表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の歩き方  作者: レルミア
レッツサバイバル
93/104

たたかわなければいきのこれない!

 このDクラスは――贔屓目に見ても学校全体のレベルからは頭ひとつ抜け落ちている。

 体術、魔法共にレベルは低く、統制も取れていないし座学もろくに出来る人間は少ない。中でも数人は輝いた物を持った人間が存在する…が、その他の人間はその腰巾着だと言われるのがいつもの事だ。先生達も表立っていいはしないものの、そう言った事を考えているのはよく分かる。

 あれだけやんちゃをやっていたのも、実力のない自分を隠すためだった――と僕ことアルトリアはそう思う。それも篠芽先生のあの衝撃的な授業のお陰で収まったけれども。

 ふぅ、とため息を吐いて周りを見渡してみれば砂の校庭に並ぶ全クラスの中で最もレベルの低いこのDクラスが――A.B.C.Dの四クラスの中でもっとも浮足立っていなく――言い換えるならば落ち着いていた。その理由は考えるまでもなく先日の衝撃的な授業のおかげだろう。

 今から始まる無人島でのサバイバルは限りなく実戦に近づいているものとなっている――ということは先日あった殺人鬼との死闘とほぼ同じ状況になるということだ。そんな事実を目前として何故浮足立っていられようか。

 学校の授業だから死ぬことはないだろうがそれでも今から僕たちは人に向けて魔法を…凶器を放つのだから。


「えー…では、静かに」


 ミン先生がそう告げると、一斉に生徒たちが静かになる。

 

「今からあなた達にはサバイバルをしてもらいます」


 そう言って、ルールが説明された。


 勝利条件はただひとつ。

 最期まで生き残ること。


「そして一つあなた達が勘違いしているかもしれない事を申し上げますと――身の安全は保証されていません」


 ミン先生のその一言に、AからCクラスがざわつき始めた。Dクラスといえば元からそのレベルの覚悟をしていたので特に何の反応も無い。

 ああそうなのか、とそれぐらいの感想しか持っていないだろう。


「もちろん出来る限りのカバーはします。餓死や魔法、武器に因る攻撃はあなた達にこれから配る魔具によって致命傷は”できうる限り”避けるようになっています…が、突発的な事故や動物に襲われた時など…命の危険というものは様々にあります。改めて言います。あなた達にはこれから”サバイバル”をしてもらうのです」


 ”できうる限り”

 その単語を強調してそう言ったミン先生の注意が終わると、それぞれのクラスの代表が無人島の開始方角を引く。

 これは隠されており、東西南北どの方角に上陸するのは本人たちしかわからないという方法だ。


「俺達は東だな」


 輪になったクラスの人間達にヴァーチルがそうつげ、船へと乗り込んでいく。

 島までは数時間。到着する頃にはすっかり日が落ちているらしい。


「さて――皆覚悟はいいか?」


 出港した直後、アリーヤは皆を集めてそう言った。

 それに対して全員が無言で頷いてある程度の心づもりができていることをアピールする。


「さて、まずは島の情報があまりないから方針だけ決めてから寝てしまおう。ここだけで話し合える事は殆ど無い上に、細かく打ち合わせをしてしまえば想定外に弱くなってしまうとも言える」


 そう言って、彼は一呼吸置いて続ける。


「では方針を…まず最初にやることは拠点にいい場所を探すことだ。川を見下ろせる高台…更に拠点は森の中…できれば木の上か土の中が良いな。水はやはり人が必須なものだ。故に川沿い…湖は特に人が多い。森に拠点を設置するのはその秘匿性と罠のはりやすさを求めるのと…逃亡のしやすさだ。これだけはわかって置いてほしい。では…寝ようか」


