理解しているつもりで全く理解出来ていないものです
やぁ、気分はどうだい?何処か痛くない?
・・・
そうか、それは良かった。
さて、おめでとう、君は救われてしまったよ。まぁ元から君がどうこうできる事じゃ無かったからね。
罪の無い魂に罰を与える事は出来ないし、ましてや救わない事なんてボクが許されないからね。
・・・
”罪の無い者など居ない”か、・・・君そんなに頭良かったけ?
あはは、ごめんごめんって、冗談だよそんな怒るなって。
確かに今回の悲劇は君がいなければ起きなかっただろうけど、君のせいで起きたことじゃないのだよ?少なくともボクはそう判断したんだ。
・・・
勘違いしないで欲しいな。君も彼女もそして彼等もボクにとっては全員被害者で救う対象なんだ。
・・・
え?ああうんそれは無理。出来たら最初からそうしてるしね。いやぁ、君の魂を抜き出すのでやっとだったよ。
・・・
落ち着きなって。その問題を解決する手段があったからここに君を連れて来れたんだよ。
本当にいいタイミングだったよ。君は運がいいよ。うん。
・・・
ははは、残念ながら今更気にした所で君に出来る事なんて無いよ。
それに時間だ。
じゃあね、面白かったよ君の物語。
そういや信者の子達に託して書にまとめて貰うつもりだけもいいよね?断られても勝手にやるけど。かなり手は加えるけどね。
・・・
そうかい、ならいい事を教えてあげよう。彼にその心配は・・・あんまり無いよ。
卑怯かもしれないけどボクを信じてくれ!なぁにいざとなったらボクが一肌脱ぐさ!腰を悪くしそうだがね!
・・・
うん、だから、せめて安らかに眠ってくれ。■■■■■。
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俺は死んだ筈だというのに気が付くと辺りは森に囲まれていた。
何が起こっているのか。いや、俺はこのような創作物を多々見てきた。
所謂、転生。だがもしそうだとしたらかなり悪趣味なことだ。
死にたくて生きるのが嫌になって逃げた俺のような奴にすることでは無い。
こういうのはトラックにでも轢かれたニートとか男子高校生相手にやって。やくめでしょ。
等と考えても仕方が無い。周りに何か有るだろうかと見渡す、武器でもあればこの場で自害してやろうかなと首を振るとガシャンと金属がぶつかり合って出た音が俺から聴こえてきたように鳴った。
首に何か有るのかと手を当てると、触った感触は全く手に伝わらない。代わりにまたガシャッと喧しい音が響く。
不思議に思って手を見ると、見える範囲全てに渡り隙間無く手は鉄の鎧らしきもに包み込まれていた。
身体中確かめる。反対の手、胴体、当然のようにそこにある両足、何処も例外なく、そして隙間なく鎧に覆われている。
頭に手をやると、そこからも先程から聞き飽きた音が聞こえた。特に視界が遮られている気はしなかったのが不思議だ。
しかし、全身に全く覚えのない鎧に包まれていて何とも奇妙なこの状況に俺は首を傾げた。ガシャン。
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「昔々のお話しです、ある貧しい村の夫婦の間に1人の男の子が産まれました。
男の子はすくすくと育ち立派な青年に成長しました。
ある日青年は森に木の実を取りに行くと大怪我を負った年老いた騎士に出会いました。
騎士の名前はタヴィレッジといい王都では敵無しと謳われた騎士でしたが敵国の大軍に押し負け殿を務めた後に命からがら逃げて来たのでした。
タヴィレッジは逃げた自分は王都に居場所は無い、もしその気があれば自分の代わりに国を救ってくれ。と頼み青年に剣や様々な知識を与えました。
青年は1年間でタヴィレッジに勝る程の実力を手に入れ、王都に向かいました。
青年は王都で志願兵となり、様々な戦場で華々しい活躍を遂げ、ついには王に実力を認められ騎士となりました。
騎士となった青年は貴族の美しい女性と結婚しました。
貴族の女性は騎士との間に1人の娘を産み2人で大切に育てました。
しかし、ある日王都は敵国の襲撃を受けて騎士の妻は攫われてしまったのです。不運な事に騎士はその時王都から出掛けていました。
そして、騎士が決死を思いで敵国の都に駆けつけましたが、断頭台に登った妻と目があったまさにその瞬間に妻は処刑されてしまいました。
騎士は悲しみ怒り狂うと、敵国を三日三晩の間に滅ぼしてしまいました。
王都が平和になると王は強過ぎる騎士が邪魔になり、騎士の首を持って来た家来を次の王にすると言いました。
騎士の元に次々と王の家来の軍団が押し寄せましたが騎士はその絶望的な状況でも軍団を圧倒しました。
しかし、騎士の娘が人質にとられしまい騎士は敗北してしまったのです。
王は目隠しをされ剣を持たせた騎士の娘に騎士の心臓を刺させ騎士を殺させました。
騎士を自分が殺してしまった事を知った娘は絶望しその剣を胸に刺し自害しました。
ところがそこで、死んだはずの騎士が急に動き出すと近くにいた兵士の腰から剣を奪い、力の限り振るうと王も、家来も、軍団も、そして何も知らない王都の民も、王都そのものを構成する全てが真っ二つになり王都は滅びました。
そして、復活した騎士は今は死することさえ許されずこの世の何処かを彷徨いその姿を見た者の命を奪い続けているのです。
おしまい。」
黒髪のシスターは色あせた表紙の本を閉じる。
その表紙には辛うじて『彷徨いの鎧』と書いてある事にリチャードは違和感を覚えた。
「シスター、この本は『彷徨う騎士』と違うのか?」
シスターは「お!よく気付きましたねリチャードくん」と言うが貴族の息子として一般的な教育を受けているリチャードなら気付くなという方が無理な話だ。
「どういうこと?」
白髪でリチャードと同年代(推定)の少女もシスターの先程の話と本のタイトルに違和感を感じていたのだと、リチャードは考えたが流石にそれは無いかと首を振った。ある意味シスター以上に少女の事を知っているのだリチャードは。
「うーんと、コルにも解るように説明するにはですね・・・」
「どういうおはなしだったの?」
「そこからですか!」
「コルには難しい言葉が多いからなこの話。」
「うん。さすがりちゃーど」
シスターはしゅんとしながらも少女―――コルに対して特別言語講座を始めた。
「あの、リチャード様、先程の話について詳しくご教授願えますか?」
シスターと同じ黒髪の少女がリチャードに首を傾げながら聴いてきた。
「そうだったな。さっきの話は『彷徨う騎士』と呼ばれるマイナー中のマイナー、知る人ぞ知る物語だ。何せ1人の騎士に王と国が殺された話だから王国では禁書扱いすらされている。ただあの本のタイトルは、」
「確か『彷徨いの鎧』でしたっけ?・・・確かに変ですね」
「まあ、どうせ写本した奴が間違えたんだろう。何せマイナー物語なんだから・・・」
「失礼な!これは百代も前の先輩シスターが受けた神託を書き記した原本ですよ!『彷徨う騎士』が間違いなんですぅ!」
シスターがリチャードの考察を否定する為だけに会話に入り込んで来た。だが、その情報はリチャードに更なる違和感を与えた。
「いや、いよいよおかしいじゃないかシスター。だってこの本には、というかまてよ、その時代には騎士は居ても――――――――――――――――――鎧は存在しないぞ?」