ラクシュミー神緊急来日!2
「あはははっ~。こら~だって~。今時、あんなアニメみたいな叫び声出す神いる~?おもしろいよね~社長さん。」
現世に降り立ったレールは最後に聞いた蛭子の言葉にツボっていた。
「こら!いつまで笑ってんの!仕事!」
エビスの発言にレールはまたまた笑い出した。
「はははは!エビちゃんまで『こらッ』って……社長さんと同じ事言ってる~。」
「もういいからさ、何の神が来ているか教えてよ。」
エビスとレールがいる場所は川沿いのきれいな桜並木の道だった。小さな川を挟むように桜のアーチがどこまでも続いている。桜の花は満開でピンク色の花はとても可愛らしい。風に揺れて落ちる花びらもとても美しかった。
「はいはい~。えっとね~……。」
レールは持っていたスケジュール帳を開く。レールがスケジュール帳を開いた刹那、何も書いていなかったページに突然、スケジュールが書き込まれ始めた。
レールは名もなき国の出会いの神で彼女にかかればどんな神にも出会えるという。
特殊技としてスケジュール帳を開くと会いたい神のスケジュールが過去未来問わず書きこまれる。つまり、待ち伏せができるわけである。
「今、来日しているのが……ラクシュミー神だね~。」
「また難しい名前の神だね。で?どこにいるわけ?」
「なんだかラッキーだけど~この道にいるらしいよ~。」
レールは桜の並木道を指差した。
「ほんと!?行くしかないじゃない!」
エビスはさっそくラクシュミー神を探し始めた。今日は平日だというのにかなりのお花見客がいた。すべて人間の花見客なのでエビス達は彼らの視界には映らない。
「エビちゃん~?けっこう近いところにいるみたいなんだけど~。」
レールもエビスと共に辺りを見回す。
「あっ!」
ふとエビスが声を上げた。
レールもエビスが見ている方向に目を向けた。
お花見客に交じって談笑している二神の女神を見つけた。二神は小さな川をまたぐ橋の上にいた。橋からはベストな状態の桜が川を挟む感じでアーチ状に連なっている所が見える。
「ああ~あの神に間違いないね~。もう一神はわからないけど~。」
黒髪に派手な装飾品、金色の王冠のような帽子をかぶっている女神とその隣に薄ピンクの可愛らしい着物を着た女神がいた。レールは派手な装飾品をつけている神の方をラクシュミー神だと言った。
「ていうか、なんであの神達は花に乗ってるわけ?」
二神は驚くべきことに蓮の花に乗って浮いていた。
「ラクシュミー神は蓮の花に乗れるんだって~。」
「ラクシュミーさんって花に乗れるの!すごいね!ていうか、もう一神の……ピンクの着物の方は木花咲夜姫神じゃないの!あの桜神とラクシュミーさんって知り合いなわけ?」
エビスは楽しそうに談笑している女神達を不思議そうに見つめていた。
「とりあえず~いく~?」
「よし!疑問は聞けばいいのよ!」
レールの問いかけにエビスは気合を入れ、橋に近づいていった。
だんだんと女神達の上品な会話が聞こえてきた。
「咲夜さん、ここの桜はおきれいですわね。お花も可愛らしい。」
「あら、ラクシュミーさん、この蓮の花も鮮やかでおきれいですことよ。ほほ。」
二神の上品な会話を聞きながらエビスは突撃するタイミングを計っていた。
「咲夜さん……桜は儚いですわね……。もう風に吹かれて散ってしまっていますわ。」
「ええ。この儚さがわたくしの形ですわ。」
「日本の神らしくてとても美しいですわ……。」
「ラクシュミーさんもとてもお美しいですわ。今度はわたくしが遊びに行きますわね。」
二神の会話に耳を傾けつつ、エビスは二神をじっくり観察した。
「むぐっ……。」
「え、エビちゃ~ん?」
エビスはがっくりとうなだれていた。レールは突然落ち込んでしまったエビスを心配そうに見つめた。
「う……美しすぎる……。」
「え~?」
「美しすぎんのよ!私なんて……私なんてっ!」
なんだかわからないが今度は怒りだした。
「え、エビちゃ~ん……エビちゃんも十分かわいいよ~?」
「かわいいじゃないの!あの神達は美しいの!わかる?美しすぎるの!」
レールの言葉にエビスは今度は泣き出した。
「え、エビちゃ~ん……。」
レールが困っていると蓮の花に乗っていた女神達がこちらに気が付いた。
「あら?どうしましたの?迷子かしら?」
蓮の花から上品に降りたラクシュミー神がレールとエビスの元までやってきた。
その後を木花咲夜姫神がついていく。
「ま、迷子じゃないわよ!あんた達が美しすぎて……じゃなくて!……こほん。私達は天界通信本部の者で現在、日本にいらっしゃった海外の神々についての取材をしております。ラクシュミーさん、取材をさせていただきます。」
エビスはグイッと涙を拭うと突然お仕事モードに入った。
レールはエビスの変わりように驚いたが慌ててメモを取り出す。
「あ、あら……取材でしたの?いいですわよ。何を話せばよろしくて?」
ラクシュミー神は美しすぎる笑みをエビスに向けた。
「……っく……。」
エビスはあまりの美しさにラクシュミー神を見る事ができなかった。
……ダメだわ!これでは私、違う事を質問しそうだ!
