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異世界の歩き方  作者: レルミア
教師編
72/104

サバイバル

 翌朝。

 朝四時。

 俺こと篠目悠真はホルンに連れられて中庭に来ていた。


「はえーよ…」


 大きなあくびをしながら小さくそうつぶやく。

 既にホルンは杖をもって動きやすい格好をしており、いつでも出来ると言った感じだ。

 

「魔法の練習がしたい、でしたよね篠芽さん」

「…ええ」


 まぁ付き合ってもらうんだし昨日のなんやかんやはとりあえず置いといて真剣にやろうと思って頭をたたき起こしてからホルンに返事をする。


「まぁ大体の察しはつきますし…要するに戦い方を知りたいんですよね」

「話が早くて助かります」

「私もその悩みには思い当たったことがありましたからね。とりあえず緑魔法制限を掛けて戦ってみましょう。当たってもちょっと殴られた程度の痛みしかありませんし安心していいですよ」


 緑魔法制限。

 一般人でも稀に使える人間が居るレベルの魔法だったか。

 とりあえず手から小さい火球を生成してホルに放り投げる。

 放物線を描いて飛んでいった火球は一歩後退したホルンにかわされて、呆気無く地面にぶつかって何の衝撃も生むこと無く消えていった。

 うん。

 まぁこうなるよな。

 ってかどうやってこれで戦えというのだ。

 これだったら剣引き抜いて襲いかかるわ。

 ――というのが、この世界で幾度と無く起こっているために魔法は軽視されがちだ。

 だが。

 ホルンは違った。

 ぽん、と間抜けな音を響かせながら手から火球を射出した。すると放たれた火球は篠芽のと同じように放物線を描いて篠芽の目の前に着地して、そして小さな爆発を起こした。体にダメージの有る程の爆発ではなかったが、しかし放たれたのは爆風だけではなく。

 無数の小さな水を圧縮したものも篠芽に向かって飛来した。

 慌てて地面を蹴って後退するが、面で襲い掛かってくる水弾を躱すことが出来るはずもなく篠芽の服の随所に水のシミができてしまった。

 

「今のが、緑魔法限定?」


 少し不審げにそう尋ねてみたが、ホルンはドヤ顔で頷いてみせた。


「今のは三つの魔法を混成させたんです。先ず水弾を生成し、魔力で包む。そしたらその上に時限式の爆風を発生させる小さな炎魔法を生成してからさらに炎で包んだんです。これを素早く丁寧にやれば相手には一件火球を生成したようにしか見えません…が、その実態は爆発する魔法榴弾です。意外性抜群、ってやつですね」


 あはは、と笑うホルンは簡単そうに言ってくれるがかなり難しいことだ。

 三つの魔法を同時に生成するなんて言うのは三つのタスクを同時にこなすのと同意義である。要するに片手でピアノを弾きながらもう片方でオカリナを吹き、更に脚でドラムを叩くようなものだ。楽器やらんからこの難しさがいかほどかは想像しづらいが、三つのタスクをこなして結果的に一つの何かを作ると言う意味においてはこの喩えは合っている。

 

「最大、いくつまで同時詠唱出来るんですか?」

「そうですね…企業秘密なのであまり詳しくは言いませんが、両手の指では足りないことは確実ですよ」


 十…だと…

 篠芽が呆然としていると、ホルンが笑いながら口を開いた。


「先日見せていただいたあのレーザー魔法…あれを使った魔法も思いついたんですよ。かなりの広範囲に甚大なダメージを引き起こすものなのでここでは出来ませんが…機会があれば見せてあげますよ」


 是非とも見たくない。

 笑顔でそこら一体を焦土に変えるホルンを想像したらグロッキーになってきたわ…。

 うう、と呻きながら地面に座ってとりあえずは同時詠唱の練習をする。

 とりあえず右手に火球。左手に水球と言った具合に魔法を生成しようと思ったがどうしても火球が優先されてしまう。火球の後に水球を作ろうと思っても球状を保てずに揺らめいた水球はすぐにポシャってしまう。


「ぐぬぬ…」

「あはは、そう簡単にできるもんじゃありませんよ。私は学校へ行く用意と朝食の用意をしてきますから、頑張ってくださいね」

「りょーかいです…」

 

