二人目の主人公
「あー…なんか世の中が面倒になってやがる…」
暗い地下水路で自分のベッドに腰かけながら紙を広げてネズミが唸る。
その中には相関図が雑に描かれていた。
「まず新たに編成された連合軍”チェイサーズ”…こいつと敵対するのが灰鴉…基本はこれだ。灰鴉の目的は分からんが七つの大罪ってやつをどーにかこうにかしようと思ってると考えられる…。そもそも灰鴉ってなんだっけ」
ポリポリと頭を掻きながらネズミが新たに巻物を山の中から引っ張りだして広げる。
「あったあった。灰鴉…頭首のローゼンクロイツが設立した組織であり…その当初の目的は死者の復活にあった…。ところがジル・ド・レェがローゼンクロイツの才能に目をつけ、ローゼンクロイツの才能に惹かれて集まった魔術師たちも全部ひっくるめて配下に収めている…と。こりゃ手強そうだな…」
コーヒーを口に含み、元の紙に視線を戻す。
「”チェイサーズ”と”灰鴉”この二つの組織の対立に絡むのが第三勢力”アスクレピオス”医療団体のこいつらだけど実戦部隊の実力はなかなか…こいつらのお陰で血の平原の時にいろんな奴らが助かった訳だ…でも血の平原でベルベットが死亡。かなりの実力者が居なくなったわけだ。ってかアスクレピオスの頭首って誰だ…?後で調べてみるか…こいつはどっちかって言うとチェイサーズ寄りの組織…灰鴉寄りの組織はあいつか。秦野国の十傑。殆ど死んだがアマテラスの死体は出てないらしいから…どうなんだろうな。っていうか不自然過ぎる侵攻なんだよな。秦野国には神降ろしをする理由がないしやったところでメリットもない…灰鴉にアマテラスが唆されるほど馬鹿にも思えねぇし…そうすっと絡んでくるのは秦野国の実質的な為政者の老議院か…こいつらが灰鴉と組んでると見るべきだな」
カリカリと新たに老議院という文字をかきこんで灰鴉と結びつける。
「勢力的には同等…ここでグーデルバイト帝国がどう動くかによってこの二つの勢力の均衡が揺らぐ訳だ…今まで沈黙を保っていたグーデルバイト帝国…”チェイサーズ”にも居ねぇみたいだしあそこは一体どういうつもりなんだか…グーデルバイト帝国に関わりがあると踏んでたベルベットも死んじまったし…久しぶりに忍び込んでみるかなぁ…でもなぁ…グーデルバイトこえぇんだよな…」
はぁ…とため息を吐く。
この時点で自分に情報的な価値がかなりあるのは自覚しているし、これ以上情報を仕入れる必要もないと思うが同時に好奇心がネズミをくすぐる。
世紀の混戦となりえるこの状況がどうなっているのか、そしてどうなっていくのかをもっと詳細に知りたいという知識欲がネズミを駆り立てる。
「まぁその前にあいつらに話を聞きに行くか…」
そう言ってネズミがまるで囲んだどこにも線が繋がれていない組織の名前は。
「暗殺組織”ウビーツァ”…盗賊組織の”スティールサーカス”とはまた別にある奴らでこいつらは本当に暗殺以外の依頼を受けないことで有名…結構有力者の依頼を受けてるって噂だし灰鴉に差し向けてたりしてないもんかね」
そう言って立ったネズミは灰色のローブに身を包んでその場を後にした。
彼はこの時点で近々自分が死ぬことを予感していた。
情報を知りすぎたものは大抵死ぬ運命にある。そうとわかっていても抑えられない知識欲がネズミを動かしていた。
****
「ウビーツァ…なぁ…」
今の世の中は就職氷河期である!
