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異世界の歩き方  作者: レルミア
教師編
76/104

苦い復讐

「三つの部隊が全滅か…」


 机に書類を放り投げ、体重を背もたれに載せて大きくため息を吐く。

 ハールソン達を含めた五部隊を派遣した結果、収穫はハールソンの部隊だけだ。もう一つの部隊はハズレに終わり、残りの三部隊はすべて全滅した。

 一向に帰ってくる気配がないので後追いを向かわせた結果…無残な死体が人数分確認された。

 そのどれもがかなりの有力者だったのは確かだ。事実ハールソンも遠目からファームと黒鎧の戦いを見た際には、ファームが居なければ負けていたと確信を持っていた。

 じわり、と背後に灰鴉の影が迫ってきているのを感じていた。

 前任のマギアは一体何を研究していたのか――。

 恐らくマギアに留まらず、各国の魔法部隊とも協力して何かをしようとしていたという予測が出来る材料はある…しかし五国で何をしようというのか。

 人型魔具…その実験成功例…ファーム。

 施設に居た彼を引き取ったのはマギアに就職してから数日だった。

 施設長にはやめておけと言われたものだが…恐らく彼はファームの正体を知っていたために私のことを止めていたのだろう。

 それについては知らなかったことを悔やまれる…が、引き取ったことは後悔していない。

 まぁ、とりあえずファームについては置いておいて…だ。

 戦力の一割を削られたチェイサーズはかなりの痛手だ。

 ヴァルハラにいる人間だけで構成した組織のためにもともと候補となる人間が少ない上、それなりの力を持つ人間を貸し出すというのは国にとってもかなり痛手だ。しかもあの大戦を引き起こし、かつ主力はほぼ全員生き残っていると推測される灰鴉と敵対するのだ。兵を貸すのを渋るのもうなずける。

 正体、最終目的不明のこの組織が出来た理由も不透明。

 こんな組織をどうすればいいのか――。

 かつて接触したであろう秦野国の”神着”にも話を聞いたが、灰鴉はかの蜂起の時にも徹底して姿を隠していたために知ることが出来なかった――恐らく彼らは自分が十傑を裏切る事を予測していた――と言っていた。その彼らが前マギアの研究を狙う理由を知る必要がある。

 ホルンプロジェクト…あいつの部下にホルンと言う人間がいたし…怪しいもんだがそっちは先ず後回しだ。

 会いに行くとするか――。

 前マギア隊長――――


 青の、魔法使いに。


****

 

 教室のドアを開けると、クラスメイトが円を作って教室の中心を見ているのに気付いた。

 教室の端に寄せられた机を見て、中心には大きなスペースができていることを察した篠芽は手前に居たポーシャに声をかけた。


「どうしたんだ?」


 篠芽がそう尋ねると、ポーシャは少し怯えたような顔をして生徒たちの中心を指さした。

 するとそこには、膝をついて苦しそうに呻くカガミと、その前に立つフレデリカの姿があった。


「…おい、何してんだお前」

「…先生」


 少し呆然とした様子だったが、その表情は満ち足りた物だった。

 カガミはこの学校で魔法が使えないからDクラスに居るだけで近接戦闘においてはヴァーチルに次いでこの学校でもいい成績を収めているらしい。

 そのカガミ相手に外からは目立った傷をなしに勝った。

 それが嬉しいのだと推測した篠芽は嫌なものが心のなかに生まれるのを感じた。


「こうなった理由を聞かせてもらおうか」

「…僕が悪いんです」


 篠芽が聞くと、輪の中のアリーヤが手を上げた。

 聞けば、次の実戦において近接の時間稼ぎを誰がするかという話になった時、フレデリカが力を試したいと名乗りでたらしい。

 しかし三人も足止め係にはいらない。だったら強いほうがやればいいのでは、と言う話になり、結果的にフレデリカとカガミが模擬戦を行う事になった…という顛末らしい。

 不味い。

 ここで中途半端に力を自覚させてしまっては先走られてしまう。

 別にカガミをボコしたことはどうでもいい。生徒同士の喧嘩なんて好きにやらせればいいと思うし、ましてやこれはれっきとした模擬戦だ。そこはいい。だがその結果が問題だ。どうせやるならカガミに勝ってもらうべきだった。

 どうする。

 今ここでその勝利の余韻を叩き折ってやるべきか。

 だがそれでどうする。俺には勝てなかったが盗賊程度ならば勝てるはずだ、と考えてしまえばそれで終わりだ。だったら手足を折るか?

