絶対に、守ってみせる
すごい筆がノリました。何故ですかね。熱い曲を見つけたせいですかね
あの血が誰のなのか――そんなことは問題ではない。
今ただひとつ必要なのは生き残るために一体何をすればいいのかということだ。
今の体の状況やその他諸々を加味して、アルトリアは結論を下す。
「…皆、逃げて」
自分一人が残って時間を稼ぐという、結論を。
「そんな…っ!」
「いいから!まだあの時の傷が癒えてから間もない僕はそんなに体力が戻ってないんだ!だから逃げたとしても足手まといになる!だったらここで踏ん張って君たちを逃がすために命を懸ける…っ!」
僕の言葉に、背後で息を呑む声がした。
それがいったい誰のものなのか、そんなことはどうでも良かった。
ただ今はこの眼の前の化け物をいかにして凌ぐか。それに思考が集中していた。
「…分かった。俺はお前を見捨てるぞ」
「うん。全滅は避けるべき。…だからカガミ、皆を頼んだよ」
「…ああ」
カガミはそう言って、まだ一緒に戦おうとするポーシャを抱え上げて撤退していく。
「あんたって、実は結構ヒーローっぽいよね…ごめん。また、そんな役」
「いいから。チェルシーはポーシャを見てあげて…あと、別に謝る必要ないって。僕は別に死ぬ覚悟をしたわけじゃないんだからさ」
「…馬鹿。行くよジョセ。早く逃げないと」
「は、い。がんばって、ください」
「…うん」
そう言って二人の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ゆっくりとカマキリから距離を取る。
本当に死ぬつもりで殿をやるわけじゃない。
肺が痛むような緊張感と静けさの充満した空気の中、小さく息を吐く。
命を懸ける、とは言ったけど死ぬつもりは、ない。
「来いよ化け物。今日は気分がイイんだ」
不思議と。
痛いほどに緊張感を感じているし、この戦いの壮絶さも予想出来ているのに恐怖の感情は湧いてこなかった。
それよりもアルトリアの胸を占めているのはカガミの言葉だった。
彼は自分に対して謝罪をしなかった。何故かその事実はカガミがアルトリアのことを対等に見てくれたことの証拠のような気がして、どこか誇らしい気持ちになっていた。到底辿りつけないと思っていたカガミが、僕を。
それだけで、僕は気分が高揚していた。
――――――だが。
世界は残酷だ。
「…くそ」
一撃。
たった一撃でアルトリアは左腕に深く傷を負わされた。
初動は愚か自分の体にカマキリの刃が到達する瞬間も見て取ることは叶わなかったのだ。
「冗談じゃ…」
咄嗟に後退したものの、彼我の距離が十数メートルあってもこの距離が一瞬で詰められるかもしれないと思うととてもじゃないが生きた心地はしなかった。
それに何より死ぬつもりで時間稼ぎをするのならばいざしらず、勝つという条件にたどり着くためには否応無くその間合いの中へと飛び込んでいかなければならない。
そのためにはどうするか…。
まず。反撃の一手のための手順が必要だ。
それは回避或いは防御。
そんなことを考えている間に、カマキリはすさまじい勢いで間合いを詰めて右の鎌を素早くつきだした。
ほぼ影すらも見えない速さで繰り出されたその鎌はアルトリアの首を刈り取ることは無かった。
驚いたのだろうか、カマキリが少し上半身をそらすようにして目の前の光景から少しでも自分を遠ざけようとしているのが見て取れる。
まぁそれは僕も驚いているさ。
カマキリの鎌は、アルトリアの首筋に届く寸前にアルトリアの手によって阻止されていた。
「言葉がわかるかどうかは知らないけど…君が今まで食べてきた動物と僕が違うということを言っておくよ――」
そして、と付け足して左手に魔力を纏わせる。
その異様な雰囲気にカマキリは何かを察したのか必死に後退を試みるが、アルトリアがそれを許さない。鎌が手に食い込んでいくのにも構わずに握りしめ、その付け根に向けて左手に纏わせた風の刃を振り下ろす。
まず鎌を切断し、その勢いで上半身の付け根まで引き裂こうとしたが、カマキリが飛翔したことによってそれが回避された。
