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不死なんですけど死にたいです  作者: cccfood
アイ・ホープ・デッド・アンド
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戻れません

特に何かあるわけもない家庭。


何の変哲もない、至って普通の父親と母親と2人兄弟の四人家族


それが俺の育った環境だった。


特異の無い会社員である父。


家事にパートに忙しく時折疲れた表情を見せる母。


普通高校に通う弟。


そして、そんな家庭にうんざりして何か特別な存在になろうとして失敗した結果、


唯の穀潰しになった俺。


何でも良かった。

凄いと思われたかった。

唯一無二に成りたかった。


小学生時代の夢はサッカー選手。

泥臭い練習と才能の格差に耐えられず挫折。


中学生時代の夢は作家。

自分の作品とも呼べない物に耐えられず挫折。


高校生時代の夢はロックバンドでメジャーデビュー。

メンバーを集められず空中分解。


無職時代の夢は脱ニート。

省略。


挫折した。自滅した。


そして絶望した。


自分の目指した道の険しさと、


運命と、才能のなさと、俺自身の生き様の愚かさに。


父は何も言わなかった。


母は心配してくれた。


弟は俺をクズだと罵った。


そんな彼らの想いを踏みにじり、俺はやっぱり最後まで愚かだった。



だからこそ俺は、(救い)を求め・・・・・・・・・・・・()さない。


赦さ(殺さ)れない。

救わ(滅さ)れない。

解放し(終わらせ)ない。


()()となりアナタに不死(地獄)を与える。


畏れは無用(無駄)


忘れし者に死を振りまけ。


ゆめゆめ忘れるな。


それのみが罪人の証(免罪符)だ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



西の端の山には白龍が住まう。


金銀財宝を収集し、悪虐非道を尽くし、不信貶神の様は正しく邪悪。


吐く息は森を焼き、人を焼き、国を焼く。

そして、後には何も残さない。



邪竜(ファフニール)と誰かが名付けた。


殺せと王が命じた。


兵士は地位を、貴族は名誉を、荒くれ者は財宝を、そして英雄は力を求め挑み散っていく。


毒も刃も神秘も通さない鱗と、如何様にも防げない光を放つ邪竜(ファフニール)を誰がどうやって倒せよう?


それはきっと神では無い。彼は生ける者を殺さない。

それに、ボクが仕事を与えた子だからね。


それはきっと王では無い。

命ずるだけの政治の最高管理者に何が出来る?他を当たれボケが。


それはきっと兵士では無い。

使い捨ての凡人は引き立て役を務められれば上出来さ。


それはきっと貴族では無い。

命あっての物種よ。


それはきっと荒くれ者では無い。

今日が良ければそれでいい。


それはきっと英雄なのだろうか。

否、かのような邪竜を討つは―――――――勇者なり。


以降、邪竜(ファフニール)を討ち取った者には勇者の称号を贈られる事が各国で定められた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



思えばトカゲ風情が出世したものだ。


神なる者が仕組んだ力を不要だと思った事は無い。それによって今も尚、生き残れているのだから。


光り物を集める習性も慣れてしまえば寧ろ快楽だ。


妙に、人間が突っかかって来るのも鬱陶しくはあったが歯牙にも掛からない。


財宝を集め、これを守るため来たる人間を処理する。


身体は傷つけられず、ひたすら必殺の攻撃を遠距離から放つ。


それだけで負ける事は無いはずであった。




その日は、久しぶりの1人の来客を迎えた。


全身に鉄を纏った妙な人間で、まるで散歩をするかのように闊歩していた。

そいつは運び込む時に落としてしまった財宝の一つを拾い上げた。


その行為がこちらへの挑戦の合図だということそいつは知らないのかもしれない。

まるで目に付いた石ころを拾うかのような緊張ない動作だった。


だが、形はどうであれ財宝を奪った事に変わりはない。


物色した財宝を確かめるそいつに向かっていつもの攻撃を放つ。


終わりだ。

今までの挑戦者にあれを防いだ者、避け切った者、どちらも1人として居ない。


放った攻撃によって住処がまた削れてしまうのを考えると億劫になる。


そろそろ新しい住処に移るか。


それにしても、いつまで続ければいいのだろうかこの生活は―――――――――――


違和感に気付く。



とっくに消し炭になっている筈である奴の反応がまだ残っている。


防ぎ切ったのか?あの全身に纏った鉄で?


そう思った所で、今度は突き刺さるような危機感に襲われ身体を右に逸ら―――――――――――――――――


次の瞬間、左半身の感覚が消えた。見ると、左半身は始めからそんなものは無かったかのように綺麗に消失して血が流れているのみだった。


何が起きた?


神秘では無い。特有の臭いは一切しなかった。


奇跡でも無い。あの男気配に気付かないはずが無い。


身を切り裂いたものの正体すら分からない。

ただわかるのはそれがとてつもない出鱈目なものである事だ。


一撃。たった一撃で今まで傷一つ付けられなかった身体が動かす事すら出来なくなる程の負傷を負わされた。


その事実を目にして途端に久しく感じた事の無かった恐怖を思い出す。


呆気ないものだ。どれほどの時の間、絶対強者として君臨したかなど既に忘れていた。


きっと奴はここに辿り着くと同士にこの首を跳ね心臓を貫かれて殺されるだろう。


奴なら出来ないはずが無い。


嗚呼そうか、ここで死ぬのか。今なのか。


こんな事になるなら。

・・・何かあっただろうか?

欲する?願う?

何も無いではないか。


まるで家畜。何も知らぬまま生きて、何も分からぬまま殺される家畜ではないか!!


奴が現れた。生身で見るそいつは、正しく異質な者だった。


その瞬間、頭を縛っていた鎖が弾け飛んだ。

堰を切ったように感情が奔流し始める。


嫌・・・だ!

嫌だ嫌だ嫌だ!!


死にたく無い。


と口に出した。無意識だったというのに丁寧に翻訳まで施していた事に呆れを通り越して感心すらしていた。


初めて誰かに命乞いをした。初めて惨めな思いをした。


一秒にも、一生にも感じられた。


そこで予想外の事が起きた。


奴の手から魔黄金剣が落ち、追うよに奴も倒れ込んだのだ。


今日もまた生き延びた。


その事実にこれ程までに歓喜したのはいつぶりだろうか。



『魔黄金剣』


まおうごんけん。


東の黄金王ことナリタ王によって組織された金属類制作委員会(後の錬金術師協同組会)によって作られた。


金の優秀な魔法の触媒としての能力を更に高めるために、金以外にも様々な触媒を独自の調合法で混ぜ合わせている。


作られた当時は剣というよりも杖として使われたが、(ティルメ歴103年)現在は戦術の変化(70年戦争)に伴い剣として使われることが主流となった。


尚、物が物だけにとてつもない価値をつけられる為、王族もしくは上級貴族以外は触れる事も叶わない。又、『草記黄金伝』の記述によると剣の形をしているのはナリタ王の要望だが、70年戦争を予知していた訳ではなく単純にナリタ王の趣味であった事が分かる。

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