貪欲なもの
今日は早めに書き上がりました。
そろそろバイクが届くので楽しみです。
僕は篠芽悠真十六歳。ただいま正座中です。
なんでかって?なんでだろうなぁ。
とりあえず目の前には色んな意味で凶悪な、いろんな凶器をひっさげた女教師…もとい女騎士が立っている。
名前はカーライアム・ミュンスター。
イムラの憲兵団の第2師団・師団長である。
「ったく、あんた紛らわしいんだ。そんな髪の毛してうろちょろしないでくれるか?」
俺がこの世界にきて日が浅い…事は分かってはいないんだが、常識がないとわかった途端にこの有り様である。
この女め…。
赤い髪を後頭部で縛った彼女のうなじに歯型でもつけてやろうか。なんか最近犬歯大きくなってきたし。
「いやぁ、黒髪がこんなんだとは知らないものでーはいーさーせんっしたー」
間延びした調子でそう言うと、彼女の鞭が俺のすぐ隣りの石畳を叩く。
こえーよなんだよこの人鎧じゃなくてボンテージの方が似あってんじゃねーのかパシィン!ひぃっ
「…はぁ、まぁ君が密使でないとわかっただけでもいい。とにかくその髪の毛は染色魔法か何かで色は変えておいたほうがいいぞ」
「…ん?」
魔法?今子の人魔法って言った?女の人も何歳まで致してないと魔法使いになれるの?
「…よくわからないが、鞭で叩かれたいのか?」
「いえいえ滅相もございませんことよオホホ」
馬鹿をできるのもここまでか、と観念して彼女に尋ねる。
「その、諸事情が有りましてこの世界…アーデルハントの事をほとんど知らないんですよね。教えてくださると嬉しいのですけれど」
俺がそう言うと、アーデルハントは少し考えこんでから頷いてみせる。
「うむ、まぁもう夜だしな。私達も多少の無礼はあった。それぐらいの事はしてやろう。後で君達に私の右腕である魔法使いを送るよ」
願ってもない、と頷いてみせると馬車へ帰るように促される。
テントから少し歩いた所に止まっている馬車の荷台に上がると、リーニャは布団をかぶって寝ていた。
羽織っていた茶色いローブがはだけて胸元がえってぃな事になっているが、俺は紳士なので布団をかけ直してやる。
携帯あったら写メ撮ってたのになぁとか思ってないよ。ほんとだよ。ワタシウソツカナイ。
第2師団の人達に用意してもらった夕食を食べながら右腕の魔法使いとやらを待っていると、ちょうど夕飯を食べ終わる頃に、青いローブを来た女性が歩いてくるのが分かる。
うーん。
この師団は女性が多いのだろうか。
「どうも、私は第2師団魔法分隊隊長のホルンと言います。以後お見知りおきを」
「よろしくお願いします。僕は篠芽悠真と言います」
「…うん、アーデに聞いた時から思ってたんですが、本当に貴方秦野国の人じゃないんですか?」
「いや、違いますよ?」
「そうですか…貴方の名前と秦野国の語感がどうも似てるんですよね…でも秦野国みたいな語感のはもうあの国の名前だけだし…。どういうことなのかしら…」
なんかブツブツ言い出したぞこの人。
まぁちょうどいいので彼女の顔を観察すると、綺麗な青い髪に赤い目の垂れ目、まつげバッサバサ。KAWAII。
服は青いローブで包まれていて、端には銀の装飾が施されていてなかなか高級そうなものだと分かる。
「あ、すみません。一人の世界に入っていました。で、貴方どこから来たんですか?」
あっれー。俺が質問される側かー。
「えっとー…ちょっと記憶を失ってからこの世界の事を全部忘れてまして、どこを喋っていいのかわからないんですよね」
「慎重ですね。まぁ貴方が教えてくれないのなら私も教えないだけですよ?」
「ああじゃあそれでいいです。後で自分で調べます」
「すみません、調子に乗りました。…まぁ、今から私が色々と説明していくので、その中でまた言ってもいいと思ったら教えてください」
「はい。すみません教えてもらうのに図々しくて」
「いえいえ、それぐらいでないとこの世界やっていけませんよ。…では、何から話したものでしょうか。魔法、というものが何かを話しましょうか」
まず、魔法というものは何なのか。
それに至っては全く分かっていない。
「そうですか」
「あら、驚かないんですね?」
「そんなもんかなぁと思ってましたからね」
少し首をかしげてホルンがそう言ってくるが、あれだけ科学の発展した俺の世界でも世界の殆どは分かっていないのだから、この世界でもそんなことはあるんじゃないかと思っていただけだ。
とにもかくも、この世界の魔法というものがなんなのかは全く分かっていないようだ。
けれども現象はある程度理解されているようだ。
魔法というのは大きく分けて二つに分けられるそうだ。
属性魔法と不属性魔法。
まず属性魔法。
これは火や水、風といった自然界の様々な物を操ることができる魔法で、主に攻撃として使われることから攻撃魔法と呼ばれることも多いそうだ。
次いで不属性魔法。
これは火や水といった属性魔法以外、という区別をされているようだ。
治療であったり力学操作であったり呪いであったりとその種類は多岐にわたるが、あまりにも種類が膨大すぎてこれだと限定できないために不属性魔法と言われているらしい。
要するにわからないことだらけだということだ。
そして、黒髪黒目が珍しいというのもどうやらここに関係してくるらしい。
大抵の人間は一つの属性魔法を得意としていて、他の属性魔法はほとんど使えないに等しいレベルにしかなれないそうだ。
