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異世界の歩き方  作者: レルミア
リュドミーラ第三都市・イムラ編
6/104

神降

サブタイトルの読み方は特に決めてないです。

「るぅぁぁあああああああああああああ!!!!」

 

 一人の男が咆哮する。

 自分に飛びかかってきたフレキの首を包帯を巻いていた腕でへし折ると、彼の右腕に巻かれた包帯が乱れて表皮があらわになる。

 紫色の不気味な紋様が描かれていたその腕からは、紫色の炎のようなものがちらついているように見えた。


「なんてこと…呪われてる!総員武器をとれ――!稲妻のようなその紋様…フェンリルに呪われたか…!」


 近くに居たリーニャの首根っこをひっつかんで魔法ですぐさまそこを離脱し、兵隊を飛び越えて兵を指揮していたカーライアムの横へ降り立つ。


「不味いですよ、あの子フェンリルに呪われてる」

「フェンリルって…今まで暴走してなかったのが不思議なくらいじゃないか。こういう胸糞悪い立ち回りはあまりやりたくないものだな…」

 

 そう言って、カーライアムは腰に差した剣を天に差し向けて声を張り上げる。


「やつを敵と認識しろ!これより第三師団はやつを殲滅する――!」

「待ってください!」


 かかれ、の号令の直前にリーニャが慌てて振り下ろされる剣を握る腕をつかむ。


「気持ちは分かるがあいつはもう人間には戻れない!」

「分からないでしょう!もう既に前例にない事になっていたんですよね、あなた達が驚いたってことは!ならこれからも分からないでしょう!それにあのフェンリルは弱ってた。こんな辺境に検閲を設けていたってことはあなた達がフェンリルを手負いにしたってことですよね?」


 リーニャに詰め寄られてカーライアムが息を呑む。

 この小娘――


「それは裏を返せばあなた達が打ち漏らした事になる。つまり篠芽君はあなた達の尻拭いをしたんですよ。恩を仇で返すんですか?」


 いい度胸してるじゃあないか。


「一理ある…が、鹵獲するということはこの部隊から通常よりも多くの死者を出すことになるぞ」

「それは本来貴方達が背負うべき犠牲です」

「…はぁ、分かった。わかったよ。お前たちもそんな目で私を見るんじゃないよ。あんた達がそういう人間だって言うのはわかってるさ」


 その言葉はリーニャではなく、リーニャの背後に立つ隊員たちに向けられたものだった。

 彼ら全員が、篠芽を殺さずに対処することを望んでいた。

 篠芽が自分達のミスのせいで二度も犠牲になったのだから、それを救うのは当然の義務だと言わんばかりの顔をしている。


「お前たちの命、あいつに懸けてくれ。第3師団はこれより鹵獲作戦を開始する!対象――篠芽悠真!心してかかれよ!」

「「「「応ッ!!」」」」


 カーライアムの叫び声に応じるように、隊員が一気に篠芽を取り囲むように円形に陣取り、その背後に魔法部隊が紫色の魔法陣を構え、篠芽がいつ動き出してもいいように体勢を整える。


「どうしても私達が保護しようとすると怪我は避けられない。奴が自分でフェンリルを打破してくれることを願うよ」

 

 そう言って、カーライアムはコロッセオのような円形の舞台の中央に立つ篠芽を見やる。


****


 目の前には俺が襲ってきた犬の面影がある犬が座っていた。

 犬、というには少し大きすぎる気がするので、これから狼と呼ぼう。

 それにしても、と改めて見てみるとこの狼、毛皮が銀色で輝いている。


「あの時は這々の体で騎士団から逃げ出したものでな、汚れていたのだよ」

「へぇ…ってなんでお前喋ってんだ」

 

 一瞬納得しかけて狼が喋っていることに気付いてツッコミを入れると、少し笑ったような顔をして狼はその場に伏せる。


「お主、フレキのことを知っているようだったからな、私のことも知っているだろ?フェンリルと言うんだよ」


 フェンリル…確か最初はただの犬って思われてたやつだっけか。


「まぁ、間違ってはいないんだがその認識だと少しばかり悲しいな。知っているのなら問題はない」

「で、何の用なんだ。お前見たところ九尾でもないみたいだけど?」

「何を言っているんだ?」

 

