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異世界の歩き方  作者: レルミア
大戦、開始
50/104

弱者と強者

遅れてすみません。


 顔を上げ、周囲を確認するとそこには敵が大量に立っていた。

 何故、という疑問符が自分の頭をうめつくす。

 確かに報告では敵は違う所に向かったと、そう言っていたはずだ。

 では報告が間違っていた――?いや、それは考えにくい。あれだけ忠誠を誓っていた人間が嘘の報告をするとは思えない。

 では、何故。

 

 何故。


「この風神の前に敵が大量に立っているのだ?」


 首を鳴らしながら風神がそう言うと、風神を囲むように立っている三人の十傑と大量の灰鴉の魔術師が小さく微笑む。

 単純な話だった。

 秦野国の人間がヴォルゴード王国の国民を率いてリュドミーラを襲撃したのは決して五国併合のために攻め入ったわけではなく、単純にそれを口実にしてヴォルゴード王国から人を移動させるための布石だったということだ。同時にこの世界で暗躍するギルドの注目を浴びさせて介入を促す。

 そうすることにより”神降ろし”の際にアスクレピオスなどの介入はなくなり、更に市民が居ないために安易に死んで風神の魔力の貯蔵庫になる人間も減る…。そして持ちうる最大の戦力で風神を叩き潰す。


「そういうシナリオ…なんだろうが」


 状況だけを見るのならば風神の圧倒的不利。

 だがそれはあくまでも通常ならばという話だ。

 そもそもの話。


「やっぱりな、という感想以外は出てこんぞ、若造ども」


 風神はこの展開を”織り込み済み”だった。


「そういうことに、なりますわぁ」


 風神の影から出現した一人の女性はやけに露出が高い服に身を包み、右手に鈍く光るものを持っていた。

 それは篠芽がいた世界で拳銃…それもリボルバーと呼ばれるものだった。

 

「お久しぶりですわ、後輩ちゃん。生憎名前は覚える価値なしと判断したので覚えておりませんが――私のことは覚えてらっしゃる?」


 頭に黒いニットキャップをかぶり、黒いドレスを来て黒いハイヒールを履き、艷やかな口紅を着けたカールした赤髪が腰まで伸びた女性を見た瞬間にその場に居た十席三人の動きが固まる。

 その様子を見て、女性は更に笑みを深めて口を開く。


「あらあらぁ…まだ固まる癖は治ってないのかしらぁ?」


 嗤いながら拳銃をくるくると回す女性の名前はベルベット。

 ”元”十傑第九席、ベルベットキスという異名を持つ彼女は代替わりしたアマテラスとともに十傑を離脱――――


「というよりもリーダーからの伝言は聞いてないのかしらぁ…?『頭も腕っぷしもねぇニュービーが調子に乗ってんじゃねぇぞ』っていう言葉ぁ」


 ――――現在は”アスクレピオス”戦闘班の副リーダーを任されている人間だ。


「まぁいいわ、やるというのなら是非もないでしょう、あなた達を一瞬で蜂の巣にして差し上げますわ」


 そして灰鴉達はベルベットがいかにしてその異名を得たかを知ることになる。

 ”ベルベットキス”

 心臓を撃ち抜かれるようなキス、と揶揄されるその射撃は寸分違わずその場に居た灰鴉達の心臓を一瞬のうちに全て撃ちぬいた。

 

「まぁ――あなた達が生き残るのは想定していたわ。続きをやりましょうか。二対三、ハンデとしては物寂しいかしらね?」


 ベルベットの攻撃をよく知らない灰鴉たちが何の抵抗もできずに倒れていくのを確認した後、ベルベットは嗤いながらそう口にする。

 

「馬鹿を言うな、俺達はあんた達が居なくなってから成長していないとでも思っているのか?」

 

 そう言ってオレンジ色のローブのフードを脱ぐ。

 

