運命神ノルン緊急来日!
このお話しだけもう一つの短編小説、「小さな世界の小さな神話、6話目」とリンクした小説となっています。よろしければそちらもどうぞ!
日本の神々は世界の神々についても知りたがり。世界の神々も日本にはよく遊びに来ると言う。しかし、お忍びで来たり、バカンスできたりなどなのでほとんどがいつ来たのか知られずにいる。
日本に住む神々に向けての情報誌、天界通信ではその緊急来日の記事を書くため、ある二神組が動いていた。
黒い長い髪にキリッとした瞳、頭に緑の布のようなものを被っている女性、蛭子神、エビスはパソコンに向かい、天気を調べていた。
「……えー、本日の天気は晴れ。レール!スケジュールは!」
黒髪の女性、エビスはとなりでスケジュール帳片手に唸っている金髪の女性を仰いだ。
「エビちゃん……ノルン三姉妹がまた場所を移動したよ~。」
金髪の外国神、レールはスケジュール帳に目を落としながらエビスに答えた。
「マジ?晴れてるからあっちこっち観光に行くなあ……。次の予想地点はどこ?」
「次の予想地点は七夕祭り……今の場所から近い、海の近くの神社付近で行われる祭りに参加する様子だね~。」
レールはどこかの国で出会いの神としてあがめられている名もない神である。
レールが持っているスケジュール帳はレールが念じる事で会いたい者の先回りができると言う能力をもっていた。今のターゲットはお忍び来日している運命神ノルン三姉妹だった。
ちなみに黒髪の女性、エビスは新しい文化は海から来るとの事で来訪神として祭られていた蛭子神の係累であった。エビスとレールは仕事仲間で大人気である『天界通信』の〈ようこそ!外国神!〉という部分の記事を担当していた。
高天原の四大勢力を担う神々にも読まれる天界通信に失敗という文字はなかった。故にエビスもレールも真剣に取り組んでいた。
「予想ハズレないね?じゃあ、先回りするか!」
エビスは着物を正すと元気よく立ち上がった。ここは高天原南にある天界通信本部である。造りは和風だがパソコンなどの機器は最新であった。
「エビちゃん、これは予想だからね~?間違えたらごめんね~。」
「ちょっと……しっかりしてよ……。」
エビスはレールの言葉にため息をついた。レールは女子の学生服のような格好で短くしたスカートを揺らしながらエビスに微笑んだ。
「日本の学生服ってかわいいね~。気に入ったから買っちゃったよ~。」
「このノリ……。なんか一歩抜けてて脱力するんだわ……。現世で取材終わったら遊びに行こうね?それでいい?おーけぇ?」
「OK!OK~!」
エビスとレールはノルン三姉妹を追うべく、和風の部屋から出て行った。
二神は神々の使いである鶴を呼び、五羽の鶴が引いている駕籠に乗り込んだ。鶴はエビスとレールを乗せると元気よく空へ舞いあがった。
「ふぃ~、なんか日本もいいね~。仕事は忙しいけどなんだか頑張ってるって感じするし~。まあ、単体の仕事が終わったら自国に戻るけど~。」
レールは優雅に空を飛ぶ駕籠の中でエビスにのほほんとした顔を向けた。
「皆勘違いしてるかもだけど、私、エビスは七福神だけど唯一の日本神なのよ。インド神でも中国神でもないの。海外だと高天原は天界で神の使いは天使のとこもあるんでしょ。」
エビスはふふんと軽く笑うと駕籠についている窓から外を眺めた。
「そうそう~。まあ、場所によるけどね~。エビちゃんは高天原と他の天界を繋ぐ迎える神、来訪神なんでしょ~?仕事大変なのに天界通信なんてよくやってられるね~。」
レールはニコリと微笑み、持参したチョコレートバーをかじる。
「まあ、外交をやっているから誰が日本に来たかわかるんだけどね。って、あんた、仕事中にチョコバーなんてかじってんじゃないよ!」
エビスは腕と足を組むと不機嫌そうにため息をついた。
「おいしいよ~?食べる~?日本のはあんまり甘くないんだね~。まあ、これもありかな~。」
レールはチョコレートバーを全部口入れ、おいしそうに咀嚼した。
「食べる?って聞いておいて全部食べやがった……。」
「あ、ごめん~。思わず食べちゃったよ~。」
「……はあ……。」
レールのきょとんとした顔にエビスは再び深いため息をついた。駕籠は高天原の身分証明、認証ゲートを通り過ぎ、現世へとたどり着いた。
夏の太陽がキラキラと輝く海辺でレールとエビスは駕籠から降りた。
「いやー、去年はこの辺かなり暑かったけど、今年は涼しいんだね。眼前に輝く海!きもちぃ!」
エビスは目の前に広がる海に大きく伸びをした。ここは海が近くにある田舎町。この周辺で今日は七夕祭りが開催されていた。午後の八時には花火が上がるようだ。
この浜辺で行うようで人々の陣取りがもうすでに始まっていた。
「もう場所取りしてるの~?はやいね~。」
レールはクスクス笑いながら人々を避けて歩き出す。エビスも後に続いた。彼女達は人間には見えない神だ。中には人間の目に映る神もいるようだがその神々は人間のフリをして人々の世界に紛れ込んでいる様子だ。
「ここの近くにある神社は天導神、運命神が住んでいる神社みたいだね。だからノルン三姉妹が来たのか?」
「ん~……たまたまみたいだね~。」
エビスとレールは砂浜から道路への石段を登り、とりあえず運命神の神社を目指し歩き出した。
「階段長っ……。」
エビスは神社への階段を登りながらぼやいた。
「あ~かき氷~。食べたいけど買えないし~。」
レールは残念そうな顔をしながら目の前の鳥居を一礼してから潜った。
「で……ノルン姉妹はいそう?」
「……わからない~。」
「ちょっとしっかりしてよー。」
エビスがきょろきょろとあたりを見回す。神社内は沢山の人が列をなしておみくじを引いていた。ここの神社のおみくじは良い事も悪い事も容赦なく当たると評判の神社でひそかに人気を集めていた。
「繁盛しすぎて全然見つかんない……。ん?」
エビスは神社内の社付近で三神の神を見つけた。
「エビちゃん~?ノルン三姉妹見つけたの~?」
レールに問われ、エビスは首を横に振った。
「あ……いや、ここの祭神と分校裏に住んでいる稲荷神と地味ななんかの神がなんだか楽しそうに話してただけ。神の運勢も当たるの?ここの神社は……。」
「後で並んでみる~?」
「それよりノルン姉妹を探してよ!」
呑気なレールにエビスは慌てて言葉を発した。
「はいは~い。」
レールは呑気に声を上げるとスケジュール帳をパラパラと開いた。
「やっぱりここにいるみたい~。あっ!」
レールは声を上げ、エビスの腕を突いた。
「え?」
エビスはレールが指差す方向に目を向けた。エビスの瞳に三神の女神が映った。三神ともどこかの絵画から出てきたような女神だった。見た目は可愛らしい少女達だ。女神達は談笑しながらこちらに向かってきていた。
「日本のお祭りも賑やかだねー。紡いじゃっているね!」
などの声が聞こえてくる。
「レール!取材チャンスだよ!」
「お、OK!」
エビスとレールはメモと鉛筆片手に女神達に近寄った。