恐怖の救出隊
二人が現れた瞬間にマミとリオは目配せをした。
直後。
マミはハースキンマーガルシキへとリオによって放り投げられ、マミはそのままハースキンを蹴飛ばしながら同時に建物のしたへと落下し、更にマミはハースキンを放り投げてヘッツリバルバルスキと距離を取った。
力には力を、技には技を。
そう言った意味での分散だった。
しかし敵は基本的に実力的に上位であるCクラスだ。
勝てるか――勝てないか。
そんな事考えるまでもないだろう。
だが。
「やるしかない――そういうことね」
そう言ってリオは拳を軽く握って構えた。
焼きつけばかも知れない。
でも、この力のある拳を活かすにはダガーじゃないほうが良い。
「さぁこいナンバー・ワン。あんたを倒してジョセを助ける!!」
****
ゴロゴロと転がったハースキンと同時に立ち上がり、二人の目があった瞬間にマミは不敵な笑みを浮かべた。
余裕がある――のではなく、そう思わせるためのブラフ。生きるための戦略だった。これをやったからといって具体的にどうなるとかわかったものではないが、生き残れる可能性を少しでも上げるために悪あがきをしているだけだった。
「君のことは知っているよマミ・ミイ。君がDクラスに居るのに近接戦闘大会に置いて校内で一桁の成果を残しているのは記憶に新しい…その理由もうなずけるね。君はAクラスに姉がいるね、確か名前を――」
「黙れ」
「おやおやおや――さっきまでの笑顔はどこへ行ったんだい?」
はめられた、と気づいた時には既にマミは地面を蹴りあげてハースキンへと肉薄していた。
「死んでお前の首をこの拠点の中心に突き立ててやるよ!」
逆手に持ったダガーを振り上げるようにしてハースキンの首へと放つが、ハースキンの片手の剣であえなく弾かれた。
更にもう一つの剣をマミの胴体を引き裂かんと横薙ぎにするが、それはマミが剣を足場にしてジャンプすることで事なきを得た。さすがにプロの職人だけないだけあって刃は無いも同然だ。しかし鉄であるということに変わりはなく、更に追撃してくるハースキンの一撃一撃は死の危険を十分にはらんでいた。
側転しながらその攻撃を躱し、着地の後に足払いをしたが難なく躱され、フェイントを入れて攻撃してみたがそれも全て無駄。
「ちょろちょろして――っ!」
右手で雷の魔法でネットを作り、更に接近してくるハースキンをしびれさせようとしたが、ハースキンは土属性。
雷属性のしかも即席ではなった簡易魔法では痒みすら感じないだろう。
雷のネットを突破したハースキンに肩タックルをくらい、激しく吹き飛ばされたマリは転がりながら立ち上がる。
精神的優位。
既にそれはない。
だったら勝つためにはどうすればいいのか――。
そう考えて、マミは舌打ちをした。
やるしか無いのか。
あの憎ったらしい姉と同じ才能を受け継いだあの技を。
「おやおやおやお嬢さん――もうギブアップですかな?」
「ムカつく――あの技を使うことになるなんてムカつく――けど。あんたに負けるほうがもっと――ムカつく!!!」
バヅン!と。
彼女は、帯電した。
「岩をも砕く雷――見せてあげるわ」
彼女の『特定条件』――――それは、ムカついた時、だった。
「面白い――」
ハースキンがにやりと笑みを浮かべた瞬間。
地面に小さい焦げ跡を残してマミがその場から消え去った。
刹那。
「ふきっとべええええええ!!」
ハースキンの腹部でマミが拳を構えていた。
凄まじく早い移動。
音速すらも超えたその速度はもはや光速。
そのパンチがハースキンにめり込み、そして対象を粉々に打ち砕いた――が。しかし飛び散ったのは肉片でも血でもなく砂と岩石だった。
「――っ!」
同時に背後に二本の刃が襲い掛かる。
急激に反転、それを躱して振り向きざまにダガーを振り上げて応戦するが、軽く弾かれてしまう。
その後大量に切り結んだがマミの剣がハースキンに届くことはない。