 そう言って笑って去っていくホルンの背中を見ながら、再び作業に没頭する篠芽だった。

 

****


 チェイサーズ、とは。

 ヴァルハラに集った兵士によって組織された戦闘集団だ。

 その人間は漏れ無く先鋭である…はずだった。

 眼の前を歩くファームを見るまでは、ヴィはそう思ってチェイサーズに選ばれた事を誇りに思っていた。

 

(なぜこんな男が選ばれるのか…)


 残滓と対敵すればリーダーのハールソンとマートの影に隠れ、ニクソンとテンに守ってもらう始末。

 さっさと前線に立たせて死なせてしまえばいいのにと何度考えたかもう数えるのも馬鹿らしくなってきた。

 さしあたっては奴が死ねばチェイサーズは全員が先鋭ということになるのだし、ちゃっちゃと死んでくれないかな、と思いながら林の中を歩いているとふと隣を歩くテンが声をかけてきた。


「お前、ファームの事嫌いだろ?」


 ニヤニヤと笑いながらそう言ってくるが、馬鹿正直に嫌いだと言うやつは居ないだろ。


「まぁ、なんであの実力で付いてきたのかと言う疑問は残りますね」

「ま、確かにあいつはぶっちゃけ言って強くはない…と思ってる」


 テンの言葉の端に気になるものを感じたヴィがテンの顔を見ると、彼女の顔は真剣なものになっていた。


「だがあいつはあのジブリールの弟であり…めったに他人を褒めないあいつが『あいつは私の最高傑作だ』と胸を張る程の奴だ。まぁあいつが戦ったところは見たことはねぇがな」


 そう言ったテンの表情はまたひょうきんなものに戻っていた。


「ま、今は生暖かい目で見守ってやれよ。どーせ何も起こらんさ。起こったとしてもおねーさんが守ってやるからよ!」


 あはは!と笑ったテンはそのまま脚を早めてファームに飛びついていく。

 最後の研究施設まではあと十数時間。

 どうせ任務が終わればあいつはおさらばだ。テンの言うとおり我慢してみるか。


****


 このグループにテンが選ばれた理由もわかるな、とハールソンが感心したように小さく息を吐く。

 するとその様子に気付いたマートが顔を上げた。


「どうしたんです?」

「いや、なんでもないさ」

「そーですか…そういえばこないだ友達に聞いたんすけど、あれ知ってます?」

「あれとは?」

「あ…あのー…なんて言ったかな。ベルフェゴールの逸話…だったかな。シュトゥルムガッドのツェルケを滅ぼしたベルフェゴールは自らの力を恐れてある城に引きこもってる…とか。なんとかそんな感じの話だったんですけど」

「ああ、知ってるぞ」


 シュトゥルムガッドのツェルケを統治していた貴族の皇子の成れの果て…。

 ベルフェゴール。

 何故魔憑きになったのか、と言う原因は未だ解明されていない。そもそも第四都市ツェルケの跡地は数多くの残滓が未だ徘徊していてとてもじゃないが調査出来るような状態ではない。

 その逸話とは。

 ある調査隊が残滓をくぐり抜けてツェルケの城に入ることに成功した。

 そのエントランスで待ち構えていたのはかつてテセウス、マーズと共に軍を率いていた男…だったものだった。

 面影がある程度に原型がとどまっていたその”騎士”は調査隊を真っ先に攻撃することはなかった。

 威嚇のように剣を振り回し、ただこう言ったという。


【去れ。去ってくれ。深淵をこれ以上広げるわけにはいかないのだ】


 掠れて聞き取りづらい声で繰り返したその男に、その男と知り合いだった調査隊のゾルバと言う人間が声を荒らげたという。

 何故こうなってしまったのか。と。

 そう聞かれた男は黒い液体を吐き出しながら答えた。


【皇子は深淵を覗いた。そして喰われた。或いは貴様らも――】


 それだけ言って男は剣を引き抜いたという。

 泡を食って逃げ出した調査隊が再び編成されることもなく、その報告レポートも調査隊の戯言だと片付けられるようになってしまった。

 

