ラクシュミー神緊急来日!1
日本の神々は世界の神々についても知りたがり。世界の神々も日本にはよく遊びに来ると言う。しかし、お忍びで来たり、バカンスできたりなどなのでほとんどがいつ来たのか知られずにいる。
日本に住む神々に向けての情報誌、天界通信では遊びに来た神を取材するというコラムが人気だった。
これはその記事を書く二神のどうでもいい奮闘記。
「あー……もうやだわー。掃いても掃いても降ってくる!」
黒髪に緑の布を被った赤い着物の少女、エビスは箒を片手にうんざりしていた。
今は桜の季節。ぽかぽか陽気で眠くなるか花見で騒ぐかの二択な季節である。
ここは天界通信本部の庭。幻想的な桜が沢山連なるとてもきれいな御庭であった。
そんなきれいな風景に似合わない不機嫌な顔でエビスは地面に落ちた花びらを箒で掃除していた。
「エビちゃーん。なんできれいな桜が咲いている時にそんなジメッとした顔してるの~?」
近くに椅子を出してのんびりとお花見をしている金髪の少女レールはほほ笑みながらエビスを見ていた。
「あんたね、そんなとこで椅子なんて出してお茶飲んでる場合じゃないんだよ!あーっ!もうめんどくさい!掃除なんてやめた!」
地面に絶えず落ちてくる花びらを恨めしそうに見つめたエビスは箒をその場に捨てた。
「じゃあ、エビちゃんもお花見する~?」
「お花見はしたいけどさ、それどころじゃないでしょ!ほら!私のアンテナだと今、どっかの神が日本に来てる!」
のんびりしているレールとは反対にエビスは鼻息荒くレールに詰め寄った。
「エビちゃーん……また勝手に動いたら社長に叱られちゃうよ~?」
「ああ……こないだの落ち葉掃除をほったらかしにした時の事?ああ、あんなの記者がやる事じゃないじゃん。放っておいても土に戻んのにさ。」
こないだといっても去年の十月あたりの事である。エビスは今のように落ち葉を掃かされていたが途中放棄し、勝手に現世に行ってテンションの高いデメテル神を取材したのだった。もちろん、あの後、エビスは社長からものすごく怒られた。
レールはバカンスで日本を訪れており、ただエビスの仕事を手伝っているだけだったため、怒られたのはエビスだけだった。
「あの時の社長さん怖かったね~。」
「まったく、いつまでも子供扱いするんだから。『勝手にいなくなるな!皆探したんだぞっ!』ってさ。……っていうか、もう!パパの話はいいよ!」
エビスは頬を膨らませながらレールを睨んだ。
レールはその時の事を思い出し、お腹を抱えて笑い出した。
「ははは!え、エビ……エビちゃんったら~正座させられて~ごめんなさい。もうしませんって~はははは!」
「ちょ、ちょっとレール!そういう話、デカい声で言わないで!恥ずかしいから!もう私のパパの話いいからっ!」
エビスは真っ赤になりながらレールの口を塞いだ。
「ごめんごめん~。今時ないな~ああいうのって思ったらなんだかおかしくて~。じゃあ、今度はちゃんと社長さんに言ってから行こう~?その方がいいよ~。」
「そ、そうね……。もうあんな恥ずかしい思いはしたくない。それから、あんな小さなコラム記事じゃなくてもっと大きな紙面で記事を書きたい。それもついでだから言いに行こうかな。あと、もういい加減に一人前になりたい!」
エビスはなんだか色々と不満があるようだった。
「ま、まあ~色々と不満はあると思うけど~とりあえず、社長に……。」
レールが最後まで言い終わる前に男の声がすぐ近くで聞こえた。
「エビス、掃除は終わったのかな?」
「ゲッ……パパ……。」
それと同時にエビスの顔が曇る。
エビスとレールの前にエビスと同じ黒い髪を持つ若い男性が立っていた。髪は肩先まであり、スラッとした長身で青い着物を着こんでいた。
彼は日本での信仰も厚かったため、信仰が広まった時に別神として新しく生まれてしまった蛭子神の祖であった。
エビスの父親であり、この天界通信本部の社長である。
見た目は好青年だ。神々に歳はあまり関係ない。
「箒が捨てられているのだが……掃除は放棄したとみなしても良いのか?」
「う、うまい!ほ、箒と放棄ねっ!う、うまいよっ!」
エビスは青い顔で父親の蛭子にガッツポーズをした。
「エビス……お前はどうしてこう……パパとは違って元気なんだ……。」
「ぱ、パパと一緒にしないでよ。私はガンガン攻める記者なんだからね!」
エビスは引け腰になりながら父親と戦う姿勢を見せた。
「社長さ~ん、なんかエビちゃんが社長さんに言いたいことがあるんだって~。」
「レール殿……ほんとにいつもいつも我が娘が迷惑をおかけしている……。」
蛭子はレールに腰が低かった。
「それよりも~エビちゃんが何か言いたいことが~……。」
「そう!今回の取材が上手くいったら一人前にして頂戴!大きな紙面でバリバリ書きたいの!」
エビスは蛭子を睨みつけながら偉そうに胸を張った。
「……はあ……エビス……お前は一面記事が書けるほどの取材ができたことがないだろう……。パパは無理に頑張らなくてもいいと思っているよ。ゆっくりコツコツとできる事を増やしていくのがいい。わかったかい?」
蛭子は優しい声音でエビスを落ち着かせようとしていた。
しかし、エビスは予想以上に元気だった。
「大丈夫!次はパパが認める記事を書いてやるから!現世にこれから行くからね!いいでしょ!」
「エビス!パパの話をちゃんと聞きなさい!……現世にいくからって……いつもいきなり……。」
蛭子が返答に困っているとエビスがレールの手をガシっと握った。
「レール!行こう!」
「うわっ~ちょっと~エビちゃ~ん!?」
エビスはレールを引っ張り走って行ってしまった。
「あっ!おい!こらーっ!」
蛭子の叫びだけむなしく天界通信本部に響いた。