イグ神緊急来日!
本編とは関係のない短編です。
のんびり進んでいきます笑。
日本の神々は世界の神々について小さい事でも興味津々。世界の神々も日本にはよく遊びに来ると言う。しかし、お忍びで来たり、バカンスできたりなどなのでほとんどがいつ来たのか知られずにいる。
日本に住む神々に向けての情報誌『天界通信』内部の外国神の記事を書いている蛭子神、エビスは黒い長い髪をなびかせながら寒さで縮こまっていた。
現在は二月の下旬でまだまだ寒い。もう春がきてもおかしくはないのだが未だに雪が降っている。
「あー、さっぶ!」
エビスは温かい緑茶を飲みながらため息をついた。エビスがいる場所は天界通信本部の休憩室である。畳に長机が置いてあるだけの質素な休憩室だ。障子戸を開け、空を見上げるとどんよりとした空から雪が舞いながら落ちていた。
「エビちゃん~寒いね~。もう三月近いのに雪降っているよ~……。」
エビスの横にいた金髪の外国神、レールは背中を丸めながら緑茶が入っているゆのみで手を温めている。
「こんな日に外に出たくないんだけど仕事しなきゃだから、レール、誰か日本に来てないの?」
エビスがくしゃみをしながらレールに尋ねた。レールは持っているスケジュール帳を開き、眺めた。すると、今日本に来ている外国神の行動がぼんやりと浮かび上がってきた。
レールは名も知らぬ国で出会いの神をやっている。レールの持っているスケジュール帳はレールが念じると会いたい者の行動が見えるのであった。
「ん~……今はイグさんが来ているみたいだよ~。今は梅と寒桜のコラボレーションしている観光地をウロウロしているね~。」
「イグ?初耳だね。じゃ、とりあえずいこっか!」
レールの言葉に急に取材魂が沸き上がってきたエビスはレールの手を掴むとさっさと歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ~エビちゃ~ん……。」
レールはエビスに無理やり引っ張られ、連れていかれた。
エビスとレールは高天原から現世へと降り立った。ここは梅と桜が同時に見れるかもと言われている大人気の観光名所。
山の中なので人間は山道を二時間近く歩いてここまで来なくてはならない。だが、エビスとレールは神々の使い鶴を使い、ここまで飛んできてしまった。達成感も疲労感もなく寒桜を眺める事となった。
「あ~梅はもう散っちゃってるね~。」
レールは満開に咲き誇っている寒桜の横にある梅を見ていた。梅はもう花は残っておらず、枝木しか残されていなかった。その反面、寒桜は満開だった。
「寒桜はきれいに咲いてるね。梅は残念だったけどさ。って、そんな事を言っている場合じゃなくて!」
エビスはビシッとレールに言い放った。
「は~い。わかってるってば~。そこの雑木林の中にいるよ~。」
レールは人が踏み入れられそうにない藪の中を指差した。
「……はあ?なんでこんな藪の中にいるの?寒桜見に来たんじゃないの?」
「そんな事知らないよ~。でもその中にいるんだも~ん。」
「……っち。仕方ない……。入るか。蛇が出てきそうで怖いんだよね……。こういうとこ。」
エビスは怯えた顔をレールに向けるとため息をついて藪の中へと入って行った
。
「え、エビちゃん~……。蛇が苦手なの~?あの~イグさんは……。」
レールは何かを言いかけたがエビスが藪の中へと消えて行ってしまったため、慌てて追いかけた。
間髪を入れず、エビスの悲鳴が上がった。
「エビちゃ~ん!」
レールは藪をかき分けてエビスに追いついた。エビスは涙目で固まっていた。
「エビちゃん~、あのね~……。」
レールがエビスに声をかけようとしたその時、前から男の声が聞こえた。
「来るなり悲鳴とは……なんだよ?あんたら。」
男は不機嫌そうに声を上げた。