 寝るのか。

 うん、まぁ確かに睡眠は大事だもんな。

 そう思って皆がそれぞれ寝床に入った。

 明日はとうとうサバイバル――と、それぞれがそれなりに緊張を抱えながら、夢に落ちていった。


****


 数時間後、出発した日の深夜。

 船は島へと到着した。


「さて――行こうか」


 全員が睡眠開けで体力はフルに持っている状態で静かに砂浜を踏みしめた。

 磯臭い風が頬を撫でるのを感じながら、クラスメイト達が頷き合う。

 これからサバイバルが、始まる。

 冷たい空気を肺に吸い込んで、緊張感の残る体をほぐす。

 先頭を進むアリーヤの後を追うように足を運びながら周りを見渡す。砂浜から一転して島に広がる森の中に入ってみれば風もないし不思議と暖かさを感じられた。流木も砂浜に打ち上げられていたし、この時間に到着したなら確かにまずは拠点を作りたくなるものだなと思わせるものだった。

 そんなことを思っていると、せっせと地面に落ちている木の枝を尖らせているチェルシーが目に入った。


「何してるの?」

「見ての通りだよ。投擲槍みたいなの作ってるの。持ち込み可能な刃物はポケットナイフ一つだしね。食べ物を獲るにしたってこんな小さなナイフじゃ心もとないでしょ」


 そう言ってくるくると木の槍を手で回すチェルシーは小さく微笑んだ。

 確かに言われてみればこのナイフだけでは心もとない。そもそも魔力総量の少ないクラスなのだから近接装備はあった方がいい…更に言うのならば遠隔装備が必要になる。


「弓…か」

 

 しなる素材を探してみるか、と通りがかりに落ちている物を拾ってみるが曲げてしまえば折れてしまうものばかりだった。

 考えてみれば今は冬、乾燥しているのだから落ちたものは水分を失って良く折れるようになっていても不思議ではない。


「よく燃えそうだなぁ」


 生憎と僕は風魔法しか使えないけれど。


「なにをさがしてるの?」


 いっそ通りすがりに木の枝でも叩き折ってやろうかと思っていると、背後からポーシャが声をかけてきた。

 この夜闇でもまとめあげられた金髪は綺麗に映えるな、なんてことを思ってから質問に答える。


「や、チェルシーが武器作ってたからさ、僕も何かつくろうと思って。弓をつくろうとしたんだけどなかなかいい具合にしなる木が無くてねぇ」

「なるほど…確かにこのポケットナイフだけじゃ心もとないよね」

「まぁ俺に関しちゃポケットナイフだけで十分だけどな」


 にしし、と笑いながら話に参加してきたメルティは確かにポケットナイフだけで十分だろう。


「君はただでさえ脚が速いのに加速できるからね…」


 たしかにそうだな、と思いながらそういうとメルティは鼻高々と言った表情を浮かべる。


「どや、もっと褒めてええんやで」


 そんな彼を見てポーシャが呆れたようなため息を吐く。


「何キャラよあんた…」


 そんな気の抜けた会話をしながら、僕らは歩いて行く。

 この季節だというのに異様に湿気の多い森の中澄んだ空気を浴びながら。今は時刻にして何時だろうか――と、上を見上げたその時だった。

 闇夜の中に、光る二つの点が浮いていた。

 蛍か何かかな、と思って少し微笑ましくなってよくみればその2つの点は連動して動いているようにみえる。片方が少し右にずれれば、もう片方も少し右にずれるといった具合に。

 そして更に良く考えて見れば――。

 赤い蛍なんか、居たっけ?


