達に『遅くなって申し訳ありません。私があれを食い止めますので。陛下達は一旦避難を』と言い終わるや否やタラバに斬りかかりました。


タラバが剣で敵を倒す事に特化しているように、騎士隊長エルミアも盾で身を守ることによる持久戦に特化しています。


2人が戦っている隙を見てお父様は王座の裏に回ると姿が見えなくなりました。

その後に続いて、兄様も王座の裏に回り込みました。

見ると王座の裏手には精巧に隠された逃げ道が用意されいたのです。


それはお母様がわたくしに先を譲り最後尾として逃げ道を辿ろうとした時でした。


「――ィサー!」


戦いのさなか、わたくし達が逃げ出した事に気付いたタラバは何かを言いながら紐状に刃の付いた武器を投擲してきました。


しかし、武器はあらぬ方向に飛んでいき壁にぶつかりました。


その事でわたくしとお母様が胸を撫で下ろした瞬間、武器はまるで意思を持った蛇のように床を這いながらわたくしに襲い掛かって来ました。


恐怖から目を瞑ったわたくしでしたが、来たるべき痛みが来なかった事に訝しく思って目を開けると、お母様がわたくしを抱きかかえて庇っていました。


背中をあの武器の鋭い刃に抉られた状況でお母様は『後から必ず追い掛けるから』とわたくしを先に進ませました。



複雑に分岐していた逃げ道の先には国の郊外に位置する民家に繋がっていました。


涙で顔を汚しているわたくしを見てお父様と兄様は何も言わずただ黙っていました。



それから5日、10日と過ぎましたが国の混乱は一向に収まらず、

食べ物を求めて外に出て行った兄様が捕えられ処刑される一ヶ月後までわたくし達はひたすら隠れ家で息を殺し続けました。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「うむ、完璧じゃ・・・!!おいガランドウ!貴様の提案した、本来スプーンを使って一ヶ月間の月日を掛けて脱獄用の穴を掘る計画を妾によってたった3日の歳月で成し遂げられてしまった今の気分を聞かせてもらおうかのう!」


何やらかんやら俺とドラ子の獄中生活も二週間となった。


「くくく、何も言えんか?まっ!無理も無いかのう!」


混乱の真っ最中であるこの国にも処刑に仕方ない事だと口実を作る為に、死刑判決を与える裁判モドキがある。


「なんたって妾、伝説とかで語られちゃったりするすごい竜じゃからのう!」


ここに収容されていた貴族達は軒並みそれをくらい、残ったのは俺、ドラ子、正面の牢屋の収容者のみとなった。


「・・・ッ竜だと!?」

「あっまず・・・勿論冗談じゃよ!若い時に闇の力に憧れるあれじゃあれ、なんて言ったかのう・・・」


それにしても最近なんだか妙にやる気が出ない。

死にたい。このまま心身共に朽ち果てたくて仕方が無い。


「あっ・・・なんか腹減ったのじゃ。おーい!飯ー!おーい!!」


異世界生活など考えてみればド田舎での生活と大差ない。


技術もクソったれも無い産業。


既に出来上がり入り込む余地の無い余所者を孤高に追いやるコミュニティ。


そこかしこから這い出でる森の元気で愉快な仲間達(虫、蛇、猪etc・・・)。


結局人間は異世界に行こうが、インドに行こうが変わらない。


「はいはいはい!ったく、人を飯呼ばわりしやがって。こちとらせっかくの見世物を見損なっちまったのによう!!ほれ、旨いか?」

「不味いに決まっておろうが!・・・ん?パンはしっとりしつつふわっとしていながら表面は焼きたてのバターの香りを残しつつカリッと香ばしい、スープはシンプルながら野菜を長時間煮込んで出た旨味がしっかりと出て濃厚なこの風味・・・なんじゃ今日はやけに旨いぞ!何があったのじゃ!」

「なぁに、みんな王子の処刑を見に行っちまってな。調理場の連中までいなくなったんでいつもの不味い飯をこの俺がちょちょいと手わ加え見たのさ、良かったな俺に料理の才能が――――――」

「王子が処刑だと!?」


正面の収容者は今日いつもより多く驚く日らしい。


「あー・・・そこ騎士隊長が収容されたんだけっけそういや」

「答えろ!何故貴様ら兵士は王家から受けた恩に報いようとせず、仇で返すかのように王家に剣を向けられるのだ!!」


騎士隊長と呼ばれた収容者の姿は牢屋が暗くて相変わらずよく見えない。

罵声とも受け取れる声と鎖が擦れる音が牢屋に響く事から、騎士隊長とやらは拘束されているのだろう。

前にドラ子が俺に洞窟で巻き付けていた封異鎖躯(ほおいさく)という奴と同じ物かも知れない。


「さあ、俺みたいな下っ端には恩だが仇だが云々なんて知ったこっちゃねえよ」

「屑が!陛下達の気も知らない鈍物め!貴様らだ!貴様らのような人間がこの国を腐らせるのだ!!」

「旨いッ!!おかわりじゃあッ!!!」


騎士隊長の語勢がヒートアップしていく。

配給係は涼しい顔のままドラ子のおかわりの要求に応えててきぱきと食べ物をよそる。見慣れた光景だ。


「ほいよ、まだまだあるぜ」

「おい・・・仮にも剣を王家に捧げた者なら何か言ってみせろ!臆病者!」


配給係は肩の力を抜いてはぁー・・・と大きく息を吐き口を開く。


「・・・生きなきゃいけないんだよ」

「なに?」

「不作、起こっただろ?実はそん時に俺の家族な・・・」


そこで配給係は言葉を区切る。

溢れる物を堪えるのを隠しながらあえて面倒くさそうに再び口を開く。


「まぁ、飢えて死んじまったんだよ。一人残らずな、全滅だってよ」

「・・・なるほど。だが、それはただの八つ当たりだと――――――」

「違うっての。確かに俺の給料がもっと高けりゃ生きてたかも知れねえ奴らだがなあ・・・・・・元々農村の連中なんてこんなもんなんだよ。

馬鹿みてえに収穫を祝って、馬鹿みてえに国に絞られて、馬鹿みてえに死んでくんだよ。

それを見て馬鹿じゃねえかって言った奴を馬鹿みてえに育てて、兵士になるなんて馬鹿なこと言う奴を馬鹿みてえに喜んで見送って、んでもって無けなしの金持たせて何が仕送りはいらねえ、だっつーの!馬鹿か!! 馬鹿だった!!

俺はなあ・・・そんな馬鹿共をいつまでも馬鹿だと言い続けるって決めたんだよ!その為に生きるんだよ!」

「おかわりじゃ馬鹿もの」


配給係は乱暴にドラ子の盆に食べ物を一欠片も零さないようによそる。


「・・・クソったれが。俺がこの国を裏切った理由なんてもう誰も興味ねえんだよ。王家に捧げた剣って言ったな騎士隊長。んなモンとっくに売っぱらったよ。生きるためにな!!」

「うむ、満足じゃ。久しぶりに旨い物を食ったのじゃ」


配給係は戻っていった。


「私は、それでも赦す訳にいかないのだ・・・」


ドラ子はその日、おかわり回数最低記録を更新した。


それが配給係の話のせいなのか、それとも騎士隊長のせいなのか、

はたまた、旨い飯を味わおうとして咀嚼数が多くなり、その結果いつもより満腹感を多く感じたからなのかはドラ子のみが知る。

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