狼煙を上げる日は
これは限りなく実戦に近づけたサバイバルである――と行っていたのは誰だったか。
アルトリアは死んだ。
光る星空を見上げながらカガミは思った。
あの時。
もしあの時俺も戦っていれば――と。そう思わずには居られなかった。見捨てると言ったし、そういう行為はあいつが望んだともわかる。でもそれを押し切って全員で戦っていたのならば…。アルトリア一人で勝てたのならば全員居れば全員で生還出来たのではないのか。
そう、思わずには、いられない。
「意味ないぜ、それ」
そう言って隣に腰をおろしたのはメルティだった。
「ポーシャは大丈夫なのか?」
「…チェルシーとマミに任せてきたよ。男はお断りって事らしいぜ」
「そうか」
「…ああ、そうだぜ」
ヴァーム達の活躍によってほぼ完成間近にまでなったこの拠点の中には現在14人が生活している。
全員が意気消沈したように過ごしていた。
アルトリア、彼はあまりクラスの中心になるような人物ではなかったが、それでも彼は細かいところに気が利くために、彼のことを悪くいう人間は居なかった。それに先日の戦いでは率先してクラスメイトを守り、更に今回だ。彼の勇敢さを突きつけられて尚彼のことをなじる人間は居ないだろうし、それをする人間を許せる訳もなかった。
「あいつはさ」
何に手を付ける気も起きずに、ただ座り込んでいるカガミにメルティは笑いかけた。
「自分が死んだからといってみんなに悲しんでほしくないって思うタイプだと思うんだ」
「…だから元気になれと?」
「ああ。あいつがせっかく命を張って助けたお前がそんなんじゃあいつも浮かばれねぇよ」
「でも、俺達が居れば…確実に犠牲を出さずに倒せたんだぞ?」
「俺はそうとは思わねぇな」
「…どういう意味だよ」
むくりと、壁に体重をかけていたカガミが体を起こしてメルティを睨みつける。
その視線に物怖じもせずにメルティは真っ直ぐにカガミを見据える。
「現場、見たんだろ?思いだせよあの惨状を。接敵地点からカマキリの死体までは一直線の戦闘痕跡しかなかったんだぜ。ってことは防戦一方…或いは回避一方ってわけだ。当時…冷静な判断ができていたのは誰だ?アルトリアと…誰が居た?」
メルティの言葉がカガミの胸が突き刺さる。
あの時冷静に物事を判断出来ていた人間が果たして何人いただろうか。ジョセ、ポーシャは除外し、おそらくは自分も冷静な判断はできていなかった。ならばチェルシーは…?
「多分、チェルシーだけだぜ」
「――っ」
「チェルシーは接敵時、勝ち目はあるかもしれないと踏んだ。故に武器を抜きかけたが…お前と、ポーシャと、ジョセ。ほぼ足が動いていなかったのを見て勝算を捨てたらしい。誰かがかすり傷さえ負ってしまえば立て続けに精神が叩き折られ、ゆくゆくは全滅だろう――ってな。全く情報のない敵に無傷は不可能に等しい。それだったら冷静な人間がふた手に別れ――片方が決死で足止め――それか撃退をするのが正しいと判断したんだよ。あいつは居残りをしたかったと思っただろうが――そうは言っていなかったぜ。あいつは私は怖くて逃げたと言っていた…全くあいつには頭が上がらないぜ」
「…本当に、な」
近接戦闘において学内一位。
この肩書はカガミに自信を与えるには十分すぎた物だったが――しかしそれはルールの中だけ、更には対人に置いてのみの話だった。
だからこそまだ、例の復讐事件には対応出来ていた。しかし今回。あそこまで常識を外れたものが敵になってしまえばその自信は脆くも崩れ去っていった。
「だけどさ、カガミ。俺はアルトリアは死んだと思っちゃいないぜ」
予想外の言葉に、カガミは思わず顔を上げた。
「あいつは死んじゃいない。そう簡単にくたばる様な人間じゃない。そう、信じてるぜ」
その言葉は何の根拠もないものだと簡単に想像がついたが、しかし今のカガミにとってその言葉を心の支えにするには十分すぎる強さを持っていた。
「――今僕達にできるのは彼の生存を信じて捜索をしながらサバイバルを生き残る事だ」
気付けば、メルティの反対側にはアリーヤが立っていた。
「元気だな、お前」
「君が元気を無くしているだけだろう」
「けけ、よく言うぜお前、泣いてたくせによ」
「何の話だかわからないな」
「おお、強がっちゃうかい」
そんな、間の抜けた様な彼ら二人の会話を聞くとカガミの顔に笑みが浮かんだ。
「わり、手間かけさせたな」
彼がそういうと、メルティとアリーヤは一瞬目を合わせてから同時に答えた。
「「何の話だかわからないな」」
