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異世界の歩き方  作者: レルミア
旅編
86/104

go hunting

 あれはただの子供じゃない。

 ディルクはイヴと名付けられた子供を見た瞬間にそう感じた。

 何故、と言われれば具体的な理由を挙げる事はできないが彼の十数年の殺し屋としてのキャリアがそう告げていた。

 しかしセラの過去を知っているディルクはイヴを捨ててこいという事もできなかった。故に彼は今情報収集を続けていた。

 特殊な子供、というのは大抵良い出来事にはならないからだ。

 その経験値を基に情報収集のために酒場に通うこと数日。

 いつもの労働者達が昼間から酒を飲み交わすさなか、見慣れぬ一人の男が入店してきた。

 灰色のローブに身を包み、かぎ鼻出っ歯が特徴的な彼はぐるりと店を見回すとこちらのテーブルに向かって歩みを進めた。

 情報収集をしているのがどこかの組織にバレたか、と少しだけ体に力を入れて緊張していると男はニヤリと笑みを浮かべて言った。


「ヒヒッ相席いいか?」

「…ああ。構わないぜ」


 ディルクがそういうと、男は向かいの席に座る。

 

「俺の名前はネズミ。よろしく」

「俺はディルク。別によろしくしなくていいぜ」


 お前に構ってる場合じゃない、と思いつつも今店の中で交わされている会話はゲスな会話ばかりだ。女だギャンブルだとあまりいい類の話ではない。赤ら顔のおっさんたちだからまぁこんなもんかもしれないが。

 だから別にこのネズミと名乗った男と話してやってもいいかなという気分になって、言葉を払しょくするために手を差し出した。


「何だあんたツンデレか」


 そう笑いながら手を握り返してきたネズミに笑いかける。


「あんたここらじゃ見ないよな。行商人か?」

「いや違うぜ、ちょっとここに用があって来ただけで行商人ってわけじゃない」

「用?」

「ある情報を追ってここに来たんだ」


 ネズミがそう言った途端。

 ディルクは自らの五感が研ぎ澄まされていくのを感じた。

 間違いない。

 こいつは――”クロ”――だ。


「面白そうな話じゃないか、ちょっと教えてくれないか?」

「悪いが俺は情報屋もやっていてな、そう安々と売れる情報じゃないことは分かるつもりだ」

「そりゃそうか。あんた情報屋なら俺の知りたい情報を教えてくれないか?」

「ものによるけどな」

「この街に居る特殊な子供――そこまでしか分かってない。顔は分かるし見せようと思えば見せられるが…その場合あんたの命を保証出来るかどうかはまた別の話だ。何かわからないか?」

「…特殊な子供…常識の範囲で言うなら灰鴉の頭首のローゼンクロイツぐらいだけどな、何歳ぐらいなんだ?」

「本当に小さな子供だ。それこそ三歳…五歳…そこらへんだろうな」

「…知らないわけではない、むしろ心当たりはある。だが本当にそういう子供だったとしたら…そうだな。お前相当やばいぞ」

「教えてもらえるか?」

「対価によるぜ」

「俺個人がお前の依頼を一度だけ無料でこなそう。俺はウビーツァという殺し屋に所属していてな。それなりに上手いぜ?そういうの、はな」

「ウビーツァ、なるほどそれは良かった。依頼は良いから一つだけ聞かせてくれ。お前のリーダーの名前は?」

「確かリーダーはミハーヴァって言った気がしたぜ」


 ディルクがそういうと、ネズミはおかしそうに笑った。


「そうかそうか――やっと点と点がつながった。お前の言っていた子供はおそらく”純血種”だ。近年青の魔法使いの力が弱まっていると言う噂だからおそらく”巡廻”して来てるんだろうぜ、用心しろよ?”純血種”はその力故に狙われることも多いからな」

「なるほどな。情報感謝するぜ」


 ディルクがそういうとネズミは笑ってその場を離脱した。

 ”純血種”

 なるほど。確かにそうであれば俺の感じたあの違和感にも説明がつくというものだが、それ故に狙われることも多いということだ。これから忙しくなりそうだということに変わりはなく…そしておそらく既に狙っている人間というやつがこの都市の中に居ると考えてもいいだろう。

 なにせ彼女は人身売買を主な仕事とする孤児院の中に居たのだから”純血種”であることを宣伝しないわけがない。

 そして彼女はクロエ達が訪れた時には家の中には居なかった――つまり”商品ではない”可能性があるということだ。院長が自身の所有物にするとは思えないからそう考えてみれば答えは自ずと出てくる。


「イヴはすでに売られていた。そしてその組織がここに受け取りに来る可能性がある」


 どこが――?

 それは問題じゃない。

 穏便な手を使ってくれればまだいいのだが無理やり奪い取るという選択肢を取られた場合に後手に回ってしまえば勝ち目は薄くなる。

 

「よし方向性は決まったな――」


 そう言って店を出た瞬間に、四人の男に取り囲まれた。


「貴様か。私達の事を嗅ぎまわっているという男は」


 ネズミの野郎俺を売りやがったか――と心のなかで舌打ちをしたが考えてみればここで俺を売るメリットが無い。

 単純に最近情報収集しすぎていて彼らのネットワークに引っかかったということだろう。


「何の話だかわからないな」


 ディルクがそう言った瞬間、四人の男が剣を引き抜いたがその瞬間に彼らの腕が宙を舞った。


「用件はそれだけか――?」


 そして。

 彼らの首がその胴体から切り離された。

 落ちていく首を横目に地面を強く蹴ってその場を離脱して裏路地に入って大きくため息を吐く。

 間抜けか俺は…そりゃ自重もせずに毎日情報収集しまくっていれば相手にその情報が入っても不思議はないだろう。

 襲ってきた連中のあのローブには見覚えがある。

 袖に灰色があしらわれたあのローブは灰鴉のものだ。ウビーツァ、アスクレピオスと並んでこの世界の戦闘集団としてトップスリーに頭を並べる組織の一つだ。援軍が来る、とはもしかしたら本部は彼らの襲来をある程度予期していたのかもしれない。

 その援軍がここに来るまであと数日。

 正直言って第三都市の戦力なんて灰烏が少し力を入れて襲撃すれば虫を払う程度のものでしか無い。リーダーの実力が未知数な分そこに期待できるが俺とクロエとエマは暗殺に長けているが戦闘に長けている訳ではない。正面戦闘になってしまえば大した戦いは出来ないし…ましてクロエともなれば暗殺としても弱い。そういう事態になったとしたらリーダーに頼り切りになる事は必須だろう。

 

「こりゃいよいよ本格的にやる必要が出てきたな…」


 そこまで不利なのならば。

 こちらに有利な土俵に引きずり込む。

 つまりは暗殺だ。

 相手がこちらの本拠地をつかむ前にこちらが敵を片っ端から潰していく事が急務になるわけだが、いくら暗殺がこちらの有利なステージだと言っても確実に安全なわけではない。特にいまのクロエとエマは争い…それも人殺しからは遠ざけてやりたい。

 リーダーにも伝えるのもありだが今拠点に帰ったら尾行の不安がある。

 

「…はぁ、こんな後輩思いな先輩を持って幸せもんだよなぁクロエとエマはよぉ」


 そう言ってポケットからクロのニット帽を取り出す。

 狩りの、時間だ。

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