決意の目覚め
「お前…っ!」
突如現れたフェンリルに食って掛かろうとするゲリをあっさりと弾き返し、大きくため息を吐く。
「今は戯れてる様な時間でもないじゃろうが…」
手をパタパタと振りながら目を細め、前に立つ篠芽へと視線を向ける。
現状、魔力刻印はサタンに侵食されてしまっているために遠隔での介入は不可能。
だがリーニャによって開かれた小さな隙間に魔力を流しこむことができれば奴の漂着をはがせるかもしれない。
現在立っているのは風神のみで、シムカもプルシュカもゲリもリーニャもテセウスも膝をついてしまっている。
魔力切れによる体力減衰はかなりキツイ。むしろ倒れこんでいないだけ凄いとさえ言えるぐらいなのだ。
まぁつまり何が言いたいかというと、儂は今からこいつと一対一をしなければならないということじゃ。
「無理難題じゃのう…」
コキコキと手首を鳴らし、拳を握る。
――――――こいつをここで仕留めなければ、ゲリは死ぬ。
そうなればもう彼女は転生できずに死ぬしか無い。
「それだけは、避けなければのう」
ゆっくりと腰を下ろし、体全体に魔力を充填させていく。
ガソリンをエンジンに詰め込んでいくようなイメージ。
それを一気に爆発させて凄まじい速度で篠芽に肉薄し、魔力を込めた掌底を思い切り篠芽に叩きつけるが、親指が腕にかすった程度で魔力は到底流れ込んで行かなかった。
普通の魔力量…つまり魔術核を持っている人間ならばここまでが限界。
だが、フェンリルは神獣。
「まだまだ…っ!」
ダンッ!ダダンッ!と直線的に移動しながら篠芽に追撃をかける。
両手の掌底を交互に放つ攻撃を数十発と打ち続けた時、左の後に右を突き出すと見せかけて左足で思い切り地面を蹴り崩し、大きなクレーターを作る。
不意に足場の無くなった篠芽は一瞬体が硬直する。その隙を見逃さずに胸へ掌底を叩き込んでそのまま地面へ叩きつける。
盛大に土煙が上がって周囲が一瞬見えなくなるが、すぐに風で消し飛ばす。
足元には意識を失った篠芽が倒れていて、その体からサタンは綺麗に剥がれ落ちていた。
さっきまで戦っていた人達がサタンを篠芽から引っ張り続けていてくれたおかげで、ヤツの疲弊はかなりのものだったから出来た芸当だ。
助かった。というのが正直なところだ。
だがこれからはかなり面倒なことになる。
秦野国がこの国へ攻め込み、ほとんどの兵力を失った。
まあ失ったのは秦野国の一部の兵力だろうが、事実は事実だ。
秦野国がヴォルゴードへと攻め込んだ。
この事実だけあれば、血気盛んな国が剣を抜くだろう。
「嫌な、流れじゃのう」
視界にちらつくローブの人間達を心の底から憎悪しながら吐き捨てる。
――――戦争が、始まる。
私の選択は、間違っていたのだろうか。
世界の混沌は、深まる一方だ。
****
勇者と魔王。
それは実在する。
人ながらにして神を凌駕する存在として世界に産み落とされるのだ。
何故なのか?
その理由は分かってはいないさ。
ただの神の気まぐれ…なのか、それとも他に大きな目的があるのかは定かではない。
そもそも僕達にそんなことを知る事ができるはずがないのさ。まぁ本人たちならば知っていることなのかもしれないけれど…ね。
ん?いやいや、違うって。
僕は別に魔王と勇者を利用して何かをしようとしているわけじゃないよ。
ただ僕はそういう事実があると君に教えているだけさ。
何故かって?
うん、良い質問だね。相手が何かをする動機を知ることは大事だ。それ如何によっては信頼するもしないも決まるからね…
でも答えない。
正確には答えられない、かな。
そんな拗ねるなよ。
この世界で世界が自分たちのものだと思っている人間は約七割。
さらにこの世界に3つの大陸があることを知っているのが二割と五分程。
そして魔王と勇者…そしてもうひとつの世界のことを知っているのは五分程度さ。
その五分の内の一人に入れてあげたんだから感謝こそされどそうやって恨みのこもった目で睨みつけられる覚えはないよ。
しょうがないなぁ。
じゃあもう一つ質問を許してあげるよ。
何が聞きたい?
え?
また、君は一気に面倒なことまで踏み込むね。
この世界は何なのか――か。
そうだね、その答えは――――。
****
「――――――――」
夢の中の奴が何かを言っていた気がするが、最後の言葉は聞き取れなかった。
というよりも正しくは覚えていなかった。目が覚めた時には覚えていたような気がするが、そこからリーニャやらリンやらにもみくちゃにされ、やんややんやとお見舞いに来た人達の相手をしていたらすっかり忘れてしまったのだ。
夢で見たことを信じるわけでもないが、今回の夢はいつものものとは違う気がしたのだ。
ベッドの上で右拳を開閉させ、どこか現実味のない感覚を何とか消そうとするがうまくいかない。
この世界は何なのか。
考えたこともなかった。
平行世界、パラレルワールド。そんな言葉では言い表せないもののような気がする。
同じ時代をたどるのならまだ分かる。人が技術を向上させていく過程はあまり変わらないだろうから。しかし、神話までもが同じというのはどういうことなのだろうか。
そもそも言葉が違うのに神話に登場するものだけが同じというのは何故なのか。
可能性はいくつか考えられるが最も現実的なのは俺の様な向こうの世界の人間がこっちにやってきて神話を伝播したということだろうか。
世界を飛び越えたというのがある時点で突拍子もない事だが、しかし現実にあった出来事なのだから前にもなかったとは言い切れないだろう。
というか。
そもそも異世界トリップとはなんなのか。
召喚されたものなのか。それとも完全に偶発的なものなのか。
俺に至っては後者だろう。が。
恐らく俺の推測では秦野国のアマテラスという国王はトリッパーだろう。
俺と全く同じ身体条件だから、という根拠しか無いが魔術核がない人間がそもそも少ない上に黒髪黒目は更に少ない。そしてさらに言うならばそんな人間を王座につけているということは代々国王を俺の世界から召喚しているのかもしれない。
知識も向こうの世界の人間のほうが断然豊富だし、力もある程度底上げされているようだし。
つまり、だ。
俺はその付随品の可能性がある。
まぁ今はこっちの世界でフェンリルとの契約を果たさなければならないし、まぁ帰る気があるのかと聞かれると特に無いとしか答えようがないので別に無理して探す必要もないのだが。
まぁ、気になることは、気になるのだ。
俺の推測の一つには、フェンリルとの契約を果たす上では絶対にこの世界のことを把握しておかなければならないと言う状況になる。
例えば、の話だが。
この世界が誰かの手のひらの上で転がされているのだとするのなら。
俺はそれを、許せない。
この章はこれで終わりになりまス。
楽しんでいただけていますでしょうか。
しばらくガス抜きをしてシリアス分薄目で行きたいなぁと考えております。
と言っても癖みたいな感じにシリアスに入っちゃうんですよね。もう厨二病は治りませんねこれ。
というわけでこれからもよろしくお願いします。
感想・評価等有りましたらよろしくお願いします。
あと誤字脱字もあったら教えてくださると幸いです。