速度こそ上がったものの威力は上がらず、かつハースキンは二刀だ。
漸く対等になったと言った程度の問題でしか無い。
「もう一本あれば――ッ!」
思わずそう悪態をつくと、どこからかリオの声が聞こえたような、気がした。
その方向へ目を向けてみると真っ直ぐこちらへダガーが飛んできているではないか。
さすがリオ――と思わずハースキンから目を離して飛来するダガーを取ろうとすると、マミの横っ腹にハースキンがケリを入れて吹き飛ばしてそれを妨害する。
「ダメでしょう他所をみてそんな隙を見せちゃあ――っ!」
「黙れクソガキ――ッ!」
空中で反転、地面にダガーを投げて突き刺して足場にして再び飛翔してハースキンへと向かっていく。
その両手にダガーはなく、ただの素手。
血迷ったか、とハースキンが丸腰のマミ相手に剣を振り下ろすのを迷うはずもなく、右手のブロードソードが振り下ろされた――が。その刃は何故か自由意志を持ったかのようにマミの背中を守っていた。
「なっ!?」
思わず驚いて目を見開くと、それをみたマミはニヤリと嗤う。
「ダメでしょう他所を見なきゃあ――」
ふと、その言葉で気付く。
マミの足元にあったダガーがこうも自由に動くのならば、と。
先ほど飛来して背後にあるはずのダガーは今どこにある…?
首筋になにか嫌な予感を感じて素早く振り返るが、しかしダガーは以前地面に落ちているだけだった。
何だなにもないじゃないか――とホッとした次の瞬間。
ハースキンは気絶した。
「…隙を見せていいとは言ってないけどな――――ふぅ、終わった」
バヅン、と太いゴムが切れたかのような音がして彼女の体に蓄えられていた電気が全て放電され、マミはドサリとその場に倒れこんだ。
「あ゛ー…疲れた」
見上げてみれば、先ほどの屋根の上ではリオが苦戦しているが今助けに行っても力にはなれそうにない。
頑張れリオ。
死んだら骨は拾うよ。
****
パワーVSパワー
その勝負の決着としての要因…それは簡単だ。
どちらがタフか。ただそれだけだ。
この対決においてその軍配はもちろん敵に上がっていると言っていいだろう。
既にこちらの息は上がっている。
しかし。
相手はまだ平然としたものだった。
こちらは十発ほど与えたし、受けているのもこちらは一撃のみだ。それでさえもこの差が出てくるのだ。
勝てるのか――?
そう言った疑問はどうしたって出てくるし、その答えにも自ずと気付き始めてくる。
「でも退くわけにはいかない――!」
キュ、とレザーグローブを改めてはめ直して構え直す。
「そうか」
リオが腰を落としたのをみてゆっくりと、バルバルスキも大剣を腰に担いで腰を落とす。
彼の剣の構えだ。腰を伸ばして放たれる大剣の一撃はリオが恐怖を抱くのに十二分すぎる物だった。頭からあんなものにぶつかってしまえば死ぬことは必須。限りなく戦場に近いと言われていたからなかなか死ぬことはないとは思っていたがあんなのあたってしまえば普通に死ぬ。
怖くないわけがない。
でも。
それでも。
「行きます」
タンッと屋根を蹴り、左右のフェントを入れながらバルバルスキへと接近するが、彼は大剣を放つことはなく、ただ拳をリオに叩き込んで屋根にたたきつけた。
そして一瞬怯んだところに大剣を叩き込むべく振り下ろした。
リオの頭に振り下ろされた必殺の一撃は、しかし横からのリオの拳によってぎりぎり彼女の横の屋根を叩き折るだけに終わった。
そのままリオは大剣の上に足を載せて立ち上がり、大剣を駆け上ってバルバルスキの頭を蹴り飛ばした。
大剣を手放したバルバルスキに勝機を見出したリオは更に柄の部分を足場にして飛翔し、バルバルスキの腹部の上にのって地面に思い切り叩きつけた。そのまま勢い余って転がったが、立ち上がりかけたバルバルスキの胸ぐらを掴んで振り回して地面に叩きつける。
ここで。
ここで終わらせないと次はない――っ!