なんて大きな文字で書かれた掲示板の前で立ち止まった色白な男は少し嫌そうにつぶやいた。
就職氷河期。
そんな中で自分の出身地に仕送りを送るためには職など選んでいられなかった。
路地裏で暗殺現場に出くわした俺ことクロエは死ぬか就職かの選択肢を迫られなし崩し的にそこに就職することになった。
ぶっちゃけ剣なんて握ったことないし、人を殴ったことすらない。
平和一直線な人生を歩んできた俺にとっての一番のハプニングがこのウビーツァに就職したことだった。
そんなことを思いながら、ウビーツァのグーデルバイト帝国第三都市アン・ツュンデン支部に属するクロエは掲示板の前でため息を吐いた。
今与えられた仕事は依頼になりそうな依頼を見つけるという仕事だ。
こんな大々的に張られている依頼に暗殺依頼があるわけでもないが、暗殺依頼に変わりそうなものはいくらかある。例えば護衛の仕事。自分が命を狙われていると識っている人間は大抵に置いて自分の命を狙っている人間を知っているものだ。だからその依頼人に接触し、ウビーツァがお前を狙っている人間を殺すから金を払え、などと言ってみるのだ。
こういうのは大抵成功する。
死ぬなら相手を殺すっていう気概の人間は少なくない。しかも自分が手を汚す必要がないなら渡りに船だ、と言う事らしいが俺には理解できない。
殺されそうなら逃げりゃいいじゃねぇか…
給料はいいがいかんせん物騒なこの組織に嫌気が差しながらも俺は掲示板を見る。
あるのは草刈り見たいのが数個に建設の手伝いが三つ、そして工房の清掃が4件だ。
どれも暗殺には繋がりそうではない。
っていうかそもそもこの平和な国で暗殺なんかあるわけがないのだ。
噂では他国では戦争が起きてなんとかとかいう組織が幅を聞かせているらしいがグーデルバイト帝国はそんなのは関係ない。各都市を囲むように作られた巨大な壁、そして村までをつなぐ長い壁。それがつながる村にも防壁が設置されている。
徹底的に外部からの侵入を排除するその壁を作るのにはかなりの時間を要したようだが、作った結果はすさまじいらしい。
一つ一つのレンガに対魔と対力魔法を発生させる魔法陣を描いてつくったこの壁は外からも内側からも破壊できないすぐれものだ。各都市にだけ存在する出入口には徹底的な監視体制が敷かれていて潜り抜けるなんてとてもじゃないが出来そうにない。
つまりそれは逃げ場がないということにも言い換えることが出来るわけで。暗殺だなんだとやりあいをするような深刻な仲違いになる前に御用になる。
「就職した先も仕事難…か。潰れねぇだろうな…」
さっさと支部に戻って仕事がなかった旨を報告しようと思ってジーパンのポケットに手を突っ込んで歩く。
給料は基本給がありその上に歩合制で上乗せされるようになっており、もっぱら事務仕事な俺は上乗せにはあまり期待できないがさっきみたいに掲示板で暗殺になり得る仕事をとってきた時はかなーりの上乗せがある。一度だけ取ったことがあるがそれはもう目が飛び出すほどだった。
実家に送ったらお前強盗してねーだろうなと手紙が帰ってきたが、ごめん母さん似たようなことやってるわ…
裏路地に入ってセオリー通りにひと目を撒いて住宅街の屋上に上り、そこから小さい窪みに飛び降りる。
この支部はここしか入り口がなく、どこにも道が繋がっていない。
「只今戻りましたー」
ドアを開けながらそう言うと、中には羊皮紙を広げているエマが座っていただけだった。
彼女も俺と同じ事務方の人間で、金髪の中に赤い紙が一房だけあるという奇妙な人だった。染めてるんだろか。髪染めってかなり高いらしいけど…。
そんな彼女はちらりと俺を一瞥して手をみて手ぶらな事を確認して自分の作業に戻った。
無口。
ってかもはや無視の領域ですらある。
挨拶しても帰ってきたことは一度あるないぐらいだ。スーツを来てダークブラウンの皮の手袋をして仕事をしている様はかなりのキャリアウーマンっぽい。ってか怖い。あの人事務方なのに普通に暗殺出来そうな雰囲気持ってる。ってかもはやベテランの域の気迫を感じさせる人だ。
まぁ別にそんなエマからの返答を待っていた訳でもなし、と思って奥に引っ込んでコーヒーを手にして自分の机に座る。
暗殺方の武器新調の申し出に対する本部からの返答が来ていたのでそれを開くと大きな文字で『却下』と書かれていた。
どうやら新調された場合元々あった武器は俺に回される予定だったっぽいのでどことなくホッとしてリーダーの机に放る。人を殺すのはちょっと遠慮したいしこのままこなくていいんだけどな、新しい武器。そもそも依頼も無いわけだし。
