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異世界の歩き方  作者: レルミア
勇者と魔王と、ハグレモノ
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勇者か、魔王か。

 唐突に現れた元勇者を名乗った男はリンを抱え上げ、数少ないまともに健在していた家の中に躊躇なく踏み込んでいった。

 

 なるほど。勇者だな。

 

 なんて言う場違いな感想をよそにおいて、慌ててリンに駆け寄って脈をとる。

 幸い正常に動いているようだし、単に気を失っているだけのようだ。

 ホッとしてその場に座り込み、勇者を見上げる。

 

「ありがとうございます。貴方が居なければどうなっていたことか」

「まぁ、あのまま行ったら君と彼女は死んでいただろうね、更に大きな被害を出してね…」


 ボソリと付け加えるように最後の言葉を漏らす。

 正直言って今の自分に勝てる人間はそうそう居ないのでは、と思って言葉の真意を尋ねると、勇者はあっさりと口にする。


「その子に憑いているのは紛うことなき神さ。今存在する”魔憑き”なんていう偽物とは違う純然な”神憑き”なんだ。その力を誤った方向に使用したから彼女は暴走したのさ」


 誤った方向に使用した。

 それはつまり暴走ではなく意図的なものだということを暗示しているのではないか。

 何を?

 決まっている。

 この虐殺行為がリンの確固たる意思によって引き起こされたものだという事だ。

 

「それは事実なのか?」


 信じられなくて思わずそう聞くが、元勇者は首を振らずに肯定する。


「まぁ誰かを殺しに行ったわけではないから人間に復讐したいとか、そういうアバウトなことを願ったんだろうけどね…まぁそれにしたってもうこの事実からは逃げられない。気づいているのかい?君は今岐路に立っていると言う事に」

「何の岐路だ」

「君は今大量虐殺をした人間を配下に置く魔王か…それとも大量虐殺犯を殺し市民の安全を確保した勇者か…その二択に迫られているんだよ」


 言われて、ふと窓の外を見る。

 するとすでにまばらではあるが生き残った人間が見える。

 きょろきょろと周囲を見渡していて、恐らくリンの姿が発見されるのはすぐだろう。

 そして、槍玉に挙げられるのも、すぐだろう。

 石を投げられるのは当然だし、しかたのないことだと思う。

 日本で言うのならば彼女のしたことは確実に死刑になりうる。

 この世界での死刑は私刑…つまりリンチ。日本での死刑よりもよほど酷いことになるだろう。

 そんなことになるのならいっそこの手で、と言う考え方もあるにはある――が。


「決まってんだろ。そんなの」


 俺は、リンをかばう。

 とあるニートは言っていた。

 友が殺人を犯そうとするのならば全力で止めるが、殺人罪で追われているのなら全力で庇う。

 仲間とはそういうものだと。

 なんてことを言ってみるが、正直言って昨日今日会ったここの住人にそこまで思い入れはない。

 俺は人間を守る性善者なんかじゃあない。

 特定の狭い範囲を、手の届く範囲だけを助けたい。

 それに危害を加えようというのなら全力でそいつをぶっ潰す。

 そういう、生き方をしてきた。

 それを今更変えるつもりなど毛頭ない。


「やっぱり君はそう言うだろうと思っていたよ。じゃあその子を助ける手段だけど――」 

 

 そう前置きして元勇者は一つの単語をこぼした。


「魔制約。魔契約。まぁ言い方は沢山あるけれど――これは君たちの言う神ですら縛られるものさ」

「それで、どうするんだ?」

「その子の中に存在する神とその子とのリンクを今は切断しているんだけれど、それを一瞬だけ接続させる。その瞬間に魔契約を結ぶんだ。強引にね」

「そんなことが出来るのか?」

「出来るできないので言うのならば出来る。けどかなり難しい。君の右腕の彼女の力も借りないと、まぁムリだろうね」

「お前…本当に何者だ?」

 

 腰のヴィーザルに手をかけながらそう言うと、不意に右腕から顕現したフェンリルが俺の腕の上に手を重ねて動きを制する。

 急にどうした、と口にするよりも先にフェンリルが口を開いた。


「久しぶりじゃのう――」

 

 フェンリルがそう口を開くと、パサリと元勇者のフードが風に揺られて取れる。

 そのしたから覗いた髪は黒く。

 そして瞳も黒かった。


「先代のアマテラス――元の名前は、確か――」


「草薙、さ」

 

 その名前は。

 紛うことなき、日本人のものだった。

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