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異世界の歩き方  作者: レルミア
勇者と魔王と、ハグレモノ
39/104

美味しい物

 夜は好き…だった。

 静かで、見なくてもいいものを消してくれているような気がしていたから。

 でも今は、思い出したくもないことを無理やり思い出させる強制力のようなものを持っている気がして嫌いだ。

 人を殺す事はしばらく慣れることは出来そうにない。

 手に残る感触。

 とどめを刺した時に視線が合うと、その光景が頭から離れることはない。

 更に、喪失感もひどく襲ってくる。

 ユーノは守りきれなかった。

 目の前で跡形もなく消えてしまった彼女とはもう会えないと言う寂しさや後悔が一気に俺を襲って思わずえづく。


「くそ…」


 大きくため息を吐いて空を見上げると、東京では見たこともないような…けれどもこの世界に来てからは幾度と無く見た星空が広がっていた。

 さっきとは別の意味でため息が出てくる。

 星座とか、星の名前は詳しくないけど、この綺麗な星空は好きだった。

 少し冷えてきた空気を肺いっぱいに吸い込んで、大きく吐く。

 それだけで気持ちが少し楽になるので、そんなことを繰り返していると、手にホットミルクを持ったテセウスが俺の横に腰掛ける。


「女子ばかりで盛り上がっているところに居るのは居心地が悪いな」

「そりゃそうですね」


 思わず笑って、テセウスからホットミルクを受け取る。

 昼間はあんな会話をして少し険悪なムードになっていたかと思っていたのだがどうやら気のせいだったようだ。

 テセウスは普通の陽気なおじさんと言った雰囲気で俺の横で笑っていた。


「悩むのも分かるが、君はもっと自信を持った方がいい」


 俺がホットミルクに口をつけると、彼も大きく深呼吸をしてそう切り出した。


「俺が、ですか」

「ああ。こういってはなんだが私が君ぐらいの年齢の時はもっと怠けていたものさ。それに比べ君はしっかりしている」

「時代が時代ですから。それに俺の立場や性質上、しっかりせざるを得ません」

「…そうだな。失礼な事を言ってしまったかな」

「そんなことはありませんよ」


 ホットミルクを何度か飲むと、体が火照ってくる。

 体の芯は暖かいが、表皮は冷たい風によって少し冷めている状態は凄い好きで、こうなってしまうともう動く気にもなれない。

 寝てしまいたいような気もするがここで寝て見張りをやめてしまったら明日ゲリに喰い殺される気がするからそれは遠慮したい。


「ところで、君は異世界人だと言っていたけど異世界はどんな所なんだい?」


 ふむ。

 まぁそこら辺を疑問に思うのは当然だろうし話の種にはなるから話すのは全く問題ないだろう


「そうですね…この世界では高くても2階建てだとおもうんですが俺の世界では高ければ30階とか、タワーなんてものを作った日にや山並の高さのものもありますし、自動で動く荷車のようなものもあります。とにかく人の仕事はあんまり無いですね」

「おお…それは凄いな。機械化されている…と言うんだったか?」

「ええ」

「なるほど。グーデルバイトのようなものなのかな」


 そう言って手に持っていたホットミルクをクチにつける。

 そういえば、とシュトゥルムガットのことをあまり知らないことを思い出し、シュトゥルムガットの兵士だったというテセウスに尋ねる。


「シュトゥルムガットはどういうところなんですか?」

 

 俺が尋ねると、しばらくの沈黙の後にテセウスは答える。

 

「端的に言えば…閉じられた国だ。秦野とは別の意味で閉じられていて…そしてヴォルゴードとは別の意味で奇妙な国だな」

「どういう、意味ですか?」

「あそこはとにかくよそ者を嫌う傾向がある。理由は分からんがあそこの住人はよそ者を排除しようと躍起になる様なところなのだよ」

「…なるほど」

「まぁこの一行は私がいるからまだまし…だと思いたいがそれもどうだろうな」

「他に、何か情報は?」

「あそこの主産業は酒や冷蔵技術にある。あそこの連中の氷魔法と力の増幅魔法は強烈だぞ。数メートルもの厚さの氷を平気で叩き割って同じ厚さの氷を瞬時に作れる」

「そんな魔術核が強大なんですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。あれは恐らく長年研鑽されたものだろうな。究極なまでに効率化された魔法…そういうものだろう」