俺は運動神経は悪くない方だが喧嘩となるとめっぽう弱い。相手が拳を握って振り上げた時点で怖くて目をつむってしまう。単純に臆病だと友達には言われたがまぁそのとおりだと思う。
痛いのいやじゃん。
そんなことを考えながらチクチクと自分の装備を作っていくあたり俺は馬鹿なのか。
今作っているのは魔法陣を練り込んだ服で、その効果は対力対魔どちらも兼ね備えた便利なものになっている。
は?武器?んなの作らねーよ俺は痛いのが嫌だから作ってるだけだっつの。
赤を基調として両腕に魔法陣を縫いこんだパーカーはもう少しで出来上がりそうだ。
これから寒いらしいしちょっとしたお洒落兼防寒具兼防具。みたいな。なにこの三徳パーカーつよい。
しかしこれを作るのはなかなかにしんどい。一針縫いこむたびに魔力が持っていかれるために一日の作業量はあまり多くできないのだ。
それに作った後の疲労感はバカにならない。そのまま泥のように眠れるぐらい疲れる。
今日もよく眠れそうだな、と思いながら縫っているとふとドアが開かれて暗殺方の一人が帰ってくる。
「ただいまー」
軽い調子でそう言った茶髪の兄ちゃんの名前はディルク。俺と同じぐらいの年で確か二十歳超えてない気がした。
そんな彼は手に着けたダークブラウンの手袋を外して洗濯カゴに放り込んで自分の机にドカリと座り込んだ。
「おいクロエ、武器新調は?」
「却下だってさ」
「なんだよーまたダメなのかよー」
「却下じゃなかったとしてもお前素手使うんだから意味なくね?」
「ばっかお前分かってねぇな、腰に一本差しとくだけで違うんだよ」
「そんなに変わるのか?」
まぁ確かに剣を使う可能性があるというのはそれだけで相手に警戒心を抱かせそうなものだが、ディルクは素手で近づいて後ろから首を折ったりするタイプだったはずだから剣はむしろ逆効果だと思うのだが。
「ちげーよお前。かっこよさが段違いだわ」
そこかよ…
はぁ…と溜息を吐いて再び作業に戻る。
チクチクと細かい作業をしているうちに背後からは寝息が聞こえてきた。ディルクのやつはまた寝てるんだろうな、と呆れながら少し笑ってパーカーに魔法陣を縫いこんでいく。
そうすること二時間後。
ガコン、と何かがこの建物に投げ込まれる音がした。
その瞬間にディルクが飛び起きて投げ込まれた書簡を手にとって開くと、彼はニヤリと笑った。
「おいクロエ行くぞ――仕事だ」
「え、俺も?」
「そーだよ。お前もだ」
そう言ってニヤリと笑ったディルクが見せてきた仕事内容には、嫌な予感しかしなかった。
****
「用意はいいかー?」
「いいっすよー…」
ネクタイを締め直して返事をする。
視界にかかる青い髪の毛を避けて拠点からでて大通りへと出る。
いかにも営業マンと言った風貌の二人が大通りを歩くのはこの時間では珍しいことじゃあない。
っていうかスーツって案外動きやすいんだな…。
新たな発見に少し驚きつつも大通りを歩いて依頼の所へと行く。
「金は回収してからじゃないの?」
俺がそう尋ねると、ディルクは笑って答える。
「リーダーがもう回収してるって話してたから俺達はただ実行するだけだ。いやーお前をつれて暗殺とかヒヤヒヤするなぁ」
「暗殺って…言えるのか…これ…」
リーダーから回されてきた依頼の内容はかなりアコギな商売をしているデブ商人の暗殺。
どうやら彼にハメられて借金まみれになった人間からの依頼だそうで、その商人は詐欺まがいのことをしてかなりの人間から金を絞りとっているそうだ。
ぶっちゃけ騙される方が悪いだろと思わないでもないが依頼にそれは関係ない。
そしてどうもその商人は商談以外では全く表に出てこない人間のようで、これから俺達はその商人と商談をしに行きがてら殺すという計画だ。アバウトかつゴミのような計画だが多分ディルクならやってのけそうだから怖い。そんな計画に俺がついていく必要があるのはまず商人を引きずり出すより前にしっかりとした商談かどうかを見極める秘書と話を通さなければならないからだ。そこで俺が出番になるというわけだ。面倒なことこの上ないしバレたらたぶんその場で殺されるだろうし、ここは頑張らないといけない。
あ、あとちなみに俺をこの業界に引きずり込んだのはディルクです。
横をあるく相棒を恨みがましい目で見ながらもう一度ネクタイを締め直して、二人とも頬につけた大きめのペイント刺青を確認してからデブ商人の屋敷の扉をノックする。
確か名前をボルクと言ったな。去勢された大人の雄ブタって意味がどっかにあった気がするがまぁ多分違うだろ。
ノックをした十数秒後、ゆっくりと扉が開かれて使用人が俺たちを出迎えた。
「クルティ様とディマ様でございますね、お待ちしておりました」
