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異世界の歩き方  作者: レルミア
教師編
62/104

はじめて

 溢れ出る文句をカーライアムに叩きつけたい篠芽だが、それをぐっとこらえてミンに案内されるがままに小さな部屋へと通される。

 そこには長テーブルとパイプ椅子が並べられており、ミンがその正面へと立つ。

 ちょうど学校の教室と同じような配置で、ミンが教壇に立っているような感じだ。この配置を見れば経験者としては何らかの説明が今から始まることが容易に分かる。


「えー…あなた達の事を疑おうという訳ではありませんが、一応今から魔法の基礎についての授業…復習を行いたいと思います。もちろんそんなものは必要ないと言う方がいらっしゃればこのまま退室してくださって結構です。今日はこの授業が最後で、明日の午前十時に再びこの学校にきてくだされば大丈夫です」


 そう言ってミンが教室をひと通り見回すが、教室の中の人間は誰一人として退室する気配を見せなかった。 

 ミンにはそれが予想外なのか、面食らったように本当にいいんですか…?などと小声で尋ねる始末だ。


「ここにいる連中は情報の重要さを知ってる奴ばっかりだろ。あんたの説明で新たに知識が増えるかもしれないってのにみすみす逃す奴は居ねぇと思うぜ。早く授業を始めてくれよ」

 

 そういうのは髭面の小さめの男だった。

 どこからどう見てもドワーフと言いたくなるような出で立ちだが、この世界に人間以外の種族が居るとは聞いていないから一応人間ということなのだろう。まぁ魔物と神を含めれば人間以外にも種類はいるということになるのだけれど。

 彼は先程高等部に配属されていたから後で顔合わせすることにもなるだろうし、どんな性格かは覚えておいてそんはないだろう。そして彼の言い分には俺も賛成だ。まぁもっとも、この中では一番魔法に関して初心者なのは俺だろうしまた事情が変わってくるが。

 そんなことを思って机に頬杖をつくと、ミンは小さく咳払いをして説明を始める。


「まず、大前提として魔法には二種類あります。属性魔法と不属性魔法。属性魔法は火や水、雷や土等の自然を司る魔法を指します。これは各個人の髪や瞳に依存しており、赤色の髪ならば炎、青い目ならば水と、それぞれの見た目に深く関わってくる物となっています。…基本的にこれはそれぞれ一人一つの属性だけ獲得出来るものですが、極稀に2つの属性を使いこなす人も存在します。中等部を担当していただくホルンさんはまさにその極稀な例の一つですね」


 ミンがそう言うと自然とホルンへと視線が集まり、彼女は所在なさげにもじもじと体をうごかす。

 どうもあまり注目されるのは慣れていないようで、注意をそらそうとホルンが手を上げて質問をする。


「あの、何故属性を使うと髪や瞳の色が変わるのかがわからないんですが、解明はされているんですか?」

「推測では有りますが…一応は。それは後でまた出てくるのでとりあえず今は不属性魔法について説明してしまいますね」

「はい」

「不属性魔法とは自然を司るものではないもの…と言われています。まぁ端的に言ってしまえば属性魔法以外のもの…解明されていないものです。例えば体の速度を上昇させる”ウシペーネ”は戦闘でもかなりの頻度で用いられる魔法の一つですね。他にも不属性魔法は力を上昇させたり召喚をしたり、様々な物が存在します」

 

 そこでミンは一呼吸ついてから、再び口を開く。


「そしてこれらの魔法を行使するのに絶対に必要なのが”魔術核”各個人の体に内包されているこれの中に貯蔵されている魔力を消費して私達は魔法を行使しているのです。そして先程の質問もここに関わってきます。魔術核とは属性魔法を行使するとその属性魔素の色に染まると言われており、それが体の色素にまで影響を及ぼし、体毛や瞳の色が変わると言われています」

「なるほど…でも確か五賢人は魔術核を持っていなかったんですよね?」

「ええ、五賢人は魔術核を持っていなかったのです。その理由は全く分かっておりませんがその子孫も魔術核を有していないと聞いています。その内の一人が灰鴉の形だけのリーダーとなったローゼンクロイツですね。彼女は誰の子孫かは分かっておりませんが魔術核を有していないことから五賢人の子孫とされています。他には秦野国の歴代アマテラスが秦野白狐の生まれ変わりだと言われており、彼らもまた魔術核を有していないとききます。秦野国のアマテラスに関しては真偽は定かではありません」


