悪くない
最後に恐怖を感じたのはいつだろうか。
自分のこの力に気付いたのは、案外早かった。
原理さえ理解すればなんでも使えるようになるというのに気付くのに、そこから更に3日。
その時点ですでに自分はこの世界でほぼ最強の位置に立って居るということが分かった。
もう、恐怖なんてものは感じなかった。
誰と戦っても傷一つ付くことすら無かった。
もう既に、戦いに刺激というものは存在しなかった。
それなら、次はどうしようか。
そう思った男は次に人を救おうと考えた。
正義を、執行しようと考えた。
正しいことを行えば、何かしらいい気分になれると思っていたから。
しかし人を掬いきる事は出来ず、どうしても溢れていってしまう物があった。
命であったり、場所であったり…そして尊厳であったり。
ほとんど全能ではあったが…本当に全能ではない。そのことに気付いたのは能力に気付いてから三年経った頃だった。
人心掌握は、出来ない。
自らの能力の限界を感じたのは、自分の組織のバックに存在する人間たちに自分が疎まれていると気付いた時だった。
伝統に縛られた人間達に邪魔される事ほど苛立たしいことはないな、とかつての世界で思った事を再び思い返した。
だから、辞めた。
そんなところで苦しんで戦うほど自分は根気良いわけではない。
そして更に半年後。
出会った。
出会ってしまった。
可能性の塊に。
そうか。
お前が、全能の神か。
自分の持っていない物を持っているそいつが堪らなく羨ましかったからしばらく行動を共にすると、なかなかどうしてその理由がわかる。
そして次に男に芽生えた感情はドス黒い物だった。
全能の神とやらはどこまで耐えうるのだろうか。
試して、みたい。
本当にそれは全能なのか、どうか。紛い物ではない本当の力を持っているのかどうか…試してみたくなったのだ。
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イヴとエマにおみやげの名前をつなげた銀細工のネックレスを渡すと、イヴは素直に喜んでエマは少し驚いたような表情をしてから笑ってくれた。
その様子を見ていたディルクが少し意地悪げに笑っていたが、まぁいい放置だ。
そう思って自分の椅子に座ったが、ディルクがこっちに歩み寄ってきて一枚の紙を手渡してきた。
「なに?」
「まぁ読めって、お前にとっちゃ嬉しい事だとおもうぜ」
そう言われて紙を開いてみると、中には援軍を派遣したことの知らせが書かれていた。
なんでこれが俺にとって嬉しいんだ、と少し疑問に思いながら読み進めていると、なるほどどうして確かに俺の助けになるものだった。
援軍が来れば戦力に余裕が出るために、到着してしばらくは事務方に就いていいということらしい。この報せにそれなり以上に嬉しくなって浮き足立っていると、視界の端でイヴとエマがネックレスを話題にして盛り上がっているのが見えた。これから事務方になるということは必然的に彼女たちの相手もする必要が出てくるということになる。
ううん。
人の死体を見ないで済むというのは嬉しいがしかしそれは面倒臭い。
依頼を探すの専門にしたいな、なんていう甘い考えが通るわけもなく、ディルクに軽く言ってみたら一蹴された。リーダーに言うまでもないとの事だ。まぁそうだろうな。
「あ、そうだ渡し忘れてた、お前に武器が届いたぞ」
ほれ、と渡された紙袋を開いてみると中には五本の指輪のような物に糸が付き、その糸がブレスレットに巻きつけられている物だった。
武器、というよりは手品師のグローブの様なものに見えるこれだったが、ディルクに言わせれば魔力を通せば自由自在に動かすことが出来て、更にその硬さは人の骨など容易に砕く程らしい。
なんてオーパーツだよ。
少し驚きながらも、指輪のような物を指に通してみれば思った以上にしっくり来る。
糸は半透明の無色で、光が反射でもしなければ見ることはほぼ不可能に近いが不思議と行使者である俺は糸がどこに存在して何に触っているのか、その全てを感じ取ることが出来た。
「すごいな、これ」
「だろ?まぁ自慢したい気持ちもわかるができるだけ隠しておけよ、俺達にもあんまり詳しい事は話すんじゃねぇぞ」
そんなもんなのか、確かにディルクの武器は見たことないな、と思って武器を手につけて椅子に座る。
確かいつ襲撃が来てもおかしくないみたいな話があった気がするし、アクセサリーにも見えるこれなら別につけていても問題ないだろう。
そう思いながら左手の人差し指からでてる糸を操作する。
ただ出し入れするだけならあまり魔力の消費はないが、形を作る…つまり硬化しようと思えばそれなりに魔力を消費する。
あまり多くは形状変化させることが出来ない上に…おそらく時間的な意味でもかなり制限がかかると思われる。
つまり使う時は一撃必殺が確定している時に限定するのが望まれるわけだ。真正面から敵が自分の使う武器を知っている場合は殆ど勝ち目はないと思っても良いだろう。
まさに、暗殺向けというわけだ。
ピーキーじゃね…
と少し呆れてしまうがまぁ暗殺なんて言う職業がまずあまり見るものではないしそれに適応した武器も妙ちくりんな性能をしていてもおかしくはない…と思っておこう。なんでこんな武器のために言い訳を考えなければならんのじゃ。そんなことを思いながら仕事に取り掛かろうと思って机に視線を戻すと、視界の端で目を輝かせている人がいるのに気づいた。っていうかイヴだった。
「…なにか好きな動物は?」
「たか!」
「おっけー」
ちょうどいい練習だと思って糸を茶色に染めて鷹を作って羽ばたかせてみせると、「ふぉおおおおおおおおおおおお!!!」という奇声を上げていた。
うん。
なんて言うか。悪くないな。




