表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

石鎚山の主

 三郎佐、藤左、赤子の三人連れが夢の中の住人となっていた亥の刻、どこからともなく、ばさ、ばさ、ばさ、と鳥の羽ばたき声が聞こえてきた。

羽ばたき声の主は洞穴の入り口に近づき、二人の男と赤子の姿を認めると急激に表情を曇らせた。


(なんと先客がおったか。いつもの穴でひと寝入りするかとも思うたが、珍しきことよ。罪人が逃げてきたとみえるが、このような山奥までご苦労なことだ。しかし、罪人と言えどもやたらと人を傷つけるのはわしの流儀には合わぬし、今日のところは人どもに譲ってやるとするか。まことに残念なことだが・・・、んんっ、臭う、臭うぞっ。この臭いは何であったか、むむ、わしとしたことが思い出せぬ。いかぬ、しばらく中土におったせいで鼻がおかしくなっておるのか。ふんっ、まあ良いわ、お楽しみは先に取っておいて、ここはお山に帰るとするか。)


再び、ばさ、ばさ、ばさ、と鳥の羽ばたき声が聞こえたが、すぐにその声は遠くなっていった。

羽ばたき声の主は、まばたきをするほどの間に面河村の上空に達していたが、なにやらぶつぶつと独り言をもらしていた。


「久しぶりに洞穴の感触を味わおうとしておったのに、あの人どもめらが。わしの楽しみを何だと心得ておるのだ。ふんっ、まあ良いわ、今夜は笹ヶ峰まで駆けて、あそこの狐どもと遊ぶとするか。夜が明けるまで大騒ぎすれば、わしの機嫌も直っておるだろうよ。んんっ、きつねっ、きつねとな。そうか狐か、わっはっはっは、そうか狐か、狐であったか。わしの鼻はそうでなくてはならん。わしの鼻はそうでなくてはならん。わっはっはっはっは。」


羽ばたき声の主は、狐と大騒ぎするまでもなく機嫌が直ったと見え、北の方角に方向を変えると夜の闇の中に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