 …ふむ。

 ローゼンクロイツは魔術核を持っていないのか。

 ということは俺の世界からの召喚者という可能性もあるのか。だがミンの言うとおりに五賢人の子孫と言う可能性もあるし判断をするのは早計か。

 魔術核の件などと俺の知らない事もいくつかあるが、どうも真偽というか魔法の理に近い知識はどうやら俺のほうが持ってるようだ。

 例えば魔術と魔法の違い。

 魔術核を用いての魔法はそのスケールの小ささや人間によって構築されたシステム性によって魔術と称され、魔術核を用いない大規模なものが魔法と呼ばれるのだ。

 そして恐らくこの世界の偉い人間はその事実を識っている。

 何故ならば。


「魔法には五段階の評価が有ります。小さい順に緑、赤、青、黒、白、と。この五つですが実質的には最高が青です。緑が魔法初心者で赤が中級者、青が上級者、そして黒と白はもはや神話の世界の規模の魔法を使う人間にしか与えられない称号となっております」


 そう。おそらくはこの黒と白が存在したのはかつて魔術核のない人間が魔術ではなく何かしら大きな魔法を使ったから当時の魔法協会の人間か誰かが枠に当てはめるために黒と白というカテゴリーを創りだしたのだろうと推測できる。

 

「この五つの色には由来が存在します。それらは順列はなく、それぞれが事象を司っているのです。緑が再生、赤が破壊、青が巡廻、黒が消滅、白が創造、このようになっていましてそれぞれどれかを極めると青の魔法使い、緑の魔法使いと呼ばれるようになります。これらを総称して私達は魔法使いと読んでいます。魔術師と魔法使いをここで混同しないようにするというのがポイントとなります」


 …へぇ、それは初耳だ。

 する時になるのは――


「この世界には魔法使いは存在してるのですか?」

「ええ、青の魔法使いは存在していると聞きましたがどこに居るのかまでは把握していません。この世界には青の魔法使いを探して弟子入りするために人生を費やす人もいるぐらいですから、そんな生き方もありなのかもしれませんね」


 あはは、とミンが笑う。

 青の魔法使いは巡廻を極めた魔法使い。

 巡廻…って一体何なんだと思って訪ねてみたが、どうも青と黒と白は解明されていないらしくその存在は全く説明できないそうだ。

 と、いう建前らしい。

 実際には教師程度の下っ端には情報が回って来ないだけで青まではどういう魔法を使うのか把握しているというのがもっぱらの噂らしい。

 まぁ雲の上の存在ですね、とミンが笑う。

 そんなことはどうでもいいとばかりに、先ほどのドワーフが手を上げて質問をする。


「魔法ってのはどうやって発動されてんだ?魔力は魔法を使うまで魔力のままならいつどのタイミングで炎や雷に変わるってんだ?」


 おお。

 なかなかに鋭い質問だな、と頷くが、ミンは渋い顔を作る。


「解明されていない…と答えるほかありませんね。体から発せられる属性魔法の魔力が波のような動き方をしていることまでは分かっているそうなのですが、何故どうやってからだから炎が出てくるのか、どのタイミングで魔力が変化しているのか、などは解明されていないのです」

「…なるほどな。つまりはわかってるのは俺らの定義付けだけで根本的な部分は分かってねぇってことか」

「…お恥ずかしながら」

「まぁ使えりゃ問題はねぇがな」


 その通りではあるが、まぁ原理がわかれば使い道もかなり広がるとは思う。

 それにしてもあのおっさん結構インテリだな。見た目ドワーフだからってのもおかしいけど完全な脳筋タイプかとおもいきやどうもそういうわけではないようだ。

 そんなこんなで復習の授業が終わり、俺達は続々と教室を後にしようとすると、先ほどのドワーフが声を上げた。


「高等部担当は残ってくれ!」

「…なんで?」


 たまたま近くを通りがかったから俺が尋ねると、ドワーフはニヤリと笑う。


「高等部に選ばれるってことはそれなりの経歴はあるってことだろ、やっぱり実力はしりてぇからな」

「…なるほど」


 まぁ一理ある。

 だがこの後には大事な用があるのであまり時間はかけられないのだ。

 

