運命神ノルン緊急来日!4
しばらく屋台のものを買い込んでいた男はそれを全部女の子に渡し、海が見えるコンクリート塀の上に腰かけた。浜辺は花火を見る客でごったかえしている。とてもじゃないが浜辺には入れなかった。男は砂浜へ続くコンクリート塀の上で花火を観賞するようだった。
隣にいた地味な神の女の子はさらに隣に座っている少女の稲荷神に買ってもらった物を全部渡していた。
「あいつが食べるんかい!」
エビスは喜んでいる稲荷神にビシッとツッコミをいれた。人に見えない神が持った物は人に見えなくなる。男は不思議そうに地味な女の子を見ていた。人に見えない神である稲荷神に食べ物が全部いってしまったからだ。突然、買った物がなくなり、男は動揺していた。
そのすぐ後に高橋さんと呼ばれた女が男に声をかけた。
「うーん。なんて言っているか聞き取れないな……。」
エビスは遠くから見守る事にしたが男女の会話は聞き取れなかった。
「ふう……こんなもんかな~。」
ふとエビスの目の前にレールが現れた。
「うわっ!あんた、いきなり現れんじゃない!びっくりした。」
「ごめ~ん。」
レールは微笑んだままエビスに手を合わせた。
「運命の糸は繋がったわね。うん。」
ウルズはどこか満足げに頷いていた。
「紡いじゃってるねー!」
スクルトはどこか楽しそうだった。
「会話まったく聞こえないし、どう転ぶかわからないのになんでそんなに楽観的?」
エビスはウルズとスクルトを不安げに見据えた。
「心配ありません。私達にはもう運命が見えました。」
ヴェルダンディがクスクスと小さく笑った。
「……?」
エビスが訝しげな顔で三神を見ていると男が大きな声で突然叫んだ。
「……あ、あなたの事が好きだったから……です。はじめは振り向いてほしくてちょっかいを出していました。あなたと話せるきっかけができてちょっと浮かれていたんです。そうしたら俺の友達があなたをいじめだして俺はあなたを好きだという事を悟られたくなかったからあなたをいじめていました。小学生の浅はかな考えです。あなたが首をつったって聞いた時、俺……もう……どうしたらいいか……。」
男のすすり泣く声が聞こえてきた。
女はなんで自分をいじめたのかを聞いたようだった。
「な、なるほど……。」
エビスは三神に引きつった顔を向けた。
男はまた何かを叫んでいた。
「高橋さん。俺は今でも高橋さんの事が好きだ。俺はもう大人だからあんな馬鹿な事はしない。堂々と言う。俺は高橋さんの事が好きだ。」
男の真剣な声と女の笑い声が重なり合ってエビスに届いた。
「あの人、恥ずかしくないのかな。ここまでまる聞こえだけど。」
「なんかよくわからないけど~、いじめがきっかけてあの男の人は改心したんだね~。人間はいきなり成長するからさ~よくわからないよね~。エビちゃん。」
レールはエビスの肩を叩きながら微笑んだ。
「あの人達、うまくいくかな?」
「さあね~。」
二神が会話をしていると夜空に大きな花火が上がった。
「わあ……花火だよ!」
スクルトは夜空に咲く花に目を輝かせ、ウルズとヴェルダンディをつついていた。
「やっぱり日本の夏は花火よね!紡いじゃっているよね。」
「ええ、紡いでますね!」
ウルズとヴェルダンディも空を見上げ、楽しそうに笑った。
「ところで……。」
エビスが楽しそうにしている三神に小さく声をかけた。
「はい?」
三神はエビスの方を向くと首を傾げた。
「大切な事を忘れていませんか?」
「ん?」
「取材です!しゅざーい!」
エビスはビシッと言い放った。
「レール!ちゃんとメモってね!さっきの運命についてはメモった?」
エビスは今度レールに目を向けた。
「え?え~……してないよ~?」
「じゃあ、もう一回聞く!」
エビスはノルン姉妹の方向に目を動かす。しかし、その場にもうすでにノルン姉妹はいなかった。
「花火見たいから取材はここまでねー!ばいばーい!」
スクルトは遠くの方で手を振り人々の中へと消えて行った。
「では私も日本の夏を満喫するので……。」
ヴェルダンディもスクルトを追い、人々の中へと入って行った。
「また今度会ったら取材受けるわよ!」
ウルズは微笑みながら二神を追い、走り去っていった。
「……あー……くそっ。何のために素敵な笑顔で対応したと思ってるんだ……。」
エビスは紙と鉛筆を持ちながら呆然と立っていた。
「あ、あの……エビちゃん?メモってた言葉あったよ~。」
控えめにレールがエビスにメモを見せた。
そこには『やっぱり日本の夏は花火よね。紡いじゃっているよね。』と書いてあった。
それを見たエビスはため息をつきながら頭を抱えた。
その後、天界通信のようこそ!外国神!の欄にはこう載った。
『運命神ノルン姉妹緊急来日!運命について少々語った後、七夕祭りの花火を観賞。やっぱり日本の夏は花火よね。紡いじゃっているよね。とコメント。』
とだけ書いてあったという。




