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異世界の歩き方  作者: レルミア
旅編
91/104

who are you...?

「お前の相手をしてる場合じゃねぇんだよ――ッ!」


 右腕から赤い熱線を射出するも、男の目の前でレーザーは霧散するように消えていってしまう。

 

「妨害魔術かっ」


 仕返しと言わんばかりに飛来する刃物を跳んで躱し、面倒だとばかりに地面に魔法力地を生成してそれを踏み抜いて加速しようとした、が。

 パツン、と張った糸が切れた時のような音とともにその魔法陣はかき消されてしまった。

 来ると思われていた衝撃が来なくて思わず膝を崩すと、目の前には男の振り上げる刃が迫っていた。

 寸でのところで後ろに転がってその攻撃を回避すると篠芽はヴィーザルを引き抜く。


「時間がねぇってのに…」


 思わず舌打ちをしてヴィーザルをくるりと一回転させるが、ヴィーザルがいつもより重いことに気付く。

 魔力消費に因る疲弊か、と思いもしたがフェンリルが体内にいる今そんなものが起こるほどの魔法は行使していない。だとするならばフェンリルがかけてくれているはずの身体強化魔法が妨害されているということになる。

 つまり普通に身体強化魔法を使ってここを離脱しようとしても不可能――そしてここから普通に逃げて第二都市に行こうとすれば時間切れ。結果的に今眼の前のこいつを倒さなければ先に進めないということになる。

 厄介な野郎だ。

 そう思って心のなかで舌打ちをすると、フェンリルが話しかけてきた。


(この程度の妨害魔術なら儂の魔法でかき消せないこともないが、どうするかの?)

「いや、倒したとしてもお前が疲れていちゃ意味が無い。第二都市にもし仮に行けたとしてもここに灰鴉の時間稼ぎが居るということは本命が向こうにいる可能性も否定出来ない。更に言えば”魔法”を行使できたイレギュラーの存在がある以上お前を無駄に疲れさせるのは得策だとは思えない」

(そうか、死ぬなよ?)

「…ああ」


 ふぅ、と大きく息を吐いて剣を構える。

 ゆっくりと傾き始めた陽の光を背に、灰鴉の男は大剣を掲げた。


「行くぞ」

「――――来いッ!」


 大きく一歩を踏み出した男が遠心力を活かして振り上げた大剣をかろうじてガードしたが、その重さと勢いを活かした衝撃に耐え切れずに篠芽は大きく後ろに吹き飛ばされる。地面を転がりながらその遠心力を活かして左手から小刀を投げる。

 デコイとなった小刀は大剣の腹で弾かれ、地面に虚しく落ちていく。


(視界を潰せれば万々歳――ッ!)

 

 すぐさま地面を蹴って男に肉薄して大剣の影から少しだけはみ出ている男の肩口を引き裂こうと剣を突き出すが、彼のナックルに弾かれ剣が肉を裂くことはなかった。

 そして男は大剣を横に投げ捨てると、突きのディレイが残る篠芽の腹部に膝を叩き込む。

 重く響く音と共に衝撃が篠芽の全身を震わせ、大きく吹き飛ばしす。その勢いを岩にぶつかることによってようやく止めた篠芽は朦朧とする視界を敵に向けた。


「おいおい…あいつ魔術師じゃねーのか…クソが」


 思わず悪態を吐き捨てると、ヴィーザルを支えに立ち上がる。

 魔法を妨害するのが専門で、後方支援的な人間だというのならまだ近距離戦でも勝ち目はあった。

 だがこうなっては状況が違う。

 近距離のエキスパートで尚且つ魔法が使えないというのならばこちらに勝ち目はほぼないと言って良いだろう。

 何しろ剣を扱い始めたのはまだ数ヶ月前だ。それも魔法を主力にして戦ってきた篠芽にとって近距離戦闘はあまり慣れていない。ましてや魔法ブースト無しの戦闘などほぼ初体験と言っても良いだろう。

 

「私は魔術師だが…しかし近距離戦の使えぬ魔術師だと言った覚えはないぞ?」

「てめぇ…喋れたんだな」

「何、灰鴉の中でも黒き魔術師と呼ばれ恐れられているお前と戦うのを楽しみにしていたのだが…あまりの弱さに拍子抜けして呆気にとられていただけさ」

「なんだと…?この似非魔術師野郎が」

「魔術師としては一級だとしても戦士としては三流以下…予想通りに想像以下だ」

「言ってくれるじゃねぇか…てめぇ…!」


 勝てる希望もないとわかっているのに今一度篠芽は男へと向かっていく。

 すぐさま弾かれてまともに戦うこともなく、再び篠芽は地面に膝をついてしまう。

 既に篠芽の視界は霞んでおり、四肢に力は入らなくなっていた。未だ倒れていないのが奇跡といえるほどの傷を抱えてもなお彼は立ち続けていた。

 今倒れてしまえば、大量の人が死んでしまうから、ただ他人を助けるためだけに彼は倒れることを良しとしなかった。


(技術は勝てない…体力もここまで差がついてしまえばもう意味を成さない…。魔力は論外ときた…)


 ならば。


(あいつと俺の違いは――武器だ)


 この右手に握られたこの武器を。


(強力な武器だ。そう――それこそ強力な――)


 バヅン、と太い何かが切れる音がするのと同時に、頭に何をすればいいかの情報が浮かんできていた。


(そういう――ことか…ッ!!)


 何が自分の身に起きているかの理解を得た瞬間に、篠芽は笑った。


「驚いた――不思議な剣だと言っていたがまさかここまでの大物だとは思わなかった――ッ!」


 そう笑う篠芽の右手に握られていた剣は今までの少しくすんだ色は消え失せていた。

 輝く銀色に、真っ直ぐな刀身。

 今までより一回りほど大きなその剣の名は。


「エクスカリバー――――伝説の王の、剣だ」

「――ほう?」


 ****


 こいつは一体、何者なのか。

 フェンリルは目の前で起こる事象についていけずに、思わず心のなかでそうつぶやいた。

 目の前の――こいつは、本当に人間なのか。

 あの剣は封印が施されていた――それもかなり強力なものだ。

 とてもじゃないが無理やり引き剥がせるものではないし、もし仮にそれが成功したとしても剣が真っ二つに折れてしまう程のものだ。

 おそらくあの剣の名前から、どこかの魔法組織のヴィーザルという人間がその封印を施したのではないかという推測はできる。

 だが、それを破壊して更にその剣を活かしきる事ができるのはもはや剣の精霊レベルの強引さだ。

 たとえるならば…そう、接着剤で紙と紙をくっつけたものを何の傷もなく引き剥がし、更にその紙を今まで通りに使えるようにした――といったところか。

 あれは魔術を超えたところにある存在で無理やり存在を上書きする他ない――。

 つまり。

 あいつは魔法を使ったのだ。

 フェンリルの助けも得ずに。

 個人の力で。


 理解がやっとのことで追いついたところで、既に決着はついていた。

 あれだけ苦戦していた男を真っ二つにし、そして篠芽は元気に立っているではないか。

 あの数の傷を一瞬で回復した。

 それは自らの存在を上書きしたということだろう。

 そんなこと――――――――

         ―――――――神でも出来るのか?



――――第二都市が魔界になるまで、あと一時間――――

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