とつげき!Cむら!
朝。
カガミは壁際でチェルシーの胸ぐらを掴んで壁に押し付けていた。
「なんでジョセが消えた!」
「知らないわよ!私だって外に行きたいって聞いてたから外に行かなくていいって言ってたし!あんたもそれを聞いたでしょ!」
「…くそっ!」
吐き捨てるようにそういってチェルシーの襟元から手を話して壁を殴る。
どこだ。どこへ行ったんだあいつは。
「見張りの三人はどこだ?」
睨みつけるようにチェルシーにそう尋ねると、戸口に立っていたアリーヤが答えた。
「君には会わせない…なに、僕が聞いたさ。ヤンもフレデリカもカームも見てないって言っていたよ」
「本当かよ…くそ、なんであいつ…」
怖がってここに引きこもるのならまだ分かる。しかし逃げる先もないのに逃げ出すとは一体どういうことなのか――。パニックにでも陥ったのか…?いやそれも考えにくい。じゃあなんだ?能動的な行動ではなく――――
「誘拐、とかですかね?」
ポーシャが、ひねり出すようにそう言った。きつく結んだ瞳からは嫌なものを想像している事が容易に理解できて、彼女は誘拐という二文字を口にするだけで相当なストレスを感じていることが分かる。
だがこの状況ならばその答えは限りなくYESだ。それを隠すことは出来ないし隠したところでポーシャは気付くだろう。
「恐らくな」
「その…実行犯…は…」
たどたどしく言葉を選ぶようにしているポーシャの言葉から何かを汲みとったのか、アリーヤが更に細くする。
「大きな昆虫ならさすがに見張りが気付くだろうし、足あとも残ってるはずだ。だから人間のしわざと見て良いと思う」
「そう…ですか」
さすがに学校の生徒ならばそこまで酷いことはしないだろうと思ったのか、ポーシャはほっと胸をなでおろした。
しかしアリーヤは反面、ジョセの危機はそう去っていない事に気付いた。
ここに見張りに気づかれない程度の人数で来たということはまだ虫のことを知らないか、知っても尚危機感の薄い連中ばかりだということになる。だとするならば確実に虫の餌食になるだろうし、その時逃げられないように手足の縛られているジョセはただ黙って餌になるしか無い。
「私が行くよ。私は同室だったしね。責任はあると思ってる」
どうしたものかと苦渋しているところで、チェルシーが名乗りを上げた。彼女のアリーヤに対する視線で、彼女も同様のリスクに気付いている事を察した。彼女の生存確立は時間とともにすり減っていくということを彼女も知っているのだろう。
「それだったら、私も同じ部屋だもの。行くわ」
「私もー」
続けて名乗りを上げたのはマミとリオだった。
彼女達は全員ジョセと同じ部屋だったからか責任を感じているのだろう。
「…頼む。後でダガーを持たせるからそれを武器にするといい」
「りょーかい。んじゃ早めに行くわ。私はダガーいらないわ、自分のあるから。マミ、リオ、行ける?」
「私は行けるわ」
「いけーるー」
「そう」
チェルシーは自分の枕元から自分の身長ほどもある反りのある棒を手にし、二人を連れて拠点を出て行った。
「…コラテラル・ダメージ、とは行かねーよな。あの化け物がいる以上死ぬ危険もあるんだしな」
「…ああ。厄介な話だ、全く」
「けけ、まぁ馬鹿力のリオがいるなら大丈夫だろ。並大抵の虫だったら叩き潰されるだけだぜ。もちろん、人もな」
ぶるりと体を震わせて、彼女たちを見送ったメルティがアリーヤに笑いかける。
「君、後でリオに引きちぎられるよ?」
「おおこわいこわい」
そう言って笑顔で拠点中心の広場へと差し掛かったところで――。
ふと。
目があった。
「おい――あれ」
「ああ」
――――その男が身につけていたのは、Cクラスのローブだった。
「水よ集まれ――そして射抜け――敵をッ!」
咄嗟に詠唱したが、脱兎のごとく逃げ出す生徒に追いつくはずもなく放たれた水弾は遥か上空で霧となって消えてしまった。
「クソ。あの先生みたいな無詠唱魔法が欲しい」
地面を蹴りあげながらそういうと、隣でメルティが軽い調子で返す。
「ありゃー惜しいね。これはCクラスがジョセをさらったってことで良いのかね?」
「或いはCクラスのローブを来た他のクラスか…だな。Aクラスのローブを着て紛れることは難しいだろうがCクラスのローブを着て紛れるのは簡単だろう」
「スクールカーストの現実を突きつけられた気がするぜ…するとDクラスのローブを着るのはもっと簡単ってことか」
「まぁそうなるな。まぁDクラスもCクラスもAとBに比べたら人が少ない。ちょっと記憶力のいい人間なら見分けはつくさ」
