それがたとえ何度裏切られようと
「戦いに勝つことよりも何よりも...人としての心は失っちゃいけなかった。」
確かに魔族は人を殺め、町を破壊し、蛮行の限りを尽くした。
返り討ちにあい、全滅させられ、凄惨な最期を遂げたとしても誰からも気にも留められないだろう。恐らく僕たちが行ったことは紛れもなく『正義』にあたる行為ではあるはずだ。
しかしそれは『人道』として本当に正しい行為だったのだろうか?
「僕達にあって奴等には無かったもの、それは情けの心だった。」
人は他人に『情け』をかけることが出来る。
それが人間と魔族とを分ける一種の境界線でもあった。
しかし、今回僕達が犯したことは大方、人の為すものではない。
「奴等は『赦し』を乞うていた。だけど僕達はそれを聞き入れず、怒りのままに奴等を斬った。」
本来ならば多くの人を殺めた魔族が赦しを乞うたところで何の意味も持たないだろう。しかしこの時の僕は、前に一匹の魔族が言った言葉が頭にこびり付いていた。
「忘れるな、貴様等が犯した罪を。」
そもそもの話、これが僕達の言葉が理解出来ず、全く僕達と意思疎通する手段を持たない生物であったら罪悪感の欠片も感じずに斬り捨てられた。しかし魔族は違う。ディアドラの言葉を話し、僕達と意思疎通する手段を持ち合わせている。
そうなってくると奴等との戦いのし辛さも格段に上がる。
僕達を挑発し、赦しを乞い、僕達の良心に訴えかける行為をしてくる。
そうなると僕達にとっては奴等を簡単に殺すことが出来なくなり、その間に裏切られる可能性も出て非常に危険な状況に陥る。
人との会話でも同じだが、相手が本心を言っているのかはたまた虚言なのか、それを判断することは難しい。
奴等は本当に助けを求め、その見返りを用意しているのかも知れないし、その逆で今は一旦人間の側につき隙あらば寝返らん、という思考を持っているかも知れない。
「人間が一番忘れてはいけないもの、それは...『信じる』って事なんだよ。」
人間としての最も大切な気持ち、『信じる』ということ。
人は醜い。他人を欺き、財物を奪い、時には殺す。
だがそんな状況下でも人間が絶対に忘れてはいけない気持ち。
人を信じること。
「人は嘘を吐く、それと同時に人は信じることも出来るんだ。」
「確かにそうだが...今のこのような世界ではそんなものは...」
「勿論それは充分に分かってる。人をずっと信じることなんて多分一生出来ない。信じることが理想、綺麗事だってことも...だけど、僕はその綺麗事を信じてみたい。魔族にも感情があるんだ、きっと分かり合えない事はないはずなんだ。」
それがお花畑思考の理想論だということは充分に分かっているつもりだ。
これからも魔族は僕達に襲い掛かり、殺されそうになれば平気でその場凌ぎの嘘を吐くだろう。
だけど僕は魔族ともいつか分かり合える時が来ると信じたい。それが何度裏切られようと、僕はそれを信じ続けたい。
「裏切られ続けて...それでサトル、お前が殺されたら?」
「それでも僕の気持ちは変わらない。殺されたとしても、死んでもその理想は貫き通す。」
「...よく分かった。どうやら私にはお前の考えを変えるのは不可能なようだ。...諦めるよ。」
「ごめんミルドレッド、僕が死ぬまでの間でいい、僕の自己中心的な理想に付き合ってくれ。」
「お前がそう言うなら...私はお前の供だ。それ以上は口を出さんよ。」
「ありがとう、感謝するよ。」
ようやくミルドレッドの理解を得られたみたいだ。...理解というより僕を説得することは不可能だと感じた諦め、かな...。
「あっ!!見つけましたよ!!サトルさーん!!ミルドレッドさーん!!」
「おっ、アリスちゃんだ!ミルドレッド...これからも宜しく。」
「あぁ、お前がくたばるまでついていてやるさ。」
血みどろの戦いの中にようやく束の間の平和がやってきた。
どうも皆様、作者です。
今回は僕の持論を反映してしまいました。
おかげで話の趣旨が掴めなくなってしまった訳なんですけれど。
何を書きたかったかというとサトル君の戦いはこれから『例え敵でも救える命は救う』というものにシフトしていく、ということでした。
それと、今回のサブタイのたとえ何度裏切られようと...というのは僕の好きなとある特撮の有名な一節から使わせて頂きました。分かる方には分かるかと...
6月中旬に差し掛かりましたが、もう真夏日が出る程になるとは...来月以降どうなってしまうんでしょうかね?皆様体調には充分に気を遣って下さい。
それでは、今回はこの辺で失礼させて頂きます。
以上、作者でした。