「なんというか、怖いっすね」

「ああ。多分五国で戦ったとして、秦野国とグーデルバイト帝国がトップの二位というのは誰もが思うだろうが恐らくシュトゥルムガッドは同率一位か…ヘタすれば二国を抜くかもしれないというほどに一人ひとりが強い」

「まぁ…家族が居たら怒られないようにしたいですね」


 言って、二人で苦く笑みを浮かべる。

 明日はとうとうシュトゥルムガッドの一番ヴァルハラ寄り…つまり大陸中央に一番近い第二都市ベルシュカへとだどりつく。そこで食料品などを買い込む予定だ。

 そこでトラブルが起きないといいが。


****


「昼ごろにはベルシュカへつくと思う。それまで休憩してくれていいぞ」


 朝。

 白い息が出てくるほどに急激に気温が下がり、一行が震えながら荷車に乗って布団にくるまっている中、慣れたものだと笑いながら上着も着ずに御者席へと座って鞭を取るテセウス。

 昼ごろっつったってまだ朝の五時ぐらいだからあと七時間あるんすけど…

 赤くなる鼻をこすって、手に小さく炎弾を作り出す。

 晴れてはいるものの風は凍てつくように冷たい。少しでも暖まればいいかと思ったがこの程度の火力じゃ焼け石に水…と言うかこの場合は熱の順序が逆だから…液体窒素にマッチ?違うか?違うな。なんか違う気がする。

 そんな馬鹿なことを考えていると、いつの間にか隣にはリンが座りに来ていた。

 どうもリュドミーラの一件以降避けられているような気もしたが、どういう心境の変化だろうか。いや、一件よりも前もあんまり話したことねーけどな。


「恋バナしましょうよ恋バナ」


 お、おう…いきなりぶっこんだ話題来るじゃねかなかなかやるなこいつめ…

 変なところで少し感心して、ニヤニヤと笑うリンを見ながら口を開く。


「誰か好きな人でも居るのか?」

「いや、私は居ませんよ」


 なんだと。

 こういう話題を振ってくる奴はたいてい好きな人が居てその話を聞いてほしいとかそういうやつだと思ってたんだけど。違ったね。

 俺の経験値はまだまだ浅いナ。


「篠芽さんのですよ。篠芽さんの。ぶっちゃけ美少女三人…今となっては四人ですけど。囲まれて何かしら思う所はあるんじゃないですか?」

「四人…リーニャとフェンリル…まぁゲリも美人だ…後誰だよ」

「目 の 前 に 居 る じ ゃ な い で す か」


 グリグリとほっぺたをつねって来るリンを慌てて振りほどいて冗談だと取り繕う。

 いやこういうのって弄りたくなるじゃん?

 ふぅ、と一息ついて更にきつく布団を巻き付ける。


「今までそんなこと考えるほど余裕ある時間なかったしな。ぶっちゃけそういう感情は無いわ。っていうかお前に至ってはまともに話したの今が初めてじゃねぇか」

「まーそうですけど…ほら、一目惚れ的な」

「ねーよ」

「あ、それもそれでムカつきますね」


 何だこの今どきのJKみたいな口調…なんだ?最近ラノベでも読んだのか?年齢にしたら中学二年ぐらいだろ?…ああ。なるほど。


「何納得したような顔してるんですか。リーニャさんは先生ですからこういう話題は振れませんし。フェンリルさんとゲリさんはなんかちょっと違う気がしますし。こういう話を触れるのって篠芽さんしか居ないんです。だから付き合ってくださいよ」

「ああ…確かにお前なんだかんだ同じ立場のやつ居ないよな…居て俺か…お前と同じ立場ってのもちょっと複雑だけどな」

「いちいち一言多いんですよ!もう!」


 ぼふ、と麻袋で頭を叩かれる。

 穀物の入った麻袋の打撃力はなかなかだぜ…首が折れるかと思ったわ。


「いてて…まぁ好きな人はいないにしろ家族みたいな人は居たな」

「おお!誰ですか!やっぱフェンリルさんですか?同じ体を共有している仲ですもんねぇ!」

「なんかその言い方誤解を招くからやめろって。違うよ」

「あれ、じゃあ誰なんですか?もしかして私ですか?私篠芽さんがお兄ちゃんとかあんまり…」


 気まずそうな顔をしてそんなことを言うが決してそういうつもりは無い。

 だからお前今日はじめてまともに話したんだろうが。

 なんかリーニャから聞いてたきゃらとちげーんだけど。なに?個性が埋もれないようにしてるの?


