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異世界の歩き方  作者: レルミア
勇者と魔王と、ハグレモノ
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落ちて、堕ちる。

 シュトゥルムガッド第五都市アーベント。その中に存在するバランワールと言う村。

 この村に特筆すべきものは無く。

 あるとすれば最北端の村だということだろうか。

 その二行しか観光パンフレットには記されておらず、設置されている観光スポットもここが最北端ですよという青白い氷の塔だけらしい。

 それはそれで気になるが、また別に気になるところがある。


「美味しい土地なのに、観光スポットが少なすぎる」


 ふとこぼしたリーニャの言葉に俺は頷く。

 バランワールまでもう少しというところで、少しだけ休憩を取りながらバランワールについて調べているところだ。

 まぁ本なんかを借りられるほどしっかりした身分を持っている人間が居ないので観光パンフのような物で調べる他ないのだが。

 最北端という美味しい立地にかかわらずパンフにはたった一行。


『最北端を記す氷塔が立っている』


 これだけだ。

 普通ならそうなんだで済むようなことだが、少しばかり引っかかる。


「これをあんたならどう推測する?」


 パンフレットをテセウスに放り投げながらそう尋ねると、テセウスはひげを撫でながら唸る。


「杞憂、ではないだろうか」

「…まぁその線はかなり可能性たけーがな。正直連日の事件で疑り深くなりすぎてる気はする…が。まぁどちらにせよ行くほかねーんだよな」


 まぁ、そうだね。

 篠芽の言葉に一行が頷き、バランワールへと馬車を発進させる。

 十数分で到着すると、バランワールに活気というものは存在しなかった。

 それどころか人一人として見当たらない。

 けれども白い木で作られた家の庭は手入れされているし、しっかりと掃除もされている。

 石畳は汚れをしっかりと洗い流してあるところからしっかりとした人が生活をしている事は伺える。

 つまり。

 

「…嫌な予感がするんだが。こういう歓迎の仕方は明らかに観光客に対するもんじゃねぇよな」


 ゆっくりと腰のヴィーザルの柄に手を載せて、馬車の上から村を目だけを移動させて観察する。

 どこか体に視線のようなものが刺さるのだから人がいることにはいるんだろう。

 フレンドリーに行ってもいいがそれで背中を刺されてしまっては不味い。

 ユーノの墓を作りに来ただけだから別に住人と仲良くする必要もないし、とりあえず氷塔の所へと向かう。

 その道中。村の中央広場にさしかかったところで一人の男に呼び止められた。


「貴様ら!」


 その声色には、敵意がこもっていた。

 その声を聞いた瞬間に篠芽一行は体のギアを一気に変速させる。

 いつ攻撃されても対応できるように、全身の神経を研ぎ澄ます。


「何だ?」


 周囲を確認しながらゆっくりと振り返り、巨大な熊のような白髪交じりの大男へ視線を注ぐ。

 筋肉隆々でいかにもと言ったパワータイプの男は、右手に太い剣を握っていた。

 その体は緊張しており、今すぐに戦闘を始められると全身が物語っていた。

 それは過度な自信からか、それともただの初心者故の粗さか。

 数カ月前まで日本で安全に暮らしていた篠芽は度重なる命の危機をくぐり抜けることによってすでに相手の呼吸を読むと言う技術を会得していた。

 

「今度は何を奪う気だ」


 その震えた声を聞いて俺は事情を察した。

 なるほど。

 よくある勘違いか。

 そう思って自分だけ警戒を解いて馬車を降りる。

 とは言ってもいざとなればすぐに動ける程度には準備しながら男へと歩み寄る。


「驚かせたなら申し訳ない。特に俺たちに危害を加えるつもりはないよ」


 そう言って右手を差し出すが、彼はその手をにぎる気配はなく、むしろ一層剣を握り締める。


「ならば何故そこまで武装している」

「仲間の墓をここに作ってやりたくてここに来たんだ。戦闘の後そのまま来たもんでな。こういう格好なのは許してくれ」

「仲間の墓…だと?そいつの名前はなんだ?」

「ユーノ…聞き覚えはあるか?」


 俺がユーノの名前を口にすると、彼は顔をくしゃくしゃにしてしゃがみ込む。


「そうか…君たちはあいつの…」


 彼は、ユーノの叔父に当たる人物だった。


****


 この村は幾度と無く盗賊に襲われていた。

 かつて襲われた際に大量に若者を連れ去られ、その中にユーノが含まれていたそうだ。

 それからというものの盗賊たちの都合のいいタイミングで食糧を奪い取られているらしい。

 現在村長をやっているユーノの叔父、改めグリゴリーは悲痛な面持ちでそんなことを言う。


「すまない。姪の仲間だというのに…それにこんなところまで来てくれたというのに大したもてなしは出来ないんだ」

「そういうのを期待して来たわけじゃありませんし、問題無いですよ。それにしてもそんな盗賊に困ってるなら第五都市なりなんなりに掛けあって助けてもらえばいいじゃないですか」