執事のような初老の男性が恭しく頭を下げて俺たちを中へと促した。
ちなみにクルティとディマはオレたちの偽名だ。
案内された応接間の大きなソファに腰掛けると、俺達は無言で秘書がやってくるのを待つ。
ゆっくりとした時間が流れた数分後、部屋の扉が開かれて一人の女性が入ってきた。
(女か…)
心の中で舌打ちをして口を開く。
「この度はお忙しい中時間を頂いてすみません、よろしくお願いします」
俺がそう言うと、彼女も頭を下げて答える。
「いえ、いい話があると言われて応じない商人は居ませんから。では前置きはここらへんにしてお願いします」
ずいぶんと急ぐんだな、と思いながら彼女に促されたように口を開く。
「ええ、私どもはボルク様が奴隷を使ったある商売をしていると聞いたのでそれに関する情報なのですが…大丈夫ですか?」
「…ええ」
わずかに秘書が顔をしかめて頷く。
女性があまり口にしたくない話題で奴隷を使った商売と言えば答えは売春だと大体の推測がつく。
あまり口にしたくないのなら商談を決めるのを早めるはずだと考えたクロエは更に口を開く。
決断をマイナス方向ではなくプラス方向へと持っていくために。
「私達はヴァルハラで展開されているその系統の店のものでして、ここと提携を結びたくてやってきたのです」
その系統、とあまり口にしてはいけない内容のために若干濁した内容でも相手はあまり気に留めないし、都合のいいように取ってくれる可能性が高い。まともな思考を持つ人間ならばここで言及するが、相手が女性だということもかなり有利になっている。嫌悪感を持つことに対しては人間の思考能力は低下しがちだからだ。
しかしこの時点で秘書は肘掛けに肘をついて眉を触っていた。
これは疑っている人間がよくやる仕草であり、眉間に皺がよっている。これは嫌悪感を示す行動だ。今この話題でこちらに不都合な何かの地雷を踏み抜きかけていると推測してもいいかもしれない。
「ここで確認をしたいのですが…失礼ですが秘書様は私達の事をごぞんじですよね?」
俺がそう尋ねると秘書は視線を右上に動かしてから口を開く。
黒だ。
こいつはヴァルハラの組織のことを全く知らない。
右上を見る人間は得てしてイメージを構成している事が多く、嘘やつくり話を考えている事が多い。
だから恐らく――知ったふりをする。
「知っていますよ。あなた達が売春宿を経営していることも知っています」
ここで。
具体的にこの秘書、ひいてはボルクが売春宿を経営している事が確定した。
奴隷を使った人に言えない商売というのはゴマンと存在する。世の中には奴隷の解体ショーなんていう信じられない事をしでかす人間も居るのだ。そう言った類の事かも知れないし売春宿かもしれないし、ただの派遣業者かもしれない。だからあまり明言出来なかったのだ。
しかしここで主の顔を潰さないために秘書がものしりな振りをして置かなければならない彼女は自分から自分の情報を露呈した。
ここまで一連の流れはこいつがどんな商売をしているかリーダーが調べてくれていれば省けた手間だし、事実いつもならそうしているのだがそうしなかった理由で考えられるのは。
ボルクが近く遠出をするからそんなことをする暇がなかった、という事だ。
この国を出入りする事ができるのは商人のみ。ボルクに出国されてしまった場合俺達に追う事はできない。だから急がせた。
恐らくそういう事だろう。
つまり、そこをつく。
「近くボルク様は出張に出かけられると聞いたので、私どもの店の事を耳に入れておきたいと思ったのです。この国は鉄製品が発達していますからね、奴隷をつなぎとめる手錠もかなり趣向が凝らされているようだ。つないだ人間を傷つけないようにできているこれを安定して仕入れたいのですよ。そこで仕入先を検討した結果…実際に使っている可能性の高いボルク様の店が候補に上がったのです。あなた達も実際に私達が金を払えるかの確認をしたいでしょうから…今度訪問していただければと思ったのですが、いかがですか?」
「そうですね…」
そう迷った素振りを見せているが、実際には彼女にこの案件を決めることは出来ない。
彼女は秘書でしか無い以上、このように大規模な取引になる可能性がある場合。
「少しお待ちください、ボルク様を呼びますので。コーヒーと茶菓子を出しますのでゆっくりしていってください」
こうなる以外に選択肢がない。
そう言って秘書が部屋を退出すると、ディルクが俺の肩を叩いて笑いかけてきた。
「上手いな、やっぱお前」
「いや…ギリギリだったよ。そもそも売春宿の話に持っていく時にあの人が女性でその話題になった瞬間に追い返される可能性だってあったわけだからね…向こうに断定させたのは効果的だった」