「避けろアルトリア――っ!」


 耳をつんざくような叫び声と共に、目の前の赤い二つの光の小さなギザギザの白く反射するものが見えた。

 それはたとえるならばそう――牙だ。


「――ぐッ!」


 真っ直ぐ落下してきたその牙を慌ててナイフと手で受け流して離脱する。

 まだ完治しきっていない肩が痛むが、そんなことは気にならないほどに目の前の情景がアルトリアの体を臨戦態勢に引き上げた。

 木の葉の隙間の月光を浴びたほっそりと青白い体が発光する。赤いワンピースに身を包み、真っ赤な長い髪をたなびかせる彼女――いや、ソレの関節部分は球体になっていた。

 ――――人形。

 その言葉が浮かんではくるもののあまりの精巧さにその言葉を肯定するのが難しいほどだ。

 息遣いさえも感じさせる目の前のそれはもはや人の域だとさえ思える。


「あれは一体、何?」


 人形を取り囲むようにDクラスの面々が陣取ったのを確認しながらアルトリアが誰にあてたとも思えないように呟くと、ヴァームが渋面を崩さずに答えた。


「土人形…土の魔術でも代表的なものだ。それでもあれほどまで精巧に…変態的なまでの趣味を込めたものはそう無いだろうがな」

「要するに作ったやつは変態だ、と」

「まぁそういうことになるな」


 なるほど、とヴァームの説明に何人かが笑いながら納得したが、しかしこれほどまで精巧な作り方が出来るのだからその実力もすごいのだろう――と思って警戒を緩めず構える。

 人形は周囲を取り囲む人間をぐるっと見回して、まるで値踏みをするように一周首を回し――僕に飛びかかってきた。


「一番弱そうなのが僕だってことかなぁこれ!」


 思わず叫びながら身長ほどもある人形の腕から必死に逃げ惑う。そのリーチの長さと手先に付けられた刃のせいで仲間が近づけずにいて援護は求められない。

 かと言って魔法を使うにもこの人形は僕と人形の位置がグルグルと回るような戦い方をしてくるせいで誤射を気にして援護することも出来ない。

 だというのならば。

 

「手間を――ッ」


 タンッと足首を狙って振るわれた右手をジャンプして躱し、更に追撃に飛んできた左手を空気を圧縮したものを足場にして更に飛んで躱す。まさか躱されるとは思っていなかったのか一瞬人形の動きがぴたりと止まる。

 その隙を逃すはずもなく、アルトリアは小刀に空気を纏わせて刃を大きくし、体重を載せた一撃で人形の体を分断した。


「――かけさせないでほしいよ」


 ふぅ、とため息を吐いたアルトリアの後頭部を叩きながら皆が駆け出し始める。

 ヴァームによれば土人形は術者の視界とリンクしていることが多いらしく、見られたということは既に場所がバレていると思ってもいいらしい。

 なるほどそれは急がなければと思いアルトリアも駆け出す。

 そうこうして数十分走ったところでアリーヤが剛力魔法の使えるリオとデイジーにうなずきかける。


「あ、出番な感じ?」

「りょーかいだぜ隊長、で、誰を飛ばせばいいの?」

「特に決めていない」


 予め二人には話が通っていたのか、あっさりと言葉の裏を読んで話を進めていく二人について行けずにアルトリアが呆然としていると、二人はニシシと笑い始めてアルトリアを担ぎあげた。


「まぁここはいっちょさっきかっこいいセリフを吐いてたアルちゃんにお願いしようかね」


 嫌な笑みを浮かべながら首に巻いたスカーフをいじってにじり寄ってくるリオから離れるために後退りしていると、いつの間にか後ろに回っていたデイジーのおおきなげふんげふんに後頭部をぶつけて体が止まる。


「さて、じゃあ行ってもらいましょうかぁっ!」


 デイジーがニヤリと笑った次の瞬間。

 僕は空中に放り投げられていた。

 それも三メートルとかそんな生易しいものじゃあない。

 木々をはるかに下に見おろすほどの高さに舞い上がりながら、おそらくは仕事であろう周囲の観察をしっかりとしておく。

 流れる視界の中で確認できたのは三つの大きな光。それと巨大な赤い魔法陣。そして川、平原。森。山。そして―――。

 いやちょっとまて。

 着地どうすんのこれ。そこら辺リオとデイジーの二人は割りと馬鹿だし考えてなさそうなんだけどアリーヤさん…も案外抜けた所ありそうだしこれやば――


「ビビりすぎよ、あんた」


 そう言って僕を受け止めたのは、呆れ顔をしたチェルシーだった。

 どうやら落下の勢いを風をクッションにして受け止めてくれたらしく、髪が少し風で舞い上がって荒れていた。


「あ…ありがとう」

「で、目的は達成できたわけ?」


 僕を降ろしながらそう尋ねるチェルシーに僕は頷いて答える。


「う、うん。僕らが来たのは多分北。他の三方角には全部海岸沿いに焚き火があったからあってると思う…それと西側の焚き火の上には大きな赤い魔法陣があったけど…あれはちょっとわからないや。それで拠点によさ気なところは見つけたよ」


 アルトリアのその答えにチェルシーを始め、アリーヤも満足気に頷いた。

 まぁ――。

 あれは報告しなくても…良いかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