負ける訳にはいかない
今回も超短いです。すみません。
次はめっちゃ長くします。そういう問題じゃないですか?ないですね
心臓を直接握られたような圧迫感が体を襲う。
圧倒的な、強大な魔力を体に浴びるとこうなるというのは知っていたが、実際に体験するのは初めてだった。
そう。
目の前に立っているのは魔王サタンそのものだ。
怒気と殺意にまみれた篠芽はサタンを召喚し、風神を殺そうとしている。
だが、それはさせてはならないことだ。
復讐だからというわけではない。
その復讐心が誰かの手のひらの上で転がされているということを彼は知るべきだ。
知って尚復讐するというのなら止めはしない。
彼には私の復讐を果たしてもらったし、止めるなんて畑違いだ。
でも今は駄目だ。
「テセウスさん」
膝を付き添うになりながらボソリと呟くと、背後から重厚な声が帰ってくる。
「やるか?」
「ええ――」
私が高い金を払って元王宮兵士を雇ったのは前にも言った事もあるが、その人物の体験というのを聞いておきたかったからだ。
そうすれば私も二度目の遭遇となればある程度の策は立てられるかもしれないと思ってのことだ。
つまり。
再び――――篠芽がサタンを召喚しようとした時に止めるためだ。
しかも今はフェンリルが居ないために不完全な状態での召喚になっている。
これならば私達の作った魔法が使えるはずだ。
目を強く瞑って、吹き荒れる風をかき分けるように魔力の風の間を縫って自分の魔力を篠芽へと送る。
端っこの剥がれかけたシールのような篠芽とサタンとの意識の境目を探りあて、その間に魔力を滑りこませる。
「目を覚まして…!少し考えれば分かるはず!あなたのその意志は誘導されている――!」
ゴリゴリと引っ張り、剥がすように魔力で隙間を大きくしていく。
風神の攻撃を弾くのに意識を向けていたサタンはその対処にワンテンポ遅れ、揺らいだ篠芽の意思とリーニャの干渉によってその憑依を更に不安定にさせていく。
サタンに物理的に勝つことは不可能だが、こんなかんじに小細工をすればまだ可能性はあるのではないか。それがテセウスの話を聞いて思いついたのだが、やはりそううまくは行かないようだ。
ゆっくりとこちらに視線を向ける篠芽ノその目はいつもの優しいものではなく、世界のすべてを憎悪したかのようなどす黒いものだった。
体の中心に冷水が入れられたように、ゾクリと背筋が泡立つが集中をとぎらせないように精一杯歯を食いしばってそれを我慢する。
彼の右腕が振り上げられるのをじっとみつめ、その腕に纏った魔力がリーニャの頭に振り下ろされる。
通常ならばごっそりと地面を抉っていくはずの魔力の塊はリーニャと篠芽の間に割って入ったテセウスの盾に触れると、水風船を爪楊枝で突き刺した時のように塊が霧散していく。
「肝を冷やしたぞ、まったく」
テセウスがホッと一息つくが、頼みの綱の盾はすでにまっぷたつに割れてしまっていた。
次の攻撃は防げない――!
間に合って――!!
もう少し、とサタンの漂着を剥がしている感触から察するがそのための時間が圧倒的に足りない。
無慈悲な二撃目がリーニャとテセウスを襲う。
だがその魔力の塊が彼ら二人を潰すことはなかった。
「よく分からねぇが――」
「――君たちにかけるのが得策のようじゃのう」
気づけば、風神とシムカが二人の前に立って武器を構え、その魔力の塊を二つに引き裂いた。
「これが終わったら爺さんはぶっ殺すがな」
「怖いのう」
一転して希望が見えて余裕が出てきたのか、軽口を叩いている二人に向かってリーニャは魔力の消費で奪われた体力のせいでかすれた声で精一杯伝える。
「後もうひと押し…!テセウスさんが魔力を込めた攻撃をサタンと篠芽さんの間に差し込むだけです…!本来の実力の一割もだせない…はずです。後…は、頼みます」
そう言った途端に膝から崩れ落ちていくリーニャにねぎらいの声をかけて、シムカと風神は武器を手に取る。
「よくやったぞ嬢さん。後は任せてゆっくり休めい」
「気に食わんがその爺さんの言うとおりだ。やっぱ手に馴染んだ武器のほうが使いやすそうだぜ」
そう言うが早く風神が篠芽に向かって砂を巻き上げながら風の刃を飛ばし、それに紛れたシムカが風の刃を弾いた後のディレイ中の篠芽の胸元に槍を突き出すが体に突き刺さることはなく、虚しく空を切るだけだった。
――早過ぎるだろッ!
慌ててやりを回転させて地面に立てて更に高く飛び、篠芽の反撃をかわして少し遠くに着地して顔を上げて篠芽を確認しようとすると、彼はすでに目の前に立って剣を振り上げていた。
だがそれが振り下ろされるより前に風神が横から巨大な魔力弾を篠芽に激突させ、数十メートル吹き飛ばす。
「一割未満であの速さかよ…本当にあの子の言ってることはあってんだろぉな…」
信じられずに思わずこぼすと、篠芽が地面を転がりながら放った魔力の刃に右の足首をわずかに引き裂かれる。
集中力を必要とされる方を転がりながら使うその大道芸さ加減に思わず驚いて大きく飛び退くと、篠芽は右腕だけで飛び上がってシムカに肉薄する。
「ちっけぇんだよぉ!」
刃の根本を持って篠芽につき出すが、それはあっさりといなされてしまう。
返す刃でシムカの首が刎ねられそうになった時に、一人の男が乱入する。
「――だから言っただろう、出て行くのは得策ではない、と」
そう言うと、篠芽が振りぬいたヴィーザルを鋼鉄製のガントレットを装着した拳で上に弾き飛ばし、更に篠芽の胴体にケリを入れて地面に叩きつける。
「私の主に手を出す前に、私を倒してもらおうか」
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城壁の門の向こうで今何が起こっているのか。
野次馬の人間たちには事情が分からなかったが、城壁を軽く吹き飛ばしてしまうようなとてつもない巨大な力と力が争っていることだけは分かった。
そしておそらく、それらが自分たちに危害を加える様な存在だということもわかっていた。
だからこそ、彼らは誰に言われるでもなく両手を合わせ、膝をついていた。
神に祈るように。
どうか私を助けて下さい――とそういう風に。
広場がそんな人達でうめつくされ、これが宗教大国かと改めて思わされるような光景の中に一点だけ異彩を放つ人間が立っていた。
「お前らさぁ。そうやって祈ってな~にが楽しいんだよ」
「お前達が祈ってる最中に塞がれてるその両手両足と、視覚。それがあれば一体どんなことが出来ると思うんだ」
呆れるように、ため息と一緒に一気に吐き出すように文句を垂れる。
「お前達、神に左右される人生でいいのか?」




