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異世界の歩き方  作者: レルミア
大戦、開始
46/104

戦鬨

 時は夕暮れ、篠芽が水神とのゲームに興じている時。

 ヴォルゴード王国とリュドミーラの国境付近にて。


「本当に、来るんだな?」

「――ああ。確かな情報だ。市民を煽った何者かが大量の民兵を率いて北上中とのことだ」


 野営地というには少し巨大な、大量のテントで作られた軍の駐屯地にてリュドミーラ第三都市イムラの第三師団長であるカーライアムはイムラの第二師団長のヴァンミリオンと話をしていた。

 頬に傷を持つカーライアムと同じぐらいの年のこの男は、惰性で持続されていた軍の中にいてくすむことのない意思を持った強い男だった。その分第二師団の人間には厳しく対応しており、そのせいで嫌われている――とおもいきやそういうこともなかった。

 オンオフの切り替えがしっかりとしている人間で、軍から一旦離れればかなりの人格者として有名だ。愛妻家で子供を溺愛している理想的な男としても有名な人間だ。

 

「ヴォルゴード王城襲撃から、第一都市の市民を率いてリュドミーラに向かっている最中。更に通りがかりの都市や村で人数を補給していると来た。一体何人ぐらいなんだ?」

「さぁな。下手をすれば五万居るかもしれないということらしいぞ」

「五万か…第三都市のたった三万五千の兵力で太刀打ちできるのか?噂では秦野国の十傑が裏にいるらしいじゃないか。最弱の十席でさえ一人いたらこっちは全滅するぞ」


 野営地でテントを張っただけで既に第三、第二師団の兵隊は疲弊した表情を見せていた。

 そもそも篠芽が第三都市の城を丸々消し飛ばしてからというものの治安が悪くなってしまい、その鎮圧や抑制のための見回りやらで元々疲れていたのだ。そこにこんな嫌になるニュースが飛んでくれば疲弊もする。ただでさえ惰性で続いてきたようなこの都市の軍に十席が襲いかかれば半数を失って、それでも尚仕留められるか分からないというような戦力だ。

 この状況で、十傑だけが先行しているかもしれないために緊張の糸も切れないという情報も得てしまった今、ほぼ形だけの防衛線となってしまっている。

 今ならば1.5倍の数の民兵がいればこの防衛線は破壊することが出来る。

 この事実の共有はすでに終わっていて、ヴァンミリオンも同じことを思っているのか大きくため息を吐いて口を開く。


「その噂が本当でないことを祈ろう」


 その祈りが意味のない事だということをしっているだろうに、ヴァンミリオンはそう言うしかなかった。

 

「せめて第一師団がいてくれればまた話は別なんだが…」

 

 ふぅ、と大きくため息を吐きながらはるか遠くの首都側へと視線を向ける。

 防衛線は二重の円のようになっており、外側に第三師団と第二師団による厚めの防衛線が貼られていて、その内側に第一師団や近衛兵達による緊急援護用の控えの防衛線が存在する。と、いう建前で存在するが実のところは恐らく貴族達が手元に強い兵隊を置いておきたいというのが事実だろう。

 まぁ実力のない軍隊で民兵を疲弊させて強い軍の被害を極力抑えて民兵を殲滅するというのは確かに理論は成り立っている。

 私達を気遣うという項目は奴らの頭にはないんだろうな、全く。

 上層部の汚れ具合に辟易として、いっそ奴らも篠芽に消し飛ばしてもらおうかと割と真剣に考え始めたところで、ホルンが食事を持って来てくれた。


「お食事です。あまり緊張の糸を張り詰め過ぎないようにしてくださいよ?」

「ああ、悪い。さすがに疲れた。ヴァンミリオン、休憩にしよう」

「そうだな。俺達がつかれた顔をしては兵の士気にも関わる」


 そう言ってホルンが持ってきてくれたシチューとパンを受け取って頬張る。

 もう少しで冬だからか、温かいシチューが体を芯から温めてくれるようで、寒さと緊張した全身の筋肉をほぐすように染み渡っていく。

 ほう、と吐いた息も少し白くなっている気がして、思わず呟く。


「もう冬だな」

「ああ。俺の故郷は第二都市北部にあるから毎年雪かきやなんやかんやで呼び出されるんだ。そのたびに有給を使うんだから師団兵にいつも白い目で見られるよ」

「多分それ白い目じゃなくて慰めの視線ですよ。実家で仕事するために有給って結構きつくないですか?」

「ああ、そういう事だったのか。まぁ雪かき自体は嫌いじゃないから別に構わないんだがな。それより母親が早く孫の顔を見せろとうるさいんだ」

「娘さん、12歳ですっけ?」

「ああ。まだ嫁にやるには早過ぎるだろ?」

「まぁ確かに12じゃちょっと早いかもしれんが、あんたそろそろ子離れしないと娘に嫌われる時期だぞ?」

「えっ…なんだそれは、どういう事だ?」

「お前はそろそろ世の父親が経験する『お父さん臭い』攻撃を味わう時期だっていうことだよ。ちょっと心当たりないか?」

「言われてみれば…なんか最近よそよそしいきが…。まさか!?」


 先程までの絶望的な現状を話していた時よりも尚悲壮な顔をして、ヴァンミリオンは泣きそうな目になってこっちを見る。

 まぁヴァンミリオンの娘、ベガが最近父親に対して余所余所しいのはサプライズパーティを企画しているからだという微笑ましいエピソードもしっているが、ここで教えてやる義理はない。と言うかちょっと不安になるがいい。