「ユーノっていう人だよ。俺がヴォルゴード王国にいた頃に世話になってたんだ」

「へぇ。その人は今何処にいるんですか?」

「…お前この旅をなんだと思ってんだ」

「え、行商で行くのかなーぐらいにしか考えてないですけど」


 …この子アホの子じゃね?

 リーニャから結構さとい子だって聞いたんだけど。今流行の詐欺なの?スタップ細胞なの?ないものをあるって言っちゃったの?


「今から行くのはそのユーノの故郷だよ」

「ああ!なるほど!親御さんに挨拶ですね!」

「まぁ…あたらずも遠からずってところだな。親に挨拶するのは違いないが意味が違う」

「ん?」


 そこまで聞いてようやっと察しがついたようで、すこし顔を曇らせる。

 

「…すみません」

「別にいいさ。それよりお前はどうなの?好きな人とか…って言っても孤児院出た後はあんまり出会いも無いか」

「そうなんですよね…話した男性なんてテセウスさんと篠芽さんぐらいですし。テセウスさんはなんか物理的に無理な気もしますし。篠芽さんは…まぁ保留です」

「うわ。その発言ビッチっぽい」

「なんかビッチって意味は分かりませんけど貶された気がする」

「それはあたってるzぶふっ」


 いてぇ。

 今度は頭じゃなくて顔面に麻袋ぶつけやがった。

 なんかめっちゃ痒いわ…

 そう感想を漏らしながら顔を掻いていると、リンは少し笑いながら怒った素振りを見せてリーニャの元へと戻っていく。

 なんとなく、だが。

 多分彼女はこの旅の目的を元々知っていて俺を励ましに来てくれたようなきがした。

 だってキャラ違いすぎるもん。

 いやいや、まぁそう言うのもあるんだけどなんというか纏う雰囲気が優しかったし。

 うっせ―よハゲ。

 童貞の妄想じゃありませぇん!


 それにしても。

 好きな人、か。

 そういうことを考えもしなかったのは事実だが、こうして暇が出来てしまって話題を提供されてしまうと考えてしまうな。

 と言っても皆美人だし顔で選ぶだけなら皆いいと思うんだけどな。

 とりあえずゲリはねーよ。

 ゲリは。

 だってお前初対面で人間食ってんだぞ?

 第一印象強烈すぎるだろさすがに。

 いやね?某落とし神も第一印象悪くてもいい、出会いを重ねればいいのだとか言ってるけどね?

 それにしたって限度があるわぁ。

 目の前で三人をつくねにしてた映像はなっかなかにショッキングだったわ。

 で。

 フェンリル。

 これもちょっと嫌だな。

 だって犬だし。

 終了。

 リン?

 僕ロリコンじゃないから却下。

 となるとリーニャなのだが。

 というかちょっと考えるとまともなのがリーニャしか居ない件。

 僕リーニャと結婚するわ…

 料理もできて美人で…キュッキュッボンの体型だけどまぁ『ズガンッ』ひぃっ

 リーニャの慎ましい胸を思い出して少し笑うと、すぐさま俺の顔の横の荷車の壁に大きなナイフが飛んできた。

 っていうか俺の髪を数ミリもってかれたからあたってる。当たり判定的にはあたってる。

 投げたのは見たこともないような笑みを浮かべたリーニャだった。

 スミマセン。

 猛省します。

 ペコリと顔だけで挨拶をする。

 まぁ。個性的な面々だこと。


****

 

 そうしてまたうつらうつらとして一瞬眠ったかなと思った時には、シュトゥルムガッド第二都市ベルシュカへと辿り着く。

 白い石を敷き詰め、その両脇を流れる青みがかった綺麗な水。

 イメージ的には街に流れる水の豊富さやアーチ状の橋が多く見えることからイタリアのヴェネチア似てるような気もするが、建物も白と青系統でまとめられていてもっと異質な感じがする。

 どうやらシュトゥルムガッドの都市は全部こんな感じらしく、移動は馬車よりも船を使ったほうが速いらしい。

 都市単位ではこういった景観から観光客が多いためにまだ歓迎ムードはあるそうで、酷いのは村かららしい。

 