拳を、足を、肘を、膝を、肩を、頭を叩き込んで最後に一撃渾身の殴打を彼の腹に叩き込んだ――――が。
「こんな物で終わりか?」
お返しの一撃はその全てを合計したものよりもはるかに重かった。
肋骨が折れたのだろうか、脇腹が激しく痛む。
ゆっくりと大剣を持ちに行くバルバルスキの姿を見ながらも何もできない。
終わってしまったのか――と。
必死に上半身だけは起こしたが、顎を蹴り上げられて更に吹きとんでもうリオには立ち上がるすべも無くなってしまった。
揺らぐ視界の中、バルバルスキがゆっくりと大剣を持ち上げるのだけが見える。
嗚呼。
ジョセは――助かっただろうか。
そんなことを思った刹那。
「どけぇ――ッ!」
振り上げた大剣に巨大な木を叩きつけた人間が居た。
人間、というよりもチェルシーしかいないのだが。
「ったく油断も隙もないわ…安心してリオ、ジョセは助けたわ。マミも敵を倒した。後はこいつだけよ」
なんとチェルシーはナンバーツー以外全員倒してかつジョセも救出したというのだ。
バケモノか。
そんなことを思いながら、バルバルスキと自分の間に立ってくれているチェルシーを見上げると、彼女は既に息も絶え絶えと言った状況なのが伺えた。それもそのはずだ。彼女は数十人もの生徒をあらかたなぎ倒し、更にジョセも救い、そしてここへ救出のために飛んできてくれたのだ。つかれていないわけが無い。
しかし彼女は一度大きく息を吸うとそんな疲れなどなかったかのように武器をてにバルバルスキへと跳びかかっていった。
大きくジャンプし、一回転の勢いをのせた棒を叩きつけたが防がれ、更に弾かれ、を繰り返してまるでチェルシーは空中を飛び回っているかのようにバルバルスキと戦闘を続けていた。たしかにあれならば打ち上げるバルバルスキが圧倒的に疲労は多い。それにかえてチェルシーは体を回転させるだけだ。
考えられている――と思いはするが体の姿勢制御に使われている風を操るための魔力がもう無いのか、疲労が色濃くでてしまっている。
あれではそう長くは持たないぞ、と思った瞬間にチェルシーは襟首を掴まれて地面にたたきつけられた。
ああ。
自分だけならいざしらず。
チェルシーも――。
私のせいで――私が、弱いから。
と。
そこでリオは意識を失った。
****
特定条件下での実力――それは希少であればあるほど発揮される力が大きい。
例えば怒るだけならばどこだってできるために比較的にあまり強くはない――が。
それが例えば命にかかわるもの…。
要するに。
瀕死だった場合はどうなるのだろうか。
ゆっくりと立ち上がるリオを見ながら、バルバルスキは息を呑んだ。
今までと何かが――いや、全てが違う目の前の人間に。
もう立てないほどのダメージがあるはずなのに何故彼女は立つのか。
何故今までよりはるかに気迫のこもった顔をしているのか――。
それよりも何よりも何故。
一撃で。
自分は膝を付いているのか。
見上げたリオの顔は戦士のものだった。
「誰だ…お前は――!」
「お前の知ってるリオ フランコムさ。今から遊んでやるから覚悟しろよ――?」
チリチリと彼女の周囲の空気が音を立ててくすぶり始めた。
そして。
バルバルスキの意識は五秒と持つことはなかった。
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ちょっと待て。
助けに来たはずが助けられてる。
っていうか青級の炎魔法連発してるんですけどあの子。
怖い。
怖すぎる。
何このパーチーバケモノしか居ないわ。
なんてふざけたことを思っているうちにリオによるバルバルスキの処刑は終了し、パタリと倒れてしまった。
慌てて彼女に駆け寄って抱き上げると、マミとジョセも同時に屋根に到達した。
「任務完了――ってところかしらね」
色々問題はあるが一応は――終わりというところだろう。
ジョセの救助は、完了した。




