人によっては重い、軽いと違いが現れるでしょう
誰かが言った、人は二度死ぬ。
まず、一般的な体の死として物理的に。
次に、誰からも忘れ去られる事で存在したという記憶が。
それにのっとれば人間的に死んだ俺は計3回死ねる事になるのだろうか。お得な話だ。
鳴り響く警報、留めようとする周囲の声。
世話になった両親には悪いとは思う。きっと最上級の親不孝だろう。
車椅子の車輪は想定どうりにしっかりと線路に嵌っている。
この状態から動かすのは難しい。
線路の先を見据えれば巨大な鉄の塊が猛スピードで迫ってきている。
野次馬が息を呑む様が手に取るように分かる。
電車の運転手にはトラウマを与えてしまうかもしれない。
なんせ、全身に包帯を巻き車椅子に乗った足の無い男を今から轢き殺してしまうのだから。
もしそうならば無理な話しかもしれないが、勘違いをしないで欲しい。
俺は俺の為に俺を殺すのだ。ひどく独善的で勝手が過ぎるのは理解しているつもりだ。
だから気にしないで、俺を殺してくれると嬉しい。
重々しい音が飛び散るように響いた。
俺には勿体無いほど素晴らしいレクイエムだろう。
そう言えば、死の瞬間が一瞬ならば痛みは少ないと噂で聞いた事があったがとんでもない嘘だった。
しっかり痛かった。程度で言えば、文字通り死ぬほど痛かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、このまま話しを進めても斬新かと考えたが、それでは不親切なのでここまでのいきさつをサクッと説明しよう。
時は一年前まで遡る。
どこにでも居る至って特徴の無い実家暮らしの青年、俺はある日ある夜、住み慣れた家が火事にあった。
古い木造建築を焼き尽くす勢いの炎に普段穀潰しの俺もこれは不味いと部屋から飛び出し外を目指すが中間まで行った所で突然天井から何が落下し、意識を失った俺は救急搬送された病院にて手術を施されていたという。
気付いた時には全身に火傷、ついでに膝の辺りから足をばっさりというショッキング。
どうやら、天井から俺に落下してきたのは焼け落ちた梁だったらしくそれに押し潰されて圧迫された足は壊死し始めており、切断せざるを得なかったらしい。
全身に火傷を負ってミイラのように包帯を巻かれ、車椅子生活を余儀なくされた俺はまともな人生は送れないと確信し、早急に退院した後に死のうと決めた。
足が使えない俺のとれる自殺手段は多くない。ビルの屋上から飛び降りるなどの手段はとれず、首を吊ろうにも足が無いときついし頑丈なロープなど持ち出そうものなら両親が止めに入るだろう。
結局、実家の近くにあった踏み切りでの死を選んだのだ。
ここまで話しておいてなんだが、手段などどうでもいいのだ。
大事なのはこれから訪れるだろう湾曲した人生から逃げようとした重症者が死を望み、さんざん迷惑をかける死を成したという事実だけだ。
不思議な事に恐怖は感じなかった。元から死に体だったが故に失う事の恐怖に耐性が出来てしまっていたのかもしれない。全く嬉しく無いが。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――