 …しょうがない。


「ここは一応軍学校…か」


 ボソリとつぶやいて、諦めたようにため息を吐く。

 

「今日の一時間目は潰して…少し話をしよう。今の模擬戦で浮ついた気持ちがあると思うが鎮めてよく聞け。これからお前たちが経験するのは本当の殺し合いだ」


 止めるのが無理ならば、いっそやらせてしまおう。

 

「悪いが命の保証は――無い」


****


 一週間後。

 盗賊の二人が別々になったところを各個撃破する、という作戦を立案したDクラスの面々は薄暗い路地に集まっていた。


「…じゃあ、確認だ」


 アリーヤのその声はいつになく冷たく耳に届いた。

 これから僕たちは、人を殺す。

 その実感は未だに無い。


「目標は二人。斧槍を武器にするのと曲剣を武器にする人間…斧槍をアルファ、曲剣をベータとする。フレデリカの復讐はアルファが目標だ。どちらも似たような格好で背格好はほぼ同じ。顔も似ていることから兄弟と推測される…彼らの殺人歴は…少なくて、二百」


 知っていた情報だが、アリーヤがそう言うと周囲がざわついた。

 やはり知っていても、二百人もの人間を殺した人間と戦うというのは…怖い。

 

「篠芽先生は他の教師の気を引いているために援護は無い…最初から最後まで僕達の任務だ」


 そして、頼りになる人間は今は居ない。

 全身を黒いコンバットスーツで包んだDクラスの面々は、息を呑んだ。

 準備はある。

 技術もある程度授けてもらった。

 しかし覚悟と言うのはどうしても教えられてできるものではない。

 

「もう作戦は行き渡ってるだろうしあまり多くは言わない…だが基本は分かっているだろうけど…。危なくなったら即撤退。これを厳守だ。良いな」


 アリーヤがそう言うと、皆は無言で頷く。

 そしてそれぞれの組で別れて裏路地の暗がりへと溶けこんでいった。

 

「…成功すると思うか?」


 残ったヴァーチルがアリーヤにそう尋ねると、アリーヤは目を細める。


「…どうだろうな。誰かが死んでもおかしくない…。でも僕たちは軍学校に入ったんだ。いずれこういう事は起きる」

「それはまぁ、そうだな」


 ヴァーチルがそう言うと、耳につけていた小型の無線機を模した魔具に知らせが届いた。


『こちらクイーン、アルファを確認、予定通り一人よ』


 そう言うのは偵察のクイーン部隊の一人であるチェルシーだ。

 彼女は風魔法を駆使して空気を歪め、光を反射させる事が出来るために一方的に相手の事を見ることが出来るために偵察部隊を任せてある。


「ありがとう、ベータは?」

『ベータは他の盗賊と一緒に肉を食べてるわ…盗賊の数は二。どちらも近接型…だと思うけど信用はしないで』

「了解…じゃあ、ジャック、スペード班、仕事を始めてくれ」

『――了解』


****


 ジャック班の構成人数は四人で、アルトリアこと僕、フレデリカ、ジョセ、マミ、だ。

 これは基本的に最終的な実行部隊となるが、その手伝いをしてくれるのがスペード班のカーム、ヴァーム、カーム、デイジーだ。彼らは基本的に僕達のサポートをしてくれることになる。

 

