むさぼることで
「えぇ!そうだったんですか!?」
リチャードは改めてこのシスターが胡散臭く感じた。
このシスターの知識にはかなりの歪みがある。子供でも知っている常識を知らなかったりする反面、リチャードでも良く分からない謎の知識を豊富に持っているのだ。
今だってそうだ。このシスターが着いている地位はこの国の歴史上切り離せない重要な地位である。故に歴史学を学ぶ上でも幾度となく歴代シスターが現れる。
有名所で、初代、3代目、10代目、35代目、36代目、70代目、71代目、72代目などはこの国の人間ならば知らない者はまず居ない。
特に初代と3代目は神話的な話が多くお伽話としても人気でありシスターと言えば彼女達のような人間だと思っている者が殆どだろう。
リチャードも歴代シスターの肖像画と名前で何代目かを当てる事が出来るようになるくらいには学んだ分野だ。
「ああ、鎧が登場したのは70年戦争中だからな。それまで戦争の主流は神秘が中心だったが『強化魔術』の登場に伴い、より急所を守るために発明されたのだ。これ、下級兵士も知っている常識なんだが・・・」
「へー、やっぱり何処でも大きな戦争はいろいろ変えちゃうんですね」
まるで人事のように語るシスターであるがこのシスターは現時点で右に出るものは居ないほど高度な強化魔術の使い手でもある。
リチャードはこのシスターが何処で生まれ、誰に育てられたのか調べた事もあったがこのシスターがそれを言う訳もなく、両親もこの国の生まれでは無い事のみ教えるのみだった。
そんな人間を信用していいのか些か不安になるが、このシスターはそんなリチャードの不信感とは裏腹に全く躊躇せずに謎の技術をリチャード達に劇を見せるかのように披露する様を見ると、疑うのがリチャードには馬鹿らしくなって来たのだ。
だからこそ、いや元から少し怪しいだけでこのシスターの身は潔白だとリチャードは認識した。
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辺り一帯に香ばしい匂いが広がる。
熱せらた鉄板のようになった鎧は煙を上がらせる。
鎧の中は蒸し焼きにされて装備者に地獄の苦しみと死を与える、はずなのだが俺は一向に死ぬ気配が無い。
痛いには痛い。というかめちゃくちゃ痛い。そして熱い。
だが、それだけ。それ以外は身体に問題は全く無い。
ある程度鎧の温度が下がると普通に動けるようになった。
「無傷じゃとおお!?」
「―――遠からず、苦痛はある―――」
俺が先程の状況になっていたのは目の前にいる少女の姿をした者が放った、なんだったか・・・確か、ファフニールビームとかいう適当な名前が付けられた光線を放つ技をもろに受けたからである。
しかし、ファフニールか。
偶然の一致とは考えられない。いや、そもそもここが本当に異世界ならば言葉が伝わる事自体おかしい。
「くぉ・・・お腹空いたのじゃ。ファフニールビームの威力を上げすぎた・・・」
目の前で腹を鳴らす少女の姿をしたドラゴン(何と呼べばいいのか微妙なので以下”ドラ子”呼称とする)が何かしら魔法的なもので翻訳しているという事か?ビームを放てる位なのだから出来ても驚きはしない。
というか俺自身かなりファンタジーな化物になっている。
あのビームを受けて痛いだけと言うのは異常な気がするのだ。
ちなみに俺が吹っ飛ばされた方向は丁度洞窟の出口方向でありビームに洞窟に外まで飛ばされた。
追って出てきたドラ子はどうしようもない空腹を訴えたため現在は食料調達として森を彷徨っている。
「むっ!馬鹿めそれで隠れたつもか!喰らえ!超低威力版邪竜光線!」
そう叫んだドラ子が突き出した右腕からピチョーン、とチープなSEと共に超高速で放たれたどう見ても低威力とは形容しがたいビームが茂みを吹き飛ばす。
何をしているのかと聞こうとしたが、その瞬間にどさりと何かが落ちて来た。
頭が無い。見覚えのある死に方を猪だ。
「食い物じゃああ!!ひゃっほーい!」
そう言ってドラ子は直接、首の部分に食らいついた。
ぐちゃり、バリッ、ブチッと肉が千切れ骨が砕かれる音がする。
彼女曰く、また灰にされてはたまらん。と。
だったら最初から頼むな後わざとやった訳では無いと俺は言い返したいのをぐっとこらえた。そんな事を指摘しても例のビームが飛んでくるだけな気がしたからだ。
「旨い!やはり食い物は生食こそ至高じゃな!血抜きなどと言うせっかくの肉の旨味を捨てる事する奴らの気が知れんのじゃ!!」
俺が調べた異世界人に喜ばれる知識百選の一つ『肉の下処理及び焼き方』をこっぴどく批判しながらドラ子は数分で猪を完食した。
さて、それはともかくこれからどうしようか。
この身体は妙に頑丈でちょっとした事では死ねないかも知れない。取り敢えず高熱では死ねない事はドラ子のビームを受けて分かっている、もしかしたら、物理では無理かも知れない。
ならば物理以外はどうだろうか。
例えば、異世界ならば魔法があるのでは無いか?
