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アヌビス神緊急来日!3

 「あれだよ。」

 道の真ん中でエビスが遠くにとまっている小さいトラックを指差した。


 「……?店ではないのか?」


 「あれはお店だよ~。車で動きながらあちらこちらでかき氷を売っているみたいだね~。今日は暑くないから大変だね~。」


 アヌビス神の疑問にレールはスケジュール帳を開きながら答えた。レールのスケジュール帳にはかき氷の店の店主の今後のスケジュールが浮かび上がっている。


 「ほう……。では買ってきてくれ。」

 「ん!?」

 エビスは目を見開いた。


 「日本のお金を持っていないんだ。第一、お金を使う事がない……。」

 「まあ、神々はお金を使わないからね~。」

 レールはアヌビス神に頷いた。


 「私は人の目には映んないし。レールも猫になんないと人に見えないし……。あ、レール、猫になって買ってきなさいよ!」


 エビスはアヌビス神に言葉をかけていたが途中でレールにかき氷を買ってくるように言った。


 「え~……猫がかき氷買いに来たらびっくりすると思うんだけどなあ~……。」


 「いいから。ほら、かき氷食べさせたら記事になるようなビッグニュースが聞けるかもしれないでしょ!」


 「そうは思えないけどなぁ~……。」

 レールはとりあえず白い猫に変身した。エビスはそれを確認すると取材用のメモ帳に『かき氷下さい。』と書き、レールの口にくわえさせた。


 「あ、アヌビス神、味はどうすんの?」

 「味?よくわからんので有名どころで頼む。」


 「あ、そう。」

 エビスはレールがくわえている紙に追加で『有名どころ』と書いておいた。


 「ほら、お金上げるから行って来い!」

 エビスはレールに千円札をくわえさせ、レールのお尻をパンと叩いた。


 「にゃあ~!」

 レールはあまり納得がいっていないようだったがお店まで駆けて行った。


 レールはかき氷店までたどり着き、受け渡し口に飛び乗った。


 「うわあっ!」

 当然、突然現れた白い猫に店員さん達は驚いていた。


 「え?何々?猫?」

 「え?猫?」

 三人くらいのスタッフがレールの出現に作業の手を止めた。雨が降っていたため、お客さんはレールしかいなかった。


 「にゃ……にゃあ……。」

 レールは口にくわえていたメモを店員に見せ、ついでに千円札もその場に出した。


 「……かき氷下さい……有名どころ?……この猫ちゃん……おつかいに来たみたい。」

 女性のスタッフが怯えながらメモを他の店員に渡す。


 「え?猫がおつかいってするのか?犬はなんとなく聞いた事あるけどな。しかもかき氷……。有名どころってイチゴ味でいいかな。イチゴ有名だよな?というか定番だよな。」

 男性スタッフも戸惑っていたがとりあえず、定番のイチゴ味のかき氷を作り始めた。


 「ほい。」

 男性スタッフは素早くイチゴ味のかき氷を作るとそれを女性スタッフに渡した。


 「はいって渡されても……この猫ちゃんにどうやって持たせるのよ……。」

 「その猫、背中向けてんぞ。背中に乗せろって事じゃなくて?」


 「背中に乗せて物を運ぶ猫なんて聞いた事ないわよ!」

 女性スタッフは困っていたがとりあえずレールの背中にイチゴかき氷を乗せてみた。レールはきれいにバランスを取り、かき氷を背中に乗せた。


 「うそ……。乗ったよ……。」


 呆然としているスタッフ達を横目にレールはおつりを口にくわえ、器用に走り去って行った。スタッフ達は嵐のように去って行った猫をただ茫然と見つめていた。


 「あー、恥ずかしかった~。めっちゃ驚かれたじゃ~ん……。」

 「ま、まあ、猫が買い物なんて普通しないしね。しかもかき氷とか……。」


 レールは人型に戻り、かき氷をアヌビス神に渡した。エビスはスタッフ達の対応が思ったよりもおもしろくて笑いを堪えていた。


 「すまない。ありがとう。」

 アヌビス神は優しく微笑むと幸せそうな顔でかき氷を口に運んだ。


 「冷たくて甘くて美味だな……。う~ん。美味美味。」


 「あ、ところで取材したい事を思い出したんですが……。」

 「ああ、すまない。急用を思い出した。取材は後で受けるから。」


 エビスが聞きたい事を口にしようとした刹那、アヌビス神は慌てて、走り出した。


 「えー!」

 「本当にすまない!大事な用でな!」

 アヌビス神は走りながらすまなそうな顔で頭を下げていた。


 「ちょっと待ってよ!って、足早っ!」

 「犬だからね~……。」

 レールがつぶやいた時にはもう、アヌビス神はいなくなっていた。


 「はあ……。取材したい事いっぱい思いついたのに……。」

 「私の労力が無駄になっちゃったね~……。」

 エビスとレールはがっくりとうなだれた。


 「レール……。取材内容、メモした?」

 「え……?なんか取材した~?」


 「……したよ。最初の方。」

 「あれは取材じゃなくて会話だと思ったよ~。」

 レールの言葉にエビスはため息をついた。


 「はいはい。という事は何にもメモしてないって事ね。」

 「あ、一つだけあるよ~。」

 レールは先程のメモ用紙をエビスに渡した。


 『かき氷下さい。有名どころ。』


 先程、エビスが書いたメモ一枚。

 「これでどう記事をかけと!?」

エビスは再び盛大なため息をついた。

 


 その後の天界通信、エビスとレールが担当している『ようこそ!外国神!』の欄には……


 『エジプトからアヌビス神緊急来日!日本の墓を視察。ところでかき氷を食べてみたいのだがどこが有名だ?そうおっしゃっていたのでかき氷の有名どころ、イチゴ味を買ってあげました。』


 とだけ書いてあったという。


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