「なるほどね。まぁあそこは化け物だからな」
「それは言えてるな。とにかく今夜は大勝負になるかもしれない――メルティ、できるだけ早く出かけてできるだけ早く帰ってきてくれ」
「りょーかいだぜ」
「そのうちに僕は罠を作っておこう」
****
「やっぱり、居たわ」
拠点から少し離れたところで、先ほど拠点へ侵入した男は木の根元で座って休んでいた。
「よくわかったわね、もう一回くるって」
「…まぁ、ジョセはあんまりあの拠点のことを知らないし…多分驚いちゃって会話にもならないからもう一人さらって行こうと思うんじゃないかッて思ってたのよ」
「なるほど」
「後でジョセに謝りたくなるわ」
「あはは。で、どうするのチェルシー」
「追おうと思うんだけど」
「えー?面倒だなぁ。こういうのはさぁー」
彼女の言葉がチェルシーの耳に届いたのと同時に、彼女の金色の髪が視界の端で落下して消えていった。
直後、木の枝を伝って男のそばまでいったマミは飛び降りながら休憩している男へと思いきりダガーを突き立てた。
直前で男が躱したためにその攻撃は木の幹を削り取るだけに終わった。
「あはははははおにぃぃぃさん!ちょっと相手してよ!私今フラストレーションたまっててさぁ!」
ふらふらと体を揺らしながら接近し、変幻自在なナイフさばきで男を圧倒していく。
しかし男も仮にもCクラスといった所か、上下左右と太刀筋の読めないダガーをすれすれのところで躱し、弾いている。だがその表情に余裕は一切存在せず、ひたすらに笑いながら攻撃を仕掛けてくるマミに恐怖すら抱いていた。
彼の体の筋肉は緊張故に張り詰めていた。
そんな人間が激しい運動をしたところでいい動きが出るわけもなく。
「―――っ!」
うっかりと、隆起した木の根で足を引っ掛けて転ぶ。
その喉の動きに追随するようにナイフを横に振るい、襟首を捕まえて薄皮一枚を割いて止める。
「今から質問することに答えろ。さもなくば殺す。私達がここに来る直前に先生に連れられてやったこと、噂程度には聞いてるだろ?悪いが本気で切れるよ」
「わ、わかった!分かったから!!答えるよ!なんだよ!」
「うちのクラスのジョセ・アリアーテを拐ったのはお前のクラスか?」
「そ、そうだよ!めいれ――」
「黙れ」
言い訳しようとする男の頬をダガーの柄で男の頬を殴りつけてすぐに黙らせる。
「余計なことを喋ったら次から耳、指、目、手、足、って切り落としていくから。分かったね。次の質問だ。被害は?」
「マイナス4だ」
「理由は?」
「脱走だよ」
「次。武器状況は?」
「クラストップのヘッツリが持つ大剣がひとつと、ナンバー2のハースキンの持つ双剣だけだ」
「じゃあ最後の質問――お前たちの拠点はどこだ?」
****
「正直言うと、ビビったわ。あんたあんな事できたのね」
「奇襲はーおどろかせればーかちなのーよー」
ケラケラと笑ってそういうマミを横目で見ながら、あれは心の底から楽しんでた気がすると言いたいチェルシーだったがそんなことを言ってしまえば次は自分が拷問相手になりそうだったので控えることにした。だってリオなんか多分半分以上ガチで引いてたし。ちょっと可哀相になったわ。
「まぁなにはともあれ拠点の場所がわかったわけだけど――警戒されてるわね、さすがに」
さっきの男の帰りが遅いことに何か異変を感じたのか、見張りが増えているし何やら拠点の中心では相談事がなされているようだ。
「あれは多分私達のクラスへの派遣部隊になる…ってことかしらね」
「そうなのかな、そうだと面倒ね」
「そうー?」
「何よ、何がいいたいのよ」
「いや、どうせ拠点にはアリーヤ居るんだし派遣部隊は向かわせちゃって良いんじゃない?Cクラスのあいつに魔法売ったのアリーヤでしょ?予想付くと思うんだけど」
言われて、チェルシーは頭を少しだけ掻いた。
「あー…まぁ言われてみればそうね。どうしよ。私としては面倒くさくなく、かつジョセを救える方向で行きたい」
悩むチェルシーに助け舟を出すように、リオがあることを提案した。
「じゃあいい方法があるわ」
「え、何?何かあんたの提案って全くいい予感しないんだけど」
「まぁまぁ、聞いてよ」
そういうリオの顔はたいそう――幸せそうだったとさ。
****
「あ゛あ゛あ゛―――――――」
いい天気だなぁ、なんて思って空を見上げて。
そしてたかーいたかーい場所からちょっとだけ痛い思いをして着地をして。
見渡してみればそこは。
敵の海。
「ハロー・ハロー。いやぁびっくりしたと思うんだけど私もびっくりだぜ。裏を書かずに表から。あんたたちをブチのめしに来たよ」