****
クラスの英単語はその順序によって力の差が明示されている――と言うのは常識だ。
しかしDクラスにおいてはその限りではない。
『限定条件下において一般兵士をも凌ぐ実力を持つ人間――それがDクラスの正体だ』
先日、Aクラスを担当するカーライアムからこんな言葉がもたらされた。Aクラスの面々はその言葉に反抗すること無くすんなりと納得することができていた。
そもそもCクラスに至っては10数人なのにDクラスを作る意味がわからなかったというのもあったし、それに何より学校で一番近接戦闘が強いカガミが魔法をほぼ使えないからといってDクラスに入れておく理由がわからないと常々思われていたからだった。
最も楽に倒せる敵が誰かというのならば圧倒的にCクラスだ。自分たちはそれを探せばいい…のだが。
既に巨大化した何かによってクラスメイトが二人行方不明になっている事を知ってAクラスの人間達はすくみ上がってしまっている。
これはサバイバル。倒さない魔でも生き残ればいのではないのか、という声も無視できたものではない。内部分裂が破滅への一番の近道だ。Aクラスは既にこのサバイバル島の怖さに取り込まれてしまったと言っても過言ではなく――他のクラスもほとんどは似たような状況だった。
―――――Dクラスを、除いては。
「これからは二つの班に分けて行動していくことになる。拠点防衛、食料確保だ。食料があるていど確保できたらこちらから攻勢をかけようとおもう。恐らく他のクラスもこの島の異変の何かしらには触れた頃だろうと思う。そこで専守防衛に徹するか捨て身の突進に走るか…それはわからないがそのどちらも対応できるようにしておきたい。まずは僕たちは守りを固める。いいか?」
アリーヤの唱えた方法に異論を持つものは居なかったのか、一人として手を挙げる人間は居なかった。
これもアルトリアが身を挺してくれたおかげか…と少しその事実をありがたがってしまっている自分を恥じながら場を解散させる。今日はこれで一日が終わる。配られた食料も尽き、確保できた食料は少ない。本当のサバイバルが始まるのだ。
「アリーヤ」
考え事をしながら歩いていると、ふと背後からヴァームに呼び止められる。かなり体躯のでかい彼に呼び止められれば最初は皆怖いと思うらしいが、彼はかなり優しいタイプだからアリーヤはそんなことを感じたことはなかった。確かに目が細いとは思うが。
「なんだ?」
「例の件、今実験してるから見に来てくれ」
「――ああ」
そう言ってついていくと、なるほどすごいものだな、とうなずかされた。
二人の男が手に刃物を持って戦っていたのだ。どちらもダガー程度の身近なものだがそれでも響く音や近くにある木を引き裂く切れ味から見てあの金属は本物だ。
「…すごいな、戦ってるのは…メルティとカームか」
「ああ、カームには冷やすのを手伝ってもらってたからそのまま…メルティにはこえかけたよ」
「なるほどな…それにしても君、どうやって作ったんだ?」
「単純に地下にある鉱物を引っ張り上げるんだ。無理やりおし上げると他の鉱物とぶつかり合って加熱するからそれを利用して織り込むようにして形成して最期は研ぐだけだ。慣れてないっていうのもあるけどダガーなら一日に二本、片手剣なら一日で一本。両手剣は2日で一本。ちなみに作業中はかなり魔力を消費するからな、ほとんど戦いに参加で居ないだろう」
「なるほど、把握した。じゃあ明日もダガーを二つ作ってくれるか?」
「了解だ。またカームを借りるぞ」
「ああ」
そう言ってアリーヤは全員で組み立てたウッドキャンプへと辿り着く。
五人で一つの前提で三つ立てられたキャンプの扉を開くと、先に居たのはカガミだった。
「明日、俺も外回りにしてくれないか?」
「チェルシーとポーシャからも同じ要請が来たよ。ジョセは…中がいいって言ってたけどね」
「ジョセの気持ちもわかるさ。あんな得体のしれない化け物ともう顔を合わせたくないってのは分かる」
「そうか。君がそういうならいいんだ」
「俺がアイツに文句言うとでも?」
「…その可能性があるとは」
「これは本当に生死がかかってる可能性が出てきてるんだ。なのに強制なんか出来ないさ」
「君がそんなに思慮深い人間だとは思わなかったよ」
「最近だけどな」
そう言ってケラケラ笑って、カガミは寝るといって横になった。そのまますぐ寝息を立ててしまったものだから感心したものだ。
自分も寝てしまおう――そう思って横になった。
それが甘かった、というべきだろうか。
翌日。
ジョセの姿は消えていた。