『ジャック班、あなた達まで真っ直ぐ向かってるわ、距離にしてあと五十。そろそろ初めて』

「了解」


 小さくつぶやいて、ヴァームに目で合図をする。

 ヴァームが得意とするのは土魔法だ。

 ぼこりと小さな音を立てて地面に穴を開けてジャック班をそこに侵入させ、リオが風魔法で中に空気を供給しつつヴァーム達スペード班も近くの家の壁の中に隠れる。

 四人の息の音だけが響く何も見えない光が一切入ってこない穴の中で、不意に音が響いた。


『不味いぜ、ベータが移動を始めた』


 そういうのはクイーン班のカガミだ。


『大丈夫か?君は近くで見張ってるんだろ?』


 少し心配そうにアリーヤがそう言ったが、カガミは笑う。


『任せろ、俺はかくれんぼで負けたことはねぇよ』


 などとふざけて居るが、いざというときは隣に居るメルティが加速魔法を全力で行使して離脱する手はずになっている。

 ベータはあまり魔法が使えないと言う調査結果を信じるほかないが、三段階まで使えば撒けるだろう。

 とりあえず彼らの問題は頭の外に置いて、アリーヤの指示を待つ。


『どうするのアリーヤ、もうアルファはジャック班の上に着くわよ』

『…ベータはアルファの方に行ってるのか?』

『いや、どうも違う方向っぽいぜ、飯でも買いに行ってんじゃねぇかな』

『そうか。ならいい…死ぬなよ』

「…うん」

『ジャック班、アルファがあなた達の上を通るまであと…二十秒前後よ。準備して』


 チェルシーの言葉に反応してアルトリアが剣を引き抜くと、音で剣を引き抜いたことを知った他の三人も倣うように武器を抜く。

 四人の息遣いがだんだんと荒くなっていくのがはっきりと聞こえる。

 …皆緊張している。

 怖い。

 でも。

 死にたく――無い。


『来るわよ。あと五秒でジャック班の上を通りすぎるわ。アリーヤも準備良い?』


 5


『ああ』


 4


『…死なないでね』


 3


「うん、絶対、帰るよ」


 2


『――来るわよ』


 1


『ダメッ!すぐに逃げてッ!!!!!!!!!!!』


 さぁ飛び出すぞと勢い込んだところで、ポーシャの悲痛な叫び声が響いた。

 イヤホンから漏れてその音が四人に、そしてスペード班に響き渡った瞬間に全員の意識が切り替わる。


”撤退”


 何らかの理由があるのかは知らないが撤退する必要がある――と非常時用に作ってもらった通路を駆けていくと、自分たちが居たところの天井――つまりはアルファが歩いていた地面を砕いてアルファが降下してきた。

 バレてる――ッ!


「おいおいおいおいおいおいおい!!逃げるのかよお前らァッ!」


 叫び声と共に投擲されたナイフは入り口からの光を反射して素早く僕達の背中に向かって飛んでくる。

 このままだと全員に当たる――。

 そう判断したアルトリアは咄嗟に反転して空気を圧縮して魔法壁を生成したが、一本のナイフが壁から抜け出て左腕に突き刺さった。


「ぐっ――」

「大丈夫か!?」

「問題ない!早く逃げて!」


 逃げながら魔法壁を設置していくがその魔法壁は容易に突破されていってしまう。


『ジャック!そのまま合流地点まで撤退!スペードはジャックの援護をしてくれ!』

『了解!』

「クソッアルトリア!前後かわれ!俺が応戦する!」

「こんな洞窟でジョセが炎魔法使ったら一瞬で酸欠だ!それは無理だ!」

「クソッ」


 重装備のくせにすさまじい速度で迫るベータは狂ったように笑い続けている。


「――ンの化け物ッ!」


 たまらずかまいたちで反撃をしたが、手刀でかき消されてしまう。

 どんどん迫ってくるアルファの姿を見てたまらずアルトリアが叫ぶ。

 

「不味い!エース!追いつかれる!」

『後十メートル進んだらその場でふんばれ!』

「はぁ!?殺される!」

『いいから!』

「…信じるよ!スペード…!十メートル先で停止!」

「了解!」


 彼らが答えたのと同時に十メートル地点へ到達。

 その瞬間。

 地面がぼこりと隆起し、天井が開いた。

 勢い良く地下洞窟から射出された僕たちはそれぞれ着地し、スペード班と合流してエース班が待ってる合流地点まで駆けていく。

 が、すぐさま地面からアルファが天井を砕きながら現れた。


「はっはっはぁッ!なかなか面白いことしてくれるじゃねぇか!」


 本当に楽しそうにそう言いながら、アルファは背中の短槍を引き抜いた。

 

