運命神ノルン緊急来日!2
「ん?君達は……日本の神?」
女神達の真ん中に立っていた目がパッチリの元気そうな少女がエビスとレールに声をかけてきた。
「天界通信の者です。取材に来ました。」
「取材?バカンスなんだけど。」
エビスの言葉に目がパッチリで頭に赤い帽子を被っている少女は首をかしげた。
「えー、まず、お名前をどうぞ~。」
レールは強引に女神達の口を開けさせる。
「な、名前?わ、私はウルズ……。」
赤い帽子のぱっちり目の少女は戸惑いながら答えた。
「はい。次~。」
レールはウルズと名乗った少女の横にいる黒い服に白い布をかぶっている少女に目を向ける。
「わ、わたし?私はヴェルダンディですよ?」
黒服の少女、ヴェルダンディはウルズの横にいるもう一神の少女の脇腹をつつく。よくわからないがお前も自己紹介しろとつついて教えたようだ。
「えー、何コレー?名前?私はスクルトだけどぉ?」
ウルズの横にいたもう一神の少女は額を大きく出し、癖のある短い髪を後ろで流しているお転婆な感じの少女だった。名をスクルトと言うらしい。
「運命神ノルン三姉妹でいいですか?」
「……?え?はい。」
エビスの問いかけに三神は戸惑いながら答えた。
「ここで会ったのも何かの縁。インタビューに協力ください。」
エビスとレールは彼女達を追ってここに来たがたまたま会ったという風にした。
「縁といえば……運命。私達は皆、何かと繋がっているのです。運命は繋がっているものを紡ぐものです。」
ヴェルダンディがノリノリでインタビューに参加してきた。
「あー、ヴェル姉がノリノリだぁ!」
スクルトがいたずらっ子のような笑みを浮かべ、笑う。その隣でウルズが静かに口を開いた。
「私達は必ず大きな流れの中にいるわ。幸も不幸も運命も奇跡も皆大きな流れ。私達はその流れの中で運命の糸を紡ぐの。それが仕事……あれ?」
ウルズが自身の両掌を見て首を傾げた。
「ウル姉?どうしたよ?」
三女スクルトが蒼白のウルズを心配そうに眺め、声を発した。
「今日、少しだけ持って来た運命の糸がなくなった!」
「えーっ!」
ウルズの言葉にスクルトは大げさに声を上げて驚いた。
「ウル姉様……どこに落としてきたのですか?」
「お、落としてないと思うけど……。」
ヴェルダンディの鋭い睨みにウルズは肩を落とした。
「とりあえず探しましょう。」
「ええ。……あ、取材はいったん中止で。」
ヴェルダンディに頷いたウルズはエビス達に手を合わせてあやまった。
「ああ、いえ。一緒に探しますよ!」
「はい~。探します~。」
エビスとレールは深刻な顔をしているウルズに笑顔で答えた。
「でも悪いわ。」
「いいんですよ。暇ですから。」
ウルズの言葉にエビスはにこやかに頷いた。
「そ、そう?じゃあ、よろしく頼むわ。」
ウルズはエビスの笑顔に押され、小さく頷いた。
とりあえずエビスとレールとノルン三姉妹は神社内を歩き回る事にした。ウルズが言うには運命の糸は金色に輝いているそうだ。しばらく探し、神社の裏参道に入った時、ほとんど人がいない裏参道で男女が話し込んでいた。
「あっ!」
スクルトが突然声を上げた。
「何?」
ウルズもスクルトが見ている方向に目を向ける。
「あっ……。」
裏参道で話し込んでいる二十代半ばくらいの男女の手に金色の糸が巻きついていた。
「あれだ!間違いない!私、ちょっと切ってくる!」
スクルトが走り出そうとした刹那、ヴェルダンディが止めた。
「落ち着きなさい。運命の糸をそう簡単に切ってはいけません。」
「そっか。」
スクルトが押し留まった時、男女の声が静かに耳に入って来た。
「俺、高橋さんに昔ひどい事をした三鷹隆一です。しょ、小学校の時です……。あの……ごめんなさい……。」
男は弱々しく口を動かしながら前に立つ高橋さんという女性にあやまっていた。
「これはなんて運命なの……。もうあなたとは口も利きたくない!顔も見たくない!近寄らないで!いじめられてた事……思い出したくないの!」
女は男を突き放すように叫んだ。
「そ、そうですか……。当然です。引き留めてしまってごめんなさい。」
男は女と話したそうだったが女の態度を見て、無理強いはしなかった。男はそのまま背を向けると神社方面へ歩き去って行った。
「……あ……。」
女は小学校の時から会っていないほぼ初対面の男に対し、少し言い過ぎたかと戸惑った表情を男の背にぶつけていた。
金色の糸は切れる事無く、男が姿を消してもまだ繋がっていた。
女には金色の糸が見えていないようだった。少し落ち込んだ顔で裏参道にあるベンチに腰を下ろした。
「運命の糸からあの人達の過去が見えるわ。」
ウルズは過去を紡ぐ神でもあった。金色の糸から彼女達の過去を浮かび上がらせたようだ。
「小学生の頃、あの男の子グループにいじめられ自殺を実行。しかし、未遂に終わったようね。それから彼女は転校。あの男との接点はなくなったわけ。」
ウルズの言葉に続き、ヴェルダンディが話し出す。
「現在の感情を読み取りますと、彼は謝罪に来たのにこんなふうに突き放していいのかと迷っているようです。」
「彼はとてもいい人みたいだよー。あの女の人にひどい事したのをずっと引きずっているみたい。あの女の人にそれを気付いてほしいな。」
スクルトは少し落ち込んでいた。
「レール!」
隣にいたエビスは突然レールの名を呼んだ。
「え~?何?」
レールはきょとんとした顔をエビスに向けた。
「レール、あんた、出会いの神なんでしょ。元は猫なんでしょ?猫になってあの女の人を男に出会わせてあげなよ。」
「え~、そんなにうまくいくかな~?」
自信なさそうなレールにエビスはポンポンと肩を叩いた。
「やってみないとわかんないでしょ。ほら、人助け!」
「OK~。やってみる~。」
レールは複雑な表情を浮かべながら白い猫に変身した。
「これであんたは人に見えるようになる。」
「……にゃ~。」
猫になったレールは一声鳴くと女の元へと走って行った。レールの国では白猫を神として祭っていた。故にレールも白猫になれる。
「これでうまくいったらインタビュー受けてね。」
エビスはノルン三姉妹に微笑んだ。
「わ、わかったわ。」
ウルズはため息交じりに答えた。