「十傑第六席…ノグスだ。お相手願おうか」

「あらあらご丁寧にどうもありがとう。私は元九席のベルベットよ」

「こういう時は自己紹介をするのが道義だと習ったものでな」


 ノグスと名乗った男は後ろの二人に手を出すなと制止をかけて、ゆっくりと腰を下ろす。

 それはどこからどう見ても拳法の構えにしか見えず、どう考えても対拳銃と想定するのならば選択するのは愚か過ぎる戦闘方法だった。

 だが、ノグスの表情に驕りは存在していなかった。

 徹頭徹尾勝利のために自らの体を動かすための準備ができている。そういう顔をしていた。

 風神とベルベットはノグスの表情を見て、改めて自らの認識に区切りをつけノグスのことを強敵と認識する。

 この手の輩の出す妙な強さは痛いほどに知らされていた。

 ベルベットは先代アマテラスにいやというほどに思い知らされ、風神は篠芽にいやというほど思い知らされていた。

 自らを犠牲にしてでも敵を倒す覚悟。

 それを持った人間は――強い。


「その覚悟ごとぶちぬいてやるよ」


 それを知った上でベルベットは頭の中のスイッチを入れなおして拳銃を握り直す。

 刮目しろ。

 筋一筋動かした瞬間に移動方向へ弾丸を打ち込む。

 そのためにノグスの動きを見逃すまいと瞬きもせずにノグスを見据える。

 じっとりと手に汗をかき、出来る限り呼吸を読まれないようにするために浅い呼吸をしているせいで喉も乾いてくる。

 そうして睨み合ったまま何分経っただろうか。

 体感で数十分にさえも感じたその時間を経た後に動き出したのはノグスだった。

 右足を振り上げて地面に叩きつけて、ノグスはすさまじい速度で移動を開始した。

 左右上下のいずれでもなく。

 ただ、ベルベットの正面へと。


「――ッ!」

 

 地面の土をベルベットの反対方向へと大量に飛ばすほどの勢いあるスタートを切るという思いもしなかった行動に思わず面食らって息を呑み、焦りからか一瞬視界が黒くなるが、慌ててリボルバーの筒を回転させて弾丸の種類を変更する。

 

(こいつがどういう作戦で正面に突っ込んできたのかはどうでもいい――ッただその作戦を上回る速度の弾丸を叩き込んで行動不能にすれば問題ない!)


 そう考え放った弾丸は風の抵抗を極限まで減らした性質のもので、ベルベットの持つ数種類の弾丸の中でも最速の弾速。

 音を超え、射出されたノズルフラッシュが見えたかと思えば数百m先の岩が砕け散る程の威力と速度を誇るその弾丸が射出され、確かにノグスの頭脳を突き破った。

 しかし。

 依然としてノグスは不敵な笑みを浮かべたままベルベットへと肉薄を続ける。

 距離にして数メートル。

 既にノグスの腰の剣の間合いに入るまでコンマ数秒というところまで来ていた。

 想定外の事態だったことは確かだったが、ベルベットに焦りはなかった。


(爆発は後ろの岩で起きた、ということはこいつは超速回復力みたいな化け物じみたモンを持ってるわけじゃなくただ通過しただけ――)


 それはつまり。

 眼の前のノグスが確実に幻だということの証明ということである。


(つまり)


 ボゴンッと鈍い音を響かせ地面を砕くほどの強さで地面を蹴り、ベルベットもノグスへとまっすぐ突っ込んでいく。

 すさまじい速度で交叉した二人はしかし激突することはなくただ通過し、ノグスは苦々しげな顔をして地面に大きな溝を作りながら静止し、再びベルベットへと飛びかかる。

 それを横目で見ながら、ベルベットは冷静に思考する。

 恐らく――と。


(ノグスが作りたかったのはこの状況だろうな)


 幻のノグスと交叉し、元々ノグスがいた場所と幻のノグスに挟まれたこの状況で幻のノグスに気を取られて元々ノグスがいた方向に背を向けていると言うこの状況。

 仮に、本当のノグスが元々居た場所から大して動いていないとするのならば。


(襲うのなら――)


 ぎゅるん、と世界が点から線へと変わる程の速度で急反転して銃口をかざすと、そこには剣を振り上げたノグスが立っていた。


(ここだと思っていたよ)


 だが待て、とベルベットの思考ではなく経験からくる勘がベルベットが引き金を引くのを躊躇わせた。

 さっき交叉したノグスが本当にただの幻ならば。

 何故。

 最初のスタートで地面がベルベットと反対方向に吹き飛ぶ程のスタートを切れたのか。という疑問がちらりとベルベットの脳裏をかすめた。

 横に飛ぶだけならば反対側に土が飛ぶはずもない――と。

 だが眼の前のノグスはすでに幻じゃなければ今引き金を引かなければ首を切り落とせるほどの距離に居た。同時に背後のノグスも今反転して引き金を引かなければ間に合わないタイミングで迫っていた。

 どちらが本物か――

 迷うまでもない。

 私はこういう時には自分の勘に従って生きてきた。

 迫る刃を見送りながら更に一歩地面を踏み、くるりと反転する。

 今となっては背後に移動したノグスの刃が頭に当たる瞬間は流石にひやりとしたが、引き金を引きながら眼の前をノグスの剣の切っ先が通過していくのを見てそれが幻だということが分かって安堵する。

 

(じゃあな)


 二重、三重にも張られていた罠は確かに立派なものだったよ、と一度は交叉したはずのノグスへと引き金を引く。

 放たれた最速の弾丸は――――またしてもその脳天を通過していった。

 