「死ねぇッ!」


 グン、と思い切り体を捻らせて投擲された槍は彼我の距離を一瞬で詰め、フレデリカの背後に襲いかかった。


「危ない!」


 咄嗟に地面を蹴ってフレデリカを突き飛ばしたが、飛んできた短槍はアルトリアの左肩に深々と突き刺さった。

 

「…へぇ、お前らのその服すげぇなぁ。普通なら横からでも貫通するんだがよぉ」


 ニタニタと笑いながら、足止めされたスペードとジャック班に近づいていく。


「まずい…やられた…」

『被害状況は?』

「僕の左手はもう使えない…だけ…だけど…」


 ちらりと背後に居る仲間たちを見てみると、彼らは既に恐怖でその場に釘付けになっていた。

 そういうアルトリアも痛みが逆に恐怖を緩和してくれているだけで、恐らくこれがなければ自分とて恐怖で釘付けになっているだろう。

 どうする、どうすれば生き残れる…!


『なら、大丈夫だ』


 確かなアリーヤの声が無線機から響いた。


「はっはっはー!主役の登場だ殺人鬼ィッ!」


 背後から走りながら魔法を詠唱するチェルシーがそう叫びながら登場した。

 

「吹き飛べェッ!」


 渾身の風圧魔法でアルファを吹き飛ばすと、チェルシーはすぐに僕を立たせる。


「大丈夫?」

「う、うん」

「やるじゃん、あんた。見なおしたよ」


 そう言ってチェルシーが笑うと、少し遅れてやってきたリオが僕を抱え上げる。

 あの、女子に抱えられるって結構恥ずかしいね。


「他に負傷者は?」

「居ないよ」


 リオが属する回収班のハート班で今出張ってきたのはリオだけらしく、それを聞いたリオはすぐに僕を抱えて走っていった。

 すれ違うカガミとメルティが悲痛そうな目でこちらを見てくるが、笑って返してそのまま合流地点へと撤退していく。

 

「…さぁ、第二ラウンドといきましょうか」


 両手に魔法陣を生成しながら、チェルシーは立ち上がるアルファを見据える。


「早く復活してよね、特にフレデリカ、あんたを死なせないためにあいつは頑張ったんだから…」


 後ろを見ずにチェルシーがそう言うと、フレデリカは剣を構えながらチェルシーの横に並ぶ。


「もう、大丈夫。ありがとう」


 今目の前に、親の敵が居る。

 そんな相手に、ビビってられるか。


「いい気概ね!さぁ行くわよッ!援護するわ!」


 そう言ってアルファに対して攻勢をかけようと右足を踏み出した瞬間。

 ドスン、とフレデリカの右足に衝撃が走った。

 その衝撃の正体を知るよりも先に、踏み出した右足から力が抜けて崩れ落ちる。

 右隣のチェルシーが居たところからも同様に、体が崩れ落ちる様な音が響いた。

 いったい何が――と自分の右足を見ると、深々と小さなナイフが突き刺さっているのが見えた。

 油断は無かった。

 それなのに、アルファがナイフを投擲したのは見えなかった。

 失敗した。

 力を上げる事ができる魔法を行使することが出来るのは現状リオのみだ。

 他の人間が人一人担いで逃げられる程アルファの動きは遅くはない。

 