 つまらなそうに篠芽はそう言う。


「それができればそうしているさ。しかしもう援助は打ち切られているのだよ」

「どういう、意味ですか?」

 

 意味がわからないといった様子でリーニャが尋ねる。


「すでに国はこの村に何度も派遣隊を送ってきてくれたのだが…全て全滅している」


 グリゴリーの言葉に篠芽一行が息を呑む。

 なにせ先日この国の兵隊の練度や軍事力は五国の高位に属していると聞いたばかりなのだ。

 そんな軍隊をはねのけることが出来る盗賊。

 相当の手だれの集まりか、優れたブレインが存在していると言う事になる。

 

「…助けよう」

「ええ」

「私の命の恩人の恩人だもの。助けるわ」

「うむ。人を助けるのは気分が良い」

「何じゃお主らそんな熱血系だったのか」

「私はパース。めんどくさいわよ」

「何じゃノリが悪いのう。後でフレキに言いつけるぞ?」

「ぐ…ぬ…わ、わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば」


 さすがに彼らの手に負えないと判断した篠芽はユーノの村を助ける方針を打ち出した。

 が、シュトゥルムガッドの兵隊を追い返したような盗賊をこんな子供の寄せ集めと一人の老人のパーティが勝てるわけがないと慌てて止める。


「やめてください!もういいですから!貴方達も犠牲になることはありません!」

「俺はユーノの墓を作りに来たのもそうだけど…恩人の親族が困っているのに放っておける人間ではないですよ」


 そう言って、ヴィーザルを片手に握って外へ出る。

 

「行くのは俺だけでいい。お前達はここで村の人達を守ってやってくれ」


 扉に手をかけてそう言うと、彼らは何かを悟ったかのように頷いてみせる。


「死ぬんじゃないわよ」


 リーニャの言葉に、俺は笑って頷く。


「たぶんな」


****


「君たちは、一体どういう人達なんだ?」


 どういう、と言うのは意味が少し分かりかねる。


「私達は――ギルド」


 リーニャの言葉を聞いて、少しグリゴリーは驚いたがテセウスの顔を見て納得する。

 恐らく彼の力を借りてギルドを設立したのだろう――と。


「私は、そのメンバーではありませんがね」

「…ん?ということは出資者ということですか?」

「いえ、私はただの傭兵でございます。雇われているのですよ」

「…え?」


 と、いうことは。

 この眼の前の少女達はギルドを設立するほどの資金力が有り、なおかつ彼を雇うほどの経済的余力があるということになる。

 

「ギルド名を聞いても、よろしいか?」

「私達は――銀狼」

「世界に平穏をもたらすギルドじゃよ。カカッ」


****


 呪いを振りまく、復讐者。

 俺は感情を振り回し周囲に居る人間を度々傷つけてしまう。

 その結果、ユーノが死んだ。

 感情に身を任せるのはよくない。

 幼い頃から知っていたはずなのに、この世界にきてから俺の感情というものは抑えが効かなくなっているような、そんな気がする。

 この胸の中に渦巻く感情は復讐心につながる怒りとか、そういうものではないような気がする。

 あの時に比べてみればかなり冷静な気もするし――けれどもそうでもないような気がする。

 短い期間の間に俺は何度も人を殺し、人に殺されかけた。

 すこし、疲れた。

 ゆっくりとヴィーザルを抜きながら、洞窟の入口にたむろす見張りの盗賊たちに近づいていく。

 この世界で命というものはふけば飛ぶほどに軽い。

 そんな世界に平穏と言うものをもたらせ、とフェンリルは言った。

 無理だろ。普通に考えて。

 俺一人がそんな力を持っているわけがない。

 けれども。

 やるしかない。

 だがそのやり方は――

 こんなことで、良いのだろうか。

 入り口の見張りを一瞬で斬り伏せて、心のなかで問う。


 俺は今。

 勇者なのか。

 魔王なのか。

 正しいのか、間違っているのか。

 

 それとも――――――


 暗闇で開いた篠芽の瞳は、幾分か濁っているような、気がした。

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