そして習得した属性魔法の色がそのまま髪の毛や目に反映されるらしい。
ということはあのSM趣味の女師団長は赤目赤髪だったから炎かな?と尋ねてみると、どうやらその通りらしい。
そこでふと疑問に思う。
「ホルンさんは目と髪が違う色ですよね、どういうことなんですか?」
「私は第一属性が火だったんですけど、水も習得できたので髪の毛が青くなってしまったんです」
なるほど。
普通ならば一つの属性しか習得できないところをこの人は二つの属性を習得しているということか。
…結構すごい人ってことなのか。
そう聞いてみると彼女は嬉しそうに頷いていた。
「っと、話がずれましたね。そう考えると黒髪黒目はどの属性なんでしょうかね」
「そうですね…一般に年をとって魔力が体から抜けると髪の毛が白くなるので、その反対の黒はとてつもなく魔力を秘めている…と言われています。現に黒髪黒目の人間が代々収める秦野国は魔法大国として五国の間でも有名ですからね。魔法大学があるほどですから…やっぱり魔力がすごいあるんじゃないでしょうか」
とは言われても、俺の体にそんな秘めたる力があるとは思えない。
今丁度右腕に包帯巻いてるし、静まれ俺の右腕よ…!とか言えば魔法使えたりするんだろうか。黒い龍とか出せたら最高だよなぁ。
なんてことを考えていると、ホルンが俺に質問を投げかけてきた。
「というか篠芽さん…魔力核ありませんね…どういうことですか?」
「え、魔力核?」
「ええ、私達は自然の魔力を体に溜め込んで使うので、その魔力を溜める貯蔵庫のようなものが体の中にあるのですが…篠芽さんにはありませんね…初めてみましたよ魔力核がない人」
「…そう、ですか」
「ま、まぁ稀にいる…みたいですから、それに五賢人の秦野白狐様も魔力核を持っていなかったと言う話ですから、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
ふむ。
魔力核のない人間が作った国が魔力で栄えている…か。少し気になるな。
どういうことだろうか、と考え込んだところで、野営地の警鐘が鳴り響く。
「魔物だ!総員戦闘用意!!!」
「…来ましたか。すみませんが講義はここまでです。私も出なければなりませんので」
「あ、遠巻きに見るだけでいいので俺にも見せてください。魔法というものを見てみたいので」
「…まぁいいでしょう。ですが絶対に近づかないでください。命の保証はできませんよ」
「構いません」
いつもの俺なら命の危険を犯してまで見に行きたいとは思わないだろうが、何かここで見ておかないといけないようなそんな気がする。
少し考えてみれば、だ。
魔物の到来は予想の範囲内だった様なホルンの言い様、そしてここでの検閲。
人間相手に検閲をしていたということと魔物の到来が予想内だったということは、その二つが深く関係していると考えられるだろう。
魔物を操る、人間がいる…ということか?
そう考えているうちにもホルンはさっさと言ってしまうので慌ててその後を追うと、気付けば俺の隣をリーニャ先生が歩いていた。
「えっと、危ないみたいですよ」
「私も魔法がどんなものか気にはなっていましたから、ちょうどいいです」
「そうですか…」
なんかすごいいやーな予感がする。
俺が倒したような魔物なら、そもそも隊長格が出るほどのものでもないだろう。
とすると、だ。
魔物襲来の一言だけでで向かうということは、隊長格が行かなければならないほどの強敵を予想してここにテントを張っているわけだ。
…頑張って生き残ろう。
そう心のなかで呟いて、戦闘が行われているところへ向かうと、たくさんの兵隊が一体の魔物を取り囲んで円形に陣形を取っているのが見える。
よくよく目を凝らすと、先日俺を襲った犬によく似ているような気がする。が、その目は爛々と殺意に染まって輝いているし、目のなかったあいつとは比べ物にならないくらいに生命力にあふれていて凶悪な顔をしている。歯をむき出して唸っているそいつの足元にはいくつかの死体が転がっていて、身につけていた鎧がなすすべもなく肉体ごと噛みちぎられているのが分かる。
そして。
吸い寄せられるようにその犬の視線がこちらに向く。
それと同時に、俺の斜め前から暗いトーンの言葉がポツリと漏れる。
「フレ…キ…」
おいおいおい。
神話の化け物じゃねぇかそれ!
思いもしなかった言葉が出てきたので驚いてホルンの背中をみて、フレキに視線を戻した。その次の瞬間、俺の目の前には大きく開かれたフレキの口があった。
完全な不意打ちに対応できずに、為す術もなく迫り来る歯を見ながら呟く。
「死にたく――ない」
そして意識は暗転する。
****
自分の命の恩人が、殺されそうになっている。
自分の目の前で、魔物に首を引きちぎられそうになっている。
助けようと思っても足が動かない。体が動かない。
私は目をつぶることしか――出来なかった。
それがたまらなく悔しくて涙が浮かんでくる。
真っ暗な視界。
骨が折れる音が聞こえる。
私の無力さを自分に植えつけるために、そう思って目を開けると。
目の前に無残な死体が転がっていた。
フレキと呼ばれた魔物の、死体が。
「え…?」
何が起こったのかは分からない。
けれども、目の前にいたはずの篠芽と名乗った不思議な少年の右腕に染み付いた呪いから、狼の咆哮のような音を発していたのは、いつまでたっても頭から離れなかった。
一体この人は、何者なんだ――――?