あくまで仮定だが毒や呪いなどもあるかも知れない。ドラ子も知っている可能性もあるが使えるか分からない。
というか、こいつに何か頼み込みたくない。
街だ、村でもいいが人が住んでいる場所を探そう。
「―――一つ聞きたい、ここから一番近い街か村を知らないか?―――」
「あるぞ。妾もこれから暇潰しにそこに行く予定じゃからな。・・・そうじゃな貴様、妾と街まで同行しろ。」
一人旅は確かに嫌だが厄介そうな同行者が追いてくるのはもっと嫌だ。
まるで、週刊雑誌を買ったら興味の無いカードゲームの限定カードみたいなどうでもいい付録が付いてきた感覚だ。
今、街に行くと限定版ドラ子が付いてくるよ!・・・いらねぇよ。
「―――何故―――」
「うむ、実の所だが今の妾は全盛期の実力から比べて半分以下しか無くての・・・護衛とは言わんが人間にも化物みたいに強い奴もおったからのう保険じゃよ、金はあるぞ?人の一生では使い切れん額程度にはな」
9割そっちの事情に巻き込んでくるスタイル。正直好きじゃない。
だが、報酬が出るのはいいな。金は欲しいと思っていた。言動からしてかなりの大金だろう。
「―――承知、これより我は貴女の剣となろう―――」
口がなんか物凄く恥ずかしい誓いを勝手に立てる。これどうにかならないのか、すごくうざったいのだが。
「では、契約完了だな貴様・・・そう言えば何と呼べばいいのだ?意見がなければガランドウと呼ぶが」
ガランドウ、伽藍洞、空っぽ。その言い方にカチンときてしまった。
「―――では、我は貴女をドラ子と呼ばせてもらおうか―――」
俺とドラ子の間にひんやりとした空気が流れる。
「く、くくく・・・良かろう、ドラコとはなかなかに面白き響きじゃ。所でガランドウ、妾にも呼ばせてもらうぞガランドウとな・・・身体にゴミが着いておるぞ?」
そう言われて俺は自分の身体を確認するがそんなものは見当たらない。
「―――冗談も程々に言え、虚言癖ドラ子―――」
「虚言では無いぞ、今討ってやろう・・・そのデカイ鉄屑をな!消し飛べ不届き者!邪竜光線ッッ!!」
「―――おのれ!前回と全く同じオチだと!?―――」
かくして、俺ことガランドウ(仮名)とドラ子(仮名)の撃ちつ討たれずの旅が始まった。
旅は道連れ、だがお前が死ね、そして地獄で待っていろ。という物騒な旅である。
『邪竜光線』
ふぁふにーるびーむ。
邪竜が保有する神秘。
防御不能、超高速、超強破壊力の一撃はあらゆる英雄及び軍団を文字通り消し炭にした。
攻撃用の神秘だが、応用法も多々あり連射、散弾、滞留、剣型など様々な形態をとれる。
エネルギー供給は保持者が直接送る事でのみ可能。
尚、平均的な成人男性が必要とする1週間分のエネルギーでロケットランチャー程度の威力が出せる。
邪竜は常に周囲の魔力を取り込み自らのエネルギーとする神秘も保有しているがその神秘は左足に保有してた為現在機能停止している。