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異世界の歩き方  作者: レルミア
旅編
92/104

play for ......?

「クソ――死にたくねぇし――死なせたくなかった――」


 クロエがそうつぶやいた瞬間。


「助けに来たよ、パパ」


 確かにイヴの声が、聞こえた。

 そして、目の前の炎弾がかき消された。

 代わりに現れたのは、一組の男女。

 神々しささえ感じられる黒髪と、白髪。

 

「悪いが、ここからは俺のルールでやらせてもらう」


 そう言った篠芽を見た灰鴉はニヤリと笑って、すぐに後退していった。

 その代わりに現れたのは、深紅のマントをたなびかせ、赤い長髪を風に揺らす少女だった。


「あなたが――篠芽悠真ね?」


 無気力さを感じさせるタレ目に、深紅の瞳。

 その瞳に光はなかった。


「その通り――お前は?」


 灰鴉のローブを着用していない彼女は一体どういった立場の人間なのか。

 真っ黒なヒールに、太ももの部分に銀色の装飾が施されたニーハイを履いている。裾口が銀色になったミニスカと、レザーのような素材のジップ付きのTシャツのような物を着ている。

 とても現代的…赤いマントがなければ篠芽の世界でも通用するような服装で、彼女は屋根の上で佇んでいた。


「私たちにはもう戦闘の意思はない…私がここにいる理由はあなたを”観測”するだけだから」


 抑揚のない声で、淡々と彼女は告げる。


「お前の目的は聞いてない。誰だと言ってるんだよ。灰鴉の人間か?」

「私は灰鴉の人間ではない――が、あなたの敵である事はおそらく間違ってない」

「どういう事だ…?」

「あなたは”おかしい”から。あなたはこの世界に存在するはずのない人間。アマテラスのように正規のルートを通ってきていない…故に、あなたは消さなければならない」

「意味が、わからないな」

「分かる必要はない。でもあなたにいいことを教えてあげる。この世界に召喚され始めた七つの大罪…そして生じ始めた八つ目の罪。あなたはそれを倒した方がいい。あなたの中に”いる”その”怒り”も含めて」

「お前本当に何者だ――あと興味が出てきたぞ、お前は何をしたいんだ?」

「最終目標を聞いているの?」

「ああ」

「最終目標は世界の正当化――。つまりこの世界に召喚された七つの大罪と八つ目の罪――そしてイレギュラーを消滅させ、世界を…ひいては人類を救うこと」

「灰鴉がやろうとしているのも、そうなのか?」

「私が手を組んでいることから察してもらえればと、思う」

「なるほど、な。俺はお前のことをなんて呼べばいいんだ?これから付き合いが長くなりそうじゃないか」

「灰鴉の人間は私のことを執行者と呼ぶ――だが。私はこうも呼ばれることが多い」


 ―――――天使、と。

 彼女が仄かに笑ってそう言った直後。

 彼女の足元に転がっていた死体がムクリと立ち上がった。


「さて――もう話している時間はない。あなたは頑張るといい。この即席魔界と、大きな罪と向き合うことになる」


 魔法が行使され、ドームにあふれた魔力…残滓は行き場を求め、死体へと入り込んだ。

 そして大量の魔力が入り込んだ死体はやがて――。


「魔物となる、か」


 ゆっくりと立ち上がる元人間の目がだんだんと赤い光を帯びていくのを見て、思わず篠芽はため息を吐いた。

 既に天使と名乗った女はどこかへと消えていったし、ゆっくりと魔物が増えていくのを見ながら篠芽は嫌そうにもう一度ため息を吐く。


「フェンリル、どうする?」

「どうするもこうするも――お主はわしの話を覚えておらんのか?」

「ん?」


 どういう事だ、とフェンリルの方を向き直ってみれば、彼女は笑いながら冷や汗を大量にかいていた。


「魔物は神の天敵なのじゃよ。元魔物のわしとてそれは例外ではない」

「嘘だろ?」

「事実じゃよ。対魔物に関してお主とあの生徒達ほどの実力差が出てしまうと言っても過言ではないのじゃ」

「冗談きついぜ…」


 ヴィーザル改め、エクスカリバーを手の中でくるりと回して嗤う。


「フェンリル、お前は三人を連れて逃げろ」

「…お主はどうするのじゃ?」

「出来る限り助けてみるさ…お前との契約は、混乱を収めること――――だからな」


 そう言って、篠芽は魔物の群れの中へと突撃していった。


「――おいっ!あんた!」


 篠芽の背中に言葉を投げつけたクロエは、しかし自分が彼らがまずいと思っているような相手に対して対抗策を持っていると思ってるほど思い上がってはない。

 どうすることも出来ずに、立ち上がりかけた膝をまた折った。


「仕方がないのう――ここは一時撤退じゃ」


 苦虫を潰したような顔をした彼女は、そう吐き捨てた。

 行きた人間を食いちぎり、生き血を啜り、その臓物を喜んでいる”魔物”と称されたものになった人々でうめつくされた路地は、とてもじゃないがこの世のものとは思えなかった。


「これが…地獄…」


 フェンリルに抱きかかえられ、彼女たちが侵入してきたドームの天井の穴から出て行く時に、そんな感想がこぼれた。

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