少しの後退しかできなかったが、カマキリはアルトリアの手刀の範囲外に逃げたことによって安心したのか、少し体を落ち着かせるような動作を見せた。
だが――アルトリアはそれすらも読んでいた。
「そこは木が沢山ある――それも腐って中が空洞になってそうな――ね」
アルトリアがそう言ったその瞬間。
カマキリの周囲の木が一斉に内側から爆裂した。
木の破片はアルトリアさえも巻き込んで凄まじい勢いで暴れ回り、その体を傷つけていった。アルトリアでさえかなりの傷を負ったのだから至近距離にいたカマキリはひとたまりもない。体中に木片が突き刺さったカマキリは、しかし絶命はしていなかった。
「恐るべきは自然の生命力…ってことかな?」
初撃の鎌の一撃と木片のダメージ、更には魔力の消費で既に立っているのがやっとの状態のアルトリアは体を引きずりながらゆっくりと近寄ってくるカマキリをただ凝視していた。その瞳の中にある捕食以上の何かを見つけたアルトリアは少し笑ってしまった。
恐らくこのカマキリはもう自分の事を捕食対象としては見ていない事になのか、それともカマキリに戦いを楽しむという感情があると思ってしまった自分の頭になのかははっきりとしないが、それでもただひとつアルトリアは確信していることがあった。
自分が強くなっていることだ。
なぜなら。
まだ立っている。
僕はまだ立っている。
それだけで、信じられないほどだ。
僕は強い。
そう。
皆の命を守る。
勝つ。
そして生き残る。
「その全てをやってのけられるほどには、強くなったはずだろアルトリア――っ!」
ダン、と強く一歩を踏み出す。
それに反応するようにカマキリが一歩踏み出す。
一歩、また一歩と。
彼我の距離は、もう、無い。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
殴り、切られ、殴り、かわされ、かわし、そして引き裂いた。
それが十合ほども続いた時。
カマキリが一瞬のタメを作ったその次の瞬間。アルトリアに対して突進をかました。
拳を振りかぶっていたアルトリアに直撃し、アルトリアは後方の木に叩きつけられたが突進したカマキリもその場に一度倒れこんだ。
もはやカマキリも気絶寸前だった。
しかしカマキリはやがて立ち上がり、アルトリアへと体を引きずりながらもにじり寄っていく。
そしてアルトリアを間合いの中へ入れて止めの一撃を与えるために残った鎌を振り上げた――が、樹の根元でうなだれていたはずのアルトリアが真っ直ぐにカマキリを見据えていたのに気付いた。そして更に――その表情には見覚えがあった。
子供を守る獣のような、何かを覚悟した生き物の顔だった。
そして想起する。
この顔を見た時は。いつだって大怪我をしたと。
カマキリがそう思って攻撃をためらった瞬間のことだった。
「知ってるか――?僕は、魔法使い…なんだぜ」
カマキリの視界は、反転していた。
アルトリアが死の寸前。まさしく気力を振り絞って放った風の刃はカマキリの後方に生い茂る木々さえも切り刻むほどの威力を持っていた。
「…ははっ――――悪くないな」
開けた視界のなか、差し込んできた日差しに顔を向けて、ゆっくりとアルトリアは瞳を閉じた。
実力のない僕でも、まぁいい結果を出せたんじゃ、ないかな。
****
数時間後、Dクラス全員でアルトリアの戦った場所に赴いてみると、そこにあったのは壮絶な戦いの跡と夥しい量の血の量とばらばらになったカマキリの死体だけだった。
死んでない、とは到底思えないほどの血溜まりが木の根元に溜まっていた。
「そん…な…」
ポーシャは木の根元にまるでアルトリアがいるかのように手を彷徨わせたが、その両手は虚しく空を切った。
何故ここに死体がないのか。
その理由は考えたくなかった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
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