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イグ神緊急来日!2

 「あなたはイグさん~?」

 「お!知ってるやつが日本にいたか!」


 レールの問いかけに男はにんまりと笑った。ちなみにエビスは石のように固まっている。


 「やっぱりイグさん~。」


 「ああ、そうだよ。で?そこの女、なんか知らねぇが石みたいになっちゃったんだけどよ。俺、メドゥーサじゃねぇぞ……。」


 男は頭に乗っている大きな蛇を撫でながら呆れた顔をした。男は上半身裸で下は布一枚。所々に蛇をモデルにしたアクセサリーなどが付いていた。黒い長い髪も蛇のようにうねっている。


 「エビちゃん、エビちゃん。彼はクトゥルフ神話の蛇の神、イグさんだよ~。」

 「し、知ってたんならそれを早く……言いなさいよ……。」

 エビスはレールの呑気な声に震えながら答えた。


 「言おうとした時にエビちゃん走ってっちゃうんだもん~……。」

 「うう……。仕方ない!頑張って取材!私達は天界通信の者です!取材をさせてください!」


 エビスは威圧的な目でイグを睨みつけた。イグが相当怖かったらしい。

 睨みつけられたイグは逆に怯えていた。


 「……うっ……蛇睨みかよ!こええよ!取材ってなんだよ!こええよ!」

 「エビちゃ~ん、イグさん怯えちゃっているよ~……。」


 「わ、私だって怖いんだから!気を抜いたら負けるよ!」

 「そんなんじゃないと思うけどなあ~……。」

 エビスが声を裏返しながら叫び、レールはため息をついた。


 「あなたは何をしに日本へ?」

 エビスは息を荒げながらイグを睨みつける。


 「ひぃ……。に、日本に来ちゃって悪かった!すまん!許してくれ!何にも悪い事はしてねぇぞ!ちゃんと日本のルールブックも読んできた!読んできたんだ!」


 イグは完全にとぐろを巻いている状態だった。


 「ちょっと、エビちゃん~!これ取材じゃなくて尋問だよ~!ちゃんとイグさんを見てあげてよ~。こんなに縮こまっちゃってるよ~……。」


 「あ……。」

 レールに指摘され、エビスは完全に委縮しているイグを見つめた。


 「あ、あの……ごめん。本当に取材したかっただけだから。」

 エビスは何とも言えない顔であやまると頑張って笑顔を作った。


 「だから取材ってなんのだよ……。俺、何も悪い事してないって言ってんのに。」


 「あ、えっと、外国神が日本に来て何をしているのかなーみたいな感じの記事を書いているの。これはその取材で協力してほしいなあと。」

 エビスは少し柔らかく笑った。イグは少しほっとした顔でため息をついた。


 「なんだ。俺はてっきり、逮捕状とかかと思ったぜ。で?何をしてたのかって事だよな。きれいな桜が咲いていたんで冬眠中の蛇達に春だって教えてやろうかと思ってさ。まだちょっと肌寒いが桜が咲いてんだから春だろ。」


 イグの発言にエビスとレールは顔を見合わせた。きっと彼は今咲いている桜をソメイヨシノと間違えている。


 「い、イグさん、この桜はソメイヨシノじゃなくて早咲きの桜なの。寒い時期に咲く桜なんだよ。」


 「なんだって!うわ!マジかよ!」

 エビスの発言にイグは目を見開いて驚いた。


 「やっぱりソメイヨシノと間違えていたか……。」

 エビスはため息をついた。


 「桜に種類があったのかよ!やっべぇ!ここら辺一帯にいる蛇達を起こしちゃったぜ!」


 「ちょっと……蛇を起こしちゃったって……ちょっと……。」

 「あ、俺、この辺一帯の蛇達にまだ寝てていいぞって言ってくるから!」

 イグは慌てて走り出した。少し走り出した所でイグはまたエビス達の元へ戻ってきた。


 「ああ、お礼言ってなかった!ありがとな!マナー、マナーっと。あ、それとこれ、お礼にもらってくれ!お礼を渡す、これもマナー!じゃっ!」

 イグは何かをエビスの手に乗せると風のように去って行った。


 「な……早い……。」


 エビスとレールは茫然としていた。しばらくして自分達が藪の中にいる事に気が付き、さっさと戻る事にした。


 ふと地面を見ると沢山の蛇がゆっくりと動いていた。冬眠から覚めさせられたばかりで動きが鈍いらしい。


 「ふぎゃあ!」

 エビスがつぶれた声を上げた。


 「蛇ちゃん達~、まだ寝てて良いってイグさんが言ってたよ~。」

 レールは呑気な声で蛇達を見てほほ笑んだ。


 イグの名前を聞いた蛇達はまたそそくさと自分の巣穴へと戻って行った。


 「イグさんってすごいね~。日本の蛇達にも認知されているんだ~。日本人もアニメとか漫画とかで知っている一部のマニアさんもいると思うけど~、蛇さん達はイグさんの事をどこで知ったんだろ~?ねえ?エビちゃん~?」


 「もういい。もういいから出よ!早く!」

 エビスは噛みつくようにレールに言い放つと震える足で走り出した。


 「あ~エビちゃ~ん。まって~。」

 レールもエビスを追って藪を抜けた。


 「はあ……はあ……。ああ……うう……。」

 エビスは言葉にならない声を漏らしながら寒桜の幹に背中を預けた。


 「大丈夫~?エビちゃん~?」


 「あ、あんなにいるなんて知らなかった……。ウネウネウネウネ……。ひいいい!」


 エビスは頭を抱え、鳥肌をたてながら悶えた。その時、イグのお礼を右手に握っていた事に気が付いた。


 エビスは恐る恐る右手を開く。


 「いんやあああ!」

 そして盛大に悲鳴を上げた。エビスは右手に持っていたものをレールに投げた。レールは危なげに何かを捕まえた。


 「エビちゃん?大丈夫~?ん?あ、これ、蛇の抜け殻だよ~!こんなきれいに残っている抜け殻なんて珍しいね~?イグさんの頭に乗ってた蛇ちゃんのかな~?」


 抜けたレールの声にエビスは寒桜の前で縮こまった。


 「もうやだ……。もうやだ……。蛇怖い。蛇怖い……。」

 「エビちゃん~。大丈夫だよ~?行こう~?」


 「れ、レール……そ、それよりも……何かメモった?」

 エビスは呑気なレールに震えながら尋ねた。


 「メモってないけど~、ソメイヨシノと寒桜を間違えたって事を書けばいいんじゃないかな~?で、お礼にこれをもらったって~。欲しがるマニアもいるかもしれないし~、飾っておく~?」


 「……はあ……。もういい。」

 エビスはレールの発言に盛大にため息をついた。



 その後の天界通信、エビスとレールが担当している『ようこそ!外国神!』の欄には……。


 『クトゥルフ神話の蛇の神、イグ神が緊急来日!季節的にまだ早いのにも関わらず蛇達を起こしているイグ神を発見。どうやらソメイヨシノと寒桜を間違えていた様子。的確に間違いを気づかせてあげました!そしてお礼にこの……蛇の……蛇の抜け殻的な何かを……も、もらっ……いやああああ!欲しい神、いますぐ天界通信本部へ!早く本部へ!』


 と途中から記事を放棄したような内容が書いてあったという。


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