やはりこういった事柄は相手から口にされるよりも自分から口にする事のほうが嫌悪感が無い。
相手から言われて突きつけられるよりも自分が判断して口にしたほうがまだ抵抗は軽いということだ。
「それにしてもこのペイント意味あんの?」
そう言ってディルクが自分の頬に描かれた赤いドラゴンのような紋様を触る。
「保険だよ。ボルクを殺した後に俺たちとあっても多分秘書は俺達の事を認識できない。彼女にはまず”この刺青がある人間”のイメージが刷り込まれてるはずだからね。部屋に入ってきて俺達の顔を見た時にまず軽蔑の目をしてた。あれは商人に対する目じゃあない。刺青を見たことでそれっぽい人間だと分かったんじゃないかな。だからこそ予想もできたし追い返されもしなかった。結構いろんな要素が絡まって成功するんだよ、こういうのは」
「へぇ…お前頭いいな」
「心理学はなかなか楽しいよ」
そんなことを話していると、やがて秘書に引き連れられたボルクが部屋に入ってきた。
いやらしそうな顔をしているところを見れば大筋は伝わっているんだろうと分かる。
さて…とまず軽く挨拶を済ませてボルクを座らせる。
「うむ、商談の事だったな。私の売春宿を聞きつけて来るとは君たちはかなり出来る人だと見たよ」
早口で拳をぎゅっと握っている。
これはこいつが興奮しやすくて自分をコントロールされるのを嫌がり、そして俺たちを操ろうとする人間に見られる仕草だ。
「お褒めに預かり光栄です…ところでその…仕入れたい鉄の物の用途なんですが実際の写真を用意致しました…のですが」
あー…と言いづらそうに視線をスライドさせて秘書の方へ向けてからもう一度ボルクへと視線を戻すと、彼は何がいいたいかを察したのか秘書に対して出て行くようにとジェスチャーをした。
「確かにこういった場で女が居ては興ざめだからな。では拝見しようか」
そう言って笑うボルクに内心吐き気を覚えながら懐の紙を取り出す。
そしてテーブルに広げた紙は白紙。
裏になったのかと思ってボルクがテーブルの紙を拾い上げてひっくり返したが両面とも白紙だとわかった瞬間にボルクの顔が真っ赤に膨れた。
そして何かを叫ぼうとした瞬間。
「おっと」
ボルクの左のこめかみからディルクが頭に指を突き刺した。
そのまま言葉を発すること無くぐったりと倒れこんだボルクを横目に、俺は自分の座っていたイスを解体して人型に生成して自分たちが居た所に横たわらせる。
そうして二つの人形を生成し終わると、窓を開けて外へと出て赤魔法の爆発を起こす魔法陣を放り投げて起爆し、すぐさまその場を退散する。
スーツを脱ぎ捨てて燃え上がる部屋の中に放り込んでしたに来ていたTシャツと七分ズボンでその場を離脱し、ポケットに入れておいた濡れた布で頬を拭って刺青を拭き取る。
そして速やかに拠点へと帰る。
ここまでを無言で速やかに終わらせる。
あの爆発魔法は人が影で残る程度にしか痕跡を残さない程に燃やし尽くすもので、それは木であっても人型の影を残す。
要するにあそこには三つの死体の影が作れるわけで、外部からの攻撃だと思われる何かが起こっただけだ。
「お前こえーなー」
ふぅ、とため息を吐きながらデスクに戻るとディルクが笑ってそう言った。
「まぁ戦いは出来ないし、こういうことでしか役に立たないしな」
そう言いながら笑っていうと、ディルクが苦笑する。
「お前本当に嫌いだよな、切った張ったの戦い」
「舌戦ならいいんだけどねー」
「さっきのボルク殺した時もお前絶対ボルク見ようとしなかったしな」
「死体とか怖いじゃん」
「そうかねぇ…」
それだけ言ってディルクはトイレに行ってしまった。
何が悲しくて死体を見たいんだよ、と思いながらもう一度パーカー作成に戻ろうとすると肩を叩かれた。
「ん?」
なんだろうと思って振り返ると、そこにはエマが立っていた。
無言で差し出される封筒はなかなかの厚さを持っていて、それがすぐに報酬だと分かって礼を言って受け取る。
この国で流通している貨幣は他の国のように金貨や銅貨ではなく紙幣が基本になる。
今受け取った金額は金六枚に相当する金額だ。要するに一ヶ月分贅沢して生きれる分のお金を手に入れたことになる。
…ふむ。
今日はちょっと豪華な外食でも行こうかな。
そんなことを考えて、その日一日は終わるのだった。
登場キャラがどんどん増えてきましたね、毎度おもうんですが私の作品は登場キャラが多すぎる気がします。
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