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異世界の歩き方  作者: レルミア
勇者と魔王と、ハグレモノ
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助けるなら、活かせ

「おいおいおいおい…どォなってんだこりゃ」


 盗賊を殺した後、村に黒い煙が立ち上っているのを確認して急いで帰ってきた篠芽の視界に飛び込んできたのは、粉々に砕かれた家々だった。


「魔法…か?」

 

 木っ端微塵、といった表現がまさに当てはまる惨状に、思わずそう零す。

 だがここにはテセウスにゲリもいたはず。リーニャも魔法を使えるようになってきたし、正直そんじょそこらの人間がここを襲ったところで到底勝てる相手ではない。

 魔法に、彼らを押しのけて村を破壊することが出来る人間…。

 灰鴉。

 その二文字が頭に浮かぶ。

 

「奴ら…なのか?」


 ぴたりと足が地面に突き刺さってしまったかのように動かない。

 また。

 また失うのか。

 失った――のか?

 安全を確認しに行けば間に合うかもしれないのに、そうはわかっていても俺の足は動こうとしなかった。

 また大事なものを失うのか。

 また――?

 あいつに…ユーノに…次に失ったとしたら、三度目だ。


「しゃきっとせんかい。安心せい。少なくともリンはまだ生きているようじゃぞ」


 背中を叩かれてハッと我に返り、村の中へと視線を向けるとリンがゆっくりとこちらに向かって歩いてきているのがわかった。

 が、その姿には違和感があった。

 服が汚れていないし、傷ひとつついていないのはまぁまだいい。

 テセウスたちに守られていたおかげかもしれない。

 だが。

 歩き方がおかしい。

 カクカクと不器用な人間が糸で人形を操るような不自然な動きでこちらに歩いてきていた。

 妙な胸騒ぎを感じてもっとしっかり確認しようとリンに駆け寄り、その顔を見て絶句する。


「誰…だ」


 瞳は見開かれ、その目尻からは血涙が流れ出ていた。

 

「こんなことをする奴は…!!!」


 そして釣り上がった口角。

 リンと言う人間は、壊れていた。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


****


 彼女はこの一連の流れが全て一人の人間によるものだと知っていた。

 叛乱を起こさせたのが目的なのではない。

 重要なのはその後なのだ。

 所詮この時代の戦闘なんてものは質より量。

 大量に捨て駒がいれば勝てる。

 そしてその捨て駒として一番便利なのは憎しみにかられた市民だ。

 有史以来往々にして王権を打倒するのは市民達の捨て身の特攻と決まっている。

 まぁつまり。

 

「諸君」


 この男は。

 アマテラスという秦野国の男は。

 

「この国が宗教国なのは皆が知っているだろう。そして信仰する神が誰なのかもわかるだろう」


 この国を…ヴォルゴード王国を、破壊しようとしていた。


「その神が君たちを定期的に被災させ、自らへの信仰を途絶えさせないようにしていたということはもう十分にわかったと思う。その憎しみも十分に蓄えただろう」


 これは戦争ではない。


「今、それを解き放つ時だ」


 革命でも、ない。


「さぁ、進軍だ」


 制圧。

 その二文字が最も当てはまるだろう。

 

「「「応!!!!」」」


 叫んで狂宴に酔う市民を尻目に、舞台袖へと下がってくるアマテラスは醜悪な笑顔を浮かべていた。

 彼は利益なんてもののためにこれを起こしているわけではないと私はもう知っていた。

 教えられたわけではないが、察しがついていた。

 奴は、楽しむだけにやっていた。

 吐き気すら覚えるアマテラスの顔を見ていると、彼は横並びに並んだ私達十傑の前に立って私達に笑いかける。

 

「いざというときは君たちの力を借りることになると思う。その時は頼んだよ」


 いざという時。

 それは恐らく革命がうまく行かなそうな時…ではない。

 市民たちが我に返った時に恐怖を煽る事をやらされるのだろう。

 一度乗りかかった船で躊躇いを持ってしまえば鮫の泳ぐ海に放り捨てられると、芯から教え込めという事だろう。

 ふざけやがって。

 心のなかで吐き捨てるだけ吐き捨てて、横に並ぶ十傑の面々の顔を見る。

 今代のアマテラスの選出した十傑に共通するのは戦闘狂という部分だけだ。

 中には正真正銘のクズもいる。というかむしろクズしか居ない。

 ああ。

 と、心のなかでため息を吐く。

 気に食わねぇな。

 ああ。

 気に食わねぇ。

 ふと、心にストンとピースがハマるようにしっくり来る言葉が浮かんだ。

 

 適当なところで、こいつらを背中から刺すか。


****

 

 殺すしか、ないのか。

 石にすら穴を開ける高圧の水球をかわしながら、必死に脳内でその疑問に対してNOを突きつける理論を組み立てるが、魔法に関して素人の俺が思いつくわけもない。


「フェンリル…!方法はないのか!」


 体勢が崩れた所に飛んできた水球をぎりぎりのところでかわして、地面を転がる。

 守勢は慣れてない。

 ただ逃げるだけと言うのは攻撃の機会をうかがう時よりも気力を使うし、体力も使う。

 モチベーションの問題、というわけだ。


「あの魔法は知らん…!悪いが力になれんぞ!」

「肝心なときに役に立たねぇなぁ畜生がぁ!」

 

 ドンッと圧縮した空気で壁を作って水球を破壊する。

 どうするどうする――ッ!

 焦りによってまとまりのつかなくなった思考で必死に解決策を模索するが考えという考えは浮かばない。

 殺るしか、ねぇのか。


「このままでは、この村の人間が全員死ぬぞ」


 右の腕に宿るフェンリルにそう言われ、右腕に魔力を集中させる。

 せめて一気に――

 そう思ったところで、何者かに右腕を抑えこむように握られた。

 こんなときに誰だ――と思ってその顔を見ると、見覚えのないおっさんだった。

 いや、いい感じの爽やかイケメンですけど。

 灰色のローブに身を包んだその姿はすこしばかりやつれているように見えた。


「良くないなぁ」


 突然、何事もなかったように水球の嵐をかいくぐって空気の壁のこっち側に来たそいつは少し笑って続けた。


「君は勇者の条件と言うものを知っているかい?」


 意味がわからない登場をしたこいつは、意味がわからないことを言っていた。


「一般人は人を助けるときに人を殺す。今の君がやろうとしていることがそれさ。だがね――勇者や英雄はそうではいけない」


 一呼吸ためて、彼は続ける。


「活かすことで、人を助けなければ英雄とはいえないんだよ――篠芽君」


 唐突に俺の名前を言う乱入者にさすがに気持ち悪くなって、たまらず尋ねる。


「誰なんだ、あんた」


 俺がそう尋ねると、彼はウィンクして答えた。


「勇者さ――”元”、だけどね」


 ”元”勇者は、そう言って手を叩いた。

 次の瞬間。

 全ての魔力によって生まれた現象が、消え去った。

 つまりリンの水球も、俺の空気壁も。

 そして、リンに害を及ぼしていた”何か”も消え、ドサリとリンが地面に倒れ込む。


「これが――――活かして助ける方法さ」

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