殺戮の果てには何がある?
僕が鏡花水月と唱え地面に剣を突き立てると、剣から発せられた光が首都を丸ごと囲むように網を張った。
「うん、それじゃあ次の段階かな。」
僕がそう小さく呟くと、さっきまでは影も形も無かった隕石のような物体が次々と魔王軍の下へと飛来していた。
「ナ、なんダコれハ!?」
隕石状の物体は魔王軍に対する自動追尾装置でも付いているのか、しつこく魔族たちをつけ回す。
魔族も隕石状の物体が自分達にどの様な作用を引き起こすか分かっていないので、必死に逃げる。
「正体が知れないものは怖いよね...この町の人達も魔王軍に襲われた時きっとそう思ったよね。」
「サトル、さっきから一人で何を言っている?」
「あぁごめんミルドレッド、何でも無いんだ。...でも...この襲撃で死んだ人は確かにいるんだよね...」
思っていることが口に出てしまうのは昔からの癖だ。
「あぁ、現在分かっている時点では数百人規模だが...恐らく増えるだろうな。」
「この町の人は魔王軍に対して何をした訳でも無いのにな...」
「そういうものさ。何も悪さをしていなくてもそんなの敵からしたら関係ない。敵対する国の国民だから殺す、そんなことは言わなくても誰でも分かることさ。」
本当に...世界は不条理だ。
「例えどんなに相手の方が悪くても、相手が勝ったらこっちが悪いって事にされるしね。」
僕が元いた世界もそうだった。
後からよくよく確かめてみれば悪いのは戦勝国だった戦争、しかし勝てば官軍負ければ賊軍、負けたら戦勝国から領土、資源、知識、あらゆるものを貪られる。
僕が元いた国は敗戦から何十年と経っているのにも関わらず、未だに戦勝国に、そして当時『植民地』にした近隣諸国に謝り続けている。
「結局の所...真実なんて意味無いんだよね。大切なのは勝てるかどうか。」
だからこの戦いは...勝たせて貰う。
「ぐゴォア!!」
悲鳴が聞こえた。先程の町の人々の悲鳴ではなく、魔族の悲鳴だ。
「ガぁアっ!!!!」
隕石状の物体に身体を貫かれ、次々と死んでいく魔族。
「退きャクだ!!ヒけ!!」
「駄メだ!!町カら出ラレなイ!!」
撤退しようとするも、先程の光の壁に阻まれ撤退出来ない魔王軍。
「お生憎様、お前等に逃げ場なんて物は与えられて無いんだよ。」
魔王軍が撤退しようとしている。壁に阻まれ撤退出来ない。
その内に隕石状の物体は魔族の下へと到達し、その身体を貫く。
次々と死に逝く魔王軍の面々、その中の一匹が此方に命乞いをしてきた。
「頼ム...助けテクれ...」
僕はただ一言、こう返した。
「ごめんね、人殺しを助けるほど僕は優しくないんだ。」
それだけ言って敵の首を斬った。
それから数十分は一方的な殺戮の場であった。
町に襲撃してきた最後の魔族が倒れたとき、僕とミルドレッドの身体は魔族の返り血で真っ黒に染まっていた。命乞いをしてきた魔族達を全て殺したのだ。
「...ねぇミルドレッド。」
沈黙が続いた空気を僕が破った。
「...どうした?」
「これで...良かったんだよね。」
「あぁ、先に仕掛けてきたのは奴等だ。此方には何の非もない。」
「でもミルドレッド。僕達この戦いで一番の間違いを犯しちゃったみたいなんだよね。」
そう、僕達はこの戦いで過ちを犯した。
「?...もっと早くに町の人を救うことが出来た事か?」
「そんなんじゃなくてさ、もっと単純でもっと大事な事。」
「もっと大事な事...?」
勝つことよりも、早くから町の人を救うよりも、何より一番大事な事...
「人間の心を失っていた事だよ。」
どうも皆様、作者です。
早速ですが、本編では触れなかった鏡花水月の能力についてご説明致します。
単刀直入に言うと、あれはサトル君と魔族達にしか見えない幻です。実はミルドレッドはあの現象を見ていません。対象にしか見えない幻で、相手に対しては実際に目に見える通りの作用をするというチート技です。簡単な説明でした。
今回は個人的な考えが多く盛り込まれてしまった回で、書いたことを若干後悔しています。
サトル君たちにとってこれからの勇者としての戦いの原点にあたる戦いという位置付けにしています。
それでは、今回はこの辺で失礼させて頂きます。
以上、作者でした。