「うそ臭いっすねぇ…魔力に侵された…ってことなんでしょうけど、そんなんになってまで皇子を守るとは思えませんがね」


 うへぇ、と何か苦いものを食べたような表情をしながらマートはそう言うが、ハールソンにはあまり不思議には思えなかった。

 騎士と言うのは主に忠誠を誓う物だ。恐らくテセウスとマーズも当時城に居たのならばかの男と同様に魔物となっていてもなお主を守ろうとしていただろう。

 それは想像に難くない。

 しかし疑問なのは”深淵”という言葉だ。

 その二文字の意味するところとは、一体。

 そのことについて話してみたいが、既にマートの意識は別のところへと移ってしまっていた。

 この世界に一体何が起きているのか――その事実をハールソンに知る由もない。


****


 午前七時。

 学園に登校した篠芽は結局混成魔法を行使することはおろか同時詠唱すらも使えなかった。

 思った以上に難しい課題にげんなりしながらもどこかで篠芽は胸を膨らませていた。やはり超えるべきハードルがあるのは嬉しい。

 今日で教師生活二週間目に突入する。ということは一ヶ月経過した後の無人島でのサバイバル研修もあと三週間を切ったということだ。

 一週間しか経過していないが、全員の動きはかなり粗が取れてきていて無抵抗ならばもう少しで攻撃を食らうだろうというのが分かる。

 といっても、あくまで俺の身体能力は最下級兵士にまで落とされているわけだが。

 教室に入って教卓のイスに座って頬杖を突く。

 今日はどんな授業をしようか、そう考えていると一番先に入ってきたのは飴を咥えたチェルシーだった。

 俺の姿を見たチェルシーは一瞬面食らったように体を固めたが、すぐにため息と同時に動き出して席につく。

 何かしらあるんだろうが別に興味ないのでスルーしていると、チェルシーが教卓の前にやってきた。

 

「ねぇ先生」

「…何?」

「ひどいなぁ、そんな邪険にしなくてもいいじゃん。最近先生が放課後にフレデリカちゃんと何かしてるのを見たんだけど、なにしてるの?」

「あいつが鍛えてくれって言うから、鍛えてるだけだよ」

「ふぅん。なんで?」

「なんで…って、別に言う必要ないだろ?」

「まぁそうなんだけどさーやっぱクラスメイトが思いつめた顔してると気になるじゃない?」

「そんなもんかね」

「そーよ。まぁ言う気ないなら良いわ。それよりなんだけどさ、来月のサバイバル演習の練習全くしてないけどいいの?」

「サバイバル演習ったって何すんだよ。俺を捉える練習してるんだからうさぎぐらい狩るのは簡単だろ?」


 そう言った俺に対して、チェルシーは呆れたようにため息を吐いた。


「あんたねぇ…この時期うさぎなんてあんまり居ないわよ。そもそもサバイバル演習の実体はクラス同士の蹴落としあいよ?そんな中で呑気にうさぎ狩りなんてやってらんないわよ」

「でも一ヶ月間無人島で過ごすのに食料はどうすんだよ」

「…あんた本当に教師なの?食料は最初に配られるものである程度凌げるのよ。でもその先は無理。そうするとまず考えるのが他クラスからの強奪。Aクラスは実力的にトップだから格下を狙おうとするのよ…つまり。私達をね。BクラスはAクラスに金魚のフンみたいにくっついてるからまぁ生き残るし、Cクラスは私達よりは強い。だからいつも私達のクラスが最初に脱落するのよ」

「お、思ったよりシビアなんだな…」

「話してる内容はシビアに聞こえるでしょうけど、先生の強さを知ったら実際甘いわよ。Aクラスの動きも今考えてみれば鈍いし。皆馬鹿正直に正面から突っ込んでくるしで先生からすればあんまり脅威じゃないわよ」

「…でもお前たちには勝てるレベル…ってことか」

「悔しい事に、そうなのよ。Aクラスは基本的に魔法も近接もどっちもこなせるやつばっか。中でも首位の奴はやばいわ。あんたに一対一でも一撃望みがあるぐらいよ?あいつが振った刀身を見た人はDクラスに存在しないわ。近接が一番つよいカガミですら見きれなかったんだもの」


 肩をすくめてそう言うチェルシー。

 確かこいつは魔法専門か。ただでさえ近接が苦手なのにそんなやつ相手にしたらそりゃ絶望的にもなるわなぁ。


「そーか…じゃあそろそろそういう対策をするか」

「お、やる気になってくれた?」

「ああ。俺だって負けたくないしな」


 篠芽がそう言ったところでチャイムが鳴って続々と生徒達が教室に入ってくる。

 

