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異世界の歩き方  作者: レルミア
旅編
85/104

dream

 弱かった。

 そういったもののアイムの強さは本物だった。

 歴代マギア隊長の魔力を総結集したジブリールがあれだけアイムを削った上に、アイムが結界に囲まれたこの密室空間で魔力を行使した。

 その事実がなければシヴの圧勝はなかっただろう。

 手を握りながら、シヴはため息を吐いた。


「また、ギリギリだったな」

「先代の力を借りて…過去の経験を活かし…お前の力を借りてやっとだ。勝ったとはとても言えん」


 苦しそうにそう言って立ち上がったジブリールは結界を消して、再びその場に座り込んだ。

 これだけ膨大な魔力を扱う事それ自体が相当な精神負担になるというのに、それをしながらアイムとあれだけの大立ち回りをしてみせたというのがすでにシヴの常識を逸脱しているが、シヴはそんなことは言わない。

 

「残滓流入…不死族に効くとは思えなかったんだけどな」

「不死族とて只の人間…そういうことなんだろう。ったくあの人もこんな火種を残しているなら教えて欲しいものだよ」

「師匠がそこまで気を回せると思ってんの?あの師匠とあの旦那だぞ?抜けてるところしかねーよ」

「それもそうだな…まぁ助かったよ。間に合ってくれてよかった」

「さすがに…約束だしな、まぁ後で飯でも奢ってくれや。私は少しぶらついてくる」

「ああ」


 そう言ってシヴは手を振りながらその場を後にした。

 彼女の姿が見えなくなってから、ジブリールは大きくため息を吐いた。

 強すぎる。

 スィクス単体であれだけの戦闘力。

 結界、そして残滓流入現象の力を借りなければ一瞬で殺されていただろうし、仮にシヴが魔具と魔爪を全力で使っていたとしても勝てたかどうかは怪しい。

 そんなレベルが、後数人。

 その絶望的な戦力に思わずジブリールは天を仰いだ。

 世界は、灰鴉に味方をしているというのか。


****


「私には夢が、あるんです」


 店を出て2日、もう少しでヴァルハラに到着するという日の昼下がりに彼女はそう言った。

 神を探すことだろうか、と思ったがどうやら彼女は自分のやりたい事を言いたそうだったから、そのまま俺とフェンリルは無言で彼女の次の言葉を促す。


「私は、音楽がやりたかったんです。聖職者もやりがいがあって楽しいんですけれど…やっぱり職業柄見るのは悲しく変化していく顔ばかり。建前でも笑っていた顔がだんだんと歪んで…泣いていく顔を何度も見ました。でも音楽は違う。聞けば笑顔になる音楽もあるし…英雄を謡えば皆ワクワクしてくれる。その場しのぎかもしれませんけれどそれでも人を笑顔にすることは出来るんです。それって素敵なことだと思いませんか?」


 夕日を背に受けてそういうセラは、何か吹っ切れた様な顔をしていた。


「活かして助けろ…か。そういうことなのかもな」

「そうじゃな、儂らには到底できそうにない」


 眩しかったのは夕日だろうか、それとも彼女だろうか。

 目を細めて思わずそう言い合うと、俺達の言葉を聞き取れなかったセラが首を傾げる。


「青臭い、ですかね?」

「そんなこと無いと思うぜ、良いと思う」

「私、あれを届けたら神様を探しながら吟遊詩人をすることにしました。教会には少し悪い気もしますけど…とりあえずあれを届けたら私の出番はあまり無いと思いますから。あなた達は…何故グーデルバイト帝国に行くんですか?」

「戦いに。近々グーデルバイトの第二都市は戦場になるかもしれないから近寄らないほうが良い…とだけ言っておく。詳しいことは俺もあんま知らねぇんだけどな」

「そうですか…ご武運を、と言っておきましょうか」

「ありがとう…と、言っておくよ」


 そう言って、彼女は少し早く歩き出した。

 もう少しでヴァルハラだ。

 彼女との旅路はじきに、終わる。


****


「夢も希望もありゃしない」


 就職難。

 ってか仕事難。

 仕事が全く来ないという現実に直面していた。

 

「どーしたもんかな…」


 頭を掻きながらクロエはアジトへの道を歩いていた。

 ほんとうに自分は暗殺組織の一人なのかと最近疑問に思いたくなる程仕事が無い。

 いやまぁ平和なことだから嬉しい事この上ないのだがこのままでは給料が支払われるか否かという疑問になってしまうので結構差し迫った問題だ。

 あれ?俺もうこの仕事やめりゃよくね?と思わないでもないけれど暗殺組織やめようとすると殺されるっていうのが定石だしもう離脱=死あるのみって感じすよね俺の人生詰んでね?

 そんなことを思いながら、似たような内容をアジトの中にいたエマに話してみると、少し考え込んでから口を開いて答えてくれた。どうも最近イヴの面倒を見始めるようになってから態度が軟化した気がする。子供が出来ると人間優しくなるっていうのは本当なんだろうか。

 

「まぁ…あなたはまだこの業界の事をあまり詳しく知っていませんから…。この拠点もあまり大事なものではありませんのであなたが辞めた場合はおそらく移転して終わりでしょうね。あなたを追うことはないと思います。メリットとリスクが釣り合っていませんから」

「そういうもんですか…でも辞めたところでどうしようかとも決めていないんですよね」


 俺がそういうと、エマは寝ているイヴの頭を撫でながら答えた。


「夢を…追うといいと思います。私はかつて夢を持っていました…そして追っていました。でもそれは破れ…ここに来ました。日々を消費していく日々。それはそれで居心地のいい物では有りましたがやはり夢というものは人生を豊かにしてくれる…。この子と出会って私はそう思いました。あなたに夢は、ありますか?」


 笑った顔でそう言われて、思わず言葉に詰まってしまう。

 夢。

 そんなものは俺にあっただろうか。

 小さい頃からレールが敷かれた人生を歩んできた俺に夢というものはなかった。

 順序良く学校へ行き、順序良く卒業し、そして順序良く就職する…はずだった。けれども現実はそうではなくて俺はどちらかと言えばドロップアウト組に入ってしまったわけだ。ウビーツァという暗殺組織に入るなんて言うのは夢に思っても叶えることはなかなか出来ないとは思うけれど、それを実行できるというのが幸せかどうかはまた別の問題だ。

 夢なんて無い。

 やりたいこともなかった。

 自分の人生の空虚さに思わず呆れて、思わず笑ってしまいそうになった時、イヴが起きて寝ぼけ眼で俺の腰の布を握って言った。


「くろえ、いっしょにねよ?」

「――ああ。わかったよ」


 俺がそういうと、エマは一瞬驚いたように目を丸くしたが、その後にふっと微笑んだ。

 便乗するようだがまぁ確かに。

 この子の人生を守るというのを夢にするのも悪くはないのかもしれない――

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