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異世界の歩き方  作者: レルミア
旅編
90/104

Quick Attack

―――エマが体を貫かれる五時間前―――


「ヴァルハラを抜けて数日…こりゃあいつらが帰ってくるのには間に合わねーな」


 旅日数を記録している木版を見ながらため息を吐く。

 

「まぁそういうでない、じきに第二都市の大きなドームが見える頃じゃ。初めて行くのならあの異様さには肝を冷やすぞ」


 五国にて最も閉鎖的な国として知られるグーデルバイト帝国。

 入国、出国ともに自由はなく、市民は陽の光を見ること無く一生を終える人間が多いという。

 何故それに対して暴動が起きないのか。

 それは徹底された情報統制に由来する。


「太陽の存在を知らない人間が多いってのは…本当なのか?」

「うむ。おそらく八割の人間が太陽という単語の意味が理解できんだろうな」

「そんなにか…それにしたって商人は入れるんだろ?商人が口を滑らせそうなもんだけどな」

「故に…ウビーツァがおるのじゃよ」

「…口封じ、か?」

「うむ。壁によって囲まれているために逃げることも出来ず、うっかり口を滑らせれば各支部に一人はいる強者がそやつを迅速に殺しにかかるという図式になっておる」

「政府公認…だからウビーツァなんて言う組織が許されてるのか」


 ドーム状の国なんていう閉鎖空間で何故殺し屋組織がやっていけるのかと不思議でならなかったが、政府公認だというのならば話は別だ。

 かつてより暗殺組織と大国と言うのは切っても切り離せない関係だと元の世界に居た時に世界史で学んだが、おそらくこの世界でもその知識は通用すると考えても大丈夫なのだろう。

 だが不思議なのは、すべての国に存在する暗殺組織が共通しているという部分だ。

 なぜならグーデルバイト帝国の要人を暗殺してほしい場合、内部にいる人間に依頼をすればいいのだからそう言った意味では相手に常にナイフを突き当ててる様な状態だとも言える。

 

「武力牽制というやつじゃよ。お前が攻撃すれば喉に突き当てたナイフでその喉仏を掻っ切るぞ…そういう意思表示の表れでもあるのじゃよ。だから表立って攻撃することは出来ない」

「ってことは、秦野国のウビーツァは老議院?とやらを殺したのか?あの戦役の首謀者が十傑…ひいては老議院だってことはさすがに分かってんだろ?」

「うむ。残念ながら、というべきか幸いというべきか秦野国にはウビーツァが入っておらんのじゃよ」

「なんでそんなことが許されるんだ?」

「それはあの国の仕組みに関するのじゃよ。毎回”勇者アマテラス”を召喚し、王にするというその儀礼によって代替わりが行われるあの国において召喚直後の王というのは世界の常識を知らず、魔法も使えないことが多い。そんな人間を暗殺すれば当分は魔力を溜める必要があるためにしばらく王がいないという状況に陥り…国民の支持する人間がいなくなるということになる。それはかなり…不味い。間違っても馬鹿がそんなことをしないためにもウビーツァは秦野国に配置しないというのが各国の全会一致の意見だったのじゃよ」


 第二次世界大戦後の天皇制と同じような話なのだろう。国民に慕われている人間…たとえそれが形骸的なものであってもそれを破壊してしまえば国民は暴動を起こすかもしれない…。故にそれは間違っても起こしてはならない。つまりはそういうことだろう。

 いや、待てよ――

 ふと、思いついたことを口に出そうと思って口を開くと、フェンリルの動きが固まっているのに気付いた。


「――どうした?」


 ただならぬ表情をしている彼女に思わずそう尋ねると、彼女は馬から飛び降りて叫んだ。


「すぐに向かうぞ!狼の姿で駆ける!背中に乗れ!」


 彼女は有無を言わせぬ調子でそういうとすぐさまその姿を白銀の狼に変えた。


「どうしたってんだよ!フェンリル!」


 驚いて暴れるうまから飛び降りてフェンリルの背中に飛び乗った次の瞬間。

 フェンリルの口から二つの単語が飛び出した。


「第二都市で魔法が使われた――ッ!」


 魔術ではなく、魔法。

 それは神の域に達するものだけが使えるとされるもの。

 

「街が壊されたってのか!?」

「違う!そんな生易しいものじゃないわ!」

「だったら何なんだ!!」

「言ったじゃろう!魔法と言うのは魔術核を経由しないが故に放出される魔力量は魔術の比ではない!!そんなものがグーデルバイト帝国のあの密閉空間の中で起きてみろ!!」

「わかんねーよ!!何が起こるってんだ!!」

「あふれた残滓は生きた人にさえ取り入る!そうすれば出来上がるのは魔物じゃ!!簡易的な魔界が広がるぞ…!」

「おいおいそりゃあ――冗談にもならねぇな」


―――エマが貫かれるまで――――

――――訂正。



―――グーデルバイト帝国第二都市が魔界となるまで後四時間―――


****


 風景が線となって流れる中、必死にフェンリルにしがみついているとふと風景の中に消えない何かが居ることに気付いた。

 このスピードにすらついてこれる何か。

 かなり長い間走り続けていたが全く同じ方向に付いてきているとなればそれは――


「お前様!敵じゃ!身分を偽ってる場合ではないぞ!本気で――――殺せ!」

「わあってぇらぁ!」


 擬装用に回していた魔力を回収し、両サイドを駆ける何者かに向けて光線を放つがあまりに早すぎるために照準が上手く定まらずにあさっての方向へと飛んでいってしまう。

 するとこちら側が向こうを認知していることを敵が察知したのか敵はなおもその速度を上げてフェンリルの前へとやってきた。


「おい!スピード負けてんじゃねーか!」

「お主に憑いているという万全じゃない状態でここまで速く走れてるだけでも褒めてもらいたいもんじゃがのぉ!」

「くそっ、しょうがねぇ殺るぞ!」

「了解――じゃあ!」


 篠芽が舌打ちをしたその瞬間。

 フェンリルは前足を地面に突き刺して一気に勢いを殺し、背中に居る篠芽を慣性によって前方に吹き飛ばした。

 すぐさま上空で一回転した篠芽は人型へと戻ったフェンリルの手を掴んで引きずりあげると、フェンリルはもう片方の手を自らの背中に向けた。


「ぶちぬくぞ、フェンリル――ッ!」


 刹那。

 フェンリルの手のひらからすさまじい火力が噴出され、更に篠芽たちは加速した。

 すさまじい速度で前方へ吹き飛ばされる篠芽の中へとフェンリルを収納し、篠芽は敵二人の中心へ一歩踏み込むと同時に剣を引き抜き敵を上下に分断し、更に篠芽は叫ぶ。


「”加速”しろ―――――ッ!」


 加速魔法を詠唱し、更に自身の速度を上げる。

 ソニックウェーブすら発生するほどの速度で駆ける篠芽を横から蹴り飛ばす一つの姿があった。

 堂々たる姿で立つその男の風貌は歴戦の兵士を思わせるものだった。

 そしてそのローブは、灰色に染まっていた。



――――第二都市が魔界になるまで、あと三時間――――

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