「逃げ…て…!」


 痛み始めた右足を引きずりながら後ろを振り返りそう言うと、歯を食いしばっていたアルトリア達は我に返った用にはっとしたが、彼らが逃げ出すことはなかった。

 震える脚をこらえ、音が止まない歯を食いしばり。

 アルファとフレデリカ達の間に立ちはだかった。


「僕――は、一度フレデリカに助けられてるからね」


 なんで、と言う言葉を込めた視線を感じたのかアルトリアがそう言う。

 恐怖のために笑顔しか浮かばなくても、彼はそう言って立ちはだかった。


「…アリーヤ、どうしよう。皆…逃げない」


 フレデリカがそう言うと、無線の向こうから聞こえてきたのは苦しそうなアリーヤの声だった。


『助けに行きたいが…こっちももうダメだ。この作戦は全て読まれていた。こっちのチームで立っているのはもう僕だけだ』


 そんな。

 援護も期待出来ないどころか、向こうのチームも散々な結果になったらしい。

 全滅。

 その言葉が彼らの脳裏をよぎる。

 全員死ぬ――それか、もっと酷いことに。

 ああ。

 私のせいで。

 私のせいで皆が――――

 声にならない叫び声を上げ、アルトリア達とアルファが交叉するその直前に、聞き慣れた声が届いた。


「そこまでだ」


 二つの勢力の間に突如割り込んだその人影は二つの勢力を押し返すように元の位置に弾き飛ばす。

 アルトリア達の隙間から見えたその人影を見た瞬間に、フレデリカは安堵の涙が頬を伝うのを感じた。

 良かった。

 皆、助かる。


****


 合流地点に戻ってきたポーシャを背後から襲って壁にたたきつけたのはベータとその仲間の盗賊たちだった。

 その対応のためにアリーヤが魔法を行使し、ヴァーチェが飛びかかったが、物の数秒でヴァーチェは沈められた。

 アリーヤの魔法も全て容易に弾かれてしまう。

 これが、本当の戦士。

 いかに自分たちが甘えた環境で生きてきていたかを実感させられたアリーヤは、目前にベータの武器の刃が迫るのを見ながら死を覚悟した。

 後数センチ進んでいれば喉を切り裂かれていたという瞬間に、その刃は見えない壁に阻まれた。


「…全く。あの人も無茶をさせすぎますね」


 そう言いながら現れたのは青い髪に赤い瞳を持った教師――ホルン先生だった。

 ホルン先生の姿を見た瞬間に飛び退いたベータは、武器を構えながらゴクリと息を呑んだ。

 おそらく敵は女だと分かっていても、彼女が放つオーラがすさまじい事に気付いて彼らも身の危険を感じているんだと思う。

 そうよそうが出来るほどに、素人目に見ても彼女と盗賊たちの実力差は圧倒的だった。

 彼女が不意に腕を振るえば、ベータ以外の盗賊が氷の針で壁に磔にされ、返す腕で盗賊の足が凍り、そして指を弾くと盗賊の胴体に巨大な風穴が空いた。

 圧倒的なそれはもはや戦いではなく、処刑。

 そして初めて見る人間の臓器に、アリーヤ達はその場で嘔吐した。


****


「篠芽…先生…」


 呆然と、今自分の目の前に立つ男の名前を呼んだ。


「おう、よく頑張ったなお前」


 あはは、と軽く笑って余裕を見せながら言う篠芽でさえも、アルトリアにとってはアルファに勝てる人間だとは思っていなかった。

 それほどまでに、見せつけられた実力は強大すぎた。


「…はん、ぞろぞろと増えやがって、てめぇもどーせ雑魚だろォ?」


 ニヤニヤを笑いながらそういうアルファの相手をせずに篠芽は拳を握って腰を落とす。

 腰に剣を装備しているにもかかわらず拳を構えた篠芽の行動を挑発ととったアルファは歯を食いしばりながら斧槍を振り回した。


「てめぇ調子に乗るんじゃあ――ッ!」


 そう言って斧槍を突き出しながら一歩を踏み出した瞬間。

 その脚が地面につくことはなかった。


「…へ?」


 空を切った脚が地面につかずにバランスを崩して地面を転がったアルファは自分に何が起きたかの理解が追いつく前に、その首から上が消え去っていた。


「盗賊風情に負けるほど弱くねぇよ」


 返り血を浴びた篠芽が手に持っていた丸いものを地面に転がしてそう言った。

 処刑。

 その言葉がアルトリア達の脳裏に焼き付いた。

 そして今の今までは、自分たちが処刑される側だったと言う事実を思い出して足がすくんだ。

 これが、命をかけた戦い。

 自分たちがいかにそれを甘く見ていたかを痛感し、そして。

 吐いた。

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