歪み
今日は忙しくてあまり書けませんでした。すみません。
「気をつけておく必要はあるが…まぁここは中央広場に結構近い所にあるし、そうそう襲われはしないだろう。だが一応言い聞かせておくか」
そう言って、カーライアムが席を立つ。
「あー、聞いてくれ。今この周りには人攫いがいるようなんだ。ここらへんには来ないだろうが気をつけるように。いいな」
言うだけ言ったな、とカーライアムが満足して席に座りかけたところで、リンの隣の小さな男の子が手を上げて質問をする。
「人攫いってなんですかー?」
そんな質問に、どう答えたものかと口をつまらせているカーライアムの代わりにリーニャが口を開く。
「そうですね、元気に過ごしている子どもたちを捕まえてお金持ちに売るような人達の事です。捕まった子供達は手錠をかけられて必要最低限の食べ物しか与えられずに数日間閉じ込められ、その後にいろんな人に子どもたちを売ってしまう人の事を言うんですよ」
リーニャがそう言うと、大広間の大多数の子供が恐怖で肩を竦めて顔を突き合わせる。
一瞬カーライアムが何かを言いたげにしていたが、子供たちが怖がっているのを見て口を閉じる。
「まあ、そういうことだから気をつけてくれよ」
「「「はーい!!」」」
そうして昼食が終わり、リーニャとリンが市場に商品を売りに行くというのでそれを見送り、ホルンの授業を再び受ける。
「まあ、フェンリルさんの予想外の乱入は有りましたが…とりあえず魔術の使い方と言うものをお教えしたいと思います…が、篠芽さん魔術核無いんですよねぇ」
「植え付けることとかは出来ないんですか?」
「出来るには出来ますが…過去の”魔憑き”と今の篠芽さんの相違点と言うのは魔術核の有無程度ですから、それが暴走する条件の可能性もあるので、あまりやりたくないんですよね…」
「その可能性も否定出来ない…ですね、つまり魔術は使えないと考えたほうがいいですね」
手から炎の玉とか結構憧れてたんだけどなぁ…
割りと本気で残念に思って肩を落としていると、いつのまにやら近くに来ていたカーライアムが笑いながら俺の肩を叩く。
「魔法が無理なら剣術を習えばいいじゃない」
それなんてマリーアントワネット。あ、そういえばこのセリフはマリー・アントワネットが言ったわけじゃないらしいですね。よくわかりませんけど。
「お前、話を聞くに一瞬の判断は早いようだからな。とりあえず私の物置部屋にある剣を持ってきてやったから使うといい」
そう言って投げられた剣は特に装飾もされていない簡素なものだったが、長さ六十センチほどの刃渡りを持つ大きな直剣はかなり重く感じられる。
グリップには黒いレザーが巻かれていて、柄頭には狼のような紋章があしらわれている。
フェンリルが憑いている俺にピッタリじゃないか、と少し驚いていると、カーライアムに剣の名前を言われて更に目を丸くする。
「その剣はヴィーザルと言う。フェンリルと何か曰くがあると武器商人に聞いた覚えがあるが…いかんせん胡散臭い人間だったからな。あてに出来るかどうかは微妙なところだ」
「いや…その武器商人は正しいと思いますよ」
鋭い二段階のフラーの部分に日光を反射させながら剣を完全に引き抜くと、スタイルのいい綺麗な刀身が現れる。
思わず、綺麗だとこぼしてしまうようなその完成度に思わず惚れ惚れしてしまう。
「ありがとうございます、これ、かなり良い剣なんじゃないんですか?」
「ん、まぁな…なかなかの値段だったがコレクションにしておくにはもったいない気がしてな」
「コレクション?」
「その筋肉女、武器のコレクションが趣味なのよ」
「筋肉女とは失礼なことを言うな!頭でっかちが!!」
ホルンにからかわれたカーライアムが仕返しに暴言を吐いてみせるがホルンは素知らぬ顔で他所を向いたままだ。
まったく…と溜息を吐いてこちらに向き直ったカーライアムは自分の剣を引き抜いてヴィーザルの刀身にコツンと刀身をぶつける。
「まあ習うより慣れろだ。型なんていらないだろ、とりあえずやるぞ」
「え、真剣でやるんですか?自慢じゃないですけど俺剣なんて持ったことありませんよ」
もっと強いペンなら持ったことあるけどな!!
なんて心のなかでドヤ顔しながら言っていると、ホルンが小さく何か唱える。するとものの数秒のうちに二人の持つ剣の刀身の周囲に赤い表皮のような者が生成される。
「それで刃は無くなったようなものだ。さぁ存分にやろうじゃないか!!」
「そういう意味じゃないんだけどな…」
呆れてそうつぶやいているうちに、凄まじい速度で袈裟斬りが振るわれる。
慌てて地面をけって後ろに転がって撤退してすぐに顔を上げ、すぐ目の前まで迫っている刀身を柄頭で弾き、一瞬のすきをついてカーライアムの懐へと飛び込み、逆袈裟に剣を振るってカーライアムの脇下に刀身を思い切り叩きつける、その直前の事だった。
「ぎっ…!?」
みぞおちを中心に思い衝撃が体全体に広がり、体の動きすべてを制限されてしまう。何事かと思って下を見てみると、固い拳が深々と叩き込まれているのが見える。
「ひ…きょう…だ…ろ…」
遠のく意識の中、俺は思う。
やっぱ大人って汚い。
****
驚いた。
素直な感想がそれだ。
さすがに本気で相手はしていないし、全力の二割程度、いつも子供たちを相手にするぐらいの速さでしか剣を振るってはいないが、あそこでかわすのではなく弾き、更に肉薄してくるのは予想外だった。
「すごいですね、彼」
ホルンも同様の感想を持っているのか、横たわる篠芽の隣に腰を下ろしながらそんなことを言ってのける。
リーニャから聞いた話だが、彼は一人で数週間狩猟生活をしていたらしいし、それが今の強さにつながっているのだろうか。
「…ああ。そうだな」
答えがつかないまま曖昧に答えを言ってしまったが、何か胸騒ぎがする。
”魔憑き”
この三文字が、否応なく私に嫌な過去を思い出させる。
”魔憑き”ベルゼブブへと身を落とし、私の故郷を食い散らかした、私の弟の事を。
「まるで…あの人のようですね」
「ああ、そうだな」
この類まれな才能と、魔憑きと言う組み合わせは――嫌な事が起きる。
****
「たくさん売れたね!」
「良かったわ、ここの人達が珍品に興味持ってくれるぐらいお金持ってて」
こんな嗜好品とも言えないような珍品達がバンバン売れていく様は正直いって怖いぐらいだった。
かなり高めに設定したにもかかわらず、市場に来る人達はワイワイと騒いで商品を手に取り、少し気に入ったものはすぐに買っていっていた。
お金がありすぎて使い道がわからないと言う程の買いっぷりだ。
「うーん…怪しいなぁ」
この街は何かがおかしい気がする。
喉のそこまで出かかっている違和感が何なのか分からくてもやもやする。
「なぁんだろうなぁー」
「いいことなんじゃないんですか?お金があって、それが流通してるってことなんですから」
「良いことなの。良いことなんだけど…状態が良すぎるというか…うまく行きすぎているというか…」
「考え過ぎじゃありませんか?」
「そうかなぁ」
そうだと、いいなぁ。




