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異世界の歩き方  作者: レルミア
裏切りの水面
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初動が大事

「そもそもサァ、たかが兵隊五百人てーどで私達を押さえつけようってのが間違ってるわけよ」


 赤い髪をポニーテールにした女性が、男勝りな口調でそう言う。

 串かつを頬張りながら、ホットパンツから伸びるスラリとした白い足をテーブルの上に乗せると、それを見ていた片目を深緑の髪で隠した男がたしなめる。


「テーブルの上に足を載せるもんじゃないぞ」

「あー、はいはい。で、答えを聞きたいんだけど?いつまで待機してりゃあいいわけ?いい加減ここにいすぎて居心地が良くなってきた頃なんだけど?」

「さぁな。俺達はただの伏兵だ。待てというのなら数年、数十年とまつだけだ」

「っかー!あんたはこらえ性すごいねぇ!見習いたくネーわそれ。ってゆーかだよプルシュカ君、分かってる?私が言うのも何だけど私達ってーか主に私は問題児なわけよ。そんなやつを島送りにした先が安全なわけねーだろ?こうやって伏兵やっているうちにも着々と身の危険が迫ってるわけよ。だったら攻めに行ったほうがよくね?」

「俺は命令にもない殺生は御免こうむるがな」

「っだぁから!それやらなきゃ私達が殺られんのー!このクソみてぇな宗教大国の頭の凝り固まった連中に捕まったら何やられるかわかんネーぞ!いつぞやの魔女裁判みてーに膜破られて火炙りなんてわたしゃごめんだぞ。だから、ネ?」


 しなを作ってプルシュカと言う男にこびを売ってみるが、プルシュカは依然として壁に目を向けたままでこちらに見向きもしない。


「無理なものは無理だ。それに俺たちが今出て行ったところで風神に殺されて終わりだ。今は風神が降りてきている時期だ。やるとしても数カ月後だな」


 媚は意味ないと判断したのか、赤毛の女性は再びテーブルの上に足を乱暴に乗せて串を頬張る。

 もう呆れたのか、プルシュカは彼女の粗相に目を配ることすらしない。


「それがよー。諜報部によると風神が例の生贄を殺して風魔を起こそうとしたら邪魔が入ってまた戻っちまったっつ―話だぜ。これチャンスじゃね?もしかしなくてもチャンスなんじゃね?奴ら確実に魔具持ってるっしょ。それをかっさらって私の武器…もとい我が国の武器にだね、どうだねこの完璧な計画」

「完璧だな。実行不可能という点を除けば」

「…オメーどっかで聞いたような言葉で思いっきり否定しやがって…それに灰鴉の連中もどう動いてるか分かってネーんだろ?何してんだかねぇ、うちの諜報部は。いっつも偉そうにしてやがるくせに肝心なところで役に立たねぇ。十傑に諜報部のトップがいるのがほんとに不思議だぜ」

「お前の頭で十傑には入れたのも不思議だがな」

「んだと?お前の鼻の穴にこの串突き刺して生体ミイラ作ってやろうか?おん?」

「うるさい黙れバカが移るだろ。生体ミイラって何愉快な造語を作ってやがる。いいから黙って監視してろ」

「ったく…へーへー。こんな力も持ってねぇ国王なんか監視してどーなるんだかなぁ」

「俺ではなく国王に聞け。やつなら答えてくれるだろ」

「どぉだかねぇ。あいつ腹黒いし。聞いても多分ちょっとずれたことした言われねぇぞ」

「アマテラス…か、何代目かはしらんが今代のアマテラスは気まぐれだからな」

「ホントだよなぁ」


 風魔を邪魔したのが自分達の国王だということも知らずに、ただひたすらに監視は続く。


****


 商人ギルド。

 冒険ギルドと同時期に作られたこのギルドは作成時のメンバーはたったの三人だった。

 とあることが切っ掛けで急激にメンバーが増え、以後今に至るまで増え続けている。


「――ですか」


 掲示板に貼られた観光紙を見ながらそうつぶやくと、隣で同じように掲示板を睨みつけているリーニャが頷く。


「ええ。冒険者ギルドと商人ギルドはギルドの中で最も古いものと言われているの。まぁ今は色んなマーケットの統括をしてると覚えておけば問題ないでしょう」

「そうですよね」


 別に大きくなった理由とかは知らないし。

 と、他のところに目を移して目的のものを探してみる。

 

「あります?依頼書」

「無いわねぇ…」

「ですよねぇ…」


 今リンと私が探しているのは商品買取の依頼書だ。

 商人ギルドに備え付けられた掲示板には、オークションに出すほどのものではないが売れるかもしれないというものが売りに出されることがある。

 他にはオークションにだす手数料が払えない人や売った物の金額で手数料を回収できない物だったりもここに載せてたりする。

 買う側としては掘り出し物を探すいいところなんだが、特に良いものは無いようだった。

 今ギルドの申請書を出して受付の時間暇をつぶしているというところだったのでどうせ時間が余っているのなら金を稼ごうと掲示板を見ていたのだ。

 

「まぁあんまり期待できる方法じゃないしね。そろそろ終わってるでしょうし受付に行きましょうか」


 私がそういうと、リンが大きく片手を上げて同意する。

 

