助けを求める手
説明回が続きます。
「正直に言って」
そう前置きして、俺は続ける。
「この世界が何なのか、ということについて意見を持てるほどに情報を持っていないし考察もしていない」
俺がそう言うと、テセウスは少しがっかりしたような顔をする。
だが、恐らくこの問題は俺一人…つまり異世界人が一人で考えたところで解へたどり着けるとは思えない。
だからこそ、顔を突き合わせて話し合いをする事が必要になる。
「今テセウスさんが考えているのは恐らく、俺の世界の人間がこの世界を操っているとか…魔法教会や灰鴉の背後の存在に俺の世界の人間がいるということだと思うんだけど、合ってる?」
俺が尋ねると、テセウスはゆっくりと頷く。
「俺もそう思っていた。けれどどうすれば人の固有名詞にまで関与できるのか。そこが問題なんだ。固有名詞に関わるところまで操作するとなるとそれこそ運命操作と言った具合の魔法が必要になる。そんなことが出来るのはもはや神としか言い様がない…」
そこまで言ってフェンリルの方へ視線を向けると、フェンリルはいつのまにかゲリとの喧嘩をやめて俺とテセウスとの話に耳を傾けていたようで、ゆっくりと首を振ってそんな魔法が存在しないことを教えてくれる。
そう。
つまりは無理なのだ。
誰かしらの意思によって今現在ある程度転がされていることは事実だし、それを許せないとも思うけれどフェンリルのようにそのまんまの神話としての設定をつくり上げることなぞ殆ど不可能と言っても過言ではない。
では。
どうすればこの矛盾を解決できるのか。
そこをどうすればいいのかと顎に手を当てて考えこむと、一つの事実が頭に浮かんだ。
――――そういう、事、なのか?
半信半疑だが、しかしこれ以外に無いようにも思える。
――――――――俺の世界の出来事が、この世界に反映されているのではない。
――――――――――――むしろ逆だ。
――――――――――――――――――――この世界のことが、俺の世界に反映されているのだとするのならば。
「俺は…まさか…」
****
昔。
一人の男が居た。
その男は未来を見ることが出来た。
一人の少年が、一人の少年を呪い。
一人の少女が、一人の少女を呪い。
そして一人の少女が一人の少年を愛し。
そして、死んでいく。
その周囲には大量の血の海が広がっていた。
凄惨な光景だった。
特別な力を持つ人間と、特別な力を持つ動物と、普通の人間が三つ巴の状態で戦争を起こし、それぞれが絶滅する結末へと続いていく。
これを彼は最終戦争――ラグナロクと呼ぶ。
呪いに満ちたこの世界は、子供たちを中心にして滅んでいくことだろう。
だが、それを彼は良しとはしなかった。
子供の世界は希望で満ち溢れているべきだとそう信じて行動を開始した。
そして彼は魔法を発明することに成功した。
そして彼は人類へ光をもたらした。
しかし。
それがまた戦火の火種になることを、彼は予想していた。
だからこそ。特殊な魔法を用意した。
これは、願い。
人が人と手を取り合うようにという願い。
助けてもらうことを知らない自分たちが、誰かに助けを求めた時に伸ばしたてを誰かが握ってくれるようにという、願い。
それが。
召喚魔法。
助けてくれる人間を召喚するそれが呼ぶものは勇者か、はたまた魔王なのか。
それは、誰にもわからない。
ただひとつ言えることは。助けを求めた手によってそれが決まるということだけだ。
助けを求めた手が黒ければ、それは魔王に。
助けを求めた手が清ければ、それは勇者に。
簡単な、ただそれだけのロジック。
君は、誰にどの手で助けを求める?