「じゃ、頼んだわよ、センセ」

「あいよ」


 そう言ってチェルシーが席につくのと同時に始業ベルが鳴り響く。

 これどうやって鳴らしてんだろうな。後で聞きに行こうかな。

 そんなことを考えつつ、今日は実戦はやめにすると伝える。


「今日は来月から始まるサバイバル演習のことについて色々と話していきたいと思う。俺自身サバイバルは結構やった事がある。っていうかさっき話しを聞いたんだがお前らやったことあるのか?」


 チェルシーがあまりにも詳しかったので聞いてみたが、どうやら彼らは未経験で、予め配られるルールブックのような物を熟読しているらしい。

 彼らの中でもサバイバル演習の期待値は高い、ということの現れだろう…が。


「あー…多分かなり過酷だと思うぞ。食料はあるといったがそもそも一人で一週間の食料を持って移動するのはかなりキツイ。よって拠点を構えることになるのは容易に想像出来る。ここで考えるのが洞窟だ。あるかどうかは知らんが洞窟を拠点にするのはやめておけ。恐らく魔力を使うのを最小限にしつつ雨風しのげて大きな所…そう考えると洞窟は確かに最適だが悪いことは言わないからやめておけ。地域によるが洞窟ってのは基本的に脚が滑りやすい。転んで頭を打ったなんて事になれば最悪即死だ。更に傾斜。洞窟は上に向いているか下に向いているかでかなりその危険度が違う。上に向いているもの…つまりは上から下に向かって伸びている洞窟は上から岩石が落ちてくる可能性がある、下に向かってれば足を滑らせて落ちれば即死と言わずとも苦しんで死ぬことになる。これもダメだ。ある程度条件が揃えば確かに洞窟はいいところ…だがそういうところには大抵動物が住んでいる。その場合は…縄張りを荒らしたと思われれば即刻戦闘だ。冬眠前の熊と戦ってみろ、すぐに頭を吹き飛ばされるぞ。更に気温と湿気だ。洞窟ってのは雨風がしのげるから温かい場合が多い。そういう所にはまだ虫がいる。せっかくの食料を虫に食われたとか、湿気で腐らせたとあっちゃやってられねぇだろ?」


 篠芽がそう言うと、アリーヤが口を開いた。


「確かに…ですがどこに拠点を作るべきなのですか?」

「そりゃ簡単だ、川の近くの高所だ。丘のような所があれば完璧だな。そこで魔法を駆使して小屋を建てろ」

「ですがそれではあまりにも目立ちませんか?」

「それでいいんだ。林を背負った少し開けた所に作るのがいい。そこなら――罠も作りやすい」


 罠。

 その言葉を聞いて生徒がどよめいた。

 確かにあまりクリーンな話ではないが成功法で勝てない以上こういった物に頼るしか無い。

 

「最初にお前たちは船で砂浜の一箇所に集められる。Dクラスから先に、数分ごとに全クラスが解放される。視界が解放されたら先ず中心を見ろ。そこに山があれば川か沢はほぼ確実にある。なかった時は…まぁ頑張って探す必要があるがこの時点で分岐が存在するんだ。山があった場合は海岸を歩いて川を探すのが良い…しかし無かった場合はどうするのか…。とりあえずそん時は川があろうとなかろうと林と平原の境目に陣取れ。そして先ず集合地点の近くの森で罠を仕掛けるんだ。すぐに作れる軽いものでいい。別にそこで倒す必要はないからな。重要なのは”このクラスは罠を張っている可能性がある”という心理状態に相手を引きずり込むことだ。そうすることで後で拠点を構えるときにも生きてくる」


 要するにミスリードだ。

 林といういかにも罠を張りやすいところと、平原という罠の張りにくい所が存在すればどうしたって林側に罠が存在すると考えてしまう。何故林の中に作らないのか、という思考にも至るだろうがドン臭い奴が罠に引っかからないためというもっともらしい理由を自分でこじつけてしまうのが人間というものだ。そこに人がよく歩いている道を作り、罠を隠しておけば十中八九敵は引っかかる。

 正々堂々とやる必要はどこにもない。

 勝てば官軍。勝てば正義、なのだから。

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