エビスはタジタジになりながら何を質問するか考えた。
「えっと……あの……その……。」
「エビちゃ~ん?だいじょ~ぶ?」
見かねたレールがエビスを優しく揺すった。しばらく下を向いていたエビスは突然バッと顔を上げた。
その目には謎の炎が燃え上がっていた。
「う、美しさの秘訣を!美貌を保つための秘訣を!コツとか!そういうのを!しぐさとか!それからエクササイズとか何をしているのかとか後は……」
エビスは鼻息荒くラクシュミー神に詰め寄る。
「え、エビちゃ~ん……取材の内容がおかしいよ~……。」
レールが慌てて止めるがエビスの目は本気だった。
「あ、あの……落ち着いてくださるかしら……?せっかくのお顔が台無しですわよ?わかりましたわ。参考になるかわかりませんけど……。あ、咲夜さんもお答えしてあげて。」
「わたくしも参考になるかどうかわかりませんが……。」
ラクシュミー神は木花咲夜姫神に目を向けるとお互いにほほ笑んだ。
しばらく話を聞いていたエビスはムクムクと美容と健康についての知識を女神達から吸収していた。
「まあ、これくらいでしょう。他、何かやってらっしゃる?」
ラクシュミー神は木花咲夜姫神に目を向ける。
「いえ……わたくしもこれといった特別な事は行っておりませんので。とりあえず適度な運動と睡眠……それくらいかしら?」
「ふむふむ。適度な運動、それから睡眠……太陽の光を浴びる……きれいなお水を飲む……きれいなものをみる……。」
エビスは黙々と取材内容を頭に叩き込む。レールは仕方なくそれをメモした。
「では、わたくし達は全世界桜巡りツアーの最中ですので……この辺で。取材頑張ってくださいね。行きましょう。咲夜さん。」
「そうですわね。」
ラクシュミー神と木花咲夜姫神はエビスとレールに上品に手を振ると蓮の花に乗り、飛んで行ってしまった。
「よっしゃ!これで私も美神の仲間入り……って……あれ?取材は……。」
「エビちゃん~……ラクシュミーさん行っちゃったよ~……。」
「こ、こんなはずじゃなかったのに!」
レールの呆れ声にエビスは無様に膝をついた。
「あ、そうだ!桜巡り中ならまたレールのスケジュール帳で……。」
エビスは再び元気を取り戻し、レールに情熱のまなざしを向ける。
「あ~……残念だけど~全世界桜巡りツアーをやっているみたいだから……今はイギリスにいるみたい~……。イギリスも今、桜見ごろなんだって~。」
「い……いぎ……。」
エビスは再び膝をついた。その背中をレールがそっと撫でる。
「エビちゃん~元気出して~。」
「もう、こうなったら美容の記事で攻めるわ!」
「エビちゃ~ん、ダメだよ~。『ようこそ!外国神!』のタイトルと内容的な問題が~……。」
「大丈夫!いこっ!」
戸惑っているレールの手を引き、エビスはどこか満足そうに走り出した。
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その後の天界通信、エビスとレールが担当している『ようこそ!外国神!』の欄には……
『美容と健康はとても大事です。今日は美しくなれる方法をお教えいたしましょう!まずは適度な運動、それから睡眠。
ここまでは人間。そして人間とは違う神故の美容方法は太陽の光を浴びる、きれいな御水を飲む、それからきれいなものを見る事だそうです!今は桜が見ごろです。美しいものを見に行きましょう!
……取材協力……ラクシュミー神、木花咲夜姫神。』
とタイトルとはまったく関係のない事が記事になっていたという。
記事は関係のない事ばかりだったが、前々からさりげなくすごい神々の名前が書いてあると日本神達から評判が高く、このコラムもかなり読まれたようであった。
喜ばしい事ではあったがエビスはこの記事を書いた後、たっぷりパパのお仕置きを受けたという。