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異世界の歩き方  作者: レルミア
大戦、開始
45/104

勝つか、死か

 今。

 私は選択を迫られていた。

 そもそも、この大陸に私が送り込まれた理由は、彼も言っていた人間の争いを、混乱を鎮めることだったはずだ。

 それが一瞬の油断により肉体を失い、一人の少年に取り憑くことになった。

 最初こそ彼の人柄を信じる事ができそうだと思ったが、彼はことごとく人が死んでいくほうを選択していった。

 一人を守るために、大勢を殺す。

 彼は、常にこれを選択してきていた。

 結果的に戦争すら起きてしまうことになった。

 私はこの少年を見限るべきだろうか。

 見限り、この少年を殺して肉体を奪い取るべきだろうか。

 私は今。

 選択を、迫られている。


****


「僕も君と同じようにこの世界の住人ではないんだよ」


 その言葉から始まった説明は、気にはなっていたことを解決するきっかけにはなりそうだった。

 言うに、彼はやはり俺と同じ世界からやってきた人間だということだ。

 とはいっても時代は昭和前期ほどの時期に生きていた人間だそうで、時代は俺が生きている時よりもはるかに前だった。

 秦野国の国王は召喚された人間を国王にするという慣例があるそうで、召喚された人間をアマテラスとして王へ就位させるという体系をとっているらしい。

 まァよくありがちなラノベ王国だと思ってくれれば何の問題もない…が。

 ってことはつまり俺は本来国王になるべくして召喚されたということになるのだろうか?

 そう考えるならば黒髪黒目の人間を探しているという秦野国の動向の意味も更に納得がいく。

 が。

 すでにヴォルゴード王国にはアマテラスが存在している。

 つまり召喚の儀は滞り無く成功したということだ。

 現に先代アマテラス、草薙は今代が召喚されたのを知っているという。

 俺がこの世界に来た時と、全く同じタイミングで、だ。

 要するに――だ。

 本来一人しか召喚されないはずの秦野国の召喚の儀によって召喚された訳だ。

 一人。

 余分に。

 召喚されたのだ。


「つまり俺はただの巻き込まれ型被害者だと」


 俺が簡潔にそう言うと、草薙は少し複雑そうな渋面をして頷いた。

 ちっくしょーめ!!!!

 いやまぁ?最初にあんな野宿生活を強いられてた時点で?ある程度察してはいたけどね?でもさ?何かしら意味があってこンな辛いことやらされてると思うわけじゃん?それがなに?ミスって間違えて連れて来ちゃったごめんねてへぺろ☆ってそんなの許されるかぁぁああああああ!!!


「まぁ。元の世界より気に入ってるからまだいいですけど」


 はぁ、と大きくため息を吐いて言う。

 とりあえずこの世界に来た事象のこともある程度理解したし、そこはいい。

 問題はこの後どうするか、だ。

 とりあえず魔契約を施してリンの体から”神”とやらを外に追い出すしか方法はない…が。

 今の戦力は正直心もとない。

 一番頼りになるテセウスとゲリはかなり痛手を被っているし、リーニャは戦闘には連れていけない。

 そもそも魔契約、魔制約がどういったものなのかすら具体的にわかっていない状況でリンの中の神をたたき起こすのは正直いって不安要素ばかりだ。


「でも、そうしないとこいつは起きないんだろ?」

「ああ。今は僕が彼女の魔術回路そのものを停止させているからね。最低限の生命活動しか行われていないんだよ。だから起きることも無い。そして生きながらえる事も、ない」


 そう。

 今はおとなしくなっているから助かってはいるが、この状況は長く続けられるほど悠長なものでもないのだ。

 第一に栄養補給が出来ないのが問題だ。

 一般に言われているのは水が3日、食物が一週間、その期間以上摂取できないと意識を失うか、死亡するという話をよく聞く。

 つまり最低でも3日までには助け出せないといけないというタイムリミット付きだ。

 だがぎりぎりで助け出せたとしても衰弱してしまっていれば助けきる事は不可能になってしまう。

 つまり。

 今日一日のうちに助け出すのが最善策となる。

 ということは、だ。

 魔契約のタイプも短期決戦型に絞られることになる。

 事細やかにルールを定め、今日一日のうちに決着がつくようなゲームにしなければならない。

 

「分かった、やろう」

「それ以外に方法はないのう」


 そうして、三人の作戦会議が始まる。


「そもそも、だ。敵の情報が足りないんだよな。リンに取り憑いた”神”ってのはどういう神なんだ?」


 円卓で食事を囲みながら俺がそう尋ねると、草薙はパンを咀嚼する手を止めて答える。

 

「あそこに祀られてたのは水精ウンディーネ。本来ならそれが憑くんだろうがそもそもウンディーネは願いを叶えるようなものじゃあないし、彼女に憑いたのは恐らくウンディーネの上司のような存在でもある水神そのものだろうね。性質は名前の通り水。ゲームが好きな負けず嫌いな女性だったはずだ」