「はい!」

「良い返事ね」


 リンの頭を撫でながら受付に行くと、受付嬢が手続きを終えたことを教えてくれる。

 

「では登録は終わりました。ギルドホームはお作りになりますか?」


 受付嬢が無機質な声で質問してくる。

 いつも感情のこもってない彼女たちがプライベートで笑ったりしているのは少し想像出来ないな、と思いながらも尋ねられたことについて思案する。

 ギルドホーム。

 そういえばそういうものがあったな。

 別にいま建てないと言ったからといってこの先作れなくなるわけではないし別に今作る必要はないのだが…

 拠点があるというのは良いものだし作っておいたほうがいい気もする。

 

「ううん…三人…いや、十人が快適に過ごせるぐらいの大きさのものを…そうですね、リュドミーラの一等地に建てるとしたらいくらぐらいかかります?」

「金五百ほどは必要かと思いますが」

「ご、ごひゃく…」


 かなり稼いだと自慢気にしていたリンの稼いだ値段の約五倍。

 元々かなりイレギュラーな稼ぎ方で手に入れたものだし、あと五回繰り返すのは無理だろう。

 ふーむ。

 まぁどっちにしろ私が動かせるお金はたかが金三十枚だ。

 簡素な一人部屋を借りる程度が関の山だろうな


「今はまだいいです」

「そうですか。では貴方達のギルド――銀狼・シルバーウルフの繁栄を願っていますよ」

「ええ、ありがとうございます」


 そう言って狼のような顔が描かれた菱型の印章を受け取る。

 下の二辺にはSILVER WOLFと書かれており、いずれも黒字に銀の糸で刺繍が施されていた。

 これはなかなかに時間と金がかかるはずだ。とこの手続に必要な金三枚という値段と数時間の時間に納得がいく。


「すごいですね、これ。そういえば銀狼の代表は誰にしたんですか?」

「二代表制にして、とりあえず私と篠芽にしたわ。まぁこの先増えるかどうかもわからないし格差なしのものでも良かったんだけれどね」


 と、少しリンを気遣った発言をリーニャがすると、リンはかぶりをふって否定する。


「ガンガン増やしましょうよ!どうせ作ったんですから賑やかなギルドにしたいです!」


 ちょこまかと動きながら大きな声でそういうリンに笑いかける。


「そうね」


****


 リンとリーニャが商人ギルドで掲示板とにらみ合いをしているのと同時刻。

 篠芽悠真の宿屋に秦野国の文官が訪れていた。

 え?誰だそいつって?なんで突然出てきたのかって?

 いやいやぁ、出てきてたでしょ?

 ホッホッホとか言ってたあの人だよあの人。あの人がやって来たの。

 なんて心のなかで誰に充てたともわからない説明をして、訪問してきた人間を見る。

 白いひげを蓄え、腰の曲がった老人はゆっくりとベッドの横の椅子を引いて腰を落ち着けるその様は完全にただの老人だった。

 が、その垂れた瞼の下に覗く鋭い眼光は俺の中身を見透かされていそうなそんな気さえする。


「申し遅れてすまんのう、儂は秦野国に仕えておるラガーと申す。以後よろしく頼む」


 そう言って頭を下げる彼はかなりの地位の人間だろうに。

 普通の人間相手に頭を下げるんだなと変なことを考えて挨拶を返す。


「よろしくお願いします」

「うむ。まぁ別にそんな肩肘張らんでもよろしい。頑固な武官は外に立たせておるでの。井戸端会議のような感じで話してくれて構わんぞ」


 ヒャッヒャッヒャと下品に笑うラガー。

 好々爺の雰囲気を醸し出す彼に思わず和んでしまって笑いを返す。

 だが、まぁ。

 今まで聞いた話を総合するに秦野国は俺の髪や目にそれなり以上に意味を見出している国だ。

 うかつに変なことに頷いてしまえば面倒事に巻き込まれることになるのは必至だろう。

 警戒は解いてはならない。

 そう心を引き締めて老人の次の言葉を待つ。


「ふむ。やはりお主に魔術核はないのう…」


 ――――。

 識別魔術か。

 突然言われて少し焦ったが、言われてみればこの世界には魔術核があるかどうかを判断することが出来る魔法が存在するんだった。

 思わず手のひらにかいた汗を布団で拭う。

 やはり。

 その三文字が何を意味するのか?

 

「今の秦野国国王アマテラスも魔術核が、無いのじゃよ」


 ――。

 突然発せられた事実に、思わずラガーを凝視してしまう。

 だってそれはつまり――――五賢人の直属血族か

 または。

 異世界人だということなのだから。


****


 商人ギルドを出てマーケットで食べ物を買って宿へと向かっている最中の事だった。

 柔らかい何かを踏んだ。


「ん?」


 何かと思って立ち止まると、隣を歩いていたリンがどうしたのかと私の顔を見てくる。


「なんかふん――」


 言いかけた言葉が切れたのは。

 足元に転がっていたのが人間だったからだ。


「むぎゅう…」


 黒いマントに覆われるようにして倒れていた彼女は小さく呟いた。


「わ、私の牙は…血に濡れている…んだもん…」


 こ…こいつっ!

 倒れていても中二病ごころを忘れていないだとっっっ!?

リン「中二病ってなんですか?」

リーニャ「なんだろ…」

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