「誰が幻を一体しか出せないと言った?」


 勝ち誇ったようなその声が、ベルベットの右側から響く。

 そこは体を開いて銃口を突きつけるには近く、かといって足を振り上げただけでは当たらない程よく遠い場所に立っていた。

 そこで。

 ノグスは剣を引き抜きざまに地面を蹴りあげて一気にベルベットへと肉薄し、止めの剣戟を放つ――その寸前。

 ニヤリとベルベットの口端が釣り上がる。


「誰が――」


 ベルベットの台詞の途中で、パァンという乾いた音が響く。


「拳銃は一つだけだと言った?」


 その音の元はベルベットが腹の前で横に構えた左手で持つ拳銃の銃口だった。

 放たれたその弾丸は威力に重きを置いたもので、確実にノグスの頭へと吸い込まれてその上半身ごと体を抉り取っていった。

 そして踏み込む力がなくなったノグスの体はゆっくりと倒れこんでいく…かと思われたが。

 さらに。

 加速した。

 

「――ッ!」


 思わず地面をけってノグスから距離をとろうとしたが、元々素早い動きができる方ではないベルベットは大して距離を取ることもできず、かと言って飛んでしまったからろくに照準を合わせることもできずに、ただ腰の部分から異様なスピードで再生されていくノグスを見ていた。


「誰が――」


 そして頭まで完成し、上半身裸のノグスは剣を引き抜きながら言う。


「一度死ねば終わりだと言った――?」


 そして振るわれた剣戟は、山を一つ消し飛ばすほどの威力を持ったものだった。


****


「君の戦い方では限界があるんだよ、篠芽君。圧倒的な力でもって敵を叩き潰す。それは確かに攻略法の一つであるしむしろ王道だ。だけどね。本当に強いのはより強い力を持った人間ではないんだよ」


 先代アマテラス、草薙が篠芽にそう告げる。


「正直言って僕が今魔術核を持った赤レベルの魔術師にまで格下げされたとしても、僕は君に勝つ自信がある。君はどうやら普通の戦闘においてその力に頼り切る性質があるようだからね。そこの穴を突けば勝つのは簡単なんだ」


 授業を聞く生徒のように真摯に聞く篠芽にいい気分になったのか、草薙は少し笑って続ける。


「だからまぁこれはむしろ良い知らせなのかもしれない。この魔法が使える世界において強大な力というのは恐れる必要がない…あくまでもそれ”だけ”ならばのはなしだけどね。戦闘において最も使われるべき力は知恵、あるいは知識だ。敵を誘導し、罠にはめ、そしてとどめを刺す。この過程では最初から本気をだすのではなくここぞというところで本気を出す…要するに奥の手を隠し持つのも大事になるし、その奥の手を使うタイミングもこの頭脳なしではただのちょっとした強い技に終わってしまう。奥の手を活かすも殺すもその人次第ということさ」


 そこまで言って一呼吸ついた草薙に、篠芽はひとつの質問を投げかける。

 その質問に少しだけ驚いた草薙はちょっとだけ目を見開いてから笑う。


「そうだね。君のあの戦いはさっき言った意味においてはほぼ最強と言っても過言ではないのかも知れない――あくまでもあの制限下での話だけどね」


 そういう草薙に、篠芽は分かっていると答える。

 そう。

 篠芽は勝っていた。

 スィールと言う水神が”自らイカサマを自白する”というように誘導させ、魔契約不履行と言う形でスィールを嵌めてリンを救い出したのだ。

 詳しい話はまた後日と、しよう。


****


 放たれた剣戟は、ベルベットの体をかすりすらしなかった。


(魔獣化――とでも言おうか。奴らは体に宿った魔物を体に顕現させることによって体を回復させる――というよりももう一つの体に乗り換えるといったほうが正しいか。そうした場合…まぁぶっちゃけ攻略難易度は下がるわねぇ)


 既に周囲に大穴が大量に開いていた。

 ノグスは大量の剣戟を放ち、ベルベットを追い詰めようとしたがベルベットに傷ひとつ与えられる予感すら与えられなかった。

 余裕を持ってかわされ、そして確実に体に弾丸を打ち込まれていた。

 既に体に這入った弾丸の数は二桁を超えており、右腕は動かず、両の足もほぼ棒のようになっていた。

 かろうじて動く左腕で剣を振るっているものの、ただでさえ当たらない攻撃が利き腕ですらない左腕で放って当たるはずもなく、ただ魔力を消費していくだけの無駄な攻撃となってしまっていた。

 

(大技を連続で振るって頭を使わないなんて、まったく子供じゃあないんだからぁ)


 ゆらりゆらりと剣戟をかわし、確実にノグスへと肉薄する。

 コツンと銃口がノグスの額に当たるまで接近し、振るわれた剣を蹴落とす。

 

「最初だけ、楽しかったわよ」


 その言葉を最後に乾いた音が響き、ノグスとベルベットの戦いは終わりを告げた。

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