 なるほど。

 つまりゲームに持ち込むのが最も魔契約に持ち込むのが簡単だということだろう。

 そもそも戦って勝てるとも思えないしそういうのは助かる。

 まぁなんにせよ、だ。

 ゲームで挑めるというのなら、俺に有利だ。

 なにせ今の日本は飽き性な若者たちのために幾数万と作られたゲームの数々がある。

 その中から俺が選ぶのは――――


****


「ブラックジャック?」

「そう。ブラックジャックだ。聞いたことはあるか?」

「ありませんわぁ」


 目を細め、眼の前の女性を注視する。

 淡い透き通ったロングヘアーに、腰の部分から小さい水色の透けた羽が生えている。

 何もない白い空間でただ一人、木目調の高級そうなチェアに座っている。

 その顔はとても楽しそうに。

 歪んでいた。


「おおまかに説明してしまえば、特定の数字に合わせて数字を集めるゲームだ。まァ細かいルールは後で説明するとしよう、どうだこのゲーム、やる気はあるか?」


 俺がゲームをしている最中にどんどん笑顔になっていく水神をみて、尋ねる必要はないとは思ったが念の為に尋ねる。


「はい」


 明確なYESという返事。

 いい流れだ。


「わかっているだろうが――、このゲームは魔契約によって行使される。俺が要求する条件はお前がこの体から消えること、だ」


 俺がそう言うと、水神の顔から笑顔がかき消される。


「それは無理よ」


 そう。

 無理なのだ。

 だがそれは想定の範囲内だ。

 打ち合わせの最中のフェンリルの言葉を思い出す。

『憑いたものは基本的に消えるということはすなわち死。つまりそれが嫌な以上、恐らくゲームには乗ってこんよ』

 普通に考えたら無理だ。

 だが交渉術の定番として、一度目に無茶な要求を、そして二度目に小さな要求をするというものがある。


「じゃあ、この体を使って暴れるのはやめてくれないか?」

「それも無理よ。そもそも私は力を操っていないもの。私はあげているだけ。それを使っているのはあくまでもこの子よ?」

「ならその力を使いこなせるように指導してくれないか?」


 事実上、この提案は彼女を自分の仲間に引きこむことになる。

 だが。

 こういう流れを作ってからの提案というのなら。


「仕方ないわね、私がでていけない以上、そこが妥協点かしら」


 あくまでも俺は彼女を追い出そうとしたが無理だったと言う形に収束する。

 

「ありがたいな。ではお前の要求を聞こうか」


 俺がそう言うと、彼女は俺の心臓を指し、言った。


「あなたのその力がほしいわ」

「力…?」

「そう。あなたのその力の源は一体何?私はあなたのそれを知らないの。私はゲームも好きだけど識るのも好きなのよ。あなたのその不思議な体をいじくりまわさせて頂けるかしら…?」

「それはつまり、お前に体を預けろということか?」

「ええ」

「場合によっては――」

「死ぬ、かもしれないわね?」


 フフッと妖艶に笑う彼女は、俺を見下すようにチェアの肘掛けに肘をつく。


「良いだろう」


 しかしこの返事は予想していなかったのか、水神は驚いたように目を丸くする。


「俺の命を懸けよう」


 もう。

 仲間は失わないと決めたんだ。


「いいわね、気に入ったわ。やりましょう――」

「ああ、そうしよう――」


「「制約のもとに!!」」


****


 一見運ゲーに見せかけたこのゲームは、その実運ゲーではない。

 ブラックジャックと言うゲームにはカジノで禁止されている技術が存在する。

 カウンティングというものだ。

 簡単にいえば出た数字を記憶していくもので、出たものによって得点を割り振って最終的に数値がプラスならば賭けに出るというものだ。

 言葉で言うだけならば簡単なトリックだが、そこに指南もなく自分で気づける人間はそういない。


 だが。


「ちょうど、ね」


 表になったカードは1と10。

 これで既に水神は三度目の勝利となる。

 俺の持ち金はどんどん減っていくばかりだ。

 カウンティングの方法が間違っていた…?

 いや、違う。

 間違っては居ないはずだ。

 現に日本ではこの方法で何度も勝っていた。

 だとするのならば考えるべき点はそこではなく、日本では起きえないことでここでは起きること――

 そう。

 魔法だ。


(イカサマ――か)


 水の魔法によるイカサマ。

 考えられるのは水の濃度を操って光の屈折の変化をおこし、それによって起こる俺の視覚の錯誤だ。

 それがブラックジャックだと俺が認識してしまえば、その手はブラックジャックだとして魔契約に認識されてしまうと言うことになる。


「そのカード、触らせてもらっても構わないか?」


 そう言って水神の制止にも関わらず触ったカードは、濡れていなかった。


「すま、ない」


 思わず驚いて息を呑んでから水神の顔を見上げると、その口端は吊り上がって歪んでいた。

 

(どうなってやがる――!)


 こいつは一体どんなイカサマをしやがった…!

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