 まぁ、通じるわけないわな。

 少し観念してもう一度目的を尋ねると、フェンリルはゆっくりと語りだす。


「お前は私に呪われている…と言うのは右腕に付いた紋様からも察しがついたと思うんだが、正確に言うと呪いではないのだよ」

「あん?」

「私はお前を呪っているわけではない。お前に殺されたあの瞬間に、私の魂がお前に移ったのだよ。それを人間共は呪いというらしいがな」

「結局呪いじゃねぇか」

「いいや、正確には違うのだよ。結果的に普通の人間ならば死んでしまうのに変わりはないがな。…まぁお前は少し違うようだが」

「まわりくどいな、呪いかそうじゃないかなんてどうでもいい、その目的はなんなんだと聞いているんだよ」

 

 犬を飼う時にまずやるべきことはただ一つ。

 主従関係をはっきりさせることだ。

 この場合相手は狼だし神話の動物だけど誤差の範囲内だろ。多分。


「い、いや…まぁいいか。私がお前に取り憑いた目的はただ一つ。この世界の混乱を止めて欲しいのだよ」

「俺に得無くね?」

「うむ。そう言われるだろうとは思っていてな。私の仲間には境界をあやふやにすることができる奴が居てな。そいつに掛けあってお前を元の世界に戻してやることが出来る。…どうだ、悪い話ではないだろう?」

「いや、別に」

「うむ。では早速…うん?ダメなのか?」


 こいつ仮にも神話の生き物だろ…こんなノリツッコミとかやっていいのか…威厳とか皆無だぞ…


「この世界の混乱がそもそも何なのかわからない上にそれを止めるリスクとそれに対するリターンが合わない。そして何よりお前勘違いしてないか?」


 立ち上がって、伏せているフェンリルへと歩み寄り、


「お前がここにいてこうして会話出来ているということは、お前は俺に何らかの精神的なアクセスをしているということだろ?」


 その首根っこをひっつかんで顔を近づけて言う。


「お前は俺のテリトリーの中にいるんだ。偉そうにしてるんじゃあねぇぞ」

「若造が、調子に乗るなよ…!」


 怒り狂って俺を噛み千切ろうと開いた口をかわし、首根っこを掴んで地面に引きずり倒して顔の横を押して地面に擦りつけ、後ろの両足を掴んで胴体の上にまたがる。


「犬ってぇのはこうやってやるとなにもできないよな。噛み付くことも出来ない、地面をけることも出来ないから脱出することも出来ない」

「貴様何をしているのか分かっているのか!」

「あいにく俺は神様は信じないタイプでね、お前のこともフェンリルなんかじゃなくて悪霊のオレオレ詐欺みたいなもんだと思ってるよ」

「無神論者が…!」

「お褒めに預かり、光栄です」

「後悔することになるぞ…!」

「まぁ他にリターンがあるのなら協力するのもやぶさかではないがね、あんたの協力してもらって当然っていう態度が気に食わないんだよ。人に物を頼むときはよろしくお願いします。だろ。それに物を頼むのに顔も合わせないようなヤツのことを信用しない。この二つがお前の依頼を受けない理由だ」


 篠芽がそう言うと、脱出しようともがいていたフェンリルの体から力が抜ける。


「…まさかバレているとは思わなかったぞ、やるな、人間」

「――――どうも」

「会いたいというのなら良いだろう。数日後にお前に会いに行こう。その時にまた話をしてやるよ」

「そりゃありがたい。ところでそろそろ俺を開放してほしいだがね。外がどうなってるかわからんしな」

「分かった。すぐに開放するよ。ったく神にここまで優位にたとうとする人間なんてそうそう居なかったぞ…」

「現代の若者は怖いんだぜ」

「お、おう…」


 フェンリルが呆れたような声を発しながら一吠えすると、すぅっっと視界が元に戻る。

 鎧の人間たちに囲まれ、その後ろに魔法使いが魔法陣を構えながら立っている。


「あっはっは、もしかしてピンチ?」


 色んな意味で面倒なことになったなぁと思いながら頭を掻くと、円形の陣をかき分けてやってきたリーニャが篠芽に抱きついて言う。


「おかえりなさい…!」

「うん、ただいま」

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