「さて。とりあえず市場に行こうか」


 そういうテセウスの案内の元向かったのは船着場だった。

 テセウスはバァラを両替したシュラという硬貨を払って船頭の案内のもと向かったのは、巨大な広間の中心に巨大な水場があり、そこに浮いている市場だった。


「うおお…すげぇ」


 様々な水路からやって来た人々が水場に浮かぶ筏の上に作られた露天から船に乗ったまま物を買い、大量に船に乗せてそのまま去っていく。

 そんな幻想的な、ある意味異様な光景が広がっていた。


「基本的にどの家からも直接水路に行けるようになっていてな。荷物を運ぶ手段…つまり馬車を買うことが出来ない一般人の場合は船で来たほうが速いし荷物を大量に載せることができるから楽なのだよ」

「なるほど…」


 面白いシステムだな、と思いながら色々と買い込む。

 どうもここの食糧事情は魚が主なものらしく、氷の中に入れられた魚はどれも新鮮そうで美味しそうだった。

 

「この国は保存技術に優れていてな。生物の保存は得意中の得意なのさ」


 少し自慢気にそういうテセウスの言いたいこともわかる。

 生の大きな魚の入ったケースに書かれた日付を堂々と三週間ほど前のものをかいているのを見るとよほど保存の自信があるのだろう。

 凍らせているわけでもないのに、と少し方法が気になる。

 まぁ美味しいならそのお零れを授かるだけだ。

 そう思って色々と食糧を買い込む。

 野菜に果物、魚に肉とリュドミーラを出た時にはもうあんまり食べられないなと思っていた物が揃っていく。

 とはいえさすがに食糧としての価値はリュドミーラのほうが高いようではある。

 食糧事情としてはリュドミーラ>シュトゥルムガッド>秦野国>グーデルバイト帝国>ヴォルゴード王国の順番らしい。

 確かにヴォルゴード王国の食べ物はいっちゃなんだがあんまりエネルギッシュではない。


「凄いですよリーニャさん!この魚まだ生きてます!!」

 

 少し真面目なことを考えていると、船の後方でリンが騒ぎ出す。


「本当ね…!」

「凄いのう…人間の技術はこんなに発展しておったのか」

「別にいいじゃない。獲ったその場で食べればいいのよ」

「皆が皆お主のような野生児ではないんじゃよ。フレキにさんざん言われてたことはまだ直ってないんじゃのう」

「うっさいわね余計なお世話よ!」

「それはすまなんだ。まぁ落ち着け。とりあえずこれを人数分買っても良いかの?」

「ん?ああ、いいんじゃないか?塩焼きにしたら美味しいだろ」

「塩…やき…?」

「あれ?」


 そこで首をかしげるの?

 

「塩を魚にかけてそれを焼くだけなんだけど…あれ?やってないの?この世界じゃ」

「聞いたことないですね…そもそも塩は高級品ですし、そんな使い方は考えもしなかったですね」

「塩が高級品…?」

「ええ。そもそも岩についたものしか取れないから生産量が少ない上、少ないそれを奪い合うようにして商人たちが買って干し物に使ってしまっている現状です。干し物売り場にすら行き渡っていないのにそんな贅沢な使い方はできませんよ」

「ほむ…」


 って言ったって塩なんか簡単に作れるよなぁ。

 海水を蒸発させるだけだろ? 

 と思ったが、とりあえずここには商魂たくましい人が沢山いるだろうのでとりあえず商店のオネーサンに海水で出来た巨大な氷を保存用ということで貰い受け、魚を人数分買って馬車へと戻る。


「さぁ!今からやりますちょっとした科学実験でーす!」

「いえー!!」


 リンの威勢のよい掛け声とパラパラとした拍手。

 乗ってくれるのはリンだけだよ…。君は本当にいい子だ。

 少し泣きそうになりながら一辺が一メートルほどの巨大な直方体の氷を片手で持ち上げて大きな鉄板の上に置く。

 この鉄板は安い鎧を鋳潰して作ったもので、辺が少し上向きに反っている物だ。

 その鉄板を熱して氷を溶かし、更に温度を上げて水を蒸発させる。


「出来た」


 結果、中央にちょっとだけ、白いものが残った。


「これが、塩だ」


 感激する五人をよそに手早く串をさかなにさし、焚き火を熾させて魚に塩を振って地面に突き刺してじっくりと焼くこと数分。

 脂の乗った魚の背の首の部分からがぶりとかぶりつく。

 うん。


「「「「「おいしい!」」」」」

美味しいもの食べると元気が出ますよね。


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