刹那。
三人の男がチェルシーへと襲いかかるが、チェルシーは長い木の枝を振り回して三人の頭を殴打する。
「気が早い男の子はモテないぜ♪」
『限定条件下で軍人なみの力を発揮する』Dクラスの生徒の特徴としてこの言葉が教師間でよく使われるこれだが、チェルシーにとっての限定条件とは多数対一。つまり多くの人数の中で一人戦うことがその実力を示すことになるのだ。
それが表すとおりにすぐさまチェルシーの周囲には六体もの気絶者が現れた。
しかしCクラスもCクラスだ。一瞬で六人もの人間を気絶させたチェルシー相手にビビって逃げ出すこともなく武器の間合いを図りながら慎重に飛びかかるタイミングを測っている。
「いいねぇ、こっすいあんたたちのそういう精神嫌いじゃないよ」
そう言った次の瞬間。チェルシーははじけ飛ぶように前へ飛び込んだ。
端を持って振り下ろした木の棒はすさまじい射程距離を確保し、前方にいる男を一人なぎ倒す。同時に背後から飛びかかってきた女を蹴飛ばし、更に同時に飛びかかってきた四人を空気圧縮爆弾で吹き飛ばす。
振り下ろされた木刀を受け、弾き、更にそれを武器にして次々と敵を撃退していくそのさまはまさに棒術。
「ほらほらほらぁ!Dクラスにいいようにされていいわけ!?」
化け物。
チェルシーの本気を見た人間がそう言った感想を抱くのは大して珍しいことではなかった。
屋根の上からチェルシーの戦闘を見ていたマミとリオもまたその例外ではなく、リオに至っては自分がいつも行動を共にしている二人がここまですごい人物だと思っていなかったということで更に衝撃を受けていた。
何故あの様な細腕であの様な大きな武器を嗚呼も軽々と扱えるのか――その理由。
遠心力。
その凄まじく長い武器の特徴である重さ。
その理由は一本の木を丸々空気で圧縮しているがためとも言えるのだが、それほど重いものを扱うにはチェルシーの筋力は足らなすぎる。一撃を重くするために長点とも言えるそれは扱えてこそ初めて長点といえるものであって扱えないのならばただの棒切れでしか無い。
故に、遠心力。
基本的に動くのはチェルシーであり、木の棒はただチェルシーの背の上で回され、手で振り回されるだけだった。重さと遠心力を載せた一撃はかすっただけでも骨を砕くほどのものへとなりえた。さらに攻撃を防ぐインパクトの瞬間に魔法で少し体を浮かせれば衝撃は体を回し、その反撃としてすぐさま激しい打撃が行える。オリジナルの武器、オリジナルの戦術。もちろんこんな規格ハズレな戦闘術は後にも先にも彼女だけだ。一代限りの狂気の武術。天才とも思える戦闘の才能が彼女にそれを可能にさせた。
「うそでしょ…っ!ちょっとかすっただけなのにあんな吹き飛ぶの…っ!?」
「ありゃー…あれは喧嘩したくないわねー…」
彼女が作戦を聞いて乗った理由もうなずける。
「しかしまぁこいつらもずいぶん傷めつけられたようね、あのひげジジィに」
そう言いながら見下ろした戦場では、あれだけやられているのにビビりもせずに近接戦闘員が戦っている。
「適切な距離をわかりはじめてるし…それにあれね」
「ああ」
リオにゆびさされたところを見てみれば、戦闘の輪から逃げている人間が数人いた。
「ここまで訓練されているんじゃああれは逃げているわけではなく…」
「遠距離狙撃ね」
「いえっす」
二人が会話をしていると、案の定彼らは魔法詠唱を開始した。
「――させねぇよ」
ふと口調の変わったリオの方を見てみれば――。
石を握っていた。
次の瞬間。
投擲した。
「えっ」
私達が魔法で応戦するんじゃないのかと言いたかったが、しかし彼女の投げた石は見事に魔法兵に直撃して魔法兵は気を失ってその場に崩れ落ちた。そしてそのまま左手に握っていた石を持ち替えて投擲、続けること数発、高台に上がった魔法使いは全て撃退された。
物理最強。
それはこの世界においても真理なのかもしれない。
「こわ…」
この三人、誰も正常ではなかった。
自分が異常なことに自覚のあるマミが口の中で小さく呟く。
「なに?」
「い、いやいやなんでもないよなんでもございませんよ!!」
慌てて言葉を取り消すと、背後に大きな着地音が響いた。
「――貴様達が侵入者か?」
「全く、騒ぎを起こしてくれる――」
やってきたのは刃物持ち――。
例の、ナンバー・ワンとナンバー・ツーのヘッツリ バルバスキとハースキン マーガルシキの二人だった。
突撃シーンは大好きです。バカ三人だとなおさら好きです。やるなら隠密が好きですけど書くなら派手なのがいいですね。




