運命神ノルン緊急来日!3
白猫になったレールは慣れた手つきで高橋さんと呼ばれた女の膝にちょこんと乗った。
「えっ?猫?」
女は驚いた。
「……レール……いきなり膝に乗ったよ……。なれてやがるな。」
エビスは不安げにレールを見つめていた。エビスもノルン姉妹も人間の目には映らない。ので、堂々とベンチの前にいた。
「にゃあ~。」
レールは一声鳴くと女を見つめた。レールの顔を見た女は表情を柔らかくし、そっとレールを撫でた。
レールは黙って女を見上げていた。女はだんだんと猫のレールと打ち解けて小さく言葉を話すようになった。おそらく猫に話してもしょうがないと思っているのだが話す人がほしかったようだった。
「あのね……。」
女はレールを撫でながら言葉を発する。
「私、昔いじめられてた男の子に突然会ったの。もうお互い……いい大人なのにあの時の事を引きずってあやまりに来た彼に酷い言葉をかけてしまった。話くらい聞いてあげても良かったかなって今、思っているの。でも……。」
女がそこまで言った時、レールは突然、女の膝から飛び降りた。
「猫ちゃん?」
「にゃあ~。」
レールは女をじっと見つめるとついてくるように合図をしていた。
「猫ちゃん……ちょっと待って!」
女は追うはずのなかった猫を追いかけて立ち上がった。何故だかこの白い猫を追いかけずにはいられなかった。
白い猫、レールは突然に走り出し、女を誘導しはじめた。
「レールの奴、どこへ……。」
猫を追いかけエビス達も走る。横でヴェルダンディが声を上げた。
「なるほど。彼女は出会いの神、ああやって人と人を出会わせるのですね。」
「それにしても足速い!追いつけないよ!」
ヴェルダンディのさらに横で息を上げているスクルトは情けない顔で叫んでいた。
「神社の階段を降りて行ったわ!」
ウルズは沢山の人をかわしながら鳥居をくぐった。階段を降りるとレールはまた「にゃあ」と鳴き声を上げ、立ち止った。あたりは沢山の屋台が並ぶ、祭りの道のど真ん中だった。
「ね……猫ちゃん……?」
女はレールの目線の先を見た。目線の先に先程会ったあの男が見知らぬ女の子にやきそばを買ってやっていた。男の顔は優しさで満ち溢れており、女はしばらく男の顔を眺めていた。
「あの人……あんな優しい顔ができるのね。」
女は呆然とそんな言葉を口にしていた。
「ん?あの男の人の横にいる女、さっき神社内で見た、地味な神。あの神は人間にみえるのか。なにやきそばねだってんだよ……。」
エビスは呆れた顔でやきそばをもらう女の子を見つめていた。その女の子の横ではこの神社の祭神である運命神と少女姿の稲荷神が楽しそうにしていた。
「あちらの日本の神々は男の人の方の手助けをしているようですね。」
「ええ?あれ、やきそばねだっているだけじゃない?ほら、今度は枝豆をねだっている。」
ヴェルダンディの言葉にエビスはため息をついて答えた。
女はレールが行くままについていっている。男をひそかに見守っていた。男は見られているとも知らずに一緒にいる地味な少女に優しげに微笑みながら枝豆を渡していた。
女はしばらく男を見守っている内にだんだんとその男に興味がわいてきた。
「あのとなりの女の子、誰かはわからないけど三鷹君の友達なのかな?あの笑顔を見ているとまるで別人ね……。あの人も大人になったのかな。なんで私をいじめたんだろう……。」
女の頭には色々な疑問が浮かんだ。
「もう一度……あの人と話したい。」
女は頷くと暗くなってきている空をそっと仰いだ。