「とりあえず俺とやろうか」


 今日一日は寝込ませる程度にボコろう。

 …加減出来るほど弱ければ、の話だが。

 そんな物騒な話になってもミンは止めることはせず、それどころか場所を提供することさえし始めた。どうやら彼女も俺たちの実力の程が気になるようだ。

 大きなグラウンドへ俺とドワーフが対面して立つと、彼は自己紹介を始めた。


「俺はギグス。斧を使う戦士だ」

「俺は篠芽悠真。剣を使う戦士だ」

「「よろしく頼むぜ」」


 そう言うとギグスは斧に保護魔法も付けずに地面を蹴って一気に肉薄される。


「あくまで実戦でやろうってか――ッ!」

 

 慌ててヴィーザルを縦に構えてその斧を受けると、一瞬止まったかと思った斧は更に力を増して篠芽を吹き飛ばした。

 数回バウンドして止まった篠芽は口に入った砂を吐き出すと、呻くように悪態をつく。


「クソ…こいつつえぇぞ」


 手加減はできそうにない、とこれから繰り広げられるであろう接戦に嫌気が生じながらも楽しみな部分があるのを自覚していた。

 純粋に戦いを楽しめるのは、これが初めてだろうか。

 クルリと手の中でヴィーザルを回しながら、右手に宿るフェンリルに手を出すなと釘を刺す。


「こういうのは久しぶりだ」

「――ハッ、ようやく漢の顔になりやがったなぁ!」


 そう言って一発の茶色い弾丸へと変わったギグスは迷わず一直線に篠芽へと突撃する。

(直撃コース…!)

 躱すには疾すぎるギグスの突進を躱しきるのは不可能だと判断した篠芽は前進に魔力を込める。


「お――らァッ!」


 拳をギグスに叩きつけたその直後、地割れを引き起こすほどの衝撃波が生まれる。

 持って行かれそうになる右腕を必死にこらえながらギグスの腹部を蹴りあげてギグスを吹き飛ばす。

 空高く舞い上がったギグスの表情は苦悶ではなく笑顔に染まっていた。

 なんとなくゾクリと背筋に嫌なものが走ったのを感じてその場から後退すると、一瞬で地面から生成された石の針が篠芽のいた場所を串刺しにした。


「殺すつもりかよあの野郎ッ!」


 飛びながら左腕に数十個の炎弾を生成して一気に放つ。

 視界をうめつくすほどの量の炎弾を土の壁で防いだギグスは炎弾によって溶けた土を更に操りゴーレムのような巨大な人型へと形成する。

 振り下ろされた拳とかなり距離をとったにもかかわらず熱波が篠芽を襲う。

――なんて野郎だあいつ!

 状況に応じて防御を攻撃に転じさせる戦闘スタイルに思わず舌を巻く。

 炎弾をその場で爆発させて粉塵を生じさせて目眩ましをしながら後退するが、すぐに粉塵はギグスの制御下へと置かれてゴーレムの手に持つ剣へと生成される。

 ゴーレムに握られた巨大な剣はゴーレムの熱によって溶かされ、マグマを垂らす石の剣へと変化を遂げた。

 

「やっべ」


 この世界にきて一番の”やっちまった”感にあふれたそのセリフは石の剣が投擲された事によってかき消された。

 スレスレで投擲された石の剣をかわしたが、溶けた石は衝撃で飛散して数千度のマグマの飛沫が篠芽を襲う。

 空中でたいした回避ができない篠芽に対して数えきれないほどのマグマの飛沫が襲う。

 勝負あったな――とその場にいた人間は思った。

――――リーニャ以外は。


「あの程度で負けるのなら、もう死んでる」


 リーニャがその言葉を呟いた直後、篠芽は眼の前の空間を爆発させてその衝撃波で体を一気に後退させてマグマの飛沫を回避する。

 なんとか窮地は脱した。

 しかし。

 もとよりマグマは土の領域。

 ギグスに操れないわけがない。

 顔を上げればゴーレムの両手には先程より大きなマグマの剣が握られていた。

 

「でたらめだなおい…」


 全長三メートルはあろうかというそのゴーレムの威圧感を体全身に浴びながら篠芽は呆れたように笑う。

 だが決して諦めの笑いではない。

 