 なんていう意地悪なことをしている上司を横目に、ホルンがため息を吐いて口を開く。


「全く。でもあの子が父親に対してそんなこと言うわけ無いじゃないですか。世界で一番尊敬する人はヴァンミリオンですって堂々と答えるような子ですよ?そんなことは世界が裏返ってもありませんよ」

「そ、そうだといいんだが…」

「お前は本当に家族のことになると弱気になるな」

「良いだろう、同期のお前とその幼なじみの前だけだ。さすがに部下の前ではこんなうろたえんよ」

「自覚あるならさっさと治すことをおすすめするよ」


 スプーンでヴァンミリオンのことを指しながら笑う。

 この男はカーライアムがイムラの軍学校へ入学した時に知り合ったらしい同級生で、良いライバルだったそうだ。模擬戦ではもっぱらカーライアムが勝っていたそうだが、知略も必要となる軍技ではヴァンミリオンが圧倒的に強かったそうだ。

 カーライアムは脳筋だし軍技が出来るとも思えないが。

 

「っていうかお前はどうなんだ。孤児院の子供が誰か結婚したりとかはしないのか?」

「最年長のホルンがまだ21だしな。そこに続くんだから他の子の年齢もたかが知れてるし、どうも孤児院を出た子供は皆第三師団に入りたがるんだ。だから現在第三師団を構成する兵隊の三分の二は孤児院卒の人間さ。”院卒”とかなんとか言われてたりするらしい」

「…頑張れよ」

「…ああ、ったく。こんな事になるんだったら全力で止めておくんだった」

「まぁ私達はこういう覚悟の元ここへ来ていますから。心遣いはありがたいですが余計なお世話ってものですよ」

「言ってくれるな、お前は。拾った時は小生意気なチビだったくせに」

「なかなか時間が経ちましたからね」

「ほんとだよなぁ。カーライアムがお前拾った時は何歳だっけ?」

「八歳だったよな、確か」

「はい。両親が居なくなった時でしたから八歳です」

「ああそうだった――確かあの時――あれ?」


 ぽっかりと、ヴァンミリオンの記憶に穴が空いている事に気づく。


「まてよ。なんで俺たちはあそこに居たんだ?」

「そりゃあお前――あれ?」


 あの時。

 ホルンの両親が殺された時。

 何故私達は。

 あの場に行ったんだ?

 その疑問に対する答えが出るより前に、見張りの兵の大きな声が駐屯地にこだました。


――敵兵、南より、来る


「チッ、気になるが話は終わりだ。――来るぞ」


 今までのんきな話をしていたときの温和な表情とは一転し、ヴァンミリオンは視線を鋭く尖らせて見張りの兵が指差す方向へと目を凝らす。

 その視線を追うようにカーライアムとホルンの二人も南へと視線を投げると。

 そこには蠢く黒い河が流れていた。

 その全てが人の頭だというのを理解するのにしばらくの時間を要した。

 

「おい……ふざけるんじゃねぇぞ…ありゃどういうことだ…」


 思わず零したヴァンミリオンの声に反応することも出来なかった。

 五万?

 そんな甘い数字じゃないぞ。

 あの太さ。あの長さ。

 五十万は確実に居る。

 下手をすれば、百万。


 その一人一人が魔符を持っていたのならば。

 津波に流されるがごとく三万五千程度の軍などあっさりと流されてしまう。


「どうする――」


 予想外の戦力差に慌ててヴァンミリオンの顔を見ると、彼の横顔に恐怖の色は一切なかった。


「選択肢はない。これより後ろには傷つけてはならない人がいる」


「――それだけで、私はここに立つことができる」

「――勝てるのか?」

「勝つさ」


 カーライアムの問いに、一瞬の間すら無くヴァンミリオンは答える。


「――――総員!剣を抜け!私達が負ければ奴らの怒りの矛先は私達の家族へと向くぞ!それはなんとしても阻止せねばならない!ここで!奴らを食い止めるぞ!!!!」


 十万対三万五千。

 絶望的な数字をひっくり返すために、私達は剣を抜いた。

聞きたいこと等があれば、ネタバレにならない程度に応えたいと思いますのでコメントか何かをください。


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