レール神緊急来日!
最終話です。
ゲームで例えるとレールはラスボスではなく、一面のボスだったのです笑。
現在、日本の神々のブームは海外から来日した神がどんな神なのか知る事である。
よくバカンスや仕事で日本に来るようなのだがほとんどの日本神はそのことを知らない。
そんな日本神達に来日した神の情報を伝える記事を書いている二神組がいた。
外交の神である蛭子神が社長を務めている天界通信本部。
その本部内でいつも頑張っている二神の内の一神、エビスはなんだか珍しく落ち込んでいた。
「え、エビちゃ~ん?どうしたの~?」
天界通信本部内の休憩室でぼうっとしているエビスに金髪の少女が心配そうな顔で尋ねた。
「ん?あ、レール……。うーん、なんだかさ、最近全然ノッてないんだよね。」
エビスは金髪の少女レールに力なく答えた。
「ノッてないって~エビちゃんいつもノリノリじゃ~ん。」
「そんな事ないって。だってさあ……パパから怒られるし、いつまでたっても一神前になれないし。私だってさあ……けっこう行ける記者なのに!あああああ!」
エビスはどこか悔しげに休憩室の机を軽く叩く。
「え、エビちゃ~ん、落ち着いてよ~。エビちゃんはまだ一回もちゃんと記事を成功させたことないじゃ~ん……。コラムとしてはうまくいってるみたいだけど~……記者としてはねぇ~。」
レールはほほ笑みながらエビスを見た。
「……あんた……けっこうグサグサ言うねぇ……。当たってるけど。」
エビスは顔を曇らせながら机にぐったりと体を預けた。
「あ~、あのね~エビちゃん、社長さんがちゃんとした記事が書けたら一神前にしてあげるって言ってたよ~。」
「なんだって!」
レールの一言にエビスはバッと勢いよく立ち上がった。エビスの目に突然光が宿った。
「だ、だから~……。」
戸惑っているレールをよそにエビスは話を勝手に進め始めた。
「よし!じゃあ、さっそく今バカンスに来ている神を……。」
「あ、あのね~エビちゃ~ん……。」
ガッツポーズをとっているエビスの横でレールが言いにくそうにもじもじとしていた。
「何?レール、そんなもじもじしちゃって。」
「う、う~ん……実はね、私、一回国に帰ろうと思っているんだ~。」
「え……?」
レールの言葉にエビスの顔が不安げに変わった。
「ど、どうして?」
「うん~。実はね~。エビちゃんと今まで海外の神の取材してて~世界の神々からちょっと私が注目を浴びててね~、ほら、私の国ってまだ名前がないでしょ~?だから名前をつけなさいって言われて~、ちょうど人間さん達も国に名前をつけようって盛り上がっているから~その命名の祭典には行きたいんだ~。他の国の人間さん達が『この国の白猫グッズがかわいい』ってSNSで投稿したからさ~有名になっちゃったみたいなんだよね~。」
レールは少し言いにくそうにつぶやいた。
「そ、そうなんだ……。よ、良かったじゃん!これで名もなき国じゃなくてちゃんと名前がある国になるんだね!」
エビスは戸惑いながら無理に顔を明るくした。
「エビちゃ~ん……色々とごめんね~。しばらくこっちに遊びに来れないの~……。」
「あ、あやまることないじゃん!い、いいじゃん。帰りなよ。だいたい、その国の神が一年以上も日本でバカンスしているってやばいんじゃないの?」
「業務は私と同じ神の白猫達にやってもらってたから~大丈夫だったけど~これから一緒に取材ができないから~……。」
「う、うん……大丈夫よ……それは……。レール、まだ日本にいるんだよね?」
「うん~。明後日には帰るけど~……ごめんね~エビちゃ~ん。急で……。」
「そ、そうなの。わ、わかった。ごめん、ちょっと席外すね。」
「エビちゃん~……。」
エビスは心配そうなレールに一言発すると動揺した頭のまま、休憩室を出ていった。
……レールが明後日からいなくなっちゃう……。レールがいなくなっちゃったら私……。
レールが帰ってしまった後の事を考えていたらなんだか無性に寂しくなった。
……レールは私の大事な友達……本当は日本にいてほしいけど……レールに行かないでなんて言えないよ!言えないじゃん!幸せそうじゃん!レール!
エビスは寂しさと喪失感に襲われ、大人げなく涙を流した。
「うう……さみしぃよぉ……。」
エビスはなぜだか無性に走りたくなり泣きながら走り出した。傍から見るとかなりの変神である。エビスはそのまま働く神々を避けて天界通信本部社長兼エビスの父親の蛭子の部屋にアタックした。
「うわーん!」
「うわあっ!え、エビス!」
部屋でのんびり緑茶を飲んでいた蛭子はエビスの突然の登場に驚き、お茶をこぼしてしまった。
「レールが……レールが……さみしいぃ……。」
「す、ストレートだな……エビス。」
蛭子はこぼしてしまった緑茶をフキンで拭きながらエビスを困惑した顔で見つめた。
「……レールがいなくなっちゃったら私、どうしたらいいの?」
そこでエビスはまた、自分の不甲斐なさに気が付いた。
……そうだ……。私はレールがいないと何もできない……。
……一神じゃ何もできない……。
それを思った時、先程よりもさらに感情が爆発した。無意識に蛭子にしがみつき、ぐずぐずワンワン泣き始めた。
「え、エビス?どうした?」
「私じゃ何もできない……。私一神じゃあ何もできない……。一神前なんてはなから無理だったんだ……。私は何もできなかったんだ!うう……。」
「エビス……。」
蛭子は自分にすがって泣く娘を優しく抱いた。
「だって……そうじゃん。パパだってそう思ったから私を一神前にしてくれなかったんでしょ?」
「エビス、それは違う。お前が勝手な行動をいつもとるからだ。それとできる事以上の事をやろうとするからパパは認めなかったんだよ。お前が一神で何もできないなんて言っているのではない。」
「でも、パパの言うできる範囲って掃除でしょ!」
「掃除も立派な仕事だよ。エビス。」
「私は記者だよ!」
エビスと蛭子は言い合いを始めた。ああ言えばこう言う親子である。
「……じゃあ、わかった。エビス一神でできる範囲の取材をしてきなさい。その記事が良ければ一神前にしてやる。」
「ほんと!よし!」
蛭子の言葉でエビスは急に元気になると颯爽と社長室を後にした。
「あー……エビス……まだパパは言いたい事が……。」
蛭子が何か言いかけた時にはもうすでにエビスはその場にいなかった。
「……まったく……女の子は難しいというが……あの子は単純すぎる……。」
蛭子はため息をつくと静かに障子戸を閉め、新しいお茶を急須で入れ始めた。