「だけどまぁ、負けたくはねぇ」


 ゆっくりと歩み寄るゴーレムを見据えながら、篠芽は右腕のヴィーザルで空を斬る。


「熱ってのは色々と使い方がある…」


 そもそも赤は炎を操るのか。

 否。

 炎とは熱の形態の一つだという考え方もある。

 だとするのならば。

 冷やすのもまた、熱だ。

 ピシリとヴィーザルの周囲の空気が乾いた音を立ててて凍っていく。

 空気中の水分を凍らせる程の冷気。

 ダイヤモンドダストに始まるこの自然現象はその場を一気に冷却するには十分だった。


「でもよぉ、こっちは数千度だぜ?」


 だが、ゴーレムの周囲の空気は以前熱を持ったままだ。

 嘲笑を浮かべるギグスは気づいていなかった。

 ゴーレムの自らの空中に浮かぶ液体に。

 頭からかかる寸前で自らの体に落ちた影でその存在を察知し、とっさに横っ飛びでその液体を躱したが右足に液体が直撃した。

 直後。


「あああああああっ!?」


 燃えるような痛みがギグスの右足を襲った。

――液体窒素。

 燃える様な冷たさを持つ液体を、人類はそう呼んだ。

 そして更に篠芽は右手を人差し指をつきだした銃の形にして、その指先に魔力をためて一言つぶやく。


「バン」


 間抜けなその台詞と同時に放たれたレーザーはダイヤモンドダストに反射して細かくなり、更に反射して細かくなり、とそれを行く数回も繰り返し、完成したのはゴーレムを取り囲むレーザーの檻だった。

 冷気で固まりかけた部分をレーザーで貫かれ粉々に砕け散ったゴーレムの向こうで、右足を引きずるギグスが笑みを浮かべていた。


「ッハ!さすがといったところかクソガキ――!」


 叫びながら、ギグスはレーザーに向けて半径一メートルほどの石の弾丸を三発射出した。

 するとレーザーによって粉々になった石の破片が篠芽の体に襲いかかる。

 その全てを直前で熱で溶かし、すぐさま冷やして石へと戻して地面に落とす。

 視界をうめつくすほどの石の雨を全て対処した直後。

 腹部にギグスの突進が直撃した。

 視界が揺れて定まらなくなるほどの衝撃を直接受けて、ゆらゆらと吹き飛んだ先から立ち上がる。

 定まらない視界の中のギグスもふらふらとしていて追撃をしてこないことから、彼は既に体力魔力共に限界が来ていることが分かる。

 が、俺の体力も既に限界に来ていた。

 これが最後。

 二人は同時に戦いの終わりを察した。


「てめぇを潰してしめぇだ!」


 斧に岩をまとわせて数百倍もの質量のハンマーを生成して篠芽を押しつぶしにかかる。

 引けば負ける。

 意地からかそう考えた篠芽は背後の空間を爆発させて一気に加速して巨大なハンマーを振り下ろしているギグスへと肉薄する。

 更に肘の後ろを爆発させてパンチを加速させてギグスの腹部に拳を突き刺した…が、その感触は肉ではなかった。

 パラパラとギグスの腹部から石が落ちてくるのが見えたのと同時に、ギグスが口を開く。


「これを使うことになるとは思わなかったぜ、クソガキ!」

「それはこっちのセリフだ――!」


 落ちていく石の欠片と腹部にまとった石の鎧が棘を生成してすぐ近くの篠芽の顔に襲いかかった。

 しかしその欠片が篠芽の顔を切り裂くことはなく、熱で空気をねじ曲げて作った幻の篠芽の顔を貫通していくだけに終わる。

 そのうちに後ろに回った篠芽だったが既に体力は底を尽きていた。

 後ろに回った勢いを殺しきれずに地面に倒れこみ、同時にギグスも魔力と体力を尽きさせて地面に倒れこんだ。

 結果はドロー。

 勝ったわけではないが、篠芽は充実感にあふれていた。

 最初から最後まで戦ったのは初めてだったからだろうか。

 それとも何か別の理由だろうか。

 それは分からないが、不良漫画の連中が喧嘩のあとに気分が良くなる理由が少しだけわかったような、気がした。

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